進学や就職、転勤など春の新生活に向けた動きが本格化する3月は、一年のうちで最も引っ越し件数が集中する時期だ。毎年、春の引っ越しをめぐっては、混雑や人手不足で希望どおりに進められない事態も生じている。新型コロナウイルスの感染状況が予断を許さない今、引っ越しの状況に変化は生まれているのか。背景や現場の対応、注意点などをビジュアルでまとめた。(Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部/取材協力:公益社団法人 全日本トラック協会)
・分散化は進んだものの......春の引っ越しは今年も混雑
・マスク、換気、消毒......現場のコロナ対策は
・ネットの一括見積もりに要注意、スムーズな引っ越しのために心がけたいこと
分散化は進んだものの......春の引っ越しは今年も混雑
国土交通省は毎年、春の引っ越しシーズンにあわせ混雑予想カレンダーを公開している。2022年の資料によると、3月半ばの連休から4月頭の週末にかけて、特に混み合うとされている。新型コロナウイルスの影響で転勤を伴う異動などに縮小の動きが見られた前年と比べ人の動きが戻りつつあり、法人の引っ越しに関する問い合わせも増えているという。
大手事業者に調査した2020年度の引っ越し件数は、全体で約200万件。そのうち約54万6千件(27.2%)が3~4月に集中している。国土交通省や業界による分散引っ越しの協力呼びかけや、企業のリモートワーク推進で、ピークは以前よりも幾分ゆるやかになったというが、新学期や企業の人事異動・就職といったイベントが重なる春に依頼が集中する状況は大きく変わっていない。
引っ越し業務を行えるトラック運送事業者(「一般貨物自動車運送事業」の許可を得た事業者)の数は、2021年時点で約5万7千にのぼる。しかしこのなかには、引っ越しの「専門」業者だけでなく、「兼業」の運送業者も含まれる。繁忙期は専門業者だけでは依頼を受けきれないため、兼業業者にも頼ることになる。後者のなかには引っ越しの経験が浅くノウハウ不足の業者もあり、荷物や家屋の破損といったトラブルが増える傾向があるという。
公益社団法人 全日本トラック協会・引越部会の柴崎さんは、引っ越しをする時期について以下のようにアドバイスする。
トラック運転手や作業スタッフの人手不足が慢性化......業界の実情
引っ越しを含めた日本の物流業界は、以前から大きな課題を抱えている。トラック運転手の慢性的な人手不足だ。厚生労働省の「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」によると、トラック運転手(貨物自動車運転手)の有効求人倍率は、2021年で「1.94倍」。これは全職業の平均「1.03倍」と比較して約1.9倍高い。過去4年分も同様に、求人件数に対して応募が集まりにくい状態が続いていることがわかる。
背景には、全産業と比較して低い賃金や長時間労働などがあるとされる。また運転手の高齢化も進んでおり、2020年では40歳未満が約27%に対し、50歳以上は約43%を占めている。業界は若者や女性の雇用促進、労働環境の改善といった対策を進めているが、状況の大きな変化には至っていない。
マスク、換気、消毒......現場のコロナ対策は
新型コロナウイルスが確認されて2年以上がたち、感染対策が当たり前になるなど、私たちの社会生活は大きく変化した。引っ越しの現場にもその影響は表れている。
全日本トラック協会では、運送事業者向けの新型コロナウイルス感染予防対策ガイドラインやマニュアルを策定している。また、引っ越し専門業者が独自の感染対策を行っている場合もある。引っ越し当日は、運転手や作業スタッフはマスク着用のうえ、消毒や換気などをしながら業務を行う。一方で、真夏にマスクを着用して作業をする際は熱中症対策が必要になったり、大型家具を運ぶ際は作業スタッフ同士の接触を最低限に抑えたり、現場の作業負荷との兼ね合いを考慮する場面もある。
またオミクロン株の感染拡大で繁忙期に感染者が続出すれば、運転手や作業スタッフが確保できない状態になることも懸念されている。
ネットの一括見積もりに要注意、スムーズな引っ越しのために心がけたいこと
引っ越しをスムーズに行うには、まずスケジュールに余裕をもたせることが大切だ。前述のとおり、引っ越しの繁忙期は3~4月。この時期をどうしても避けられない場合は、なるべく早く計画を立てて依頼しよう。
近年増えているのが、引っ越しの一括見積もりサイトに関連したトラブルだという。希望日や住所、人数や荷物量などを入力すれば、複数の業者から一度に見積もりを受けられるサービスで、その利便性から人気を集めている。しかしネットで申告した情報だけで出される見積もりは、実際にかかる料金と異なる場合もある。こうした差異を顧客側が把握できず、追加料金が発生してトラブルになることもあるという。
輸送についても注意したいポイントがある。引っ越しには、1台のトラックで1世帯分の荷物を貸し切りで運ぶ方法のほか、1台のトラックで複数世帯の荷物を運ぶ、混載(積み合わせ)の方法もある。貸し切りに比べて料金が安くなるメリットがある一方で、引っ越し先での搬入の際に「自分のものではない荷物が届いた」といったトラブルが生じる可能性もある。契約の際は、どういった形態で荷物が運ばれるかも確認しておこう。
最後に、どうしても業者が見つからない場合はどうすればよいのか。前述のとおり、引っ越しを依頼できるのは、専門業者だけではない。兼業業者を含めたなかから信頼できる運送業者を見つけるには、全日本トラック協会が優良と認めた「引越安心マーク」を取得している事業者を選ぶのがおすすめだという。引越安心マークの取得事業者は、輸送の安全性を示す「Gマーク」の認定も受けている。該当する近隣の事業者は、全日本トラック協会のウェブサイトから検索できる。
(参考サイト)
公益社団法人 全日本トラック協会「引越安心マーク制度(引越事業者優良認定制度)都道府県別一覧表」
新型コロナウイルスについて収束の見通しがつかない今、物流業界に影響を出さないために、顧客側もこれまで以上に「トラブルが起こりにくい引っ越し」を心がける必要があるだろう。
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