熱中症で命を落とす人が近年、急増している。2010年に初めて1000人を超え、ここ3年でも毎年1000人を超えるペースで死者が出ている。コロナ禍で迎える2度目の夏、新しい気象情報の全国運用が始まった。それが「熱中症警戒アラート」だ。これまで重視されてきた気温に加え、熱中症に大きな影響を与える「湿度」「輻射熱」といった指標を組みこんだもので、いちだんと強い熱中症予防が期待されている。正しい知識を身につけ、自分と周囲の人の命を守ってほしい。(デザイン&イラスト:オザワタクヤ、取材・文:Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
熱中症で亡くなる人は増加傾向 近年は年1000人超
近年、熱中症による死者は増加傾向にある。記録的猛暑だった2018年は1581人に上ったが、それ以降も続けて年1000人を超える高い水準で推移している。ここ10年は亡くなる人の8割を65歳以上の高齢者が占めている。昨年1年間に交通事故で亡くなった人は2839人。それと比較しても、年間1000人を超える死者が出ているという事実は重い。
そもそも「熱中症」とは? 予防法を知り、防ぐ
環境省「熱中症環境保健マニュアル」によれば、熱中症の定義はこうなっている。
「体温を平熱に保つために汗をかき、体内の水分や塩分(ナトリウムなど)の減少や血液の流れが滞るなどして、体温が上昇して重要な臓器が高温にさらされたりすることにより発症する障害の総称」
熱中症は重症化すれば死に至る危険性すらある。しかし、予防法を知って実践することで防ぐことができるという。そのために、熱中症で亡くなった人々の属性、直前までどういった状況にいたのかを把握しよう。
熱中症で亡くなるのはどんな人なのか
2020年夏の東京23区における熱中症死亡者200人の事例では、9割が65歳以上の高齢者(東京都監察医務院)だった。この10年の全国統計(人口動態統計)を見ても、65歳以上の高齢者が占める割合は8割前後で推移している。
熱中症の死亡例――どんな状況で起きたのか?
65歳以上の高齢者が危ないのはわかった。次は亡くなった状況である。亡くなった条件で共通するのは「屋内にいたこと」、そして「クーラーを使用していなかった」ことだった――。
全国運用が始まった「熱中症警戒アラート」とは
今年度から、環境省と気象庁は「熱中症警戒アラート」の全国運用を始めた。これまで、最高気温がかなり高くなると予想されるときは「高温注意情報」が発表されてきたが、それとどこが違うのか?
高温注意情報は、予想最高気温(おおむね35℃以上)に基づいて発表されるのに対し、熱中症警戒アラートは、湿度を重視した「暑さ指数(WBGT)」に基づいている。環境省熱中症予防情報サイトによれば、暑さ指数が28を超えると熱中症患者が著しく増加。指数31以上で「運動は原則中止」とされる。
「暑さ指数(WBGT)」を構成する3要素
・気温
・湿度
・輻射熱(ふくしゃねつ/日射や地面などからの照り返し)
暑さ指数で33以上の「危険」な状況が予想されると、前日の17時ごろと当日の5時ごろ、原則都道府県単位で熱中症警戒アラートが発表される。昨年、関東甲信(1都8県)で先行実施されていて、この時は8月に20日、9月に6日と、合計で26日間も出ている。頻度は多いといっていい。
ところで、熱中症警戒アラートを構成する3要素に「湿度」があるのはなぜなのか。環境省の担当者は、「湿度と熱中症は強い相関関係にある」と言い、こう続けた。
「発汗すると汗は蒸発します。その際に発生する気化熱で身体の表面温度が下がり、このことでわたしたちは体温調節をしています。ただ、空気中の湿度が高い場合は汗が蒸発しにくくなり、気化熱で体温を下げることが難しくなります。そのせいで熱中症のリスクも高まるというわけなのです」
つまり、気温だけでもわからない熱中症リスクがあり得る。湿度が高いことを決して甘く見てはいけないのだ。
湿度が高いと、体温は下がりづらい。なぜか?
湿度が高くなることによって体温が下がりづらい仕組みはこうなっている。気温だけでなく、湿度など熱中症リスクと相関の高い新基準が適用されることで、高温注意情報だけでは見えなかった熱中症の注意喚起ができるようになった。
熱中症警戒アラートが出たら何をすべきか
自分の身を守るため:不要不急の外出を避け、昼夜を問わずエアコンを使う
1日あたりの電気代(※)は、ダイキン工業のレポート「空気のお悩み調査隊」(2016年8月6日)を参考にしている。調査は、最高気温36.3℃の日に鉄筋コンクリート14.1畳の部屋で行われた。同社製14畳向けのエアコンを26℃設定(風量は自動)にし、9時~23時の間で稼働させたところ、1日の電気代は153.9円だった。もちろんこの電気代は、外気温や建物の構造、エアコンの性能によって変動する。あくまで目安で考えてほしい。
熱中症警戒アラートが出たら、水分補給はいつも以上にこまめに行ってほしい。のどが渇く前にとるのが重要で、目安は1日あたり1.2L(環境省・熱中症予防情報サイト)だ。
コロナ禍のいま、不要不急の外出はなおさら避け、日中の活動・運動は原則中止か延期する。周囲に人がいなければ、マスクも外そう。口元に熱がこもる状況は避けたい。
まわりの人の身を守るため:家族や近隣の人にエアコンの使用、水分補給を呼びかける
熱中症で亡くなる人の多くは65歳以上の高齢者。しかし、環境省の担当者はこうも話している。
「基礎疾患を持っている方、肥満の方、子どもや障害をお持ちの方の熱中症リスクも高いんです」
コロナ禍のいま、対面の声がけには注意も要るが、電話やSNS、あるいは十分なソーシャルディスタンスをとるなどして、他の人にも声をかけてほしいという。
「この夏もコロナ禍による外出自粛が続きます。そんななか、自宅でひとり倒れている方が増えるかもしれません。高齢者のなかには暑さを感じにくくなっている方も多いです。熱中症警戒アラートが出たら、そのような方にお声がけをしていただきたいです。熱中症は誰でもなる可能性がありますが、対策さえとれば防ぐことができるんです」
監修:三宅真太郎(気象予報士)
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