6月から10月にかけての「出水期」は、集中豪雨や台風などが起きやすく、河川が増水して水害や土砂災害の危険性が高まる時期。さらに近年は、気候変動や土地開発の影響で水害が頻発化・激甚化し、どこに住んでいても水害に遭う可能性が。そこで活用したいのが「ハザードマップ」だが、ただ確認しただけでは不十分なのをご存じだろうか。ここでは、いざというときにすぐ避難行動に移すためにはどうしたらいいのか解説する。(Yahoo!ニュースオリジナル特集編集部/監修:武蔵野大学客員教授・水ジャーナリスト橋本淳司)
自宅周辺のハザードマップ、確認していますか?
Yahoo!ニュース「みんなの意見」では、「自宅周辺のハザードマップ、確認していますか?」と題したアンケートを実施。7割が「確認している」と回答していることから、ハザードマップの一般的な認知度は高いように見える。しかし、確認だけして満足したり、「うちのエリアは過去に水害に遭ったことはないから大丈夫」と安心したりしていないだろうか。こうしたマインドは、現状維持バイアス(※)といい、命取りになりうることもある。
※いざというときにも大きな変化を恐れて現状を維持したり、危険のサインが出ていても「大したことはないだろう」と過小評価したりしてしまうこと。
「高層階だから大丈夫」「確認しても変わらない」が命取りに 私たちの身の回りに潜む水害リスクは?
上の図のように、台風や集中豪雨(梅雨)などで想定される水害は、海沿いでは高潮、山あいでは土石流・地滑り・崖崩れなど場所によってさまざま。また、都市部でも身近なところでは、柵のない用水路に車ごとのみ込まれて命を落とす事故や、ため池に転落して溺死する事故などの危険性が潜んでいる。また、河川が氾濫(※)した場合は、高層階に住んでいたとしても、水がはけるまでに1〜2週間かかることも。実際に、2019年に甚大な被害をもたらした台風19号では、多摩川の泥水が下水道管を逆流し、武蔵小杉(神奈川県川崎市)のタワーマンションの地下が浸水し、その間は電気や水道、ガスなどのライフラインが使えなくなった。
※街中で起こりうる氾濫には、「内水氾濫」と「外水氾濫」の2種類がある
・内水氾濫...堤防の内側や市街地で排水が追いつかなくなり、道路や建物が水に浸かってしまう水害
・外水氾濫...川の水が堤防を乗り越えたり、破堤したりすることで発生し、生活居住地に急激に水が流れ込む水害
逃げ遅れないために ハザードマップで身の回りの危険を知ろう!
浸水3mは2階床面の高さに相当
ハザードマップでは、河川が氾濫した場合に浸水するエリアが、浸水の深さごとに色分けして表示される。3m浸水した場合は建物の2階の床面が、5mでは2階が完全に水没する。浸水する可能性がある建物に住んでいる場合は、気象情報を確認し、早めに高台の避難場所へ。
また、人は浸水20cmでも歩行が困難になり、水がひざ上まで来ている場合は、避難はかえって危険に。避難する時間がない場合は、頑丈な建物のなるべく高い階に避難しよう。
確認するだけでは不十分! 実際に行動し体感してみよう
警戒レベル5では手遅れに? いつ、どう行動するか 避難の目安は?
内閣府防災が呼びかけている時系列の行動表は以下の通り。
事前にハザードマップで自宅周辺の危険度は確認しておき、最新の気象情報は、大雨による災害発生の危険度の高まりを5段階で色分けして地図上でリアルタイムに確認できる気象庁の「キキクル」なども有効利用したい。警戒レベル3に上がったら、高齢者等は避難を、レベル4では全員が避難完了していることが望ましい。避難先に行けない場合は、建物の上階や土砂災害を避けるため山側からなるべく離れた部屋へ避難を。
水害リスクは今後も変化し続ける? 私たちにできること
近年、全国各地で豪雨災害や土砂災害が激甚化・頻発化している。今後も地球温暖化など気候変動の影響で降雨量や洪水の発生頻度も全国で増加する予測だ。私たちにできることは何か? 橋本淳司さんに聞いた。
水害はどこに住んでいても起こり得ます。日頃から災害への備えとして、非常食など備蓄品の保管のほか、ハザードマップを確認して避難訓練をしておくなど使い慣れておくことは重要です。しかし、ハザードマップにも課題はあり、自治体によってリスク評価する河川の精度にはバラつきがあります。また、逃げられる前提で作られていますが、実際にはお年寄りなど自力で逃げられない人もいる。日頃から、共助も一つの視点として大事にしてほしいと思います。
「流域治水」で我々ができること
2021年に「流域治水関連法」が施行されました。今までは河川の堤防やダムの管理者が治水対策をすることがメインだったのが、企業や自治体、住民など流域全体で連携して対策していくことになりました。私たちができることとしては、まず(1)生活排水について知ること。具体的には、下水道への負担を減らすために大雨の日にはお風呂の水を流さないことも流域治水につながります。大きなところでは(2)農産物の「地産地消」です。田畑は氾濫時には洪水抑止するダムのような役割もある。日頃から地元の農家さんのお米を食べることが、田畑を守り、自分たちの生活を守ることにもなる、という意識を持ってもらえたらと思います。
橋本淳司さん
武蔵野大学客員教授、アクアスフィア・水教育研究所代表、東京財団「未来の水ビジョン」プログラム研究員、NPO法人地域水道支援センター理事。国内外の水問題や解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。
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