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今さら聞けない定額減税 手取りはいくら増える? #くらしと経済

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岸田文雄首相が物価高対策として発表した定額減税が6月から開始される。所得税と住民税が1人あたり計4万円減税されるというが、手取りにどれくらい影響があるのだろうか。

公認会計士で税理士の小澤善哉氏に制度の詳細や疑問を聞いた。(Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部/監修:小澤善哉)

この記事、ざっくりいうと?
  • 本人と扶養家族の合計人数×4万円が定額減税の総額となる
  • 6月が最も手取り額の増加額が大きいが、所得税の減税が終わると手取りが減る人も
  • ふるさと納税や住宅ローン控除には影響しない
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1.あなたの定額減税の総額は?

まず定額減税であなたの減税額がどれくらいになるのか、計算してみよう。

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本人と扶養家族の人数を足して4万円を掛けた額が定額減税の総額だ。4万円の内訳は所得税減税が3万円、住民税減税が1万円となっている。減税の対象となるのは今年の所得税と今年度(一部翌年度)の住民税だ。

例えば、扶養家族が2人の場合は4万円×3人の計12万円(所得税9万円、住民税3万円)が減税される。

子どもが多い世帯ほど減税額が多くなることから、岸田首相は「過去に例のない子育て支援型の減税」としている。一方で、年収2000万円以上の高所得者世帯は減税の対象外となっている。

また、定額減税は納税額を減免する制度であるため、所得が基準以下で納税をしていない「住民税非課税世帯」や住民税は課税対象だが所得税は非課税の「住民税均等割のみ課税世帯」といった低所得者世帯も対象外だ。

減税の恩恵を受けられない代わりに、住民税非課税世帯には7万円、住民税均等割のみ課税世帯には10万円の給付が行われるほか、低所得者世帯には18歳以下の子ども1人あたり5万円が給付される。

定額減税総額のポイント
  • 本人と扶養家族の合計人数×4万円が減税される
  • 年収2000万円以上の人は対象外
  • 住民税非課税世帯や住民税均等割のみ課税世帯は減税の対象外だが、給付金が支給される

2.定額減税で手取りはいくら増える?

定額減税制度はどれくらい手取りに影響があるのだろうか。

小澤氏が「賞与なし」などの前提条件に基づいて年収、世帯状況別に試算。手取りへの影響が大きい6月と効果が継続して得られる7、8月の手取りの増加分をまとめた。

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あくまでも特定の条件のうえでの試算だが、扶養家族がいない月収30万円の単身世帯の場合、手取りは定額減税の影響で6月には2万250円、7月には6350円増えることがわかる。

一方で、小澤氏の試算によると、月収40万円の単身世帯では9月に手取りが900円減るという。

なぜ6月の手取り額が最も多くなるのか、減税したのに実質的に手取り減となる人がいるのか。

その"からくり"を見ていこう。

3.所得税減税は「大盤振る舞い」 定額減税の仕組み

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所得税の減税の方法は、給与や賞与の支給日を基準として、6月1日以降、所得税が発生するたびに1人あたり3万円の減税総額から差し引いていくというもの。引ききれなかった分は次回に持ち越されていく。

例えば上の図の扶養家族が2人いる家庭では、所得税の減税総額が9万円。そこから6~8月の給与と6月の賞与の所得税は減税分でまかなえているが、9月分は所得税額のほうが多くなっているため、残っている減税分を所得税額から差し引いて納税が行われる。10月以降はこれまで通り給与から所得税が引かれていくことになる。

このケースでは9月に所得税の定額減税が終わっているが、仮に12月まで減税分が残っていた状態で冬のボーナスが支給されればその際の所得税も減税の対象になる。

扶養家族が多い世帯では、減税額が6月から12月までの所得税額の合計よりも多くなるケースもある。減税を満額受けられないと心配する人もいるかもしれない。

この場合は、一万円未満を切り上げて給付金が自治体から支給されることになっている。例えば、所得税額が6万9000円で減税額が9万円のケースなら、減税額が2万1000円上回っているので、3万円が現金給付される。

切り上げた分の返還を求めない方針のため、「めちゃくちゃ大盤振る舞い」(小澤氏)の制度となっている。

所得税減税のポイント
  • 本人+扶養家族の合計人数×3万円が減額となる
  • 所得税の減税は賞与も対象で支給日が基準となる
  • 減税額が6~12月に納税する所得税を上回る場合、給付金が支給される

住民税はどうなるのか。

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住民税は例年だと5月に課税額が決まり、6月から課税額を12分割して納めている。

しかし、今年は異なる。まず6月分の徴収をせず、7月から翌年5月分は課税額から減税額を引いたうえで11分割して納めていく。

このため、所得税の減税と住民税の非徴収が重なる6月は手取り額への影響が一番大きくなるのだ。

一方で、月収が高い人では定額減税分を差し引いた後に11分割した毎月の住民税が12分割した本来の住民税よりも高くなってしまうケースもある。

住民税の総額は減っているので損をしているわけではないが、所得税の減税を受け切ると手取りが実質的に多少下がるという事態になることを覚えておきたい。

そのため、「2.定額減税で手取りはいくら増える?」の小澤氏の試算のケースでは、月収40万円の単身者の所得税減税分は8月に控除しきったため、9月の手取りが例年と比べて900円減少。住民税の定額減税の適用期間である翌年5月までは手取りが少なくなってしまうのだ。

住民税減税のポイント
  • 本人+扶養家族の合計人数×1万円が減額となる
  • 6月の住民税は非徴収、減税後の住民税を11分割し、7月から翌年5月までの給与から差し引かれる
  • 月収が高い人の場合、減税後の毎月の住民税が例年よりも高くなる場合もある

4.「ここが気になる」定額減税のQ&A

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小澤善哉氏
小澤氏
給与明細を確認しましょう。毎月の明細にいくら控除したかを記載しなければならない制度になっています。
また、月の所得税額も給与明細に記載されているため併せて確認しておくと良いでしょう。

Q.ふるさと納税や住宅ローン控除に影響は出ますか?

小澤善哉氏
小澤氏
いずれも影響は出ません。先に控除額を引いたうえで減税の計算が行われるので無駄になることはありません。

Q.定額減税実施後に離婚した場合はどうなりますか?

小澤善哉氏
小澤氏
扶養家族が減ってしまうので、所得税の減税分は年末調整で徴収されます。例えば3人家族の専業主婦の妻と子ども1人が離婚して世帯から抜けた場合、妻子の6万円分を年末調整で返還する必要があります。ただし死別の場合は返還の対象外です。
住民税の減税分については、扶養家族の判定時期が昨年末のため徴収が行われません。

Q.子どもが6月に生まれる予定です。減税の対象になりますか?

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小澤善哉氏
小澤氏
所得税の減税は最終的に12月31日の現況で判定するので、今年生まれた子どもは扶養家族のカウントの対象となりますが、住民税は対象外です。6月以降に誕生した場合は勤め先に届け出て、年末調整で対応します。また、16歳未満の扶養家族は所得税の扶養控除の対象にならないので勤め先に未申告な方もいますが、減税額に影響が出るので申告しましょう。

Q.パートをしている妻の年収が103万円を超えてしまった場合はどうなりますか?

小澤善哉氏
小澤氏
扶養家族から外れてしまうため、年末調整で徴収が行われます。

5.定額減税 そもそもなぜ給付金じゃない?

定額減税は所得税と住民税、2つの税から減税が行われることから複雑になっている感が否めない。なぜコロナ禍に行われた一律給付金のような対応を取らなかったのか。

小澤氏は「給付金だと一瞬で終わってしまうが、定額減税は人によっては効果が長期間出る場合もある。長期間にわたって消費を喚起できるメリットがある」と指摘する。

一方で、「マイナンバーやインボイスの対応もある中でさらに企業に負担がのしかかっているので、現場からすれば『勘弁してくれ』という声もある」といい、「今までにない制度で還元したことは評価できるが、事務の負担とプレッシャーは相当のもの」と明かす。

物価高から国民の負担を緩和するという狙いについては、「減税を受ける人にはその手間は関係ないので、『よくわからないけど単純に手取りが増えて嬉しい』という感覚の人が多くなる制度でしょう」と評価した。



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