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「フェイクニュース」への備え~デマや不確かな情報に惑わされないために~

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2016年のアメリカ大統領選をきっかけに、近年「フェイクニュース」が大きな社会問題となっている。日本においても、新型コロナウイルスに関連して「大きく息を吸って10秒間息を止められたらコロナには感染していない」「トイレットペーパーがなくなる」「ワクチンを接種すると不妊化する」といったデマや誤情報が流れるなど、私たちの身近な生活にも影響を与え始めた。インターネットの発展に伴って、SNSやメッセンジャーアプリなどコミュニケーションツールが多様化し、不確かな情報やデマ、意図的に作られた偽情報などが直接手元に届くようになったいま、私たちが日常的に触れている情報の信頼性が問われ始めている。「フェイクニュース」とは何か? 一人ひとりができることは何か、現状と対策を探る。(監修:国際大学GLOCOM准教授・山口真一、ジャーナリスト/メディアコラボ代表・古田大輔/映像制作:macca/映像協力:琉球新報社、熊本県民テレビ/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)

定義とは正しい情報を得る対策は

フェイクニュースってどんなもの?

日本国内で「フェイクニュース」が大きな話題となったのが、2016年4月14日に発生した「平成28年熊本地震」の際の、動物園からライオンが逃げたというSNSでの投稿だ。地震の直後、街中にライオンが出現したという内容が偽画像とともに投稿され、瞬く間に拡散。この投稿を知った地域の人々は動揺し、動物園には電話が殺到、混乱をもたらした。

こうした悪ふざけから偽情報が拡散されることもあれば、心配や不安、善意から発信されるケースもある。2020年2月に新型コロナウイルスによる外出制限が検討されたタイミングでは、「コロナの影響で輸入が止まりトイレットペーパーがなくなる」というデマが出現した。マスメディアがデマを検証し、否定する報道をしたが、さらに多くの人が知ることにもつながり、事態の鎮静化まで2カ月程度を要した。デマや流言が生活にも大きな混乱を引き起こすことが浮き彫りになった。

このように「フェイクニュース」とは、報道機関からのニュースだけに限らず、文字や画像・映像、会話などさまざまな表現による「誤った情報全般」を指すといえる。情報化社会においては、真偽不明の情報が大量に流れることになれば、世の中全体の情報の信頼性という基盤が失われてしまう。また、あらゆる信頼性に疑念が生じれば、真偽を確かめるために、大きな負担が発生する。それは私たち自身に跳ね返ってくる大きな課題だ。

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専門家が解説

プロフィール

博士(経済学・慶應義塾大学)。専門は計量経済学、ネットメディア論、情報経済論等。NHKや日本経済新聞等のメディアに多数出演・掲載。主な著作に『正義を振りかざす「極端な人」の正体』(光文社)など。東京大学客員連携研究員、日本リスクコミュニケーション協会理事、シエンプレ株式会社顧問、クリエイターエコノミー協会アドバイザー等を務める。

Q. 「フェイクニュース」とは何なのか?
「内容に誤りがある」「公共に害が与えられるものである」という2つの要素で定義されると考えます。誤情報の発信が故意か故意じゃないかにかかわらず、公共に害が与えられたらそれはフェイクニュースといえます。災害時の嘘や医療健康系の誤情報、企業に対する偽情報は生活・経済の混乱をもたらし、政治系の偏った情報などは社会の分断を加速させます。また世の中の情報に対する信頼性が失われ、社会全体のマイナスになります。

Q. 「フェイクニュース」は日本ではどの程度発生している?
2020年に行った調査で、20件のフェイクニュースを追跡したところ、51.7%の人が1つ以上のニュースに接触していました(※1)。2人に1人以上は接触している非常に身近な問題です。特に「社会全体が不安になるとき」と「大きなイベントがあるとき」に増える傾向があり、コロナの流行や大震災のような危機発生時、そして国の方針が決まるような選挙は、デマや誤情報が流れやすい状況といえます。

Q. 「フェイクニュース」はどのように拡散される?
拡散する動機を調査すると、「怒り」「不安」「善意」「ほかの人の意見を聞きたい」といった気持ちがあることが分かりました(※2)。そして拡散手段で最も多かったのが友人・知人・家族との直接の会話で、次にメッセージアプリでの伝達です。不確かな情報を見聞きした際に、家族や身近な人に伝え、受け取った人がまた発信するというサイクルが生まれていました。近しい関係の人からの情報であっても、誤った情報が含まれる可能性があることを常に意識する必要があります。

Q. 「フェイクニュース」にだまされないためには?
以前調査したところ、フェイクニュースの接触者の75%は偽情報と気づけていないということが分かりました(※3)。また米国で行われた別の研究では、4人のうち3人が、情報の真偽を判断する能力を過大に評価していて、かつ、そのような人ほど真偽をうまく見分けられないことも明らかになっています。つまりフェイクニュースには誰でもだまされるし、自信がある人ほど気をつける必要があります。「おや?」と思う情報に接触したら、即座に反応しない、拡散しないことが大事です。フェイクニュースは特に怒りや不安をあおりやすいとされています。そういう感情を抱いた時ほど、真偽の判断ができない場合は一呼吸置いて、拡散する行為を控えるようにしましょう。

※1※2 2020年度のInnovation Nipponの研究成果より(2020年9月にアンケート調査を実施、2021年6月に公表)
※3 2019年度のInnovation Nipponの研究成果より(2020年1月にアンケート調査を実施、2020年10月に公表)

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正しい情報を得るために取り組めること

「フェイクニュース」に惑わされないためには、どのように正しい情報を得れば良いだろうか。インターネットを利用した探し方や閲覧する際の注意点、情報を検証して届けるマスメディアの取り組みから、対策のポイントを探る。

正しい情報を得るための方法
新たな情報に接した場合、事実確認や疑問を解決する手段のひとつが「検索」だ。ポータルサイトやSNSの検索機能により、事実や補足情報を確認することで、より多角的に精査できる。しかし、検索結果には多種多様な情報が表示されてしまうため、時には不正確な情報に出合ってしまうこともあり、個人での真偽の判断が難しい場合もある。そのため、どんなサイトから情報を得るかをよく見極める必要がある。

まず優先的に見るべき情報源として、省庁や行政など公共機関が発信する一次情報が掲載されるサイトや、マスメディアによって検証された情報を集めたニュースサイトを見ることが有効だ。またSNSで真偽に関するユーザーの反応を見ることで、気づきを得ることもできる。常に複数の情報源を用いてチェックすることが重要だ。加えて情報の文章にも注目しよう。不確かな情報の特徴は、運営元や発信者の実態が不明な信頼性のない情報源を挙げたり、拡散を狙って不安や怒りなど感情をあおる書き方を用いたりするケースが多い。事実を確認するためには、多大な労力がかかる。その手間を省くインターネットの便利さをうまく活用して、「フェイクニュース」の対策につなげよう。

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正確な情報を追求するマスメディアの取り組み
正確な情報を社会に届ける役割として重要なのが、新聞やテレビ局などのマスメディアだ。取材を通して、事実を検証して情報発信を行うことで正確かつ迅速な情報提供を行い、私たちの生活においても重要な機能を果たしている。しかし現在では、訓練された記者が発信していた情報だけでなく、さまざまな立場から情報を発信することが可能になり、私たちの手元に届くようになった。そんな状況のなかでマスメディアは正確な情報を届けるために、どんなことに取り組んでいるのか。


正確なニュースを読者に届けるために
琉球新報社デジタル推進局局長 滝本 匠さん
「2018年県知事選の選挙運動期間中にファクトチェックに取り組んだのは、誤った情報をもとに投票することは民主主義の根幹に関わると思ったからです。ファクトチェックというと特別なことのように聞こえますが、「情報を探して取材して、事実を確認して記事を書いて紙面やネットで出す」という行為を新聞社はずっとやってきました。何重にもファクトチェックをした生産物が記事になっているのです。ネット社会の広がりのなかで、裏どりがされていない情報やデマやフェイクが増えています。そういう時代だからこそ新聞社がファクトをチェックして検証することの重要性は増していると考えます。」

専門家が解説

プロフィール

朝日新聞を経て、2015年からBuzzFeed Japan創刊編集長に就任。2019年6月より、株式会社メディアコラボ設立。ジャーナリスト/メディアコンサルタントとして活動のほか2020年9月からGoogle News Labティーチングフェローに就任。その他にファクトチェック・イニシアティブ理事、NIRA総研上席研究員、著書に「子どもを育てられるなんて思わなかった」(編著、山川出版)、「フェイクと憎悪」(共著、大月書店)など。

新型コロナウイルスとワクチン問題で情報検証は自分ごとに
2016年アメリカ大統領選で「フェイクニュース」という言葉が世界に知られたように、対立する陣営が争う選挙は、相手を不利に、自分を有利にするために操作された情報が拡散しがちです。日本でも2018年沖縄県知事選で、中立を装って一方の陣営をおとしめるサイトが現れました。

意図的に操られた情報は今や日常的に存在し、政党・政治家の印象に影響を与えています。特に注意すべきは「フィルターバブル」という現象です。検索結果やSNSの学習機能によって利用者が望まない情報から遠ざけられ、自分に近しい人や考えからのみ情報を得て、それ以外の情報に触れにくくなる状況を「バブル」(泡)に包まれている状態に例えた言葉で、自分の考えに近い嘘を信じたり、逆に真実でも自分の考えと違うからと否定するようになり、結果として、考えが極端に偏る危険性があります。

「バブル」に包まれることを避けるには多様な情報に触れる必要がありますが、同時に、信頼性がほとんどないようなものまで「多様な情報源のひとつ」と信じてしまわないように注意力も必要です。私たちの価値観や行動は、自分が見聞きした情報に左右されます。誤情報から自分を守ることは、現代を生きるうえで重要な技術です。

悪質なデマの影響が投票に及べば、民主主義の危機です。情報検証のプロによるファクトチェック(情報の真偽検証)も重要ですが、一人ひとりが自衛策を身につける必要があります。新型コロナウイルスやワクチンに関する情報の錯綜で、何を信じるべきか迷った人もいるでしょう。この記事で説明している注意点を参考に、自分の日々の情報入手のあり方を見返してみてください。

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「フェイクニュース」に備えよう

インターネットの発展とスマートフォンの普及によって、私たちが情報に接する量は日々増加している。「フェイクニュース」はそうした環境にあって、身近な問題に発展してきた。世界各国では「フェイクニュース」を社会的な混乱と分断を生む脅威と見なして法的規制を導入する動きもあり、「表現の自由」を踏まえて活発な議論が行われている。
日本においても、マスメディアやインターネット企業で、情報の丁寧な検証やデマ誤情報への対策が進む。そうした環境を生きる私たちは、情報がどのように流れるかの特性を知り、情報に潜む危うさを感じ取る力を養って、事実の確認を習慣化することが大切だ。家族や友人・知人からの情報であっても、一度立ち止まって考え、少しでも不安を感じたら周囲の人に伝えない、SNSで拡散しないと心がける必要がある。感情的にならないことも対策のひとつだ。
「フェイクニュース」は内容をセンセーショナルに表現し、怒りや不安をあおる傾向がある。ひと呼吸おいて拡散を控え、じっくり複数の情報源で検証してみることが重要だ。それが「フェイクニュース」拡散の防止と抑止につながる。「フェイクニュース」に対してゼロリスクはない。個人でできる小さな対策から始めることを心がけてほしい。

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関連リンク

2021年衆院選ファクトチェック特集(NPO法人ファクトチェック・イニシアティブ)(外部サイト)


更新履歴
・2021年12月23日 「フェイクニュースの種類」に「また正しい情報を元に改編されたり、偽の情報と組み合わされることでフェイクニュース化するケースもある」を追記し、あわせて画像の一部を修正しました。

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