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なぜ「暴力を受けても別れられない」? デートDVのメカニズム #性のギモン

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夏休み中に増えるといわれる「デートDV」。交際相手から受ける暴力のことで、殴る・蹴るといった身体的暴力だけではなく、言葉でののしったり、「別れたら死ぬ」などと脅したり、嫌がっていることを強要したりするなど、相手の心を傷つけることも含まれる。「全国デートDV実態調査(※)」によると、交際するカップルの3組に1組でデートDVが起きているという。暴力で相手を支配し、対等な関係でいられなくなるデートDVは、誰もがいつ被害者、あるいは加害者にならないとも限らない。家族や友人が困っていたら? そのメカニズムと予防・対策について解説する。(Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部/監修:エンパワメントかながわ理事長・阿部真紀)

※認定NPO法人エンパワメントかながわが、デートDV予防教育を受講した中学生・高校生・大学生2868人を対象とした調査(2016年)

デートDV、知っている?

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設問で「デートDVの定義」を事前に提示したうえで調査
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今回、Yahoo!クラウドソーシングで、15〜39歳の交際経験のある未婚の男女1382人に意識調査を行った。その結果、「デートDV」という言葉を「知っていた」と答えたのは59%。男女比もほぼ差はなかった。さらにデートDVの経験について聞いてみたところ、約2割が「経験があるかもしれない(被害・加害・被害と加害いずれも)」と回答。内訳は、「被害」が13%、「加害」が4%、「被害・加害いずれも」が6%だった。うち「被害」に関しては、男女比は男性が6%に対して女性は18%、男女比は1対3と女性のほうが多く、「加害と被害・加害いずれも」男女比に差はなかった。

身体だけではない、デートDVに該当する5つの暴力

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デートDVは、結婚していない恋人同士の間で起こる暴力で、男性から女性、女性から男性、同性のカップルなど誰にでも起こりうる。相手が嫌がっていることを強要し、嫌なことを嫌と言える「対等な関係」でいられなくなったりするようなやりとりがあれば、デートDVに該当する。

ちなみに、「全国デートDV実態調査報告書」によると、これら5つの暴力は単独で起こることは少なく、相関関係があり、性的暴力の実数や割合は他に比べて非常に少ないが、他の暴力を受けている場合、性的暴力を同時に受けている可能性は高いという。

繰り返される暴力「デートDVのサイクル」

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デートDVにはサイクルがあるとされている。加害者は暴力を振るった後に優しくなり、「もう二度と暴力はしない」と謝罪、反省をするため、被害者は「やっぱり愛されている」「今度こそ変わってくれるかもしれない」と思ってしまう。しかし、加害者は再びイライラを募らせてバクハツすることを繰り返す。さらに、繰り返すなかで暴力は激化し、周期も短くなるという。そうなると被害者は「自分のせいだ」と思い込み、何がなんだかわからなくなり、恐怖と絶望感にさいなまれ、やがて逃げる機会や気力を失い、DVのサイクルから抜け出すことが難しくなるという。本人や周囲が早いうちにデートDVに気づくことが大切だ

知らない間にDV被害者・加害者になっているかも?

DVにあたるかどうか、基本は「対等な関係」が築かれているかがポイント。嫌だなと思うことを相手から強要されている? または自分の思い通りになるよう相手を強要している? 以下の項目に思い当たる節があるだろうか。

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なぜ別れられない?「デートDVのメカニズム」

「あんなにひどい目に遭っているのにどうして別れられないの?」。はたから見ると、理解しづらいデートDV。被害者本人が抜け出すためには? 家族や友人などまわりの人間はどうしたらいいのか? 怒りをコントロールできずに加害で悩んでいる場合は? デートDVや虐待などの暴力を予防・対策していくための活動をしているエンパワメントかながわの理事長・阿部真紀さんに伺った。

デートDV被害者の心理のスパイラルをまずは知る

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ピンク色は友だちや家族など周りの人に向けた感情の変遷で、紫色は交際相手(加害者)に向けた感情の変遷を表している

DVにおける暴力に原因はなく、相手を支配するためのもの。しかし被害者本人は、デートDVのサイクルを繰り返すうちに「怖い」「けれど恋人は好き」「まわりには迷惑をかけたくない」「自分が悪い」という気持ちがどんどん強まり、やがて誰にも相談できなくなっていく。

被害者の友人・家族にも心理の変遷がある

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家族や友人などまわりの人は、はじめは被害者が暴力を受けていることを心配し、別れさせようとする。しかし、本人を説得しても聞き入れる様子がなかったり、繰り返し別れてはよりを戻したりすることが理解できず、やがて被害者の孤立化へとつながっていってしまう。

ひょっとしてこれはデートDVかも。自分が被害に遭ったらどうする?

阿部真紀さん
阿部真紀さん
まず、あなたは決して悪くありません。そして、変えられるのは自分であって、あなたが加害者であるパートナーを変えることはできないということを理解してください。被害者の多くは、助けを求めることと人に迷惑をかけることを混同する傾向がありますが、それは違います。自分の気持ちの整理をするためには、デートDV110番や、各団体で運営している近くの専門機関へ相談してみることがよいでしょう。また、別れを決意しても「別れたら殺す、家族に危害を加える」などと脅したり、ストーカー化したりするケースもありますが、その際は、警察の生活安全課へ相談しましょう。

「別れなよ」は逆効果。大切な人の被害に気づいたら?

阿部真紀さん
阿部真紀さん
デートDVのサイクルに気づくのは、当事者よりもまわりの人間です。しかし、「別れなさい」は逆効果です。被害者はデートDVのスパイラルにはまっていますから、逆に「別れられない自分が悪い」と思い、離れていってしまいます。むしろ被害者に寄り添い、「あなたは決して悪くない。私にとってとても大切な人なんだよ」と声をかけ続けて自尊感情を取り戻す手助けをしましょう。

大切な人を傷つけた......デートDVをしてしまって苦しんでいたら?

阿部真紀さん
阿部真紀さん
実は加害している人の多くは、加害にはほとんど気づいていないのが現状です。そんな中で、大切な人を傷つけたことに気づけたあなたはいま、とても苦しんでいるかもしれませんし、気づいたあなたは変わることができると思います。あなたがデートDVをしたくないと思えば、しないことを選ぶことができるからです。そんな気持ちを誰かに相談するか、あるいは相談窓口を利用してください。今は加害者向けのプログラムもあります。

暴力は他人ごとではなく自分ごと〜暴力が起こる構造〜

暴力には構造があります。親と子、先生と生徒、先輩と後輩、上司と部下といった世の中には、さも上下関係が常にあるように捉えられています。意識的にも無意識的にも自分よりも弱い者を見つけ、おまえのほうがダメだ、自分はまだマシだという力関係をつくり、身体的暴力以外にもさまざまな暴力で相手を支配します。暴力を受けたほうは、自分よりさらに弱い者を見つけて暴力を振るう、そんな連鎖が起きているのです。これらはジェンダー不平等や序列偏重社会といった暴力が容認される社会が土壌になっています。
暴力を振るっている人は、生まれながらに暴力を振るっているわけではなく、実はどこかで自分も暴力を受けて暴力を知った人です。しかし、この世に暴力を受けていい人間は一人もいません。一人ひとりが大切で、対等な関係にあってお互いの違いを認め合うことが大事だと思います。

阿部真紀さん
「認定NPO法人エンパワメントかながわ」理事長。暴力や虐待の連鎖を断ち切ることを目指し、デートDV予防プログラムの開発と普及に携わる。生徒や学生、教職員に向けた研修や保護者に向けた講座を提供。「デートDV110番」を開設し、電話やチャットでの相談を受け付けている。2017年には全国の団体や機関がつながることを呼びかけ、「デートDV防止全国ネットワーク」を設立。


#性のギモン」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の1つです。人間関係やからだの悩みなど、さまざまな視点から「性」について、そして性教育について取り上げます。子どもから大人まで関わる性のこと、一緒に考えてみませんか。

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