解説プーチン政権が出した現代の「徳政令」のような仕組みには、戦争の長期化に伴い、前線を補充する兵員の不足が背景にある。 ウクライナ侵略半年後の2022年9月に部分動員令を出して以来、プーチン政権は徴兵年齢の引き上げや戦死した者への補償金増額などの策をたびたび発表し、兵員を補充してきた。北朝鮮の派兵も露には渡りに船だ。 借金帳消し令に魅力を感じるのは主に、地方都市で生活苦に陥っている市民たちだ。そもそもロシア人は貯金の習慣がない。その上、いまはお金を借りるにしても高金利で、首が回らない貧困層は確実に上昇している。 自分の命と引き換えに家族を養う「死の経済」には、平時であればそんなリスクを冒す者はいない。しかし、政府がアピールする愛国心と将来の先行き不安が通常の判断を狂わせる。 一方で、動員令を出し広く社会から兵士を補充すれば、社会不安を引き起こす。反政権運動に火をつけかねず、ジレンマがある。
コメンテータープロフィール
岩手県一関市生まれ。大阪外国語大学ロシア語学科(現・大阪大学)卒業後、産経新聞社入社。モスクワ支局長、リオデジャネイロ支局長を経て、運動部次長、社会部次長などを歴任。2021年より現職。専門分野はロシア・旧ソ連諸国情勢、国際情勢に加え、オリンピック・パラリンピック、捕鯨問題などにも詳しい。フィギュアスケート関連ではNumberなどにも寄稿。単著に「シー・シェパードの正体」(扶桑社新書)「環境テロリストの正体」(新潮新書)。近著は「動物の権利」運動の正体(PHP新書)