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書店員が語る、なぜ本屋大賞はYahoo!ニュースと「ノンフィクション本大賞」を始めたのか?

最終選考会のメイン画像

ノンフィクション本のおもしろさや豊かさをもっと体験して欲しいと、2018年に創設した「Yahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞」。ただ、ノンフィクション本と言われても思い浮かべる本は人それぞれ、本当に多様です。ノンフィクション本ってどんな本? 新しい賞をどんな賞にしたい?書店員のみなさんが語りました。(構成:中上芳子/写真:殿村誠士)

選考会メンバー
  • 内田 剛さん
    三省堂書店 有楽町店副店長
  • 勝間 準さん
    MARUZEN&ジュンク堂書店
    渋谷店
  • 平井 真実さん
    八重洲ブックセンター
    京急百貨店上大岡店
  • 星 由妃さん
    株式会社ゲオ
    メディア商品部メディア商品3課
ノンフィクション本は「いじめられている」
内田
ノンフィクション本は出版不況のなかで、一番いじめられているジャンル。なぜなら売れていないからです。
書店では、文芸書とノンフィクション本は同じ担当者になることが多いのですが、僕は昨年10月に店舗を異動して、最初の仕事が文芸書の売り場を半分にして、ノンフィクション本の売り場を1階の一等地から2階に移すことでした。自分で自分の墓を掘るような思いでした。
売り場が作れなくなるくらい、ノンフィションというジャンルが弱っている。雑誌もどんどん休刊や廃刊になり、作品の受け皿となる場もない。書き手にとっても売り手にとっても逆風です。
いま本が選べなくなっている、探せなくなっている時代ですけど、本屋大賞はそうした時代のよい道しるべであり「POP」なんです。本屋大賞が成功させたことを、逆風にあるノンフィクション本でもやりたい。お客さまから「今年の大賞はなに?」って聞かれるように。
平井
ノンフィクション本って、内容的にもPOPがなかなか書きづらい本もありますよね。
内田
それがノンフィクション本大賞にノミネートされることで書けるようになる。それによってお客さまも本に出会えるようになる。

内田さん

平井
書店は立地条件などで、来る客層が決まってきてしまう。インターネットの力もあって、第一回ノンフィクション本大賞(以下、第一回)は、いろんな年代の人が「ニュースで見ました」「ネットで知りました」と来てくれた。書店に普段来ないような人が来てくれる流れができればいいなと思います。

私も、今までノンフィクション本に興味がなかった人にも手に取ってもらえるようになったなと思いました。
勝間
特に女性が増えたのかなという印象でしたね。
内田
この賞をこれからどう続けていくかがすごく大事。2004年に始まった本屋大賞もこんなに長く続けられるとは思っていなくて、一回一回の積み重ねでした。ノンフィクション本大賞も、まずは現場から「続けなきゃだめだよ」って声を高めていきたい。
特にいま、本の「旬」が本当に短いんですよね。

ベストセラーはあるけど、ロングセラーはないですねぇ。
内田
長く売ることが大変になっているので、しっかりと第一回の作品を売り続けて、ノンフィクション本大賞なら間違いなく読まれるって賞にしたい。そういう意味では、第一回の大賞になった「極夜行」(角幡唯介:文藝春秋)は、その後のノンフィクション本大賞を決定づけていく作品になったと思います。
勝間
「極夜行」は、小さいころ冒険に憧れていた若い男の子が読んだら、絶対におもしろいと思いますね。
ノンフィクション本は「フィクション以外?」定義できないおもしろさ
勝間
第一回でノミネートした10作品は「こういう本もノンフィクション本です」ってお客さまに提案できた。それがよかったなと思います。

2018年度のノミネート作品

内田
「こんないい本があった」。ノミネート作品の一番の喜びはそこかもしれないですね。ノンフィクション本ってハードルが高いイメージがあるので。

事件や事故をテーマにしたものをイメージする人が多いのかもしれません。普段は素通りしてしまうジャンル。女性は特にそう感じる人が多いのではと感じます。
平井
書店によって置く棚が変わるのもおもしろいところ。事件や事故に関する本だと「ビジネス社会」に入ったり、「男性エッセー」に入れてみたり。ノンフィクションというジャンルの間口の広さを感じます。

男性客の多いお店か女性客の多いお店か、ファミリー向けなのかによっても場所が変わる。幅が広すぎて定義するのが難しいですね。うちでは「極夜行」は探検本というカテゴリでした。
勝間
ノンフィクションという棚はあるんですが、どんな本を入れるかは毎回考えますね。角幡さんの本は、うちの店では実用書の棚に置きます。

新人が一番棚を悩む売り場ですよね~。
勝間
「一発屋芸人列伝」(山田ルイ53世:新潮社)は、芸人さんの本の棚でしたね。
内田
ノンフィクションの棚には絶対いかない本が、ノミネートしたことでノンフィクション本として並んだ。
勝間
これが読んだらとてもおもしろいノンフィクション本なんですよ。いたいた~こんな人っていう。これは忘れちゃいけないことですよね(笑)。
平井
ノンフィクション本って、小説じゃなければノンフィクション本とも言える。最近はノンフィクション本だけど、フィクションの体をとっている作品も増えました。
内田
実はモデルがあるけど、そのまま書けないから...っていう極めてノンフィクション本に近い小説ですね。
勝間
経済小説などはそう。
平井
私は仏像が大好きなので、ノミネートに仏像の本が入らないかなぁとか考えます(笑)。いろんなジャンルから「ノンフィクション本」として選べるおもしろさはありますよね。実際に、本屋大賞でノンフィクション本に投票する書店員もいるんです。間違って投票しているのではなくて、とっても強い思いで。そういう人にこそ、この賞に投票してほしい。文芸書とノンフィクション本って、実は境目があいまい。うちではノンフィクション本に近い小説をあえてノンフィクションの棚に置くこともあります。

文芸書の棚と同じ並びでノンフィクションの棚があったり、書店の中でも地続きになっていますね。

星さん

良いノンフィクション本作品は文学的?
内田
良いノンフィクション本の作品は、文芸書よりも文学的なことがある。
平井
こういう表現をしてくるか~って思わずうなる。私は文芸書担当ということもあって、そういう読み方しかできないのかも。
内田
事実を並べただけでではない、書き手が見える本ともいうのかもしれません。書き手と対象者の距離感があって、せめぎあいがあって、すごみがある。小説では味わえないダイレクトなおもしろさです。
勝間
実際に存在している人たちですしね。

第一回のノミネート作品を読んでいて、頭の片隅に残っていた事件や事故をまた知るって必要なんだなと感じました。あのときは忙しくってちゃんとニュースを読んでいなかったなと気付く。時間がたっても振り返られるのが本のよさですね。
平井
そのときは大きく報道されるけど、その後は知らないままだった。実はそのインパクトだけしか覚えていなかったんですね。それをずっと地道に調べていた人がいた、それにもびっくりしました。
勝間
終わってないということを知ることができましたよね。

勝間さん


ノンフィクション本って、文芸書と比べてどれくらい編集者の手が入るんでしょう。売れるように書くっていうのをあまり感じないというか。文芸書と比べて、ノンフィクション本は表紙も含めて書き手の意見が反映されているのかなと感じることがあります。
勝間
書き手が書きたいものを書いている印象はありますね。
内田
例えば「ユニクロ潜入一年」(横田増生:文藝春秋)も、著者はユニクロに潜入しろと誰かに言われたわけじゃない。知りたいという思いで、飛び込んで伝えている。
平井
あれはすごかった~。
内田
ただ、バランスが難しいと感じることもあります。ある事柄について、当事者のもう片方の人の本が出る場合もある。一冊の本も、立場によって見え方が変わってしまうこともある。バランスも考えないといけないですね。
「沈ませない」ためにできることは
内田
最近では、SNSなどを通じて文章の中の一文がねじまがって伝わってしまうことも増えています。文章の書き手も難しい時代ですね。
平井
さらっとニュースや物事を知れればいいという人が増えた気がします。ネットサーフィンで知ったつもりになって、元になった文章を読まずに終わってしまう。例えば、Yahoo!ニュースを見ていて気になった事件や問題、冒険。もうちょっと知りたいって思った時に本を手にとって欲しい。文章を数日でも読まないと読む力は弱くなってしまう。なんでもいいから読んでみると、理解力も深まると思うんです。ちょっと気になったから手に取る、そういう知識欲がみんなに出てきたら、本ももっと売れるのかな。

平井さん

内田
僕はノンフィクション本は人間の骨となり、フィクションは血や肉となるものだと思っているんです。どちらかに偏らず、それをつなげたい。
「本のエンドロール」(安藤祐介:講談社)は、本の印刷会社がモデルになっていて、極めてノンフィクションに近い小説です。
僕がこの小説の中でしびれた言葉は、印刷業界という「泥舟」になぜ乗っているのかと聞かれた印刷会社の人間が「沈ませないためだよ」と答えた場面。書店もまったく同じです。
僕ら書店は、文芸書はこっち、ノンフィクション本はこっちとただ並べるんじゃなくて、棚で表現している。 本屋大賞を16年間やっていて、一番印象に残っているのが東日本大震災のあった2011年です。大賞の発表は毎年4月。被災直後で、やめたほうがいいという声もありましたが、被災地の書店がぜひやってほしいといった。やってよかった、やっぱり本って必要なんですよ。

私は2004年の中越地震、2007年の中越沖地震と二度の被災で家財道具もだめになって...。ただ、書店に本を買いに来る人がすごく多かった。店を開けてくれてありがとうって何度も言われたんです。店も被災して、床が陥没して狭くなっているにもかかわらず来てくれる。この状況に遭遇して「本屋さんっていいな」と思いました。だから東日本大震災の被災地の書店のみなさんが、やってほしいと言った気持ちがすごく分かりました。
内田
こういう本を巡る話もノンフィクションですよね。こういう声を語り継いでいきたい。ノンフィクション本を盛り上げる、これは僕らのミッションだと思っています。

座談会の様子