Technology2022.03.18

編集者と技術者が協業し、Yahoo!ニュースアプリ朝刊通知を自動化 人手と変わらない編成の質をどう再現したのか

Yahoo!ニュースアプリから日々届けている、朝刊・昼刊・夕刊のプッシュ通知。忙しくてニュースを読む時間が少ない人や定期的にニュースをチェックする習慣がない人でも、見逃すことなく手軽にニュースを読めるよう、トピックスを厳選してプッシュ通知しています。これまでは編成の質を保つため、通知するトピックスを編集者自らが選ぶことを重視し手作業で入稿していましたが、2021年7月からはその質を担保したうえで編成を自動化しました。その実現の背景には、編集と技術の協業がありました。担当した編集・高橋洸佑、前川春菜と技術・大脇伸次に開発について聞きました。

企画が立ち上がった経緯は

Yahoo! JAPANのタイムラインで一人ひとりの幅広い興味関心に合わせてコンテンツを提供する自動レコメンドやYahoo!ニュース コメントのAIによる自動投稿削除など、ヤフーはこれまでもサービスにさまざまな技術を導入してきました。一方で、Yahoo!ニュースの「顔」となるトピックスは「人の手で編集し、ニュースバリューを見極めてユーザーに届ける」ことを大切にしてきました。その時一番お伝えしたいトピックスを通知する朝刊・昼刊・夕刊(以下は省略して朝刊)も、編集者の手で選び入稿してきましたが、運営開始から3年半が経ち、どのような観点からトピックスを選ぶべきかという編成の知見が蓄積されたことから、質を担保した上で自動化できるのではと判断しました。

開発当初の思いは

上段左から技術の大脇、編集の高橋、下段が編集の前川

―自動化開発の話を受けた当初は、どんな思いでしたか

編集・高橋:私たちトピックスの編集部員は、1日約7500本(2021年11月時点)の配信記事を受け、トピックスをつくる業務など複数の業務と並行して朝刊のためのトピックスを選択し入稿していました。朝刊・昼刊・夕刊を設定する朝8時前、昼12時前、夕方6時前は、それぞれニュースが立て込む傾向もあります。朝刊に関しては、編集者が朝刊を設定してきた知見を類型化できれば、自動化して他の業務に編集のリソースを集中できると期待していたんです。

技術・大脇:開発メンバーとして声がかかったとき、正直、本当に自動化できるのだろうかと半信半疑でした。例えば「読まれている」という指標は誰にとっても比較的分かりやすいですし、判断の基準も定義しやすいんです。でも、通知するトピックスを選定する「ニュースの硬軟のバランス」や「知っておくべき情報」という指標をどうやって自動化するのか、この時点ではイメージが湧いていませんでした。

―開発にあたって課題はありましたか

編集・高橋:人がそれまで判断していたことを自動化するというのは、それ自体結構チャレンジングです。自動化した場合は、一定の決められた基準に従って機械的にトピックスが選択されます。なので、編集の質にクリティカルな問題が出たら、開発の撤退はありえるだろうなと思っていました。トピックスの編集部からも編集の質を担保できるのかと懸念の声があがり、最初から実装ではなく、プロトタイピングの作成からやろうという話になったんです。

編集と技術が協業 シンプルな編成ルールを実現

編集・前川:自動化の開発は、編成ルールを言語化することから始まりました。Yahoo!ニュース トピックスの編集者は、朝刊と夕刊ではトピックス6本、昼刊ではトピックス3本を選択します。例えば、朝刊なら、1本目や2本目はクリック数、3本目は公共性を重視し、4本目以降で多様性や硬軟のバランスを意識します。3本目の公共性の高いトピックスは、Yahoo!ニュースアプリの「主要」タブやウェブの「主要」タブで一番上に掲出されているトピックスです。

 朝刊から除外するトピックスもあります。例えば、首相会見やスポーツの試合中継や地震・津波速報は、朝刊で通知してしまうとユーザーが昼前になって通知を開く可能性もあり、その時点ではすでに情報が古くなっている可能性もあります。そうした除外ルールを言語化して大脇さんに相談したんです。その時は、6時間前に配信された記事は除外したいとか、かなり細かいルールも考えていました。

技術・大脇:一方で、ルールが細かくなると、技術的なリスクも高まります。というのは、ルールが増えるほど、「このルールとこのルールが組み合わさった時、問題なく通知が飛ぶか」など検討する組み合わせが膨大になってしまうのです。サービスの安定性を担保し、機能追加の拡張性を持たせるために、できる限りシンプルに設計していくのは大事だと思っています。

 最初に除外ルールの一覧をもらったとき、なぜこのようなルールが必要なのか、分からないものもありました。しかし、1つひとつのルールについて編集の意図を教えてもらうことで、このルールは他のルールでカバーできるのでは、このルールは絶対守らないといけないなど、各ルールの優先順位を整理していくことができました。

編集・高橋:全く別の職種である技術の大脇さんからの質問は、編集者としてもハッとさせられるものが多かったです。議論を何度も重ねて、除外ルールをシンプルに整理したおかげで、編集者側に「朝刊通知の自動化のための新しい作業」を課すことなく、ほぼいまの運用のままで自動化することができました。

仕様を決めるコミュニケーションの工夫は「編集と技術の領域を決めすぎない」

―編集と技術間のコミュニケーションで工夫したことは?

技術・大脇:編成・編集ルールなど、分からないことはとにかく編集者に聞くことです。従来の開発と比べ、今回は、技術者同士より技術と編集間のコミュニケーションが圧倒的に多かったです。また、お互いの役割を決めすぎないようにしました。「これは編集の領域なので編集がやってください」と分断せずに、関係者全員でなるべく認識をそろえて決められるようにと意識しました。

編集・高橋:領域を決めなかったから、除外ルールの優先順位のような、編集者がハッとさせられる質問が技術側から出たのだと思います。

編集・前川:ミーティングでは聞き慣れない技術用語に戸惑うこともありましたが、こちらから聞かなくても大脇さんがかみ砕いた表現に言い換えてくれたので、意思疎通する上で戸惑うことはなかったです。

編集・高橋: あと、編成ルールを整理する過程で、大脇さんから技術的な視点で質問を受けた時、編集者の自分には技術的な専門部分は分からないけど質問の意図は分かるので、一度しっかり受け止めるようにしました。そうして仕様を詰める議論を進めました。

質を担保したプロトタイプ作成の工夫は?

―プロトタイプを作成した時の工夫は

技術・大脇:プロトタイプを試すにあたっては、仮説や目的を決めることが大事なため、編集側に「何を明らかにしたいのか」整理してもらいました。

編集・高橋:論点は、数値の「攻め」と編集の質の「守り」の両立でした。「攻め」の観点では、あわよくば手動以上に通知の開封率が上がってほしい。例えば朝刊を設定する時刻に、リアルタイムで一番読まれているトピックスより、1時間前に一番読まれていたトピックスの方がユーザーからより強い興味関心を集め、プッシュ通知の開示率が上がる例がありました。一方で「守り」の観点では、逆に、作成から時間がたっているトピックスが通知されることは、質の重要な1要素である情報の鮮度に問題がでるリスクがあります。

そこで「守り」と「攻め」の兼ね合いを見るために、プロトタイプでは対象となるニュースのクリック率の集計時間を、10分前から、1時間前から、2時間前からと数パターン用意しました。

―質が担保できているということはどのように確認しましたか

編集・高橋:手動で編集者が選んでいるトピックスと、裏で回していたプロトタイプが選択したトピックスの合致度を1カ月間にわたりチェックしました。ズレている場合は、ズレていて良いズレなのか、ズレていると質に問題があるズレなのかをみていました。

 というのも、編集者が手動でトピックスを選ぶ時に出るような、編集者による個性や判断の違いといった部分も、できれば残したいと思っていたんです。例えば「読み物」のトピックスでも、日常生活で起きるちょっとしたいい話と、経済ジャンルの商品開発の舞台裏などの読み物などいろいろありますよね。どのトピックスを朝刊に入れるか、硬軟はどれくらいの配分にするか、自動化したとしても編集者が手で選んだような「多様性」は残したいと思っていました。

編集・前川:プロトタイプのトピックスのラインアップは、編集者が手動で選んだ実際の通知とほぼ同じで、自動化はすごい精度だなと感動しました。

サービスをより良く発展させていくために 職種の垣根を超えて話し合っていく

―自動化したあと、社内からの反応はどうでしたか

編集・前川: Yahoo!ニュースのいろいろな部署から、「本当に自動化したんですか」「手動の時と質に違いを感じない」という声がたくさん挙がりました。トピックスの編集者は、「しっかりバランスの取れた編成で(通知が)送られている」「朝刊を設定する時間を削減できた分、その他の業務を複数人で議論する時間がしっかり取れるようになった」と肯定的な反応でした。

―今後の展望は

技術・大脇:今回の自動化で、編成・編集の価値観や掲載されているトピックスの数字感を知りました。いまも「編集のノウハウを言語化してユーザー価値を生み出す」案件は増えているので、今回の知見を生かして取り組んでいきたいと思います。

編集・高橋:朝刊通知の自動化は、Yahoo!ニュースの編集業務にテクロノジーを活用する最初の一歩だったと思っています。編集という業務は「機械に代替することが難しく人の手でやるもの」という側面もあると思いますが、まずは職種の垣根を超えて話し合ってみることは大事だと思います。今後も技術力と編集力を掛け合わせて、サービスをより良く発展させていきたいと思います。


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