Professional2021.12.22

Yahoo!ニュース トピックス編集部員が東京五輪・パラ組織委に出向 「伝える力」を生かした2年間

画像:長田洋平/アフロスポーツ

新型コロナウイルスの影響により1年遅れで開催された東京2020オリンピック・パラリンピック。オリンピックでは史上最多となる金メダル27個を含む計58個のメダルを獲得し、パラリンピックでも史上2番目に多い51個のメダルを獲得(金メダルは13個)と躍進。そんな東京五輪・パラの準備や運営を行う「東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会」(以下、組織委)に、Yahoo!ニュース トピックス編集部の立川貴代が2年間出向しました。出向先の東京2020公式サイト運営(編集)チームで、Yahoo!ニュース トピックス編集部で培った経験がどのように生きたのか聞きました。

突然の出向打診 「仕事内容もよく分からないまま」組織委へ

東京2020オリンピック・パラリンピックでは、ヤフーがオフィシャルサポーターになったことから、組織委に人材を派遣しました。

「上司から出向の内示を受けたときは、五輪・パラに向けてヤフー社内で企画を立ち上げ、動き出した時期。まさにこれから、とYahoo!ニュースの編集として新しい企画を担当することを楽しみにしていたので、思わず『なぜ自分ですか』と上司に聞いてしまいました」

そう語る立川は、スポーツ新聞の記者、スポーツ雑誌の編集者を経て2005年にヤフーへ入社しました。FIFAワールドカップなどスポーツ大会の特集のプロデューサー(企画担当)を経て、09年からYahoo!ニュース トピックス編集部に。10年のバンクーバーから、ロンドン、ソチ、リオ、平昌(ピョンチャン)と欠かさず、トピックス編集部のメンバーとして五輪・パラのニュースの編成や特設ページとの編集連携に携わってきました。

「取材だけでなく、五輪・パラの運営に関わることは夢でした。しかも日本開催でしたので、アスリートや大会をサポートしたいと思いました。19年6月に内示を受けて、翌月の7月から出向することになりました」

日本選手の記事を多言語に 世界に届ける感動

メダリストの似顔絵と一緒に(似顔絵作:橋本憲一郎さん)

「『東京2020公式サイトの運営』といっても仕事内容は多岐にわたりました。五輪・パラを前に、選手のトレーニングやイベント開催時の様子を伝える取材・記事の執筆と記事公開、IOC(国際オリンピック委員会)やIPC(国際パラリンピック委員会)などとの企画会議にも出席し、取材する選手を提案し企画の内容を議論しました。大会期間中は公式サイトにリアルタイムで結果を伝えるライブブログが組み込まれ、各競技の日本選手の結果を速報したり、選手のSNS発信やハイライト映像を集めて掲載したりするなどしました」

立川の出向当初、東京2020公式サイトの運営チームで編集経験者は2人。五輪が近づくとライター2人と編集経験者が1人新しく加わりますが、限られたリソースでの仕事だったといいます。

また、五輪・パラならではの存在がグローバルチーム。東京2020公式サイトは、五輪は7言語(日本語、英語、中国語、韓国語、フランス語、スペイン語、ヒンディー語)で運用しておりそれぞれに編集チームがいました。例えば日本人選手を取材した日本語の記事を、翻訳会社に委託して他の言語に訳してもらい、逆に世界の選手の記事を日本語に翻訳して掲載しました。

立川(写真左)とグローバルチームのメンバー @MPC(東京五輪・パラ、国内外メディアの報道拠点)

「日本にすばらしい選手がいると世界に知ってほしくて、選手を取材した記事は積極的に英語や他言語に翻訳してもらいました。例えば、卓球の張本選手の記事もその一つです。ひとつの記事を複数の言語で世界に届けられて、『わぁ、すごい』と感動しました。日本語ローカルのサイトだとできないことですよね」

他言語の編集(ウェブ&SNS)メンバーとのチームで働くなかで、立川は「ブリッジ」という役割を担っていました。言語が異なるメンバー同士がお互いの記事や企画の意図を理解できていないときに、間に入って「こういう意味ですよ」と伝えるなど、複数言語間での意思疎通の懸け橋となるポジションです。

「1日の時間の8割を英語で話していた時期もありました。英語を使う仕事だということを出向前には全然聞いてなかったんですが(笑)。大学で英語学を専攻していたけど、話すのにはコンプレックスがあって仕事でこんなに英語を話すなんて初めてでした」

コロナ禍により、東京五輪・パラ開催は異例の1年延期となりました。緊急事態宣言などが発令されるなか、業務は完全にリモートで行われたといいます。

「リモートなら感染対策上安全なので、選手が取材を受けてくれやすい、というメリットもありました。開催が1年延期になったことで、選手も時間ができた様子だったので。ただし、開催延期になってイベント中止が増えて、企画のやり直しはありました」

パラリンピックを「スポーツの大会」として伝える

立川がグローバルチームと仕事をする上で衝撃を受けたのが、パラリンピックの報道だったといいます。日本では、パラリンピックは五輪と比較すると報道も少なくなりがちです。

「グローバルメンバーをはじめとする海外の人は、パラリンピックを五輪と同等に注目しているんですよ。競技の認知度が高いほどスポンサーがつきやすく、それにより海外では成功しているパラ選手が多くいます。それを聞いて、日本選手もそうなってほしいと、東京2020公式サイトでも積極的にパラの発信をしようと思いました。そう、編集チームにも働きかけました」

パラ競技そのものの楽しさを知ってほしいという思いから、競技にハマった理由をパラ選手に聞く企画を編集チームで立ち上げました。若い世代にもパラリンピックに興味を持ってもらえるように、同年代の若い選手を選んだといいます。

パラ柔道・永井崇匡選手の取材記事 東京2020公式サイト

「例えばパラ柔道は視覚障害のスポーツで、選手は弱視だったり、目が見えなかったりするんです。自分が取材した日本代表の永井崇匡選手は生まれたときから視覚障害があり、『柔道という競技を見たことがないので、柔道がどういうスポーツかわからないし、イメージがうまく頭に浮かばない』と言われました。『どうやって技を覚えたんですか』って聞いたら、『一つひとつ手で体を触りながら覚えた』というんです。すごいことだなと、その挑戦する姿勢に感動しました。英語などに翻訳して世界に届けたら、パラ選手本人や日本視覚障害者柔道連盟、IPCから『いい記事を書いてくれてありがとう』と言ってもらえました。今回一番うれしかったのが、『障害者』の大会としてではなくスポーツの大会として伝えることができたこと。公式サイトとして、五輪もパラも情報量に差がなく報道できました」

東京2020公式サイト運営(編集)チームで生きた「伝える力」

東京2020公式サイト運営チームで、立川はウェブページの編集、取材や執筆、複数言語間の意思疎通の役割などを担いましたが、そこで求められた技術は、Yahoo!ニュース トピックス編集部の業務で求められる技術と共通点があったといいます。

「組織委に出向した際、トピックス編集部で培った知見は生きましたよ。まず、ユーザー目線でわかりやすく伝える意識。東京2020公式サイト用に記事を執筆するときには、一般のユーザーに、選手の実績や人となり、これまでトレーニングで苦労してきたことなどがより伝わるように努めました。また、大会中には結果を速報で伝えるライブブログや、記事を作る際にはメダルを取った選手について過去に掲載した記事や選手発信のSNS、ハイライト映像の入ったリンクなど、手早く見つけて足すことができました。Yahoo!ニュース トピックス編集部でいう、『ココがポイント』を検索し探す力です」

「ココがポイント」は、Yahoo!ニュース トピックス編集の下部に置かれているパートのことです。効率的にニュースの要点がつかめるように、過去の関連記事や補足情報、現場の動画といったさまざまな情報を組み合わせてユーザーに届けています。

Yahoo!ニュース トピックスの「ココがポイント」(SP/2021年7月25日付)

リーチ力のある東京2020公式サイトでは、Yahoo!ニュース トピックスで培った「表現の工夫」も役立ったといいます。

「Yahoo!ニュース トピックス編集でもそうですが、届く範囲が広いので、記事の内容や表現が誰かを傷つけていないか常に考えていました。コロナ禍なので例えば、取材をした際、選手が『みんなで一緒に盛り上がりましょう』と呼びかけてくれたときにも、密になることを助長しないように配慮した表現にするなどしていました。選手に批判がいかないようにと」

また、リアルタイムで結果を伝えるライブブログや結果速報記事の更新には、Yahoo!ニュース トピックス編集部ならではの「アンテナの張り方」が生きたといいます。Yahoo!ニュース トピックス編集部員は、スポーツ・エンタメから国内・地域までさまざまなジャンルのニュースを同時並行でカバーします。SNS、Yahoo!リアルタイム検索、新聞社、テレビ局、他社のニュース配信サイトなどさまざまな媒体をチェックし、映像に関してはスポーツナビや公式サイトなどを確認するなど、リアルタイムで情報を得ています。

「大会期間中は同時進行で各競技がバーッと試合をしています。結果の速報に抜けがあってはいけない。チームで共有していたモニターに主要な試合を映しながら、自分のPCではブラウザーを複数表示。東京2020公式サイトのライブや結果速報ページ、NHKのライブ配信、gorin.jpを見ながら、Twitter、Instagram、Facebook、TikTokといったSNSや、Yahoo!ニュースの配信記事などさまざまな媒体を巡回してチェックしていました。『今この競技の表彰が終わって、次はこの競技の決勝が来るよ』などの状況をつかむのは早かったかもしれないですね。同僚にびっくりされて『どこからそんな情報を得ているんですか』と言われて。たしかに、複数の競技の状況を同時に把握できるのは、トピックス編集部の特殊能力なのかもしれないですね」

組織委での経験を今後どう生かすか

2021年10月にYahoo!ニュース トピックス編集部に戻ってきた立川。組織委での経験をYahoo!ニュースの業務にどう生かしていくのでしょうか。

「出向先では、いろいろな会社からの出向者や外国人など、社風もカルチャーもバラバラなメンバーと共に、いかにいいチームをつくるかという経験を積みました。そのために大切なのは、困った時に声を掛け合い、自分が相談されやすい人になろうとすること。ヤフーでもエンジニアやデザイナーなどさまざまな職種や経験の人がいますから、出向前以上に、チームで働く際に生かしていきたいですね。その際に、ヤフーのフラットな組織は良いです。自由過ぎてもダメだけど、現場が意見をきちんと言えるのは大切です。

新しい目線としては、日本にいる外国人への発信もヤフーはもっと工夫できると思います。例えば地震の時、組織委に所属していた外国人は『どのサイトで何を確認すればいいのか分からない』と不安げでした。彼らは日本語を学んでいます。Yahoo!ニュース トピックスの「ココがポイント」に『やさしい日本語』のサイトや、英語字幕のあるNHKなどのサイマル映像をリンクするなど、Yahoo!ニュースはもっと多様性に応えることができると思います」

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