Professional2020.12.17

事件や政局、災害……。Yahoo!ニュースが「読まれにくい」テーマに見出した“勝ち筋”

ニュースの社会的な重要性と注目度は、必ずしも比例するものではありません。

例えば、災害関連の情報などはまさに多くの人に知ってもらうべき内容でありながら、今ひとつアクセスが伸びづらいニュースの代表格。これらをどう伝えていくのかは、ジャーナリズムに関わる人ならば、一度は考えたことがあるでしょう。

Yahoo!ニュースでは2018年から、新聞社やテレビ局などのコンテンツパートナーと協業しながら記事を作る「共同連携企画」という取り組みを始めています。

これは、記事の切り口や構成などをYahoo!ニュースがフィードバックし、よりネットで読まれやすい記事作りを目指すもの。コンテンツパートナーの取材力に、Yahoo!ニュースが持つ“読ませる”テクニックを掛け合わせることで、重要な内容でありながら読まれにくい記事をより多くのユーザーに届けられるようになってきたそう。

共同連携企画を推進するイシューコンテンツプロジェクトに、この3年間で得た知見を伺います。

取材・文/友清 哲
編集/ノオト

紙面で読むことを前提に作られた記事を“ウェブナイズ”するには?

「Yahoo!ニュースは各コンテンツパートナーさんから記事を配信していただくプラットホームです。ただ、一方的に配信を受けるだけの立場であることは長年の課題でもありました」

そう語るのは、イシューコンテンツプロジェクトに立ち上げから関わってきたYahoo!ニュース編集部の前田明彦さんです。

新聞記者を経て、2012年ヤフーへ入社した前田さん。これまでにYahoo!ニュース トピックスの編集、「Yahoo!みんなの政治」の編集に携わってきた。

イシューコンテンツプロジェクトがスタートしたきっかけは、2017年にコンテンツパートナーの一社であるwithnews(朝日新聞)の奥山晶二郎編集長と、Yahoo!ニュースに触れてこなかった層にアプローチする取り組みについてアイデアを出す機会を設けたこと。

話し合いの中で出た案の一つが、Yahoo!ニュースとコンテンツパートナーが共同で記事を作ることでした。

「熊本地震から丸1年たったタイミングで、ヤフーの持っている検索データを活用し、Yahoo!ニュース読者により読まれやすくなるようフィードバックし、withnewsさんと記事を共同制作しました。その結果、通常のコンテンツよりも多くの人に読んでもらえる手応えを得て、翌2018年にこれが正式に社内でプロジェクト化したんです」(前田さん)

以降、今日まで提携するコンテンツパートナーを拡大しながら共同企画の制作を進め、現在までに約60のメディアがイシューコンテンツプロジェクトに参加しているのだそう。

「現在、テレビ局や新聞社といったコンテンツパートナーさん側にも、この取り組みには強い関心を寄せていただいています。伝統的なメディアの方々からは、それぞれのメディアでニュースを発信するノウハウは確立されていても、手持ちのコンテンツをウェブメディア向けにアレンジする、いわば『ウェブナイズ』するノウハウが不足しているという声がよく聞くんです。そこでYahoo!ニュースが持っている知見を生かして新たなユーザーとの接点を開拓することは、互いにメリットのある取り組みだと思っています」(前田さん)

また、Yahoo!ニュースにとっても、こうしたコンテンツパートナーとの協業には重要な意味があると話すのは、同プロジェクトの編集責任者の中原望さんです。

放送記者を経て、2016年にヤフーへ入社。一貫して、Yahoo!ニュース トピックス編集に携わり、現在はイシューコンテンツプロジェクトの編集責任者を務める。

「私たちは掲出するトピックを、公共性と社会的関心という大きく2つの軸で分類しています。事件や政局、災害を伝える公共性関連ニュースよりも、芸能やスポーツといった社会的関心の高いニュースが多く読まれるのは致し方のないことです。編集部ではこれを編成の工夫によって、芸能ニュースと一緒に事件・事故に関するニュースに目を留めてもらえるよう努力してきました。しかし例えば、災害関連の話題にしても、発災直後は高いPVを記録するものの、1週間もすると徐々に右肩下がりに落ちていく傾向が強く、大きな課題がありました」(同編集部・中原さん)

ただ、数字がついてこなくなったとしても、被災地には引き続き広く知ってもらうべきトピックがたくさんあります。そこで、Yahoo!ニュース編集部が培ってきたノウハウを生かして、読者に関心を持ってもらうための仕掛けを試行錯誤。2019年頃から、着実に見られ方にも変化が出てきたと言います。

読者の関心を惹きつける記事の作り方

では、読まれにくい記事を多くの人に届けるためには、具体的にどうすればいいのでしょうか? ポイントの一つは、記事の内容をいかに、ユーザーの”自分事”にするか、です。

「どんな災害であっても、住んでいる場所から遠く離れた地域の話題であれば、時間と共に印象が薄れてしまいます。ただ、そこで起きていることが、いつか自分の身にも降りかかるかもしれないリスクをはらんでいるとなれば、やはり人は関心を寄せるもの。例えば、13文字の見出しを付ける際にも、内容を極力一般化して、『私にも関係がある』と共感しやすい内容を見せることで、アクセスの伸びは大きく変わります」(中原さん)

そこでYahoo!ニュースでは一部の記事を掲出する際、2~3パターンの見出しをつけて同時掲出してPVを測定するABテストを実施しています。

「明らかに暗く、辛い気持ちにさせられそうな内容を匂わせた見出しをつけると、総じてPVは低調になる傾向があります。それよりも、どのような人が、どのような体験をし、そこでどのような感情が発生したのかが、端的に伝わる見出しをつけたものが、やはり共感を呼びやすいですね。その結果、背景にある災害そのものについてもより深く伝えることに繋がっています」(中原さん)

熊本県民テレビが配信した、熊本地震で子どもを失った家族の様子を伝える記事を例に見てみましょう。もともとの見出しは「『一緒に帰るよ』発見まで4カ月間、執念の捜索 諦めなかった家族」でした。

Yahoo!ニュースではこれに、次のような3パターンの13文字の見出しをつけ、読者の反応を比較しました。

これらをユーザーごとにランダムに表示させてアクセスを集計したところ、最も読まれたのは1の見出しがつけられた記事でした。反対に最も読まれなかったのは3で、実に4倍ものPVの差が生じたのだそう。

「これは見出し次第で読まれ方が大きく変わる好例でした。実際問題、我が子の遺体を4カ月に渡って捜した経験を持つ読者はほとんどいません。そのため、捜索の苦労そのものよりも、子どもに会いたい、帰ってきてほしいという親の想いにフォーカスする見出しをつけたことが、共感につながり、明白な結果を生んだのだと言えます」(中原さん)

上記はあくまで一例に過ぎません。ほかにも、関心を持つ人を限定させないよう特定の地名も見出しには入れないといったキーワードの選び方や写真の使い方、文字数のヒントなどのデータや経験則を蓄積。各コンテンツパートナーの記事に合わせて、オーダーメイトでフィードバックしています。

判断基準は「13文字でテーマが伝わるか?」

編集部がこの13文字の見出しを重視しているのは、それが記事の構成や精度とも密接につながっているからです。

「13文字で端的に言い表せない記事というのは、論点が定まっていなかったり、あるいは情報過多であったりと、読者にとって読みにくい内容であることが多いんです。Yahoo!ニュース上で読まれやすい記事の理想は要旨が13文字で率直に伝わるもの。そうでない記事の場合は、コンテンツパートナーと相談のうえ、1つの記事を2つに分けて構成し直すこともあります」(前田さん)

そうしたプロセスを経て、今年度の前期(4~9月)には計120本の共同コンテンツを配信してきました。とりわけ地方局や地方紙にとっては、Yahoo!ニュースのプラットホームを介してローカルニュースを広く発信できることは、大きなメリットでしょう。

もちろん、Yahoo!ニュースにとっても「ローカルに留まっていたニュースが、こうして多くの人に読まれること自体に価値があります」と2人は声を揃えます。

「どうすれば多くの人に読んでもらえるか、その答えは今も引き続き模索中です。それでも、これまでの取り組みの中で少しずつ見えてきたノウハウを活用し、コンテンツパートナーさんの取材力や、地方メディアの丁寧な仕事ぶりを世に伝えられるのは、プラットホームとして非常に有意義だと感じています」(中原さん)

読まれにくいテーマを多くの人に読んでもらうことは、メディアにとって究極の命題の一つ。これからも、より多くの人に重要なニュースを届けるべく、コンテンツパートナーの皆様とともに挑戦を続けていきます。

お問い合わせ先

このブログに関するお問い合わせについてはこちらへお願いいたします。