Professional2019.11.13

記事閲覧ツール「チュロス」を開発 編集者の「声」を形にするYahoo!ニュースのエンジニア

月間最多PVが150億を超えたYahoo!ニュース。その運営に携わるのは編集者だけではありません。

「Yahoo!ニュースは、有事の際にはより多くのユーザーに閲覧されます。そのため、当たり前のことですが、『落ちない』ことが求められています。その上でエンジニアとしては、障害に強いシステム設計、負荷に対する意識、有事や障害などでの素早い対応が求められています」

こう話すのは、2012年入社からYahoo!ニュースに関わるエンジニアの小林良太さんです。今回は、2019年2月にリリースされた社内専用の記事閲覧ツール「チュロス」開発エピソードを通じて、Yahoo!ニュースを支えるエンジニアたちの舞台裏に迫ります。

取材・文/友清 哲
編集/ノオト

2019年2月にリリースされた新ツール「チュロス」とは?

現在、約25人の編集者によるシフト制で運営されるYahoo!ニュース トピックス編集部。複数の編集者が交代で業務に就くなかでは、どんなニュースを選んだのか、個々のニュースの重要度をどう判断しているのかなど、編集部内での緻密なコミュニケーションが求められています。

2019年現在、1年前と比較してYahoo!ニュースに配信される記事の本数は、約1000本も増えました。そんなニュース選びを支えているのが社内ツール「チュロス」です。

「チュロス」の画面を開くと、全国およそ350のメディアから配信される記事が、「国内」「経済」「エンタメ」などのジャンルに分類され、リアルタイムで次々に表示されていくのがわかります。

「チュロス」の画面

Yahoo!ニュース トピックスの編集者はこれらの内容を精査して記事をセレクト。13文字の見出しを付け、Yahoo!ニュース トピックスとして掲載していきます。

この「チュロス」は、2019年2月下旬にリリースされました。自身も日頃からこのツールを使っているYahoo!ニュース トピックス編集部の福士優美子さんは、導入の経緯を次のように語ります。

「Yahoo!ニュース トピックス編集部では、2013年に『ポッキー』というツールを使い始めました。それ以前はニュースのセレクトはすべて手作業だったので、格段に効率が上がりましたね。『ポッキー』は現在の『チュロス』と同じく、編集部に配信されてくる記事をリアルタイムに一覧化し、編集者それぞれの業務状況を共有するツールです。現在のメンバーの多くは『ポッキー』導入をした2013年以降に入社しているので、基本的にツール上で編集業務やコミュニケーションを行っていました」

チュロスには、ほかにも細やかな工夫があります。例えば、Yahoo!ニュース トピックスとしてすでに掲出されたニュースかどうか、SNSへ投稿されたかなどの編集部内での申し送り事項も、ひと目でわかるよう工夫されています。また、ニュースの一覧表示画面で各記事の見出しにカーソルをおくだけで、記事のリード文や画像がプレビュー表示される機能を新たに実装し、小さな手間を省きました。

また、PC版のYahoo! JAPANのトップページに掲載される写真ニュースも、よりインパクトの大きな1枚をスピーディーに探せるようになりました。さらに、大きな変更点はツール内でのニュースの検索機能です。

「Yahoo!ニュース トピックス作成時、関連ニュースを探すことが頻繁にあります。ところが、『ポッキー』の検索対象は見出しのみで、細かな検索が苦手な面がありました。『チュロス』ではこの点を改善し、見出しだけでなく本文や写真のキャプションまでが検索対象となりました。また要望の多かった『or検索』や『and検索』もできるようになり、業務効率がかなり上がったと思います」(福士さん)

編集者とエンジニア、職種を超えたプロジェクトがスタート

そもそも、「チュロス」という新たなツールが必要になった理由は何だったのでしょうか?

「『ポッキー』導入から今日までに、ニュースを取り巻く状況は大きく変化しています。例えば、画像の重要度は2013年よりも格段に上がっていますし、配信記事数が増えたことで、より高度な検索機能や仕分け機能が求められるようにもなっていました。また、使い続けていくうちに、細かな不便や不満が見つかるのがツールの常で、『ポッキーをもっとこうしてほしい』、『こういう機能がほしい』など、現場から改善を望む声が多数聞かれるようになっていました」

こういったさまざまな要望が寄せられたことを受け、Yahoo!ニュースを支えるエンジニアチームに白羽の矢が立ち、2018年10月に「チュロス」開発プロジェクトのリーダーになったのが2012年入社のエンジニア、伊能由佳さんです。

「Yahoo!ニュースの中で、『チュロス』の開発にゴーサインが出た背景の1つ目は、編集者から業務効率化のための改善ニーズが多かったこと。2つ目は、ヤフー全体でシステムの背景から新しいものにフルリニューアルしていこうという動きがあったこと。そして3つ目は、より多くの方にYahoo!ニュースを読んでもらうために、特定の世代に届きやすいトピックスを作るサポート機能を盛り込みたいと考えていたからです」

そこで伊能さんは、ツールのユーザーであるYahoo!ニュース トピックス編集部に対し、綿密なヒアリングを実施しました。

「『ポッキー』を使う上で感じていた不便や新たに欲しい機能などを、徹底的にリサーチしました。その上で、一つひとつの要望の重要度を『チュロス』開発の目的に沿うかを検討し、さらに技術的な事情と照らし合わせ、できるだけ使いやすいツールの実現を目指しました」

例えば、Yahoo!ニュース トピックスへ掲出済みの記事には、「済」マークが自動で表示されるようになりました。こうした細かな仕様の改善は現場の声に基づいたものです。これによって、同じ記事を誤って2度選んでしまうといったようなミスを事前に防げるようになりました。

また、特定の世代に届きやすいトピックを作る工夫として、配信記事の一覧画面に「20代向け」のタブが新設されたことが挙げられます。

「Yahoo!ニュースを20代にもっと読んでもらうために、この層の関心が高いトピックス作成を行うべきとの意見がありました。そこで、ヤフー社内の別部署が保持するユーザーの検索データから20代がよく検索しているキーワードを抽出し、その単語が見出しに入っている記事だけをセグメントしたタブを新たに設けています」

もちろん、「20代向け」タブの情報だけを見てニュースを選ぶわけではありませんが、このタブの中に上がっている記事内容も踏まえて、ニュースを選んでいます。

どのような機能が必要なのか。なぜその機能が必要なのか。技術的にどこまで実現可能なのか。「チュロス」は、エンジニアと編集者の間で密なコミュニケーションを重ねた末の産物なのです。

さまざまな機能な詰め込みながら、違和感のないツールを実現

「今回は全社的に、最新の言語を用いたシステムに刷新しようという意向がありました。そのため、見た目には分かりませんが、『チュロス』は根本的なベースのシステムから大きく刷新されているんです」

スタートは新たな技術、言語を学ぶところから。その学習コストが必要だったと小林さんは振り返ります。では、チュロス開発のプロセスで特に気をつけたことは何だったのか。

「『ポッキー』という比較対象の存在も、僕らが終始意識していたことの一つです。急に仕様が大きく変わってしまうと、どうしても使いにくくなり、業務効率に悪影響を及ぼします。そこで、細かな機能の向上を果たしながらも、できるだけ『ポッキー』のインターフェースや使用感を守る必要があると考えていました」

また、エンジニアとしてシステム開発で心がけていることについて、小林さんは次のように語ります。

「自分が開発に携わっていても、あの時にこうしておけば良かったと思うことや何でこうなっているのだろうと疑問に感じることがあるんです。そのため、運用しやすいシステム、分かりやすいソースコードを大事にしています。また、長期運用するシステムになれば担当者が変わることはよくあるため、担当が変わっても保守運用がしやすいようにしたいですね」

使いやすく、それでいて高機能。これこそがエンジニアチームに与えられた最大のミッションであり、腕の見せ所でもあったわけです。

技術面で支える「ユーザーファースト」

今回のプロジェクトを通して、「ヤフーという会社のポテンシャルを再認識しました」と、編集者からの要望を取りまとめた福士さんは開発チームをねぎらいます。

「本来、編集者とエンジニアでは業務の領域が大きく異なるため、互いの言い分や使っている言葉に齟齬(そご)が起こりがちです。しかし、今回のツール開発では、編集サイドの要望を取り入れながら、動作が重くならないよう随所で工夫が施されました。また、20代向け記事の絞り込みで検索のデータが活用できるのも、ヤフーならではですよね。社内ではあるものの、あらためてヤフーの技術者のすごさを実感しました」

苦心のかいあり、現場における「チュロス」の評価は上々。大幅な効率化が実現したことで、編集者の働き方にプラスの影響を与えるようになりました。

「例えば、編集業務の途中、会議などで一度抜けなければならない場合があります。『ポッキー』時代は離席中の記事を、ひたすらスクロールしてさかのぼっていました。しかし、今は離席していた時間分の記事だけをピンポイントで抽出できる。細かな変更点ではありますが、明らかに業務の効率化に寄与していますし、何より重要なトピックを取りこぼしにくくなくなりました」

ユーザーファーストの視点で業務にあたる編集者と、その業務を技術面で支えるエンジニア。伝えるべき情報を的確に届けることを担うYahoo!ニュースの舞台裏では、職種を超えたさまざまな知見が交錯しています。

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