中国で急成長するニュースアプリ「今日頭条」――アクティブユーザー1億5000万人のアプリとは?
(画像:アフロ)
「あなたが興味あるニュースこそ、ヘッドライン(トピックス)である」――。中国で急成長しているニュースアプリ「今日頭条(Toutiao)」のサービスメッセージです。2016年時点でアクティブユーザーが1億5000万人、運営会社の想定時価約2.2兆円弱というこのアプリ。編集者もおらず、徹底したパーソナライズと動画を中心としたコンテンツの豊富さがウリ。動画投稿サイトやSNS機能、EC機能も兼ね備えています。一体、どんなニュースアプリなのでしょうか。
今回話を伺ったのは、ヤフー社員で中国出身の秦潔羽と周甜。ヤフーが広告事業を提携する中国インターネット検索大手「百度」推進チームのメンバーです。百度がもつ中国オンラインマーケティングでの影響力を元に、日本企業に中国で成功するマーケティングソリューションを提供する業務を行っています。
背景には中国の「インターネットプラス政策」
――「Toutiao」について知りたいです。
- 秦さん
-
前提として、中国では「インターネットプラス政策」が展開され、あらゆるものすべてがオンライン化しています。ネットがインフラ。産業も含めネットの上にすべてを乗っけていると考えてください。例えば「石油」でもエネルギーではなく、まずオンラインで何ができるかを考え、その上で石油産業をやろうと考えます。
中国のメディアも同じです。「二微一端」と言いますが、政府はメディアにToutiaoを含めたオンラインプラットフォームからの情報配信を義務付けています。中国では月に1軒は紙媒体の会社がつぶれているとも言われ、オンラインでの情報収集が常識となっています。紙媒体でもオンラインで積極的に情報発信し、いろんな出面で読めるようにするのは、メディアの影響力を最大化するために合理的なことなのです。
- 周さん
-
2015年に政府が出した統計データでは、スマホでニュースを見る人が約5.18億人。全体の8割が24歳~44歳で、ある程度学歴を持っている人がメインです。さらに、Toutiaoの場合は、「三級都市」に住むユーザーが多いと公表しています。
――三級都市とは?
- 周さん
-
中国では都市の発展度合いを等級で示しているのですが、三級都市は人口も何百万人くらいの小さな地方都市で、ある程度経済発展しています。日本人にはあまり知られてない場所ですね。一級、二級と比べあまり忙しくなく時間のある人が使っています。
(画像:アフロ)
- 周さん
-
2010年からTwitterのような機能を持つ「微博(Weibo)」がリアルタイムで情報収集するツールとして浸透し、12年からはLINEのような機能を持つ「微信(WeChat)」でフォローしたアカウントからコンテンツを受け取ることもできるようになりました。WeChatはいま中国で一番使われているアプリです。そして、14年にToutiaoが普及し始めます。文字数制限やタイムラインで流れてしまうこともなく、アルゴリズムで自分に適した情報をどんどん受けとることができる。伝統メディアやブロガー、動画とコンテンツを網羅的に受け取れるアプリとして人気です。
――どんな媒体が「Toutiao」に配信しているのですか
- 周さん
-
Toutiaoは発信を工夫しています。媒体としては9000社。また「頭条号」といわれる認証アカウントがポイントで、これはオリジナルコンテンツの源泉です。膨大なユーザーの興味・関心に対応できるよう情報発信するため、2015年には4.5万個だったアカウントが、現在39万個まで増えています。
- 周さん
-
中国では、ニュースの発信側は大きく分けて4つ。新聞やテレビのような伝統メディアと自治体などの政府機関、ポータルサイト、あとはブロガーなどのKOL(Key opinion leader)です。KOLはいわゆるユーザー自身が作るコンテンツ(自媒体)でしたが、ここに編プロなどのコンテンツ制作のプロが入り「バズる」ものを作るよう組織化、広告でもうけるのがトレンドになってます。こういう会社が今すごく増えています。
さらにどのニュースアプリでも増えているのが1~3分の「ミニ動画」。プレイ回数はToutiaoでは2015年から1年で605%増。Toutiaoユーザーの平均利用時間が「76分」と長いのもこのミニ動画が支えています。
- 周さん
-
ですので、Toutiaoでのコンテンツ制作への支援は手厚く、ミニ動画だけで年に200億円の補助をしています。動画以外にも40億円。資金面だけでなく、北京や上海などのメイン都市でのスペース提供やビッグデータの無料提供もしています。
――「頭条号」は誰でもなれるんですか?
- 周さん
-
「全員がコンテンツ制作者、全員が情報伝達者」というスローガンがあるくらいです。身分証明書の登録さえすれば誰でもなれますよ。
――こういったコンテンツ制作側への工夫が成長の要因なんですね
- 周さん
-
データの蓄積も要因の一つと言えそうです。Toutiaoは、写真アプリ、ネタアプリとステップを踏んでユーザーの「いい反響」のデータを集めてからリリースしています。あとは「今日頭条(Toutiao)」というタイトルがとてもいいんですね。
――そうなんですか?
- 周さん
-
「今日頭条」という名前は日本語にすると「今日のヘッドライン(トピックス)」で、とても分かりやすく一般名詞をサービス名にしているようなものです。そして中国人にとってとてもオフィシャル感がある響き。これはとてもうまいです。
パーソナライズの謎とは
――Toutiaoのトップ画面の構成は
- 秦さん
-
固定枠が1枠あり、ほかはすべてパーソナライズされたコンテンツです。固定枠は基本的には政府の情報ですね。最近でしたら、中国共産党大会を報じたものがずっと表示されていました。伝統メディアの記事が多い印象です。
Toutiaoのトップ画面、トップは固定枠
――パーソナライズされる記事はどんなものが多いですか
- 秦さん
-
私は芸能人のゴシップネタをよく読むので、それが上に来ることが多いです。「この芸能人の17番目の彼氏」とかね(笑)。思わず読んでしまいたいものばかりです。フォロー機能はありますが、フォローしなくてもアルゴリズムでユーザーは自分の好きそうな記事に出会えるので、閲覧記事はすごく多いです。作り手がある程度読まれるように工夫しているようです。
- 周さん
-
ユーザーがアプリを起動してから閉じるまでの行動を細かく収集し、5秒でユーザーの興味を算出、行動によって中身をすぐ変えています。この人は朝に政治のニュースを見て、夜は動物の動画を見ているというのも考えているようですね。Push通知も工夫していて、一級都市は忙しいユーザーが多く寝る時間が遅いため、二級都市のユーザーとPushの時間を変えていたりもします。
周さんと秦さんの資料より。記事のフィードバックが細かく選択できる
――Push通知ではどんな記事が来ますか?
- 秦さん
-
今まで受け取ったのは固定枠にあるようなちゃんとしたニュースですね。国にまつわるニュースが多いと思います。安倍政権やトランプ政権の話もよく来ます。もしかしたら私がよく海外ニュースを見ているからかも。
――アルゴリズムの精度は
- 周さん
-
使っていても感じますが、そこまで高くないと思います。データも膨大ですし、初級段階では。ただヒットしそうなニュースというのは見出しをとても工夫していますね。日本よりも長く「釣り見出し」も多いです。「これは見ないと損です」と書いてあるものもあります。
――動画はどんな内容のものが?
- 秦さん
-
えげつないものも多いですね(笑)。YouTuberみたいな人もたくさんいます。前に流行したのが電気ドリルにトウモロコシを刺して食べる動画。真似する人もたくさんいました。
- 周さん
-
私はペット動画をよく見ます。あとはゲーム実況のライブ配信を短くまとめた動画も。ゲーム実況は人気で専用のプラットフォームもあるくらいです。ライブ配信では行き過ぎる内容もあって、規制が厳しくなり登録制になりました。テキストは機械で審査するのですが、動画は人が審査しているそうです。
――AIの書く記事は読みますか?
- 秦さん
-
スポーツの結果ばかりで、あまり読んでいる人はいないと思いますねぇ。CCTVの公式アカウントは125万ほどフォロワーがいますが、AI記者のアカウントは2000くらい。中国は取材から記事の作成、編集するには許可証が必要で、AIであらゆる情報を記事化するのは現実的でないと思います。
進化を続ける「ニュースアプリ」
――メインユーザーに20代後半の男性が多いというのはなぜ?
- 秦さん
-
そもそも中国のオンラインユーザーは2~30代がメインなので、特に若いとは感じないです。あとは中国の人口は男性の方が多いんです。
iResearchより引用、9月のToutiaoユーザーの性別比と年齢比
――お話を聞いていると、ユーザーはすごく情報を欲しているんですね
- 秦さん&周さん
-
情報はほしいですね。
- 秦さん
-
あとは暇つぶしですね。いまなにが流行しているのとか。ベースのニーズは日本と似ている気がしています。
- 周さん
-
今はWeChatが一番利用されてはいますが、24時間ずっとやるわけではないので余った時間にいろんなアプリでおもしろい情報を探していると思います。やっぱり暇つぶしですね。
――もはや「ニュースアプリ」の範疇を超えているような…
- 秦さん
-
ヘッドラインといえるほど全部がヘッドラインはないですしね(笑)。動画投稿サイトのような機能もあり、SNSの機能もあり、EC機能もあり。最近では、フィンテック人材も募集しているので、決済アプリに手を出すのでは?という噂もあります。
- 周さん
-
Toutiaoは次は別の機能でまた大きくブームになるという予感がしています。
お問い合わせ先
このブログに関するお問い合わせについてはこちらへお願いいたします。