掲示板の累計利用者50万人 ラジオ番組「SCHOOL OF LOCK!」は、なぜ中高生に響くのか?
2005年10月にスタートして以来、実に14年もの長きにわたって10代リスナーの熱い支持を受け続けているラジオ番組「SCHOOL OF LOCK!」。若者のラジオ離れがけん伝される中、なぜこの番組は中高生のファンを増やし続けられるのでしょうか?
そこには一貫したコンセプトはもちろん、ラジオだけでなくネット上の掲示板など、さまざまなアプローチをする仕掛けがありました。番組開始当初から企画制作に携わってきた、TOKYO FMの編成制作局長・森田太さんに話を聞きました。
取材・文/友清 哲
編集/ノオト
「ラジオ離れ」の原因は、10代に向けた番組がなかったこと
――まずは番組が始まった経緯から教えてください。10代を対象とした番組を作るきっかけは何だったのでしょうか?
TOKYO FM執行役員編成制作局長 兼 グランドロック代表取締役社長・森田太さん
2000年以降、ラジオ業界では10代向けの番組がどんどん減っていました。かねて言われていた「若者のラジオ離れ」が顕在化し、昔のように中高生がラジオを楽しむ時代ではなくなっていたからです。
しかし入社以来、キャリアの大半を深夜番組に費やしてきた僕としては、22時以降の時間帯に寄せられるメッセージに、10代のリスナーからの声が多く含まれていると知っていました。つまり、深夜帯はまだまだ10代とシンクロしている時間帯で、彼らがラジオから離れていったのではなく、彼らが聴く番組がないのが問題だと、肌身で感じていたわけです。
いつの時代も、中高生の頃にラジオで聴いた音楽は、その後もずっと記憶に残り続けるものです。AM局と違って、僕たちFM局は放送の7割が音楽で構成される放送局です。なので、そこに心や思いをのせて発信すれば、今の10代にもきっと響くはずだと考えたわけです。
現在、番組に携わるスタッフは、もともとは生徒(リスナー)だったケースもあるという
――当時、10代に向けた番組をつくることに、局内で反対の声はなかったのでしょうか?
それはもちろんありました。もう、最初はほとんどの方が賛同してくれなかったですよ。おまけに、メインMCのキャスティングも山崎樹範くんとマンボウやしろくんという、当時はあまり知られていない2人でしたから、なおさらですね。
それでも、賛同してくれた上司の方々がいて、どうにか番組を始めることができました。不安がなかったわけではありませんが、スタートから3カ月で同時間在京ラジオ局の中で聴取率が1位になるなど、大きな反響をいただくことができて、次第に局内でも番組の存在が認められていきました。
――そんな「SCHOOL OF LOCK!」は、文字通り学校の授業を模した構成が特徴的です。
ご存じの方も多いと思いますが、タイトルの元ネタは「スクール・オブ・ロック」というアメリカ映画です。ロックを愛する破天荒なミュージシャンが学校の先生に転身したいきさつを描いた作品で、僕はこの映画が大好きなんです。あの笑いあり涙ありの雰囲気をラジオ番組で再現できないかというのが最初の着想でした。
それに音楽は、ときに立派な教科書でもあって、僕自身も大切なことはたいてい音楽から学んだと実感しています。愛も勇気も平和も、ボブ・マーリーやジョン・レノンをはじめ、世界中のミュージシャンが歌ってきたことですからね。この要素は、10代向けの番組を作るなら、学校のイメージで作ろうと思った理由の一つですね。
――10代向けの番組と考えた時、具体的にはどのようなリスナー像をイメージされましたか。
ひとくちに10代といっても、100人いれば100通りの若者がいます。これほど趣味や嗜好(しこう)、価値観もばらばらな層をひとまとめにするのは、まず不可能だと思っていました。勉強好きな賢い子もいればやんちゃな子もいるし、ファッションに興味のある子、オタクタイプの子、音楽やスポーツに熱中している子など、本当にいろんな人間がいますからね。
でも、そういう10代が問答無用で1カ所に集められている場所を想像の中で探したら、「あ、教室があった」と。まずネットの中に「教室」を作って話し合いの場を設定すれば、みんなが話している内容を元に番組が作れます。逆に、番組がきっかけで現実の教室で話が盛り上がることだってあるだろうと思いましたね。
――10代に向けたプロモーションなどはどのように行われたのでしょうか。
それが、まだSNSもスマホもなかった時代ですし、特別なことは何もできていないんですよ。
ただ、それまでのキャリアで関係値があった若いアーティストたちに片っ端から協力してもらっていて、彼らがそのタイミング以降、次々に大勢のファンを抱える超人気者になって行ったことは番組の認知を高めていくのに大きく影響したと思います。
RIP SLYME、BUMP OF CHICKEN、ASIAN KUNG-FU GENERATIONなどなど、今では誰もが知るビッグアーティストになったメンバーが番組の中で授業(レギュラーコーナー)を担当してくれましたから。
掲示板から生まれる、番組とネットとリアルの接点
――番組だけでなく、インターネット上の掲示板が、リスナーたちのコミュニティーとして活用されています。常時、多くの投稿で盛り上がっていますが、これはどのような戦略に基づいているのでしょうか。
当初から、掲示板の利用登録者数が時には1日1000人を超えるなど、大きな反響があったという。現在の累計登録者数は50万人
「放送がない時間帯でも、みんなが自由に話せる教室をインターネット上に作ろう」と番組開始当初より設置したものです。そこで24時間いろんな話題が飛び交う中で、番組の開始時刻になるとガラッと教室の扉が開いて、「今の話、面白いじゃん。もっと聞かせてよ」と先生が入ってくる。そんな仕組みを作りかったんです。
ときには掲示板上でリスナー同士で感情をぶつけあったり、あるいはヘコんでいるヤツが励まされていたり、いろんなコミュニケーションが生まれます。放送中、その当事者たちに電話出演してもらうこともあるんですが、それがリスナーのみんなからすると、ネット上とリアルの生々しい接点にもなりえます。
ネットの掲示板では雄弁に語っていた子が、電話では妙にもじもじしていたりするのも含めて、言葉を書いた人はネットの向こうでは現実に生きていて、ちゃんとドキドキしたり、顔が赤くなったり、鼓動が鳴る、というようなリアルな感覚や感情が生まれるわけです。
――なかには切実な悩みが書き込まれることもあるとか。
そうですね。もし深刻な書き込みがあったら、番組収録とは無関係に、スタッフが本人に電話をして、相談に乗ることもあります。なぜなら、この掲示板に送られたのが、本人にとっては精一杯のSOSかもしれないですからね。
例えば、今年の2月には、「この世界から虐待をなくしたい」というテーマで放送を行いました。
掲示板の投稿をきっかけにした生放送の様子は、放送後記としてまとめられ、あとから読み直すことができる
リスナーの中には深刻な虐待被害に遭っている子もいて、誰にも言えずに苦しみを抱え続けているケースもあります。そこで、虐待をなくすためにどうすべきかを皆で考えようという趣旨のもと生放送をしました。もし本人が声をあげることができなくても、放送後は番組公式のYouTubeチャンネルにアップした動画で児童相談所の連絡先を紹介するなど、前へ進むきっかけにしてほしい、と。
虐待にしてもいじめにしても、塀を乗り越えて他人の家や学校に踏み込んでいくのは、なかなか難しい。でも、ラジオは、そうした壁を飛び越えて、耳から入って心の中に滑り込めるメディアです。こうして若い世代と番組作りをさせてもらっている以上、彼らが発信するSOSについてはラジオとしてできるかぎりのケアをするのが使命だと考えています。
番組を盛り上げ続ける秘けつは「40分の5の法則」
――ところで、番組名はロック音楽の「ROCK」ではなく、鍵で開ける錠前を意味する「LOCK」になっています。これにはどのような思いが込められているのでしょうか。
その意味に込めた思いや真意はいくつもあり、何時間もかかってしまいそうなので、ここでは、その内のひとつについて言及します。例えば、多くの10代は心に何かしらの壁があります。人付き合いや挫折なんかで簡単にその壁は固くなり、なかなか外へ出て来ようとしなくなるし、言いたいことを言えずにいます。
でも、その壁は、実は「壁」じゃなく、よく見たら「扉」で、ちゃんと「鍵穴」がついている。だから、その扉を開ける「鍵」さえあれば、その「鍵」を一緒に見つけて、手の中に握っていてくれさえすれば、いつか扉が開いて未来につながるはず。
「未来の鍵を握るラジオの中の学校」という番組コンセプトも、そんな思いから生まれたものです。
――そんな中高生は、3年経てば中学生が高校生になり、高校生が大学生や社会人に成長します。定期的にリスナーが入れ替わることは、番組作りにどのような影響を及ぼしていますか?
番組のリスナーの顔ぶれが入れ替わったとしても、甲子園が毎年続いているのと同じで、番組自体に大きな変化はありません。それはおそらく、僕らがリスナー層を青春群像として捉えているからでしょう。細かな文化やツールは変わっても、青春時代の感情や感動は、100年前も100年後も変わらない。これを中核に置いているので、何年たっても番組コンセプトが色あせることはないと感じています。
もっとも、番組が始まった当初は、ぶっちゃけますと「今の中学1年生が高校を卒業する、6年間だけ続けて、あとはMCの交代もあり番組をやめよう」と考えていたんです。ところがいざ6年目になると、他のスタッフたちから、「この番組はもう局のものではなく、リスナーたちのものですから」と言われて翻意した経緯があります。つまりはそのくらい、この番組がリスナーにとって大切な場になれたのだなと、うれしく思いましたね。
――今後の番組作りにおいて、目指すものは何でしょうか。
感情や思いは、移動するときに最も大きなエネルギーが生まれます。例えば「この曲、知ってる? めちゃくちゃ良かったよ!」と人に勧めるとき、そこには大きな熱量を伴います。そうやってずっと移動し続けられる番組でありたいし、そうでなければ若者向けのコンテンツは長持ちしない。流行り言葉にしても、ギャグにしても、全員が認知した瞬間から、あっという間に忘れられてしまうものですから。
そこで、僕がよく言うのは、「クラスの40人のうち、5人が知ってるくらいがちょうどいい」。40人全員が知ってしまうと、もう情報は移動しません。でも、クラスで5人くらいが知っていることって、じわじわと波及していくんですよ。ラジオはそういう40分の5を生み出しやすいメディアだと僕は思っています。このさじ加減は、今後も大切に守っていきたいですね。
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