Media Watch2018.08.01

今だからこそ、ニュースを流れで読む価値がある――新聞ダイジェスト復活の舞台裏

大手6紙の記事を集約し、1カ月のニュースを追う雑誌「新聞ダイジェスト」。世の中の動きの理解しやすさに定評があり、メディア関係者や就活中の学生など、多くのファンに愛されていましたが、2017年5月号をもって惜しまれながら休刊。ところがそんな同誌が、8カ月のブランクを経て、今年の1月(2018年2月号)に復刊しました。
休刊、そして復刊の舞台裏にはどのような事情があったのでしょうか――。ネットニュース全盛のこの時代だからこその同誌の使命について、株式会社新聞ダイジェスト社の中本正幸社長に話を聞きました。

取材・文/友清 哲
編集/ノオト

休刊の原因はスタッフの高齢化と人手不足

2010年、株式会社新聞ダイジェスト社代表取締役社長に就任した中本さん

――1967年から半世紀にわたって刊行されてきた「新聞ダイジェスト」の休刊は、メディア業界の中で話題となりました。まずは休刊に至った理由から教えてください。

一番の理由は、編集に携わるスタッフの高齢化と、それに伴う人手不足でした。「新聞ダイジェスト」の現場は、特殊な編集業務を要するため、なかなか後継のスタッフを育てるのが難しい。そこで、体制を根本から見直す時期に来ているのではないかと考え、いったん休刊することに決めました。その時点では、具体的に復刊の見通しが立っていたわけではないのですが、できれば1年以内に体制を立て直して戻ってきたいと考えていました。

――特殊な編集業務というのは、具体的にはどのようなものでしょうか。

「新聞ダイジェスト」は朝日・毎日・読売・日経・産経・東京の計6社の新聞社と契約を結び、1記事単位で二次使用料をお支払いする仕組みを採っています。この際、各社それぞれの記事単価が異なりますが、ニュースの内容を第一に、全体の予算やコストパフォーマンスも見ながら記事をセレクトする必要があります。

また、記事はデータではなく、すべて紙面で提供されます。そのため手作業で記事を切り抜いてスキャンし、配置しています。セレクトした記事は、見出し部分のみ書体をそろえて打ち直したり、少し縮小したりしながら、「新聞ダイジェスト」のB5判の誌面にうまく収めなければなりません。非常にアナログな作業ではありますが、記事を選ぶ基準をはじめ、独特のコツを要する編集なんです。

――休刊、そして復刊に至るまでの8カ月、編集部ではどのような動きがあったのでしょうか。

休刊が決まってからはまず、定期購読をいただいていた読者の皆さんへの返金作業を行いました。そして、それと並行して各新聞社への事情説明とご挨拶まわりを。その後、それまで増刊号の制作を担当していたスタッフの方などに声をかけ、復刊に向けた具体的な体制づくりを進めていきました。

ありがたいことに、休刊を告知してから、長年の定期購読者の方などから激励のお言葉を多数いただきましたし、復刊が決まってからもまた、喜びのお電話をたくさんいただきました。長い「新聞ダイジェスト」の歴史が、確固たるファンの方に支えられてこそのものだと、あらためて実感しています。

この時代に「新聞ダイジェスト」が果たすべき役割とは?

月刊誌の「新聞ダイジェスト」はスタッフ3人が制作にあたっている

――休刊前と復刊後では、編集部の体制や誌面づくりの方針などに変化はありますか。

休刊前も今も、実際の制作に携わる編集部員は3人です。この人数を確保できるめどが立ったところで、復刊に向けて動き始めました。

今はただ事実の経過を追うだけならインターネットのほうが早い。だからこそ誌面づくりでは、よりニュースの背景や事情を深掘りできる構成を意識しています。例えば森友・加計問題にしても、これほど長期間にわたって世間をにぎわせている話題を一から知ろうとする場合、ネット記事だけでは時系列を追いにくい。そこで「新聞ダイジェスト」のバックナンバーを数冊チェックすれば、新聞の記事展開を見ることで、時間軸に沿ってニュースを追うことができます。

――なるほど。今この時代だからこそ、紙ならではの特性が生きる面もある、と。

そうですね。基本的には、後から振り返った場合の資料としての使いやすさを重視しています。そのため、復刊にあたっては特集ページのボリュームを以前より大幅にアップさせているんです。例えば「平昌五輪」(4月号)や「日米首脳会談」(6月号)など、各紙で大きく取り扱われた話題は、ただダイジェストで振り返るのではなく、周辺の知識や背景まで押さえられるように、特集づくりでは意識しています。

――毎日、さまざまなニュースが流れる中、「新聞ダイジェスト」誌面に転載するニュースのセレクト基準は何でしょうか。

純粋に、読者の方にとって発見や学びがありそうな話題を優先しています。誌面は計176ページ、そのうち新聞記事の掲載が150ページ程度。つまり単純計算で、6紙の記事を毎日平均5ページでまとめなければならず、大半の記事は泣く泣く落とさざるを得ないわけです。その中で、よりバリューのあるニュースの骨格と背景が理解できるような構成を考えて記事をセレクトしています。

――現在の発行部数や、主な読者層は?

発行部数は7000部で、主な流通は書店、一部が定期購読になります。読者層は、われわれも就活生がメインと想像していたのですが、実際には昇格試験を控えたビジネスパーソンの方も大勢いらっしゃいます。また、定期購読されている層は、どちらかというとリタイア後のシニアの方が多いようですね。

新聞社提供の紙面を切り抜き、それを誌面のレイアウトに合わせて切り抜き、スキャンして誌面づくりを進める

新聞の読める大人を育てる一助にも

――待望の復刊がかなった「新聞ダイジェスト」ですが、今後の展開については、どのようなプランをお持ちでしょうか。

これは休刊前からの動きなのですが、全国の高校で定期購読いただけるケースが増えています。復刊後もこちらから積極的に営業をかけることで、さらに契約校は増加中です。授業の一環で、こうした新聞記事を活用いただくのは非常に有意義であると思いますし、高校時代から新聞を読む習慣をつけることは、将来にきっと役に立つはず。民法改正で成人年齢が18歳に引き下がりますし、さらに選挙権も与えられた現在はなおさらです。学校現場への浸透は、これからも力を入れていきたいですね。

――この先、新たに考えている企画などはありますか。

例えば、記事として掲載されたものだけでなく、ある特定のテーマに沿って各新聞社に寄稿をお願いして、それぞれの考え方や主張の違いが浮き彫りになるようなコーナーが作りたい、という構想はあります。もちろん、各社の同意がなければ成立しませんし、テーマややり方については熟考しなければなりませんが、実現すれば新聞ごとにカラーが異なることを、若い読者の方にも実感してもらう機会になるのではないかとイメージしています。

――これからメディアのデジタル化はいっそう進むと思いますが、今後、「新聞ダイジェスト」自体のウェブ対応などはあり得ますか。

媒体そのもののウェブ化というよりも、読者の方が「新聞ダイジェスト」をきっかけに興味を持ったニュースに対し、もっと深い記事が読めるよう、各社のデジタルサイトにリンクを張るようなかたちであれば、将来的にはぜひ考えていきたいですね。

――最後に、これからの時代に「新聞ダイジェスト」が果たしていくべき役割について、メッセージをお願いします。

こうしたデジタル化の波の中で、古き良き紙文化を後世に伝えていきたいという思いが第一にあります。バックナンバーを何冊かまとめてぱらぱらとページをめくったり、特集タイトルを追ったりしていくだけでも、ここ数カ月の社会の動きが自然に理解できるのは、やはり紙媒体ならではのメリットです。デジタル世代の若い方にも、もっと読んでいただけるように努力をして、新聞の読める大人を育てる一助になれば幸いです。

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