Media Watch2017.09.08

小学校卒業まで手作り新聞を200号 「金岡新聞」の少年記者はいま

小学生の頃、夏休みの宿題や自由研究として、壁新聞を作った経験がある人も多いはず。自分で取材したニュースを、手書きの「金岡新聞」と題して小学2年から6年まで、通算200号にわたって発行し続けてきたのが、和歌山県在住の金岡陸さんです。小学5年時には毎日新聞朝刊(大阪本社版)で「金岡新聞 毎日版」もスタート。こちらは4年2カ月間で88号まで連載を続け、今年3月にフィナーレを迎えました。
4月、高校生になった金岡さんはこれまでニュースとどう触れ合ってきたのか。また、世の中のニュースをどう読み解いているのか、伺いました。

取材・文/万谷絵美
編集/ノオト

中学生になって気付いた新聞社それぞれの「個性」

――手書きの「金岡新聞」は2014年3月の小学校卒業まで発行。最初はどのように始まったのですか。

作り始めたのは小学2年の冬、2010年1月です。自分で気になったことを調べたり、ご近所さんにお話を聞きに行ったりして記事を書き、自宅で取っていた新聞を真似て作り始めました。紙に鉛筆で書いた原本を作り、そのコピーを10~15部くらい近所に配るところから始まりました。

そうしているうちに自分を取材してもらえたり、和歌山のメディアで新聞を紹介してもらえたりして、新聞発行から3年後の小学5年のときに、毎日新聞での連載もスタートしました。こちらの連載は高校入学のタイミングで、受験勉強など将来へ向けての準備も始めるので終えることにしました。とても楽しく、貴重な体験をさせていただいたと思っています。

――新聞を作ろうと思ったのは、小学2年当時からよく読んでいたからですか。

いえ、本を読むのは小さい頃から好きでしたが、新聞をきちんと読み始めたのは中学生になってからですね。手書きの新聞を書き始めたのは、小学校の友だちが折り紙に「ニュース」と書いて配っていたのを見て、僕もやりたいと思ったのがきっかけでした。

実は、「金岡新聞」を作り始めた当初は、ニュースにそれほど興味がなくて(笑)。テレビでちょっと見るくらいでした。世の中のニュースを意識し始めたのは小学校高学年になってからで、当時は「怖い事件があったんだな」という感想を持つくらいでした。

中学校の図書室には全国紙がそろっていたので、同じニュースを報じている記事を読み比べられたんです。そのおかげで、同じニュースでも新聞によって意見や書き方が違うのがわかるようになってきました。

――新聞の読み比べを始めたきっかけは?

近所のおじさんが「この新聞がいいぞ」と薦めてくれたものと、父が読んでいる新聞が違ったんですよね。それで、その2つの新聞を読み比べたり、それぞれの新聞に書いてある意見について調べたりしたのがきっかけです。そこから、一紙だけでなく、いくつかの新聞を読むようになりました。「こんな意見もある」と知ることができるのは、とても勉強になります。

好きなことを取材しながらも、常に「真ん中」を意識

――新聞を作り続けることで、うれしかったことや良かったことは?

気になる方々に直接お会いして話を聞けたのは、かけがえのない経験ですね。天体に興味があったので、特にお会いした中でうれしかったのは、小惑星探査機「はやぶさ」プロジェクトを率いた川口淳一郎先生(JAXAシニアフェロー)です。それから、毎日新聞の連載が決まってから新聞社を訪問したのですが、実際に記事を作っているような普通は見学できない場所に入れたことも、良い経験でした。

――発行当初は手書きで周囲の人たちが読者でしたが、毎日新聞の連載になってから読者がかなり増えましたよね。それに伴って、金岡新聞の内容は変わりましたか。

毎日新聞の連載は「締め切りさえ守ってくれたらいいよ」ということで、内容はすべて僕自身が自由に決めていました。なので、読者が増えても、近所の人たちに配っていた頃と気持ちは変わりませんでしたね。大変だとかしんどいと思ったこともありません。

当時作った手書きの「金岡新聞」の一部。終刊となった200号(画像左)までに、紙面の内容やデザインが作り込まれていくのがうかがえる

ただ、どんなふうに言葉にするか、悩むことはありました。取材相手が強調したり何度も繰り返したりした内容は「大切なポイントなんだな」と考えて、それをしっかり読者へ伝えるよう心がけるとか。あと、特に新聞連載になってからは、子どもから大人まで幅広い世代の方に読んでいただけるようになったので、できるだけいろいろな人に共感してもらえる内容を意識しました。

そして、最も気を付けていたのは、自分が書く内容や意見が偏らないようにすること。仏教で「中道を行く」という言葉があるように、僕も記事を書くときは「真ん中を行こう」と意識していましたね。

――「真ん中」を保つためにどんなことをしていましたか。

極端な意見を見つけたときには、必ず逆の意見がないかも調べるようにしています。たとえば、薬や化粧品の成分などは、ネット上に「発がん性がある」とか、いろいろと激しい意見が書かれていますよね。そういう「◯◯危険」のような情報があったら、「◯◯安全」というキーワードで調べるようにしています。

このやり方は、以前に読んだ本に書かれていた「極端な内容を見つけたら、逆の言葉でも調べてみると本当のことがわかる」という言葉にすごく納得してから、自分でも実践し始めたんです。対立する意見のどちらが正しいのか、実際のところは僕にはわかりませんが、どっちの意見もあると知ることで、“真ん中”が見えてくるのが大切だと思っています。

――読者からの反響はどうでしたか。

ありがたいことに、発行している間ずっと、とてもいい評価をいただいていました。反応が気になって何度かTwitterでエゴサーチしたこともありますが、ネガティブな意見を見つけたことはありません。……今のところは(笑)。

欲しい情報に合わせ、情報源を使い分け

――最近は、どんなニュースが気になっていますか。

政治や経済、IT、テクノロジーのニュースをよく見ています。政治経済については新聞から情報を得るようにしています。事実だけでなく、社説にそれぞれの意見がしっかり書かれているので、そういうニュースへの理解が深めやすいですね。

最近、新聞の読み比べをしていて興味深かったのは「共謀罪」についてですね。解説などもしっかり載っていたし、新聞社によって意見が分かれていたので、関連記事はよく読み比べていました。一方で、テクノロジーや事件など速報性があるものは、インターネットでチェックすることが多いです。

ニュースとは違いますが、趣味や興味を持っているものが多いので、そういった情報収集の面でもネットやTwitterの検索は欠かせませんね。たとえば、サーカス団のアカウントをフォローして新しい公演情報をすぐキャッチできるようにしたり、掃除機のメーカーの「ダイソン」やロボット掃除機の「ルンバ」が好きでその新製品情報を見たり。あと、少し前に制汗剤を自分で作ってみたいなと思って、原材料や作り方を調べていました(笑)

――ニュースで得た情報や知識が、学校の勉強に役立つことはありましたか。

直接的に「役に立った!」と思ったことはまだありませんが、昨年から始まった公民の授業に、これまで新聞やネットなどで目にしていた政治や経済の内容がたくさん出てくるので、新聞を読んでいて良かったなと感じています。

――ニュースアプリも使いますか。

よく使います。「SmartNews(スマートニュース)」と「Yahoo!ニュース」の2つのアプリをスマホに入れていて、主に使っているのは、スマートニュースですね。シンプルで、記事の並び順が僕の読みたいものと一致しているので、読みやすいんです。Yahoo!ニュースのアプリは地域のカテゴリーで、和歌山のニュースをチェックしています。僕は和歌山が大好きなので、地域の話題がまとめて一気に読めて楽しいです。

――ジャンルに応じて使い分けているんですね。金岡さんはデジタルネイティブ世代ですが、高校の友だちもニュースアプリは使っていますか。

そうですね。自宅で新聞を取っていない人もいるので、ニュースはテレビかアプリで見ているみたいです。女子は「LINEニュース」を使っている人が多いような気がします。男子は、僕がすごく薦めていることもあって(笑)、スマートニュース派が多いです。

――いろいろなニュースアプリがありますが、ネットでまとめサイトは見ますか。

基本的に情報源としては使っていません。僕はまず、公式発信の情報や記事を読むようにしています。SNSから最新ニュースや情報を入手することもありますが、やはりSNSでも情報源としてフォローしているのは、公式アカウントですね。広く世の中の意見が知りたいときは「2ちゃんねる」や個人ブログを見ることもありますが、できるだけ公式の情報に触れるようにしたいな、と。

友だちと話していて、時々「あの芸能人って、実は◯◯なんやで!」といった話題が出るんですが、「それはどこに書いてあったん?」と聞くと、「なんかネットのどこかで見たんやけどな~」ということがあります。友人たちは情報源が曖昧というか、どこからの情報かをあまり気にしていないのかもしれません。

――情報源にこだわる姿勢は、「金岡新聞」を手がけたからこそ身についたのでしょうね。最後に、もし金岡さんがこれからニュースに携わるとしたら、どんなことがしたいですか。

報道番組や新聞は地味で難しいものと思われがちですが、もっと見ごたえのある伝え方ができると思うんです。

たとえば、ニュース番組であれば、同じような考え方を持つコメンテーターや専門家の方々を番組内にそろえるのではなく、あえていろいろな意見を持った人をたくさん集めて、もっとぶつけ合わせていけばいいのではないかな、と。議論が白熱すれば、見ている人がおもしろいと感じるはずですし、「自分はどうかな?」と考えるきっかけにもなって、報道されている内容が身近になるのではないでしょうか。

それから、読んだ人が笑顔になるようにニュースを伝えていきたいです。これは、東日本大震災の記事を書いたときに意識し始めたことです。たとえつらいニュースでも、その記事の中で読んだ人を元気づけられる「がんばれ」「あきらめないで」というメッセージを、一番に伝えられたらいいなと思います。

「将来は、新聞記者のほかにもなりたい職業がたくさんある」という金岡さん。チェックしているニュースのジャンルも多岐に渡っていました。趣味や好きなものが多い背景は、自身の好奇心を大切に、さまざまな事柄を探求してきた経験があるからこそだと感じました。今後はいったいどんなことにチャレンジしていくのでしょうか? 金岡さんの今後の活躍が楽しみです。

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