「ロシアのウクライナ侵攻」報道に対応、Yahoo!ニュースの組織横断チーム「ウクライナ編集部」の現場
いまだに続いている、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻。Yahoo!ニュースでは、ロシアの軍事侵攻が本格化した2月後半にウクライナ情勢の最新情報を伝える特設ページを開設。特設ページにはこれまで8000万PVを超えるアクセスがありました。
ロシアのウクライナ侵攻に関する特設ページ(8月2日時点)
その後、Yahoo!ニュースに関わるさまざまな部署のメンバーを集めた組織横断の「ウクライナ編集部」を立ち上げ、刻々と変わる戦況をより分かりやすく伝えるべく工夫を重ねてきました。
当初3人の編集メンバーで始まったウクライナ編集部は、メンバーを入れ替えながら活動を続けていましたが、5月頃に編集部はいったん「解散」し、おのおのが通常業務の中でウクライナ侵攻の報道対応に関わっています。
そもそも、なぜヤフーは特設ページまで立ち上げてウクライナ情勢を伝えようとしたのでしょうか。ヤフーではこれまでも地震や大雨など災害が起きた時などに特設ページを開設し、ユーザーにとって必要な情報を届ける工夫をしてきました。これまでの知見をどう生かしたのか、また、今回の反省や学びはどこにあったのでしょうか。ウクライナ編集部の初期メンバーである編集の安藤智彦、出村真也、土橋和佳と、編集部全体を統括した西勇哉に聞きました。
「Yahoo!ニュースを見れば、自分の知りたい情報がある」と思ってもらいたい
今回のウクライナ侵攻報道対応に限らず、Yahoo!ニュースでは普段からより多くのユーザーの関心に応えられるような情報提供を心がけています。
Yahoo!ニュースの役割について、西はこう説明します。
「災害や大きな事件などが起きた時に、Yahoo!ニュースやYahoo! JAPANのトップページを見れば何らかの情報があるだろう、自分の知りたいという欲求に応えてくれるだろうと、ユーザーに思っていただきたい。それがユーザーに提供したい価値です。これらのサービスの役割の一つは、多くのユーザーが関心を持つ事象について、ちゃんとその答えを用意しておくことだと思っています」
その目的を実現する手段の一つとして、特設ページを活用しています。西は、特設ページを通して「多くの人が関心を持つ事象について、より深く知ることができ、より情報がまとまっていて、そのページだけできちんと情報が収集できる、そういう世界を作りたい」と言います。例えば台風や大雨などで災害が起きた時も特設ページを立ち上げ、今後の天気の見通しや土砂災害の状況などを網羅し、ユーザーに届けます。
ウクライナ侵攻のように、突発的かつ国際的な事象についての対応は前例がありませんでした。そこで、海外の一次情報をニュースとして配信する媒体がいくつあるかを確認し、その中でウクライナ情勢について信頼性が高い情報を配信してくれる媒体を精査していきました。また、ウクライナ情勢に関する基礎的な情報分析を進め、特設ページを開設する場合はどのような情報が必要になるかを確認しながら、事前の準備を進めていきました。
侵攻の長期化を受けて 「ウクライナ編集部」発足と特設ページの進化
2月24日、ロシアのプーチン大統領がウクライナ東部での「特別な軍事作戦」の実施を発表。首都キーウなどへのミサイル攻撃や空爆が始まりました。「Xデーに向けて準備はしていましたが、それが本当に来てしまった」と、西は当時を振り返ります。
そうした状況で活用されたのが、Yahoo!ニュース動画内にあるBBC(英国放送協会)チャンネルの「ブレイキングニュース」です。ブレイキングニュースは、有事に対応するために予定していたスケジュールを変更して伝える映像ニュースで、日本語の同時通訳もあったため、現地の戦況をリアルタイムに知るための貴重な情報源となりました。
特設ページ(3月時点)
「社内で話し合い、この戦況をしっかり伝える必要があるため、まずはブレイキングニュースを活用しようという話になりました。映像をしっかり見せていこうと、特設ページを開設したのがスタートラインでした」(西)
Yahoo!ニュース トピックスやYahoo! JAPANアプリなど、さまざまなサービスで情報を提供する中で、特設ページはどんな役割を担ったのでしょうか。新型コロナウイルスなど他のテーマでも特設ページ運用の経験がある土橋は「いろいろなソースの情報を集約し、状況に合わせて見せ方を変えられるのが特設ページならではの強みです」と言います。
「日本国内のメディアのニュース配信以外にも、情報ソースはたくさんあります。海外の通信社の記事、BBCの映像、Yahoo!ニュース 個人のオーサーによる専門的な解説記事をはじめ、Twitterの投稿やYouTubeの動画のようなSNSでの発信も掲載できます。戦況が長引いているので侵攻の経緯を時系列で見せたり、経済制裁が話題になったときは制裁内容やその狙いを分かりやすく解説した図解を掲載したりと、何が起きているのかを状況に応じて総合的に伝えられるプラットフォームの強みが一番生きたと思います」(土橋)
2月時点の特設ページ
特設ページでは、複雑な戦況を分かりやすく伝える一方で、ウクライナ侵攻についてより深く、詳しく知りたいと考えるユーザーのニーズにも応える必要があります。日々試行錯誤する中で、ウクライナ編集部のメンバーがニュースのポイントを要約する「3行サマリ」、社内で作成した「地図で見るウクライナ侵攻」の図解、Yahoo!ニュース 個人のオーサーやコメンテーターによる解説記事やコメント、現地の様子をTwitterの写真や動画で伝えるライブブログなど、さまざまなコンテンツが追加されていきました。
ニュースだけでなく、写真や動画で現地の状況を伝えることは、日本国内のユーザーにウクライナ侵攻という国際的な問題を自分ごと化してもらい、少しでも関心を持ってもらえれば、という意図がありました。
このように、戦況に応じて特設ページは日々アップデートされていきました。当初は通常業務と兼務する形で一部のメンバーが特設ページの更新をしていましたが、西は、刻々と状況が変わる中で専任のメンバーを集める必要を感じたと言います。
「侵攻が長期化する中で継続性を持ってしっかりと情報を伝えていく体制が必要になったため、組織横断で人を集めて『ウクライナ編集部』を作ったほうがいいと考えました」(西)
立ち上げ当初、ウクライナ編集部には3人の編集メンバーがいました。初期メンバーである安藤、出村、土橋は、それぞれ別の部署で記事制作やYahoo!ニュース トピックスの作成などの編集業務をしていましたが、ウクライナ編集部に加入したことで、通常業務からは一時的に離れる形に。代わりに、土日を含めて毎日午前7時~午後11時まで、当番制で特設ページの情報を更新することになりました。4月以降はメンバーを入れ替え、最大6人の当番体制で5月頃まで特設ページのアップデートを続けました。
戦争報道対応ならではの難しさとは 編集現場で何が起きていたか
ヤフーとして初となる戦争報道対応について、ウクライナ編集部は日々試行錯誤していましたが、そうした中で二つの悩みがあったと言います。
一つは、ユーザーに届ける情報に関することです。「情報戦」を見極める難しさや、プラットフォームとしてのヤフーのスタンスをどこに置くべきかについて。
まず、侵攻を巡って「情報戦」が繰り広げられているともいわれる中で、SNSや現地の地元メディアをもとにした記事を取り上げる際は、慎重さが求められました。
「中立な立場で情報を届けるために、ロシアとウクライナ、どちらか一方の主張に偏り過ぎないというのは意識しました。例えば『特定の都市が制圧された』というニュースについて、発表主体はどこか、情報の根拠は何か、というのは他の情報と見比べながら精査していました。SNSをソースにした記事も、どこまで扱うかが難しいところで、そこは常に議論しながら進めていました」(出村)
そして、プラットフォームとしての中立性について、西はこう話します。「ヤフーとコンテンツパートナー契約を結んでいる各媒体が、それぞれの視点を通してニュースを送ってくださいます。その多様なニュースを一つのテーマとして編集することで、プラットフォームが担う中立性や責任を果たせているのではと考えています。また、SNSで流れてくる現地の生の情報も多いので、記事というフォーマットになる以前の情報について今後どういう形でそれを必要とする人に届けていくかは考えていかなければなりません」
もう一つの悩みは、組織的な課題についてです。違う部署のメンバーを集める特別編成チームを組むことで何が見えてきたのでしょうか。
例えば、同じ編集という仕事でも、Yahoo!ニュース トピックスで日々の重要なニュースをピックアップするのと、インタビュー取材の企画を立て、オリジナルコンテンツを制作するのとでは、業務内容もその進め方も大きく異なります。そのため、同じ業務を進める上での共通認識を持つための密なコミュニケーションが必要です。
そうした課題を解決するために、「さまざまな職種の関係者が集まる全体MTGとは別にウクライナ編集部の編集メンバーだけで困り事をざっくばらんに話す時間を作るなど、コミュニケーションは意識してやっていました」と土橋は話します。
そうしたすり合わせの作業に注力する一方で、安藤は組織横断の取り組みならではのメリットを指摘します。「私は普段の業務で記事制作に携わっているのですが、ウクライナ編集部でさまざまなメンバーと交流できたことで、記事制作する際もどういった記事が求められているのかをより考えるようになったと思いますし、これまであまり関わることのなかった特設ページを活用することの可能性についても実感することができました」
また、安藤は「戦争報道に長期間携わる中で、メンバーのメンタル的なケアも注意しなければいけませんでした」と話します。時にはショッキングな写真や映像が配信されることもありますが、ユーザーに適切な情報を届けるために、編集の現場ではそれらの情報全てに目を通す必要があります。日々緊張感のある業務をこなす中で、土橋はウクライナ編集部内でそれぞれが抱えている思いをシェアする時間をとれていたことが大きかったと話します。
「報道に携わる上で、その対象に向き合うのがつらいというのは、言ってはいけないことだと思っていました。しかし、メンバー間で『つらいよね』と素直に言える環境があり、われわれの活動の持続可能性を考える上でもお互いの素直な気持ちをシェアし合えたのは良かったと思っています」(土橋)
一方で、ユーザーへの配慮も欠かせません。戦争のニュースや映像に触れてショックを受けているユーザーに対し心のケアに関する記事をオーサーに書いてもらった他、うそやデマとの向き合い方に対する記事も特設ページで掲載しています。
特設ページ内にある「報道との向き合い方」
戦争報道対応で見えた課題を今後にどう生かすか
戦況の膠着(こうちゃく)や長期化が見込まれる中で、ウクライナ編集部は5月にいったん「解散」という形をとり、以降は長期的にそれぞれの部門でこのテーマに取り組んでいくことになりました。
今回のように刻々と状況が変わる戦争報道の場合は、期間限定のチームを組んだ際に、チーム体制の維持やその規模の拡大・縮小をどのタイミングでどう判断するかが難しく、今後の課題にもなります。
西は、この問題を考える上で災害報道を例に挙げます。「災害報道も、発災した直後に被災地で求められる情報、復興時に必要な情報、支援者が欲しい情報と、時間が経つごとに情報のニーズや人々の関心、メディアの伝え方も変わっていきます。プラットフォームとしてそういったニーズにどう追随していくかは課題ですし、それは戦争報道にも通じると思います」
ロシアによるウクライナ侵攻はまだ続いています。ヤフーでは、引き続き特設ページなどを通じてウクライナ情勢について多様な視点で必要な情報を伝えていきます。
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