情報の正しさ、見抜くポイントは? フェイクニュース対策をクイズで学ぶ「Yahoo!ニュース健診」解答の傾向を読み解く
Yahoo!ニュースでは、ユーザーが偽情報や誤情報などに惑わされず、ニュースや情報について正しく理解する力を身に付けるための学習コンテンツ「Yahoo!ニュース健診」を2022年2月28日から約2カ月間、公開しました。公開期間中、参加したユーザー数はのべ10万人。これまでもYahoo!ニュースはいくつものフェイクニュース対策の取り組みをしてきましたが、今回はクイズ形式で、ユーザーがより実践的に情報リテラシーを身に付けることを目的としました。ユーザーの利用データからどのような気付きがあったのか。また、近年のフェイクニュースの傾向や、フェイクニュースに気付けるポイントとは。企画を担当した Yahoo!ニュース コンテンツ制作チームの山中健士(仮名)、監修した平和博・桜美林大学リベラルアーツ学群教授に聞きました。
フェイクニュース対策のポイント ニュースを読む力、確かめる力、共有する力
―「Yahoo!ニュース健診」制作にはどんな目的がありましたか?
山中:これまでもフェイクニュース対策の取り組みとして「『フェイクニュース』への備え」という特集記事をつくったり、媒体各社と連携して実際にソーシャルメディア(SNS)で流れているフェイクニュースをファクトチェックした過程を記事にしたりしてきました。今回は、ユーザーがフェイクニュース対策をする際のスキルを高められるよう、実践的なクイズ形式にしました。Yahoo!ニュースでは、配信いただいている媒体各社の選定を厳密に行っていますが、ユーザーにはソーシャルメディアを含めネットに流通しているフェイクニュースに対策できるようにと考えました。
―ユーザーの参加規模はどれくらいでしたか?
山中:ユーザー数はのべ10万人、男女比は5:5でした。Yahoo!ニュースでは年齢・性別の比率でいうと30代・40代男性により多く利用いただいているので、男女比が5:5だったのは意外な結果でした。ソーシャルメディア上で健診結果をたくさんシェアいただき、「家族にも教えたい」と投稿してくれた人もいました。利用者が周りにもこのコンテンツを共有してくれたことで幅広い層にリーチしたのかなと感じています。
―「Yahoo!ニュース健診」は9つの設問で構成されていました。設問数や内容はどのように決めたのですか?
山中:それぞれの設問で、下記9つの要素の学習を目的としました。
今回は参加ユーザーの約10%が、全ての設問に回答して結果ページに到達しました。設問を簡単に感じたユーザーもいたかもしれませんが、今回は設問を最後まで答えてもらい、上記9つの要素を漏れなく学習していただくことを重視しました。フェイクニュース対策をする上では、自分が情報を理解するだけではなく、情報をシェアする、もしくはシェアされてくる際の注意点を学ぶことも欠かせません。
実際のフェイクニュースはTwitterやタイムラインに自然と紛れ込んでくるので、本や記事を読んでフェイクニュースそのものについて理解するだけではなく、今回クイズ形式で実際に判断してみることは、ソーシャルメディア上のフェイクニュースへの対策にも効果的なのではと考えています。
ソーシャルメディア上の刺激的な見出し 「感情のスイッチ」が入ったら深呼吸を
「Yahoo!ニュース健診」の設問は、平和博・桜美林大学リベラルアーツ学群教授(メディア・ジャーナリズム)に監修いただきました。
―今回の「Yahoo!ニュース健診」は、ユーザーがソーシャルメディア上で健診結果をシェアする様子も見られました。
平教授:「Yahoo!ニュース健診」は、ロシアによるウクライナ侵攻開始の翌週明けにリリースされました。ネット上で国際的な情報戦が展開され、戦局ごとにフェイクニュースも飛び交う中で、危機感を持ってチャレンジしたユーザーも多かったのではないかと思います。
―全9問のなかで、比較的正答率が高かった設問は以下4問でした(図参照。編集上、正解である解答のみ表示しています)。
平教授:メディアリテラシーの基本的な項目が、しっかりと理解されているということだと思います。健診3は「事実と意見を区別する」、健診4は「議論の分かれるテーマについては複数の情報を比較する」、健診8は「真偽不明な情報をむやみに拡散しない」、健診9は「間違った情報を流した場合は訂正する」という学習要素が込められています。特にメディアリテラシーの大前提のひとつは、「事実と意見を区別すること」です。 さらに、複数の情報を比較して批判的に判断することや、誤った情報の拡散に加担しないことなども重要なポイントです。
―一方で、正答率が低い傾向だった設問は以下3問でした(図参照。編集上、正解である解答のみ表示しています)。
平教授:正答率が高かったものに比べると、やや実践的なリテラシーが求められる設問でした。共通して問われているのは、設問の文章を丁寧に読み解く力です。健診1は、見出しと投稿内容に齟齬(そご)があることを読み解けるかどうかが問われています。見出しだけでなく、記事の本文まで丁寧に読まないと内容の違いに気が付きません。
フェイクニュース拡散のひとつの舞台とされるソーシャルメディアでは、タイムライン上をコンテンツが次々に流れていきます。その中でフェイクニュースは、目を引く刺激的な見出しを使い、「感情のスイッチ」を押すための工夫が凝らされています。それに目を奪われると、「これはひどい」「大変だ、知り合いに知らせなきゃ」と条件反射的に拡散をしてしまいがちです。そうならないためには、自分の感情のスイッチが入ったと思ったら、スマホをいったん置いて、深呼吸することをオススメしています。ほんの数秒でも時間を置くことで、冷静さを取り戻し、理性的に文章を読む姿勢を整えるんです。
健診6は、記事の日付と写真の撮影日に、ズレがあることを読み解けるかどうかがポイントとなります。写真は見出しに劣らず、ユーザーの目を引く、インパクトのある素材です。ただ、撮影日までは記載のないことも多いし、そもそも意識していない人も少なくないでしょう。ところが、今回のウクライナ侵攻を巡るフェイクニュースの氾濫(はんらん)のなかで、一番目立っているのがこの手法です。過去の画像を拾ってきて、あたかも今起きていることであるかのように見せるのです。
主なフェイクニュースの画像・動画を3つに分類すると、
中でも多いのが流用型で、理由は発信者にとって一番手間がかからないからです。
―フェイクニュースに騙(だま)されないためにはどうしたらよいのでしょうか。
平教授:「出来過ぎているんじゃないか」と思えるような画像は、過去に使われていないかを画像検索で調べてみましょう。これは、ファクトチェック団体が実際に行っている手法です。インパクトの強い流用型のフェイクニュース画像は、災害や事件のたびに繰り返し使われることが多いのです。
また、情報の判断は「正しい」か「誤り」かだけではありません。フェイクニュースには「9割は正しいが1割が誤り」「事実だが文脈が違う」というケースもあり、判断にはニュアンスも大切です。そのためには、それぞれの情報の文脈、バックグラウンドの知識も必要になります。一般のユーザーが日常的にフェイクニュースを分析してあぶりだすのは難しいですが、情報の判断には〇と×の間に微妙なグラデーションがあるのだということは、理解しておいてほしいですね。
また、全ての情報の吟味に時間をかけることはとてもできません。ならば、自分や家族にとって重要なテーマかどうかで優先順位をつけてみてはどうでしょう。例えば新型コロナ対策です。自分や家族の健康に直接関わることですから、しっかりと情報を吟味する価値は十分にあると思います。
意図的なフェイクニュースの発信が確認されるのは、意見が対立するテーマ
―一般的に、フェイクニュースが広がりがちなのはどのような話題でしょうか。
平教授:噂(うわさ)の流通量=(当事者にとっての)重要性×情報のあいまいさ、と社会心理学の世界では言われています。例えば、大災害が起きれば、自分の身の安全はもちろん、家族、知人の安否が気にかかる。しかし発生直後は、欲しいと思う詳細な情報はなかなか入ってきません。そんな情報の空白を埋めるかのように、間違った情報が広がりやすいと言われています。
特に意図的なフェイクニュースの発信が確認されるのは、意見が激しく対立するテーマです。例えば、2016年のアメリカ大統領選では、ロシア政府がフェイクニュースを使って介入したとされています。そのテーマとして選ばれたのは、銃規制、人種問題、宗教など、世論を二分するようなものばかりでした。
―平教授は元新聞記者でもあります。いろんな現場で取材をされる機会も多かったと思いますが、誤認をしかねなかったと、ひやっとした場面はありましたか?
平教授:そうした場面には日常的に遭遇しています。取材活動は、人の話を聞き、その内容を確認した上で、ニュースにまとめていく作業です。しかし、同じ事柄でも、立場や視点の違いによって見え方や意味合いが変わってきます。公的な立場の人が話した内容でも、文脈も含めて、100%信頼できるわけではない。
特に、当局の公式発表がない調査報道では、必ず立場の違う複数の取材先、できれば3人以上に内容を確認して、それぞれの齟齬(そご)がない部分を「事実」と認定する「トライアンギュレーション(三角測量)」の作業が欠かせません。そうした検証手続きをしっかり踏まないと、事実を見誤ったり、全体像を捉え損ねたりしかねません。
一般的にはリテラシーというと、受け手側のリテラシーを想像します。しかしこれだけ情報環境が急速に変化し、フェイクニュースが氾濫する中では、情報を出していくメディア側、伝えるプラットフォーム側も、それぞれの立場でのリテラシーの底上げが必要だと思っています。
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