ジェンダー炎上はなぜ起こる?――小川たまかさんと治部れんげさんが語る原因と解決への道
各分野の専門家や有識者による、取材やオピニオンなどを軸とした記事が集まる「Yahoo!ニュース 個人」では、書き手であるオーサーが執筆した書籍との連携施策の一つとして、3月1日より書店にてフェアを開催しています。
丸善とジュンク堂の東京・大阪6店舗で専用の棚を用意するほか、オーサーによるトークイベントも実施。3月12日には東京・ジュンク堂池袋本店にて、ライターの小川たまかさん、ジャーナリストの治部れんげさんによるトークイベントを行いました。
小川さんは『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』、治部さんは『炎上しない企業情報発信 ジェンダーはビジネスの新教養である』など、ジェンダー問題の著書もある2人が、2019年も多発するジェンダー炎上事例を取り上げ、原因や解決への道筋を議論。その様子をレポートします。
良い企画はきちんと評価する
ジェンダー炎上とは、CMやコンテンツの中で描かれた女性像・男性像がインターネットなどで拡散することで、不特定多数の視聴者、読者の目に触れ、強く批判され、企業や団体のブランドイメージが傷つくこと。
治部れんげさん
週刊SPA!が昨年12月に掲載した「ヤレる女子大生ランキング」記事。小川さんはYahoo!ニュース 個人の記事でもこの企画に潜む危うさを指摘しましたが、話題になり始めた当初は、編集部が批判を受けて謝罪し、記事取り下げを求める署名活動を行った女子大生と話し合って検証記事を出すに至るほどのビッグウェーブになるとは思っていなかったと話しました。
小川さんのもとにもSPA!の記者の方から「意見が聞きたい」と真摯な取材依頼があったそうで、この人は信頼できるかもしれない、SPA!にもいろんな記者がいるのだろうなと感じたそうです。
治部さんも、炎上後のこの展開は珍しく、SPA!の対応はスマートだったと評価。また、今後良い企画を出したらそれをきちんと評価し、お金を出して買うことが大事だとも話しました。
パイ投げ広告からみる炎上の「中・上級編」
西武・そごうが2019年1月に出した広告は、パイを顔にぶつけられた女性の写真に「女の時代、なんていらない?」というキャッチコピーが書かれたもので、賛否を呼びました。
治部さんは、麻生太郎副総理兼財務相による「子どもを産まない方が問題」発言を、誰が見てもわかりやすいジェンダー炎上の「初級編」とした一方、西武・そごうの広告は「中・上級編」だと言います。「活躍だ、進出だともてはやされるだけの『女の時代』なら、永久に来なくていい」といったテキストは一見その通りに思えて、どこが問題なのかわかりにくいためです。
ジェンダーの観点から、問題があると指摘したのは
- 現状の問題を追認し、個人に責任をなすりつけている
- パイを投げつけられるというビジュアルが暴力的
などの点。
悪気はなくとも、西武のような社会的責任を求められる大企業が、女性のおかれた現状に対し個人でがんばれといってしまうのは無責任であり、またパイを投げられっぱなしなのもおかしいと指摘。投げる人にやめろと言ったり、逆に投げ返すような方向に行けばよかったのではと話しました。
小川たまかさん
小川さんも、パイを投げられた女性が笑って「男も女もない」と言う場面などから感じ取れる、差別を受けても明るくポジティブに笑っていなければならないという空気がいかにも日本的で、1月に起きたNGT48メンバーへの暴行事件で、被害者が謝罪するという異常な事態が起きたこととも繋がると話しました。
炎上した「広告」から考える
女性誌Domaniが2月、地下鉄の駅に掲出した広告。「働く女は、結局中身、オスである」のキャッチコピーなどが物議をかもしました。
小川さんはこのコピーを、男性にとってもつらいものではと指摘。男性だっていろいろな働き方をしたい人がいるのに、女性に対して「腰掛け社員」というのと同じくらい定義が古いとつっこみました。
治部さんが出演した朝の情報番組でとったアンケートでも、女性と同じく男性も7割がこのコピーを「ナシ」だと回答、多くの人が決めつけを嫌だと感じていたそうです。
続いてはロフトのバレンタイン広告。女性が楽しそうに身を寄せ合う後ろではお互いの服や髪を引っ張り合っているというビジュアルや、表面上では仲良く見せていても裏では意地悪をしているかのように読み取れる会話などに、SNSでは困惑の声があがりました。
弊社バレンタインプロモーションのビジュアルについて、ご不快な思いをされた方々がいらっしゃったこと、深くお詫び申し上げます。配慮を欠いた事を反省し、当該ビジュアルの掲出を停止致します。お客様並びに関係した多くの皆様にご迷惑をおかけしたことを謹んでお詫び申し上げます。
— ロフト公式 (@LOFT_Official) 2019年2月4日
株式会社ロフト
女の敵は女という決めつけへの違和感のほか、広告で顧客を無意味に貶める意味がわからない、マーケティングとしても逆効果だと2人とも声をそろえました。
トヨタのツイート炎上は謝罪の仕方がうまかった
炎上したものの、批判に対する対応が評価できるというトヨタ。公式Twitter上で行った、女性に対する運転への苦手意識の質問で、「クルマの運転って苦手ですか?」という投稿し、「決めつけだ」などの批判が相次ぎました。
治部さんは、批判を受け5時間ほどでツイートを取り下げ、何がだめだったのかの理由もきちんと書いて謝罪していたのが特徴的だと話します。
本日、弊社ツイッター広告にて、女性の運転技量が男性よりも劣るかのような不適切な表現がございました。多くの方に不快な思いをさせてしまいましたことを、心より深くお詫び申し上げます。当該広告についてはすでに削除致しました。今後このようなことが起きぬよう、再発防止に努めてまいります。
— トヨタ自動車株式会社 (@TOYOTA_PR) 2019年3月1日
企業の謝罪では「一部の人に不快な思いをさせた」といった紋切り型なものを出してかえって再炎上することも多いなか、トヨタの対応はうまかったと評価しました。
最後に、ジェンダーの観点からみた良い広告の事例も紹介しました。
一つは化粧品メーカーの伊勢半が採用活動で用いた「顔採用、はじめます。」 のコピー。小川さんは、文字面だけだと完全なルッキズム(外見至上主義)だが、伝えたい中身はあなたの自分らしさを見せてというもので、最近の炎上を逆手にとった発想だと評価しました。
もう一つは大塚製薬のオロナインH軟膏の赤ちゃんの沐浴シーンを描いたCM動画 。
赤ちゃんを沐浴させているのは父親らしき人、母親らしき人がその横でタオルを持っています。治部さんは、家事・育児を描いたCMには男性がそもそも映っていないものも多いなか、今は男性も育児に参加するのが普通だというリアリティを描けている点がよいと分析しました。
繰り返されるジェンダー炎上、解決の道筋は
ジェンダー炎上の解決の道筋について、2人に語っていただきました。
「正解は一つだけではなく、また時代によって受け止められ方も変わっていくという考えのもとで、相手の話を聞き、意見の背景にある経験を知ろうとすることが大切ではないでしょうか」(小川さん)
「海外では経営者もジェンダー平等を目指すのが当たり前。イギリスでは今年6月からジェンダーに偏りのある広告が規制されるようになり、アメリカ資本の企業ではパネリストが男性のみのディスカッションに出られないこともあります。日本もこれら英語圏の先進国に続いてだんだんジェンダー平等に慣れていくでしょう」(治部さん)
編集後記
イベントの参加者の半数を男性が占めていたのが印象的でした。質疑応答でも「この表現が問題なのはわかるが、これはどこが悪いのかわからない」、「変わっていく価値観にどう対応すればよいか、どうアンテナを立てればよいか」など活発な議論が行われていました。
今後も変わり行くジェンダーの議論を追いかけるなら、2人の執筆するYahoo!ニュース 個人の記事をぜひチェックしてみてください。
「Yahoo!ニュース 個人」書店フェア開催中
日程:2019年3月1日(金)~4月7日(日)
書籍フェアが行われる書店:丸善丸の内本店、ジュンク堂池袋店、M&J渋谷店、ジュンク堂大阪本店、M&J梅田店、ジュンク堂三宮店(※丸善丸の内本店、ジュンク堂大阪本店では3月31日まで)
対象書籍:2018年の「Yahoo!ニュース 個人」オーサーアワードを受賞された井出留美さんの「賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか(幻冬舎新書)」、石渡嶺司さんの「大学の学科図鑑(SBクリエイティブ)」など100冊を超える書籍
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