見落とされがちな課題も拾って届ける――「Yahoo!ニュース 個人」10年のあゆみとこれから
9月26日でサービス開始から10周年を迎えた「Yahoo!ニュース 個人」。各分野の専門家や有識者が書き手となり、取材や知識に基づいたニュース記事を執筆・発信するプラットフォームとして2012年にスタートしたサービスです。これまでの10年を振り返り、今後の展望を考えます。
スタートから10年で12万本の記事、6.8万本のコメントを発信
「発見と言論が社会の課題を解決する」「文化の発展に寄与する」という世界観を掲げるYahoo!ニュース 個人(以下、ニュース個人)。2012年に55名のオーサー(書き手)とともにスタートしてから10年を経て、今ではコメント投稿を専門とする公式コメンテーターを加えると総勢980名を超えるスペシャリストが参画するサービスへと成長しました。(2022年9月20日時点)
多様なプロフェッショナルたちが、それぞれの知見に根ざした独自の視点からニュース記事やコメントの執筆を行い、この10年で12万本以上もの記事、6.8万本以上のコメントが投稿されています。(2022年9月20日時点)
中には社会を巻き込む議論へと発展した事例も少なくありません。
始まりはたった1本の記事でも「発見と言論」で社会は変わる
名古屋大学 大学院 教育発達科学研究科教授の内田良さんは、学校内で起こりうるリスクを中心に、教育現場におけるさまざまな課題について継続的に発信していますが、中でも巨大組体操の危険性を訴えた記事は多くの反響と議論を呼び、あっという間に大きな社会問題となりました。
問題提起から2年後には、文科省が組体操のガイドラインを策定し安全対策の徹底を通知。1本の記事が国や自治体を動かし、子どもたちの命を守る取り組みへとつながっていったのでした。
ジャーナリストの江川紹子さんは、ニュース個人が始まった2012年から寄稿を開始。圧倒的な取材力に基づいた発信を続けています。
最近では、安倍元首相銃撃事件を受け開かれた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の記者会見記事に対し投稿したコメントがネット上で大きな話題に。長年オウム事件を取材し、カルト問題を追い続けてきた江川さんならではの鋭い視点は多くの議論を巻き起こしました。
長年オーサーとして発信活動を続けてきた江川さんに、「ニュース個人に期待していること」を聞いてみると、「マスメディアが尻込みするような事柄も、しっかり伝えていくこと」と話してくれました。
「たとえば、安倍元首相を殺害した事件で、容疑者が動機として旧統一教会の問題を挙げましたが、日本のマスメディアは教団が記者会見を開くまで、その名前を出しませんでした。雑誌や海外メディアの中には、取材のうえで出しているところもありました。日本のマスメディアが団体名を伏せた期間はそう長くはありませんでしたが、教団が認めなければどうしたのでしょうか。ただ、こういう案件は、事柄によって一定の訴訟リスクが生じる場合があります。そうしたリスクにどう対応するか、準備しておくことも必要でしょう」(江川さん)
江川さんの指摘は、書き手に裁量が委ねられ自由に発信ができるニュース個人の強みと課題を浮き彫りにします。
「個人的には文化・芸術に関する記事がもっと増えるといいな、と思います。それから(前から言い続けていることなのですが)書評のコーナー(発信)があってもいいのではないかな、と。多様な記事が紹介され、人々がさまざまな角度から考える、そのための材料を、ニュース個人が今後も提供し続けることを期待します」(江川さん)
個人の発信活動を支えるために 10年で変わったこと、変わらないこと
サービス開始当時の2012年は、情報発信の場が少しずつ紙からネットへと移り変わっていった時期。書き手にとって十分な人的・金銭的サポートを提供するウェブサービスはまだ存在しておらず、個人の優れた発信を支援する場所をネット上でも作っていくことがスタート時の目標でもありました。
専門家の発信を一人でも多くのユーザーに届けるために、どのようなサポートができるのか。編集部では一貫して発信活動を支える環境の創出と整備に重点を置き、プログラムをアップデートしながら継続的に提供しています。
■「活動機会を広げる」取り組み
さまざまな支援の中でも、時代にあわせて変化、発展を続けているのが、2014年に始まった「オーサーコメント」(現在の「コメンテーターコメント」)です。
Yahoo!ニュースに配信される記事に専用のコメント枠を設置し、ニュースをよりわかりやすく、付加価値の高い情報としてタイムリーにユーザーへ届けるための新たな発信の場となっていきました。この取り組みは2020年9月開始の公式コメンテーターでさらに拡大。多くのユーザーの目に触れるYahoo!ニュース トピックスに掲載された記事へのコメント投稿が増加しており、スペシャリストとしての認知向上の機会にもなっています。
■「還元を行う」取り組み
安定的に活動を継続できる仕組みをつくっていくために、価値ある発信への対価、還元の方法については常に検討、見直しを行っています。
2014年には入稿した記事のページビューに対する報酬率の引き上げ実施や、記事投稿頻度に応じたインセンティブ制度を導入。その後も2015年、2018年、2021年とインセンティブの増額改定を重ねています。
2015年からはページビューに拠らない評価・還元システムを拡充。ニュース個人のコンセプト「発見と言論が社会の課題を解決する」を、年間でもっとも体現したオーサーを表彰する「年間オーサーアワード」を創設したほか、各月に投稿された記事、コメントを表彰する月間MVA(Most Valuable Article)、月間MVC(Most Valuable Comment)制度も導入。MVA選出で報酬率がアップする仕組みを設けるなど、多様な報酬体系を設定することで価値の高い発信が生まれるための土台を固めていきました。
■「記事制作を支援する」取り組み
発信の質をより高めるためのサポート拡充にも力を入れてきました。2015年からは、ストックフォトサービス「アフロ」を無償で提供。2017年にはかねて要望の多かった校正支援もスタートさせました。2018年は取材音源のテープ起こし支援、2019年からはヤフーが蓄積してきたノウハウを活かした見出し提案サービスも開始しました。
オーサーの江川さんは「年々サポートが強化されてきた」と振り返ります。
「私にとって、もっともありがたいのは、新聞などの記事データベース『G-Search』が利用できること(2017年導入 ※編集部注)。しかも、当初に比べて利用できる金額がグンと上がったので、とても助かります。校正サービスなども、私たちオーサーの声を聞いて導入されたものです」(江川さん)
サポートが充実していったのは2014年以降。「発見と言論が社会の課題を解決する」というコンセプトを明確に定めたことで必要な支援や課題がよりクリアになり、スピード感をもって改善を進めていけるように。2018年には、サービス開始当初より発信されるジャンルの幅が広がっていったことから、「文化の発展に寄与する」というコンセプトも加わり、より多角的な視点や多彩な内容が集まる場へと進化していきました。
絶えずアップデートを続けてきた10年でしたが、変わらず指針としてきたのが「表舞台に立つ主役はオーサー、編集部はその発信を支える裏方」という考え方。その役割をサッカー用語で「用具係」を意味する「ホペイロ」にたとえて、書き手をケア、サポートする「ホペイロ精神」を大切にしてきました。
「これからの展望を考えていく中で、時代にあわせて変えていくものはあっても、ホペイロの精神は変わらず徹底していく」とニュース個人のサービスマネージャーを務める清水耕一郎は言い切ります。
「われわれのビジョンに共感し、専門家や有識者、ジャーナリストの方々が発信を続けてくださったからこそ、10年にわたりサービスを続けてこられました。振り返ってみると、社会的にも大きな事件や事故、時代の移り変わりを象徴するような出来事が続いた怒涛の10年でしたが、専門家ならではのさまざまな視点や論点を提供いただき、ニュース個人から届けることができたと思います」(清水)
専門家の発信は予測不可能な時代を照らす光に
Yahoo!ニュース アプリではコメンテーターコメントが投稿されると「専門家の解説」ラベルが表示されるように
月間8,400万人以上のユーザーが利用するYahoo!ニュースというプラットフォームの中で、ホットなニュースを発信する仕組みを専門家とともに築けたことは大きな財産であり、いまではYahoo!ニュースの強みの一つにもなっています。
「Yahoo!ニュースでは『社会や個人の課題解決と行動につながるニュースを伝え、より良い世の中にする』をミッションに掲げていますが、変化が激しく見通しが立たない時代において、専門家による発信や議論が『時代の光』としてますます求められていくはずです。オーサーやコメンテーターの力を借りて、新たな気づきや考えるきっかけをユーザーへ届けていくことが、ニュース個人の使命だと思っています」(清水)
個人の書き手がもつ知見や情報の力をYahoo!ニュースへと押し上げていくことで、見落とされがちな視点や社会課題を拾って広く世の中に届けていけるのが、ニュース個人のユニークさでもあります。
「これからも課題の粒度や硬軟に関係なく、活発な議論が集まる場、信頼性の高い発信が集まる場を目指していきたい。そのためには今後10年も通用する仕組みづくりにチャレンジしていく必要があると感じています。現在はヤフーだからこそ実現できる、未来志向の支援を新たに準備中。書き手が今後10年20年とより長く活躍できるような仕組みを提案できたらと考えています」(清水)
この10年で個人の情報発信が大きな影響力をもつことが示されてきましたが、世界が目まぐるしく変化し続ける中、さらに個人をエンパワーしていくためにこれから何ができるのか。ニュース個人のこれからの10年にご注目ください。
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