「子どもには学校のお弁当も作ってあげられない状態だったのでしばらく学校を休ませていましたが、フードバンクのおかげでお肉や魚を食べさせてあげることができました」
中学3年生の息子をもつシングルマザーの田中一恵さん(仮名)。田中さんは持病の悪化で、保育士の仕事が続けられなくなってしまった。当時、手元には現金数千円しかなかった。区役所の福祉事務所に相談したところ、「フードバンク」という支援団体の存在を知った。駆けこむようにフードバンクに支援を要請したところ、すぐさま毛布や食材が届けられた。「救われた。そんな思いでした」。(Yahoo!ニュース編集部)
フードバンクとは、賞味期限が近づいたり、包装に印字ミスがあることなどで廃棄される予定だった食品を引き取り、無料で生活困窮者や福祉施設へ提供する活動のことだ。米国発祥で日本では2000年頃から広がり、現在全国で40以上の団体が活動している。フードバンクの本来の役割は「プラスもう一品」の食品提供を通じて、豊かな食生活を実現することにあった。
だが、その役割は変わりつつある。きっかけは2015年4月の生活困窮者自立支援法の施行だ。同法の施行で、フードバンクが行政と連携する民間の支援策の一つとして例示されたことで、依頼が急増した。
現在、日本では、所得の中央値の半分を下回っている「相対的貧困」状態にある人はおよそ6人に1人にのぼり、年々増加している。当初「プラス一品」を届けるために始まったフードバンクだが、「その日の食事もままならない」利用者からの要請が増えている。
食料は「フードバンクだけ」の家庭も
2013年に設立された「フードバンクかわさき」も支援団体の一つだ。同団体は川崎市とその周辺地域の一部を対象に週1回、生活保護と同程度の水準の家庭に直接食料を届けている。配布する食品は米、パン、野菜、即席麺、レトルト食品、缶詰、飲料など。他にも日用品やリサイクルショップと提携して電化製品なども届けることもある。特に食品の中では健康のため野菜や肉、魚の要望が多い。
利用者数はこの2年で3倍に増え、150世帯を超えた。母子家庭、父子家庭、精神障害などで仕事に就けない人、若い単身者、生活保護受給者など利用者は様々だ。
「中にはうち以外の食べ物がまったく入ってこないという方もいる。そういった家庭はライフラインも止まっている場合があるので、火を通さなくても食べられるものなどを選んで届けています」と同団体代表の高橋実生さんは現状を語る。
日本全体で「崖っぷち生活」の人が増えている
貧困問題を研究する法政大学現代福祉学部の湯浅誠教授は、現在の日本では「崖っぷち状態」で暮らしている人が増えていると警鐘を鳴らす。親の介護や自身の病気など、たった一つの生活環境の変化がきっかけで「今日食べるものに困ってしまう」ほどの困窮してしまう状態だ。
「彼らは『崖』から落ちそうになるとまず食費を削る。カップラーメン1個で済ませば、月の食費1万円もかからない。でもそれは、栄養価としても内容としてもかなり不十分です」。
支援に対する遠慮が壁に
だが、「崖っぷち」や貧困状態にあるにもかかわらず、フードバンクの利用をためらう人もいる。日本初のフードバンク「セカンドハーベスト・ジャパン」理事長のマクジルトン・チャールズさんは日本人特有の気質が関係していると話す。
「日本人は援助に対して遠慮することが非常に多い。自分が困っても、『もっと困っている人がいるのでは?』と考えてしまい、支援が手遅れになってしまうこともある」
かつては高橋さんも生活困窮者のひとりだった。元夫からのDVに耐えかねて子ども2人を連れて逃げ出したが、すぐに貧困に直面した。生活保護が受けられない間に貯金も底をつき、消費者金融に手を出すようになり、電気・ガス・水道が止まることも度々あった。
なんとかして子どもだけでも食べさせるべく、手をつくした。満足に食材が手に入らない時はクラッカーや安い手羽先やもやしミックスを使って食事をかさ増したこともある。だがライフラインが止まってしまうとそれさえもできない。
自身も様々な支援団体から支援を受ける中で、2002年にDV被害者のための情報サイトを立ち上げ、その後活動を拡大、DVや虐待などからの脱出後の自立支援を始め、2013年1月に「フードバンクかわさき」を設立した。
運営を初めて、行政機関との連携が不十分であるという問題点も明らかになった。
以前は食べ物が無い状態に陥っても、誰に何を言いにいけばいいのかが不明だった。仮に役所にたどりつけたとしても行政の認知が低いせいで支援を後回しにされてしまった利用者もいる。
現在はより多くの貧困家庭を救うために地域の民生委員や自治体の生活困窮者のための窓口などとも情報を共有し、連携を目指すほか、県全体に活動を拡大させるべく、「フードバンクかながわ」の設立準備を始めている。
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