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「国が個人の幸せを邪魔してどうすんだ」――選択的夫婦別姓、それぞれの思い

3/19(月) 10:09 配信

「選択的夫婦別姓」制度が注目を集めている。現在の法制度では、日本人同士の法律婚カップルは夫婦同姓しか認められない。姓を変えることによる不利益はなんなのか。どんな痛みがあるのか。野田聖子総務相や、制度を求めて訴えを起こした企業経営者の青野慶久さんらに、それぞれの思いを聞いた。(ライター・石原壮一郎/Yahoo!ニュース 特集編集部)

「男女両方の問題ですから」

「長い間、『夫婦別姓(別氏)』を推進している私としては、久しぶりに国会の場で取り上げられて、率直にうれしかったですね。若い男性の議員が取り上げてくれたのも良かった。女性の問題じゃなくて、男女両方の問題ですから」

野田聖子総務相が、力を込めて語る。振り返っているのは、取材の数日前にあった国会でのやり取り。希望の党の井出庸生衆院議員(40)が、「選択的夫婦別姓の導入を前向きに進めるべきではないか」と政府に質問した。

野田総務相自身、長男を出産した直後の2011年1月に、事実婚だった一般男性と結婚し、相手の男性が「野田」に改姓している。「夫婦別氏を早く実現してほしいと、誰よりも熱心に陳情してくるのは夫なんですよね」(撮影:岡本裕志)

「選択的夫婦別姓」制度とは、結婚すると同時に片方が姓を変更して「同じ姓」を名乗る現在の形ではなく、希望すれば両方がそのまま別々の姓でいられるようにすること。あくまで「選択」であり、同じ姓にしたい夫婦の場合は今までと変わりはない。

野田総務相は、女性活躍担当相も兼務している。その立場も踏まえつつ、質問に対してこう答弁した。

「これからの女性の活躍の時代に合わせて、要望が急増してくると思う。男性が不便を感じている場合も出てきている。なるべく速やかに答えは出していくべきではないか」

一方、同じ質問に対して安倍晋三首相は「国民の間で意見が分かれている。わが国の家族の在り方に深く関わるもので、慎重に対応する必要がある」と、野田相と温度差を感じる姿勢を見せている。

野田総務相は、20年以上前から「別姓」の問題を精力的に訴えてきた。しかし、自民党内には根強い反対意見があり、なかなか前に進まなかったと言う。

2002年には、自民党内の別姓推進派により「例外的夫婦別姓」法案がまとめられた。家庭裁判所の許可を得た場合、別姓を名乗れる。しかしその後、国会に提出されないまま立ち消えに。2002年、自民党法務部会で(写真:読売新聞/アフロ)

「家族が崩壊すると心配する人もいる。そんなことあるわけない。じゃあ、原則として同じ姓を使っている今、なんでこんなに離婚が多いのかって話ですよ。反対の理由は、妻がお姑さんの面倒を見なくなるとか、年賀状の宛名を書くのが面倒だとか。ただ、一番の敵は男性議員たちの無関心ですね」

男性議員はほぼ全員、自分が姓を変えた経験はない。「なぜ別姓を可能にする必要があるのか、よくわからないんでしょうね」とも。

「結婚して氏を変えるのは96%が女性です。手間や時間がかかるだけでなく、いろんな不便や不利益を背負わされているんです。別姓を望んでいる人がいるなら、それを謙虚に聞いて、実現させてあげるのが政治家の仕事です。制度を変えることで、『女性活躍』が本当に実のある政策になっていくと思いますよ」

井出議員の国会での質問や、野田総務相が答弁で「男性の不便」にも言及した背景には、直前に話題になったこの裁判がある。今年1月9日、大手ソフトウェア会社サイボウズの青野慶久社長ら4人が、「選択的夫婦別姓」制度がないのは憲法違反だとして国を提訴した。

1月9日、「選択的夫婦別姓」制度を求め東京地裁に提訴し、記者会見する青野慶久さん。結婚と離婚の4パターンのうち、日本人同士の婚姻だけ氏を選べないのは法の矛盾だと主張している(写真:時事)

「夫婦別姓」と憲法をめぐる裁判は、今回が初めてではない。2015年12月にも、最高裁判所で判決が下されている。原告の「夫婦同姓の規定は実質的に女性に姓の変更を強制する女性差別だ」という訴えに対して、最高裁は「合憲」と判断した。理由として「女性にだけ改姓を求めているわけではない」「女性が不利益を受ける場合が多いと推認できるが、通称使用の広がりで不利益は緩和されている」「家族の呼称として社会に定着してきた夫婦同姓には合理性がある」などを挙げている。

ただし、最高裁は「夫婦別姓には絶対に反対」と言っているわけではない。判決文の中で「選択的夫婦別姓には合理性がないとまで断ずるものではない」「社会の受け止め方によるので制度のあり方は国会で論議されるべきだ」と、国会での議論を促している。合憲か違憲かについても、最高裁判事15人中5人が「違憲」と判断した。

「反対する人たちにとってどんな不利益があるのか」

青野さんらの今回の裁判は、原告団に男性がいること、女性差別の観点ではなく、法制度の矛盾から経済的損失を与えられていると主張して注目を集めた。

青野さんは昨年末に提訴を公表して以来、反響の大きさに驚いていると言う。

「夫婦別姓の問題は『フェミニズムの人たちが主張している』と思われて、またかと聞き流されてきたところがありました。今回は男で、しかも資本主義の権化みたいなヤツが経済的損失だと言っている。政党も関係なければ男女も関係ない。多くの人に耳を傾けてもらうきっかけになっているのかなと思います」

東京・日本橋のサイボウズ本社でインタビューを受ける青野慶久さん(撮影:岡本裕志)

青野さんは2001年に結婚し、「なんか面白そうかなと思って」戸籍上の名前を妻の姓である「西端」に変更した。ところが、そのことによって銀行口座やパスポートの名義変更などに多大な時間と労力を費やした。保有していた自社の株式の名義変更だけでも81万円の費用が掛かったと言う。

反響は支持する声ばかりではない。反発や非難の声もたくさん飛んできた。「別姓にしたいというのは、単なるわがままだ」「家族の一体感が失われる」などなど。こうした意見に対して青野さんはネット上でひとつひとつ丁寧に、ときには「日本の伝統を守っていかなければならない」という批判には「じゃあ、おまえ、明日からチョンマゲな」などとユーモアも交えながら反論している。

「反対する人たちにとってどんな不利益があるのか、それを知りたくて議論を仕掛けてみても、感情的な理由しか出てこないんですよね。あくまで『選択的』だから、選びたくない人には何の関係もないはずなんです。訴訟が話題になってから、政治家にしても評論家にしても、著名な反対派は全く表に出てきません。おそらく、賛成派のほうが多そうだと空気を読んでいるんでしょうね。逆に賛成の人はどんどん実名で出て、意見を言ったり支持や応援を表明してくれたりする。時は来たのかな、と思っています」

「裁判をすると決まって、妻からはひとこと目に『えー、私の名前がメディアに出るのは嫌だなあ』って言われました。『ごめんね』って謝りましたけど」(撮影:岡本裕志)

司法の場で現在の法律の規定が「憲法違反」と判断された場合は、希望する夫婦は別姓を選択できる方向に法律が改正されることになる。

「必ず違憲判決が出ると思っていますが、地裁、高裁、最高裁がそれぞれ1年ずつとしても3年かかる。ミラクルショットは、国会が先に動いて法律を変えてくれること。その場合は訴えを取り下げます。国会での動きを加速させるために、選択的夫婦別姓に反対する議員はダメなんじゃないか、反対していると選挙に勝てないぞという動きをつくりたいですね」

さらに青野さんは、「選択的夫婦別姓」制度は、家族の在り方だけでなく、豊かな社会づくりに役立つと考えている。

「豊かな社会というのは、選択肢があるということ。おなかを膨らませるだけじゃなくて、米もパンもあるのが豊かな状態ですよね。多様性は経済を発展させる上でも重要だし、ひとりひとりの幸福度も上がります。同姓を強制することから別姓を選択できるようにすることが、自分と違う人を尊重することにつながる。それは大きな進歩のひとつです」

「親が寂しそうにしているのがつらい」

「選択的夫婦別姓」制度の導入に反対する意見のひとつに、「伝統的な家族制度の崩壊」がある。ところが、「家名」への愛着を理由に「夫婦別姓を可能にしてほしい」と主張する団体があった。

「実家の名前を継承したい姉妹の会」のホームページ。姓が変わることへの痛みや悩みが寄せられる(撮影:長瀬千雅)

その名も「実家の名前を継承したい姉妹の会」。代表者は40代で2人の子どもの母親。戸籍上は夫の姓だが、いつもは旧姓を使っている。

「選択的夫婦別姓の実現を目指している別の団体に所属していた時もありました。でも実家の名前を継ぎたいという私の動機は、昔の家制度を連想させてしまうのか、なかなかご理解いただくのが難しいと感じました。それで独自の活動として2017年5月にこの会をつくりました」

会のホームページには、交際相手やその親に姓を変えてほしいと言っても理解されず、何度も結婚の話が流れた女性や、やむを得ず姓を変えたけど、深い喪失感や後悔にさいなまれている女性の手記が、たくさん紹介されている。

「珍しい名前や由緒正しい名前だから残したい、残してほしいと子どものころから親に言われてきた、という方もいます。私自身はよくある名前だし特に由緒ある家柄でもありません。ただ、名前への愛着の深さって、そういうこととはまた別ですよね。家名そのものへのこだわりというよりは、親がなんとなく寂しそうにしているのをなんとかしたいっていう子ども心が根底にあると思います」

「自分の子どもなのに『自分の名字』ではないことに違和感を覚えてきた」と語る「姉妹の会」代表(撮影:長瀬千雅)

実家の名前に対する強いこだわりや、子どもに「家名」を継いでもらいたいという意識については、ピンとこない人もいるだろう。しかし、さまざまな思いやニーズがあるのは当然であり、そこに優劣も正誤もない。

「結婚して姓を変えたことで、大好きな夫の名前で呼ばれてうれしいという気持ちはあります」と語るのは、NPO法人代表を務める寺崎(旧姓・田邉)直子さん。2017年9月に結婚した寺崎さんは、うれしい気持ちの一方で、自分が姓を変えざるを得なかったことに釈然としない思いも抱えている。

結婚後も旧姓で働く女性は増えているが、寺崎さんの場合はそれが許されなかった。

「介護の世界でケアマネジャーとして活動しているんですが、戸籍名の登録じゃないとダメなんです。介護保険に関係する書類や登録も、すべて田邉から寺崎に変更しました。あと、利用者のお年寄りの皆さんに新しい名前を覚えてもらうのが、またひと苦労で」

NPO法人理事長も通称使用は認められていない。「そもそも法務局には、理事長の姓の変更を申請する書式がなかったんです。変わる人がいなかったから」と語る寺崎(田邉)直子さん(撮影:塩田亮吾)

具体的な苦労に加え、実家の名前を継ぐのは自分しかいないこともあって、「私は田邉直子でずっと生きてきたのに、なんで田邉直子がこの世からいなくなっちゃったんだろう」と、ショックが徐々にふくらんできているとも。

事実婚家族、女の子は父の姓、男の子は母の姓に

姓を変えたくないという理由から事実婚を選んだカップルもいる。

都内新聞社に勤務する大和久将志さんは、大学の講師を務める三隅順子さんと「結婚」して28年目。現在子どもは5人で、女の子は「チーム大和久」として大和久姓を名乗り、男の子は「チーム三隅」として三隅姓を名乗っている。

「当初は法律婚をしたんです。ところが、当時のカミさんの勤務先が旧姓使用を認めてくれなかったので、『それは困る』と即座にペーパー離婚しました」

事実婚の場合、子どもが生まれると自動的に母親の戸籍に入る。男の子の場合は大和久さんが認知するだけでいいが、女の子の場合は家庭裁判所で親権を三隅さんから大和久さんに異動させる手続きをしなければならない。

「子どもの姓については、いずれ本人の意思で変えてもいいという前提です。手続きは面倒臭いけど、それも含めて面白いです」

大和久さん一家。一番下の子の入学祝いに家族7人全員で回転ずしに行ったときの写真。「お勘定が3万円を超えました。勘弁してほしいですよね」(提供:大和久将志さん)

親の側はポリシーがあってやっていることだが、たまたまそういう親の元に生まれた子どもたちに、戸惑いや不都合はなかったのか。

「たまに聞いてみるんですけど、『いやあ、べつに面倒なことはないなあ』ぐらいの感じで、拍子抜けするぐらい反応が返ってこないんですよね。子どもって自分が育った環境が全てだし、家の中では姓で呼び合うわけじゃありませんからね」

現在の家族構成は「チーム大和久」が4人、「チーム三隅」が3人。一つ屋根の下で毎日にぎやかに暮らしている。今の家族の形には何の不満もない大和久さんだが、今の制度に納得しているわけではない。

「選択的夫婦別姓に反対している人の気持ちは、よくわかりません。通称使用の範囲が広がればいいという話ではない。やっぱり煩雑ですし。名前の問題で結婚できない人もいる。国が個人の幸せを邪魔してどうすんだって思いますね」

今年2月に発表された内閣府の「家族の法制に関する世論調査」を見ると、「選択的夫婦別姓」制度をめぐる世論も、大きく変化していることがわかる。

調査によると、「夫婦がそれぞれ婚姻前の名字(姓)を名乗ることができるように法律を改めてもかまわない」と答えた人の割合は、42.5%と過去最高だった。一方、「夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきであり、現在の法律を改める必要はない」と答えた人は29.3%で、過去最低となっている。

上川陽子法務相は調査結果を受けて、「引き続き国民の意見を幅広く聞き、国会の議論の推移をよく注視しながら、慎重に対応を検討していきたい」と述べるなど、制度の導入には慎重な姿勢を示した。

野田総務相は、制度の実現を待ち望む人たちに向けて、こう言う。

「政府が『女性活躍』を推し進めている今は、大きなチャンスだと思っています。同じ姓を強制している現在の制度は、間違いなく活躍を阻害する要因になっている。このチャンスを活かしていきたいですね」


石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、『大人力検定』『大人の言葉の選び方』『大人の人間関係』など、大人をテーマにした著書多数。最近は、東京のまったく知らない街をスマホに頼らずぶらぶら歩いて、ピンと来た店に入ってみたり、見つけた銭湯に入ったりする大人の迷子旅にはまっている。

[写真]
撮影:岡本裕志、塩田亮吾
写真監修:リマインダーズ・プロジェクト
後藤勝

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