横関一浩

「医療的ケア児」1.7万人――保護者らの胸のうち

1/24(水) 10:23 配信

神奈川県川崎市に暮らす光菅和希くん(6)は、全身の筋力が低下する難病を患っている。日中は数分から数十分おきに、たんの吸引が必要で、家族は片時も離れることができない。和希くんのように日常的な医療的ケア(介助)を必要とする子どもが、「医療的ケア児」である。全国で約1万7000人(19 歳以下)とされるが、サポートの仕組みは十分ではないという。彼らや家族はどんな状況に置かれているのか。まずは、3家族の現状と思いを伝える動画を見てほしい。(Yahoo!ニュース 特集編集部)

「片時も離れられません」

和希くんは、先天性ミオパチーという難病を患っている。生後7カ月間は新生児集中治療室(NICU)で過ごし、家に連れて戻ったのは1歳になってからだった。

今も自力で呼吸ができないため、人工呼吸器を手放せない。たんの吸引も欠かせない。鼻から胃にチューブを通して、点滴のように栄養剤を注入する「経管栄養」も必要だ。その都度1時間、1日5回。母親の悦子さん(48)は付きっきりだ。

光菅悦子さんと和希くん親子(撮影:オルタスジャパン)

「(退院して)家に連れて帰るのに、看護師さんの下で自分が手技を覚えて、やっと家に帰ってみようという感じで。まず(経管栄養の)注入から覚えて、何かあった時の心臓マッサージ、ちょっと苦しくなったらどうしたらいいかとか、全部覚えて」

そして、5年が過ぎた。

「必死でした。医療ケアなんて、やったこともないし、考えたこともなかった。毎日、あっという間ですよね。離れられないし、ちょっと家のことやるにも、洗濯物を干したりするのにも、離れて大丈夫だろうか、と。買い物はお父さんが仕事の帰りにやってくれますが…」

光菅悦子さんと和希くん(撮影:横関一浩)

増加続き、推計1万7000人に

「医療的ケア児」とは、たんの吸引、鼻や腹部に通したチューブから栄養を取る経管栄養、人工呼吸器など、日常生活を送る上で、医療的ケアが必要な子どもを指す。

厚生労働省の資料によると、その数は2015年度に全国で推計約1万7078人。年々増加傾向にあり、2007年度との比較では約2倍になった。医療の発達によって、虚弱・病弱の新生児が困難を克服できるようになったため、と考えられている。

厚労省の調査に基づく「医療的ケア児」数の推移。単位・人、年度(厚労省の資料から)

ところが、和希くん親子がそうだったように、退院して自宅に戻ると、当人たちは受け入れ態勢の乏しさに直面する。

医療的ケアは命に関わるため、長く、原則として医師や看護師、家族しかできなかった。その後、段階的な法改正などにより、一定の研修を受けた特別支援学校の教員や介護職員も可能になった。それでも、看護師のいない保育園や福祉施設、学校などでは、今も医療的ケアを手掛けることができない。

悦子さんには「和希くんは呼吸器を付けているから」という理由で、施設利用などを限定されてきた経験もある。

和希くんの使用する人工呼吸器(撮影:横関一浩)

悦子さんが言う。

「呼吸器、つまり機械が和希に付いているということで、結構、『ちょっと待って』みたいなところが多くて。療育センターもそうでしたし…。川崎市には(医療的ケア児や家族を支援する)制度ができたのに、呼吸器が付いている時点で『別物です』って言われるんですね。ほかのケア児と何が違うのか、よくわからないんですけど」

こうした現状は資料にも表れている。

厚労省の委託を受け、みずほ情報総研が実施した「在宅医療ケアが必要な子どもに関する調査」結果(2016年3月、回答約1300件)によると、在宅で障がい福祉サービスを利用している人は約4割にとどまり、そのうち最も多かったのはホームヘルパーを利用する「居宅介護」だった。

通所施設を利用する和希くん親子(撮影:横関一浩)

では、なぜ、通所で施設を利用しないのか。その回答を見ると、「施設等がない/近隣にないため」「安心して預けられないため」など受け入れ態勢の未整備を示すものが並んだ。和希くん・悦子さん親子が暮らす川崎市の場合も、市内57カ所を数える「児童発達支援通所施設」のうち、医療的ケアに対応できる施設は8カ所しかないという。

受け入れには、看護師が必要

和希くん・悦子さん親子の日常に、さらに密着した。

親子は普段、NPO法人「療育ねっとわーく川崎」が運営する「サポートセンターロンド」を週1回利用している。医療的ケア児を受け入れる施設は全国でもそう多くない。ここは、その一つだ。

サポートセンターロンドで(撮影:横関一浩)

悦子さんは週1回、3時間程度、和希くんをここに預け、その間に家庭の用事などを済ませる。公的な支援制度があり、利用料の個人負担は1割だ。とはいえ、悦子さんの本心は「週1」ではなく、「毎日」かもしれない。

「なんだかんだ、月曜日から金曜日まで毎日、どこかに出掛けているので。和希が頑張って。朝、聞くと、『外に行く』って。私も家にいると、家のことをしてしまって、和希にはテレビを見せるだけになってしまうじゃないですか? 幼稚園なり、療育センターなり、児童デイなり行って、先生やみんなと遊んだり、したいと思うんですよね。『行かない』って言ったこと、ほぼないですね」

和希くんのたんの吸引を行う看護師(撮影:横関一浩)

サポートセンターロンドでは、医療的ケア児を受け入れるため、看護師1人を常駐させている。

管理者の小塚千津子さん(56)は「今の制度では(看護師に対する支援制度の)規定がない。看護師の人件費は、他の事業で補填(ほてん)しています」と話す。

預け先は? 「医療」と「福祉」の狭間

医療的ケア児に対する支援は、長らく、「医療」と「福祉」の狭間で放置されてきたとも言える。なぜ、見過ごされてきたのだろうか。

全国医療的ケア児者支援協議会事務局長で、NPO法人フローレンスで障がい児保育事業を運営する駒崎弘樹さん(38)が解説する。

「医療の発達に福祉が追い付いていないということなんです。せっかく助かった命なのに、(人工呼吸器などの)医療的デバイスが体に付いていると、医療的ケアが必要になる。福祉施設では、医療スタッフを置いていないところが多く、今の制度では対応しきれません」

駒崎弘樹さん(撮影:オルタスジャパン)

2016年5月成立の改正児童福祉法は、「医療的ケア児」支援の努力義務を自治体に課した。駒崎さんは「『医療的ケア児』という言葉が、初めて法律に載りました。日本で初めてです。そこから、ちょっとずつ、自治体も『支援していこう』となってきました」と言う。

それでも、駒崎さんの元には「医療的ケア児を預ける場所がない」という声が全国から届くという。支援制度が整い始めたとはいえ、漏れ落ちる子どもたちはあちこちにいる。

障害者手帳がない駿くんの場合

長島駿くん(5)は、難病に指定されているリンパ管腫症を患う。腸から栄養を吸収できず、経管栄養や点滴などが必要だ。母親の琴子さん(41)は駿くんのそばから片時も離れられず、「息を抜く時間なんてありません」と言う。

長島琴子さんと駿くん親子(提供:長島琴子さん)

医療的ケア児の駿くんには、知的な障がいがない。「肢体不自由」など身体障害者福祉法の区分にも当てはまらないため、療育手帳も障害者手帳も持っていない。それらの「手帳」がないと、どうなるか。

琴子さんは「『ちょっと大変だからヘルパーさんに来てもらおう』といったことが、できないんです。預け先にも困っています。付きっきりで介護しなきゃいけない。外に出られないので、精神的につらいです」と打ち明ける。

医療的ケア児の「ケア」は、たんの吸引や経管栄養だけでなく、静脈栄養、人工呼吸器の管理、気管切開部の管理など多様だ。障がいの有無や年齢などによっても、技法や適用制度は変わる。それらをひとくくりにできないことも、対策を難しくしている。

駿くん、4歳のころ(提供:長島さん)

入学、進学、卒業、就職…それぞれの壁

小学校入学時にも壁がある。

川崎市立小学校の特別支援学級に通う5年生の小関リナさん(12)は毎朝、母のかおりさん(48)と一緒に登校する。娘を教員に預けると、母はそのまま、校内の別室へ。医療的ケアを施すため、ここで下校まで待機する。

小学校の別室で待機する小関かおりさん(撮影:横関一浩)

リナさんは、生まれてからダウン症だと分かった。その後、さまざまな合併症を発症。4歳の時、気道が閉塞(へいそく)し、気管切開した。現在は1日数回のたんの吸引と経管栄養が必要だ。

川崎市には、小中学校に看護師を派遣する制度がある。この制度は、リナさんの入学時に、かおりさんが他の保護者とともに教育委員会に働きかけ、実現した。

「最初は(週に)1時間半だけでした。それが2年後、3時間に増えて、助かった。ただ、毎日付き添う身としては『週に3時間だけか』っていうのが本音ですけどね」

小関かおりさんとリナさん親子(撮影:横関一浩)

夫は事故に遭って働けない。

かおりさんは「働いて、収入を得なければ」と言い、働く時間を確保するためにも看護師派遣制度の拡充が必要だと考えている。昨年、たった1人で川崎市議会に、「医療的ケア児が保護者の付き添いなく小中学校に通えるようにしてほしい」と請願したのもそのためだ。

「スクールバス、ダメですよ」

「特別支援学級」ではなく、最初から「特別支援学校」に通わせる選択はなかったのだろうか。「学校」なら看護師が常駐しており、医療的ケアも受けられる。

しかし、リナさんの場合、「学校」が遠く、スクールバスには看護師が同乗していないという理由で利用できなかったという。「学校」に通わせるなら、親が送迎するしか方法がなく、かおりさんは断念したという。

リナさんと学校の友だち(撮影:横関一浩)

かおりさんは今、普通の小学校の「学級」で良かったと感じている。

「最初、(クラスの)子どもたちは(チューブによる)栄養の注入や、たんの吸引を見て、すごいびっくりしていたんです。今では、気にする子は誰もいなくなりました。(娘が何かに)困っていると、いいタイミングで手を差し伸べてくれるんです」

就学前の幼児期、学校へ通学する児童期、青年期、そして卒業してからの就職先…。家族は子どもの年代に応じた課題と向き合っていかなければならない。リナさんは来年、中学校に進学する。

上=たんの吸引をするリナさん。下=開けた穴から経管栄養(撮影:いずれも横関一浩)

「人工呼吸器があるから駄目」

冒頭で紹介した光菅和希くんは、2018年の春から小学校に入学する。リナさん同様、特別支援学校か、地元小学校かを選ばなくてはならない。

「子どもに付きっきり」の状態を少しでも緩和させたいと考え、地元小学校を選んだ場合、看護師の派遣制度を利用できるかどうか、母親の悦子さんは教育委員会に問い合わせた。それが認められなかったのだという。

和希くんは人工呼吸器を手放せない。「機械(人工呼吸器)が付いていると、その制度の利用は駄目、使えません、となっているんです。どうして機械が付いていると駄目なんだろう? ケアの内容は一緒だと思うんですけど」

通所施設での光菅和希くん(撮影:横関一浩)

悦子さんの希望はささやかだ。

「2時間でも3時間でも良いから、銀行に行くとか、自分が病院に行くとか、それだけの時間で、本当にいいんですよね。それだけのことも実現できていないことが、つらいところです」

医療的ケア児を受け入れている保育園(提供:認定NPO法人フローレンス)

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[制作協力]
オルタスジャパン
[写真]
撮影:横関一浩 オルタスジャパン
提供:長島琴子さん、認定NPO法人フローレンス

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