林建次

保育園が足りない 建設めぐり住民と事業者が対立

2015/12/25(金) 14:06 配信

保育園探しのための活動「保活」が激化している。いまや都市の一部地域では子どもを保育園に入れることは困難を極める。全国の待機児童数は5年ぶりに増加に転じた。保育園は不足しているが、新設するのも簡単ではない。建設をめぐって、住民と事業者が対立するケースもある。(Yahoo!ニュース編集部)

「事故が起きたらどう責任を取るんだ!」
「そんな説明ではまったく納得ができない!」
「工事を一旦中止して話し合いをすべきだ」

住民たちがまくし立てる。保育園の建設をめぐって近隣住民の呼びかけに応じて、開かれた説明会で、事業者、自治体の担当者に向けて投げかけられた言葉だ。

東京都中野区若宮町、ここで保育園の新設をめぐって住民と事業者が激しく対立している。住民と保育園・中野区はたびたび話し合いの場を設けてきたが、お互い主張は平行線をたどっている。

建設中の保育園(撮影:林建次)

渦中の保育園は、2016年4月に開園予定の「まなびの森保育園鷺ノ宮(仮称)」、地上2階建てで定員は60人だ。現在は開園準備へ向けた工事が進むが、住民から反対の声が上がっている。「別にうちは反対しているわけでもないんですけど、やり方が腹立つ」と語る住民もいる。なぜここまでこじれてしまったのか。

真っ向から対立する住民と保育園

発端は9月に遡る。事業者が着工し始めたところ、住民が建設計画の説明不足などを理由に建設反対の声が上がり始めた。建設計画は中野区のホームページで6月末に公表されていたが、住民に対して回覧板や説明会などを通じての周知はなかった。

事業者によれば「着工直前、隣接の数軒に挨拶しただけ」だという。中野区の募集要項には「近隣住民への配慮」としか記されておらず、説明会開催の義務はない。

「まずは建設計画の見直しをすべく、工事をストップさせるべき」と主張する住民たち。反対の理由は主に2つある。計画では駐輪場が5、6台分しかない。駐輪できない保護者が送迎時に子どもを路上で乗り降りさせ、朝夕の送迎の時間帯に交通事故が起きることを住民たちは危惧している。建設予定地の前の道路は幅4メートル程度しかない。そのうえ、この路地は大通りへの抜け道として頻繁に利用されており、かなり交通量が多い。

建設予定地の前の道路は道幅が狭く交通量が多い(撮影:林建次)

もう一つの争点が砂場の設置だ。現在の計画では屋上に設置される予定だが、住民は砂が隣接する住宅に飛散することを懸念している。ここでも「向きを変える」という事業者と「向きを変えても意味が無い」という住民が真っ向から対立した。

事業者側は「開園時期は遅らせられない」「設計の変更は難しい」と主張するのみ。住民側はその後「今後、地域と保育園が共存共栄していけるのかどうか、地域住民が一番詳しく知っている交通事情等を無視した設計のままで、子ども達の安全が守られるのかどうか、大きな不安を禁じえません」と声明を発表している。

どのような落としところを探ればいいのだろうか。

中野区の担当者に行政の責任を聞くと「(まなびの森保育園は)基本的に民設民営ですので、民間のマンションを民間事業者が建てるのと同様で、区が住民の賛成、反対に関して行司役を担うなどということは好ましくありません。こと保育所の整備や運営については、事業者の判断に任せるということです」と答えるにとどまった。だが、こうした中野区の態度も住民の感情に油を注ぐ。住民の中のひとりは「中野区も事業者に補助金を出している。“我関せず”では通用しない」と語気を荒らげる。

5年ぶり増加の待機児童数

法政大学法学部の西田幸介教授はこう語る。

「工場や巨大なマンションを建てよう、となった場合には法律の定めがありますが、保育園についての土地利用は規制がほとんどありません。こうした事案では行政が調整役を担うべき。ですが、今回は中野区側にも“待機児童を減らしたい”という思惑があったはずです。中野区だけでも172人もの待機児童がいるわけですから。そうなると行政が調整役を担うのは最初から困難だったでしょう。建築確認を得る前の段階から住民の意見が反映される仕組みづくりが必要です」

法政大学法学部の西田幸介教授

住民と事業者の対立によって保育園の建設が止まれば、「待機児童」の問題解決は一歩遅れる。厚労省の発表では、今年4月1日現在の全国の待機児童数は5年ぶりに増加となり、2万3167人だった。

待機児童の解消に妙案はあるのか。首都大学東京の若林芳樹教授が強調するのは、低年齢児のための小規模保育所の増設だ。 

「いま、小規模保育というのが、政府の掲げる子ども・子育て支援新制度の中で助成対象になっています。そういう20人未満の定員のものを増やしていく。0歳から2歳までの低年齢児を対象にして、初期投資も比較的少なくて済み、政府が進めようとしている供給を増やすという点からしても、大きなものを増やすより効果的な面もあるんじゃないかと思うんです」

“幼児を預けたい”。たったこれだけのことがなかなか実現できない。中野区の保育園は住民と事業者で対立を抱えたまま開園への準備だけが進んでいく。事業者に取材をしたが、保育園建設は進める一方で「今後も住民への説明は継続していく」と回答した。
待機児童問題の一端が、この保育園に見える。

(※2016年2月16日追記)

昨年11月の取材以降、事態は変化している。

事業者が保育園の認可申請のため2015年4月に東京都に提出した設計図と、同年11月の説明会で住民に配布された設計図が複数の点で異なることが住民の情報開示請求で同年12月、わかった。新たな設計図では災害時の避難路の幅が十分に確保されていないことなどが判明し、住民側は不安と不信感を募らせている。

設計図の相違に対し、保育園の認可を行う東京都は取材に対し「仮に避難路の安全性が確認できなければ、工事終了後も認可を行わない対応も考える」としている。

住民側は設計図の相違を事業者に問うため、中野区の建築審査会に審査請求を行った。一方、事業者側は審査請求を理由に、今後の説明会は開催しないと住民に通告してきた。

今年4月の開園に向けて保育園の建設は進められている。その後も、事業者は取材に応じていない。

撮影:林建次

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