笹島康仁

選挙と政治とその報道——外国人記者が見た不思議

11/10(金) 8:45 配信

日本外国特派員協会(FCCJ)は、東京・有楽町のオフィスビルの20階にある。ガラス扉を抜けると、老舗ホテルのような重厚な空間が広がり、壁一面に著名人たちの写真。FCCJが開いてきた記者会見の様子だ。ここではさまざまな会見が行われ、その情報はここから世界に発信されていく。先の衆院選もそうだった。海外から来た記者たちは衆院選で何を見て、どう報じたのか。日本政治の今とこれからは「外の目」にどう映っているのか。FCCJ会長でシリア出身のカルドン・アズハリさんを皮切りに6人の記者にマイクを向けた。(大矢英代、笹島康仁/Yahoo!ニュース 特集編集部)

コロコロ政党を移る姿に「??」

写真で埋まる壁の扉が開き、小さな部屋に招かれた。アズハリさんは鮮やかなネクタイを結んでいる。日本での取材経験は30年近く。中東メディアの日本特派員として働いた経験を生かし、2006年には中東向けの通信社「パンオリエントニュース」を設立。日本のニュースをアラビア語や英語で配信している。

「衆院選の結果には驚きませんでした。自民党が勝ちましたが、それは他の政党のオウンゴールが原因。野党同士がまるで共食いをしているようでした」

カルドン・アズハリさん。「会長ではなく個人として」取材に応じてくれた(撮影:笹島康仁)

いわゆる「日本通」のアズハリさんにとっても、日本の選挙は「不思議なことばかり」という。それを今回、改めて見せつけられた。

「アラブでは、政治家が政党をコロコロ変えることはありません。政党がない国も、独裁の国もありますが。政党とは政策や理念に基づくもの。一度掲げた旗は、普通は降ろしません。しかし、日本ではある日突然、政治家が他の政党に移る。しかも、その理念が全く同じだったり、正反対だったりする。そんな国は他にありません」

FCCJのインタビュールーム。壁に掛かる写真は、歴代の会長たち(撮影:笹島康仁)

「(政党を渡り歩く政治家はまるで)ディナーについて話し合う人々のようです。誰かが『パスタにする?』と言ったら、別の人が『ノー、天ぷらにしよう』。で、『そうしよう。問題ないよ』と(政党を移る)。どうして有権者はこれを受け入れますか? 私はもうこの激動についていけません。疲れました。正直、興味も失いました」

————先日の衆院選はどこに注目していましたか。

「北朝鮮に絡んだ外交・軍事面での日米同盟です。軍事問題は中東に直接影響しますから。でも、憲法改正も含め、全ては日本国民が決めることです。戦争するのか、しないのか。自衛に限るのか、限らないのか。核兵器は違法か、合法か。それらが日本の選択だと言うならば、いいでしょう。けれど、『私たちのような平和国家になれ』と外国に言えていたチャンスを、日本は失いつつある。アラブの人々は、日本には戦争に加わらないでほしいと思っています」

「日本は報道の自由がある国。記者が殺されない」と話すアズハリさん(撮影:笹島康仁)

「憲法改正は理解できる」

取材に応じてくれた全てのジャーナリストが「野党の貧弱さ」を指摘した。FCCJのロビーに現れた「亞洲週刊」の毛峰(マオ・フェン)さん(60)も「二大政党制がユートピアの夢に終わったことが一番の印象」と言う。亞洲週刊は社会経済の記事を主に扱う国際雑誌。香港を拠点とし、中国共産党とは比較的距離を置いた報道で知られている。

「日本が完璧な民主主義になるためには二大政党制を輸入した方がいいです。一つの党が支配すると、腐敗や傲慢が出ますから。中国ですか? 日本とは国情が違い、単純に比べることは難しいです」

毛峰さん。総選挙の記事も担当した(撮影:笹島康仁)

————選挙の結果、与党は憲法改正の議論を進めそうです。

「今の憲法もいいと思いますが、時代に合わせた憲法をつくることは理解できます。中国も世界も、日本の民主主義の力を冷静に見ています。大切なのは方向性です。日中の互恵関係がないと、アジアの未来はありません。与党は(改憲の)方向性を、国民に対しても、外国に対しても丁寧に説明する必要があると思います」

「憲法改正は理解できる」という毛さん(撮影:笹島康仁)

それよりも毛さんには、日本の選挙報道が不思議だったという。

「一つは世論調査。ほぼ現実になる。素晴らしい精度です。もう一つは、伝統的なメディアがまだ影響力を持っていること。世界の例外です。中国でも微信(ウェイシン、中国版ライン)や微博(ウェイボー、中国版ツイッター)などSNSの影響力が大きいです」

その上で「(日本の選挙報道には)国民が政策を理解できるような報道は少ないですね。今回は、政党の政策が未熟だったこともありますが」と語った。

「メディアは表面なぞるだけ」

選挙報道の「不思議」を指摘する声は、ほかにも多かった。アイルランド出身のジャーナリストで、英国のエコノミスト誌に記事を書いているデービッド・マックニールさん(52)もその一人。「日本には政治をひもとき、国民が理解できるように示そうとするメディアが少ない」と言う。

デービッド・マックニールさん。日本に17年暮らしている(撮影:笹島康仁)

「英国のメディアは、日本よりもはるかに深く物事を分析しようとします。日本にあるのは、起きたことをただ伝え、政党や公約の表面をなぞるだけの記事。これが結果的に与党に有利に働いています」

「経済が下り坂にある時でさえ、『悪化している』という報道に消極的です。政府の経済政策を追及しない。日本では安倍さんを批判すると、ネットで『反日だ』と責められます。これは反日じゃなくて、反権力だと言いたい。どこかで権力に挑戦しないとだめですよ。本当の記者ならばね」

「長期政権は腐敗生む」

総選挙後の11月1日、自民党総裁の安倍晋三氏が国会で首相に指名された。第1次と合わせた安倍氏の首相在任日数は歴代5位。もう2年余り政権が続けば、歴代最長の2886日を抜く。

FCCJのフロント。この日も何人ものジャーナリストたちが出入りしていた(撮影:笹島康仁)

マックニールさんは「長期政権は腐敗を生む。日本に必要なのは適切な野党だ」と考えている。一例として、愛媛県今治市での取材を挙げた。安倍氏との関係が指摘されている学校法人加計学園の獣医学部の建設地を訪ね、「ここに日本の問題がある」と感じたという。

「人々が自民党に投票するのは、代わりになる政党がないからです。四国には自民党マネーが多い。橋や道路、トンネルなどを通じて、地方に金をもたらしてきた。官僚やビジネスマンも自民党との仕事に慣れ、他の政権を望みません。自民党が悪いという話ではない。それが政党というもの。だから、二大政党が必要なのです」

マックニールさんは英国のエコノミスト誌と契約を結んでいる(撮影:笹島康仁)

「今回の選挙で、安倍さんは『国難』という言葉を使いましたね? 9・11以降の米国と共通点があります。危機をあおり、大統領を支持せよと言った。しかし、米国の軍事介入は完全に失敗しました。成功したことは何か。大統領は外部の脅威を訴え、市民の目を問題の根源からそらしたのです」

「理念はどこに行ってしまったの」

香港フェニックステレビの李淼(リー・ミャオ)さんは過去10年間、8回の国政選挙を取材してきた。このテレビ局は、中国大陸や世界各地の中華系視聴者をターゲットに「標準中国語」を使い、比較的自由に24時間ニュース番組を放送している。今回の衆院選でも連日、特集を組んだという。

「(日本の選挙運動で候補者は)自分の名前をずっと繰り返して、雨の中、誰もいなくても握手する人を探しますね。日本的で、面白い風景です。日本のメディアが報道を(自ら)規制する中、私たちは面白い取材ができています」

李淼さん。「希望の党への支持は集まっていない」というニュースも伝えた(撮影:大矢英代)

「本当に不思議な一瞬がありました。民進党が希望の党への合流を全会一致で決めたことです。なぜ今まで安保法制に反対していた人たちが、急に賛成になるのか。彼らの理念はどこに行ってしまったのか、と」

もう一つ、驚いたことがあったという。選挙運動最終日、10月21日の夜、東京・秋葉原で安倍首相の演説を取材していると、一部の支持者が何か叫び出した。李さんによると、見ず知らずの男性が叫んだのは、自分の名前だったという。「あれ、香港フェニックスじゃないか。おい、李淼!」と。翻る大量の日の丸。「反日メディアは出て行け」と叫ぶ人。そして、わき起こる「安倍晋三」コール。

「取材を妨害された」と話す李さん(撮影:大矢英代)

「激しい方々が私の名前を何度も呼んで、妨害してきました。すごく異様な風景でした。反対する人たちを撮影しようとしても、国旗(日の丸)で妨害してきます。国旗を使って、こっちの顔にぶつけてくるのです。日本は民主的な国のはずですよね。妨害が許される環境は、非常に問題だと思いますね」

「選挙に興味がないみたい」

日本に住むネパール人向けの新聞「ネパーリ・サマチャー」の編集長、ティラク・マッラさん(54)にとっては、選挙の盛り上がらなさが驚きだったという。ネパールでは、民主化を目指した国王らが2001年に銃乱射事件で死亡した。後継の国王は国会を解散し、全閣僚を解任。直接統治に乗り出した。王制が終わり、連邦民主共和制が実現したのは2008年のことだ。

「国の人々が選んだ人が大統領になるようになりました。だから、選挙は大事。子どもからおじいちゃんまで、すごく盛り上がります」

ティラク・マッラさん。選挙結果を伝えた紙面を手に(撮影:笹島康仁)

「日本の選挙は不思議です。みんな興味がない。たまに選挙カーが来るけれど、選挙自体を知らない人もいる。10、20年後はどうなるのかな、と思いますね。だって、(将来も)政治家は選ばなければなりませんよね」

ティラクさんは1999年、飲食店経営をしながら新聞発行を始めた。今回の総選挙についても特集記事をつくったという。

事務所で話すティラクさん。今も飲食店を経営している(撮影:笹島康仁)

「今回の選挙にはネパール人も関心を持ち、『結果はどうだった?』『我々外国人はどうなるの?』と聞かれました。政権が代わると、入管やビザのルールが変わる可能性があるからです。今の問題は就労ですね。2年間日本語学校で勉強して、さらに2年間専門学校で勉強する。日本で4年間勉強しても、就職先がなければ(長期滞在できる)ビザが出ません。その仕事がなかなか見つからないのです。我々外国人が気にするのは、税金やビザ、入管の話。難民の審査や留学生のことなんです」

「政策より、イメージ」

韓国の民放「SBS」の特派員、崔虎元(チェ・ホウォン)さん(43)も選挙への関心の低さに驚いたという。昨年3月に着任した。先の衆院選を取材中、日本の若者が話した言葉が強く印象に残っている。

「日韓では政治への考えが全く違う」と話す崔虎元さん(撮影:笹島康仁)

「なぜ投票しないか聞くと、『政治について分からないから、投票は無理です』と。自分は投票にふさわしくない人間だ、という考えを持っています。政治は政治家の仕事。だから、投票に行かない、と。韓国の若者や有権者とは全く違いますね」

日本にとって残念な選挙でした、とも言う。なぜだろうか。

「北朝鮮に焦点を当てたことが、与党の圧勝に役立ちました。一方、肝心の日本国内の問題は争点になりませんでした。今回の選挙は、最初は政権交代の可能性もありました。だから、公約が大切だったはずです。けれども、不思議なことに政策が争点になりませんでした。公約とは、何をするために、どんな部署がどんな準備をして、いくらの予算で、いつまでに実施するかです。韓国では、政治家が公約を守るかどうか、有権者もメディアも関心を持ってチェックします。だから、政治家は選挙で勝っても緊張しているのです」

SBS東京支局は東京・汐留の日本テレビタワーの中にある(撮影:笹島康仁)

「日本は政策よりもイメージの選挙です。だから、ポスターも大きな写真と名前、所属政党だけ。7月の都議選では、小池百合子都知事が(自身の)写真集を出しました。韓国では考えられないことです。メディアは候補を批判して、候補がどんな政策を考えているかを取材します。でも、日本のメディアはイメージをイメージのまま伝えようとしますね」

「政治は政治家のものでない」

崔さんは、さらにメディアの責任を語った。

「メディアの責任が大きいと思います。有権者に必要な情報がありません。日本のニュースは政党の所属と、どんな勢力から支援されているかで終わってしまいますね。けれど普通、選挙のニュースには、地域の問題はこれで、この候補はこんな考え方だ、という情報が必要です」

崔さん。東日本大震災直後も日本に取材に訪れた(撮影:笹島康仁)

「例えば、教育無償化を考えるには、政策の効果、私立学校への対応、国民の負担について詳しく知る必要があります。憲法の問題も同じ。自衛隊を明記することで、何がどう変わるのか。救助活動にどう役立つのか、海外が心配するように軍事大国化の可能性は生まれるのか、武装システムはどう変わるのか。メディアはもっと取材して、伝える必要があります」

崔さんはこんなことも話した。

「日本では政治家が争点を決めますが、争点は政治家が勝手に決めるものではありません。有権者のものです。今の社会の問題は何で、政治家は何をしなければならないのかは、有権者が考えるのです。『政治家はこの問題を解決しなさい』と声を上げなければならないのです」


大矢英代(おおや・はなよ)
琉球朝日放送記者を経てフリージャーナリスト。ドキュメンタリー作品を制作中。

笹島康仁(ささじま・やすひと)
高知新聞記者を経て、フリージャーナリスト。

取材・写真・動画制作:大矢英代、笹島康仁

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