峯山導雄

「体罰はだめ」なのに… なぜ、容認する人がいるのか

10/17(火) 11:02 配信

文部科学省は「殴る、蹴るほか、長時間の正座など肉体的苦痛を与える懲戒」を体罰と規定し、「いかなる場合も体罰を行ってはならない」との通知を出している。各学校も体罰のない教育を実現しようと努力を続けている。ところが、「体罰があった」「生徒がけが」といった実例は引きも切らない。今なお「体罰は必要だ」と考える指導者、それを容認する保護者たちもいる。体罰を認める考えは、なぜ消えないのか。(Yahoo!ニュース 特集編集部)

死者を出しても「体罰は必要」と戸塚宏氏

まずは、「体罰の定義は進歩を目的とした有形力の行使。(子どもを)進歩させようと思ってやっている」という主張を紹介しよう。発言の主は戸塚宏氏(77)。「戸塚ヨットスクール」という名前を重ね合わせれば、「ああ、あの人」と思い起こす読者もいるに違いない。戸塚氏はその校長である。

戸塚ヨットスクールの戸塚宏校長=今年8月(撮影:峯山導雄)

愛知県の知多半島。戸塚ヨットスクールはその先端に近い美浜町で1976年に開校し、軍隊式のスパルタ指導を採り入れた。不登校や非行の子どもも立ち直らせているとマスコミが伝えたこともあり、子育てに悩む保護者が殺到。戸塚氏も一躍、その名を知られた。

同スクールはその後、刑事事件の舞台になる。戸塚氏やコーチによる暴行によって、訓練生2人が外傷性ショックで死亡。厳しい指導から逃れようと、奄美大島での合宿の帰途、フェリーから訓練生2人が海に飛び降り行方不明になった(その後、死亡と認定)。

戸塚氏は傷害致死、監禁致死、傷害、暴行、監禁、監禁致傷の罪に問われ、懲役6年の実刑判決を受けた。コーチ、支援者ら14人にも有罪判決が下っている。二審・名古屋高裁は1997年の判決で、訓練について「人権を無視して、教育も治療も矯正もない。訓練目的に正当性はない」と指摘。最高裁も2002年に上告を棄却し、判決は確定した。

名古屋高裁の判決後、記者会見する戸塚氏=1997年3月(毎日新聞社/アフロ)

戸塚氏は2006年に出所すると、再び校長として現場復帰する。戸塚氏によると現在、美浜町の寮ではニートや引きこもりなどの7人が暮らしながら訓練を受けている。さらに6年前からは3〜12歳を対象とした短期合宿“ジュニアスクール”も年数回開催しているという。

長野県・木崎湖での短期合宿。3〜12歳の子どもが対象で、日程は1週間ほど(撮影:峯山導雄)

「体罰の定義は進歩を目的とした有形力の行使」「(子どもの)進歩のため」と言い切る戸塚氏。子どもを含む訓練生を死に至らせ、刑事罰で服役した後でも、その考えは変わっていないと言う。いったい、なぜなのか。ジュニアスクールに子どもを預ける保護者の考えも交えて動画(約7分)にまとめた。

「今も体罰を?」の問いに戸塚氏は…

動画取材の主な舞台は、今年7~8月に長野県・木崎湖で行われたジュニアスクールだ。約1週間の合宿には約20人の子どもが参加。子どもたちは親元を離れ、寝食を共にしながら、ウインドサーフィンの手ほどきを受ける。

合宿の様子(撮影:峯山導雄)

戸塚氏は、幼少期から厳しく鍛えることでニートや引きこもりを減らせる、だからジュニアスクールを始めた、と話した。3歳や4歳のまま大人になったらおしまいだ、とも語っている。そして、今も体罰を行っていることを否定しない。

「ジュニアスクールでは『どうしても』という時に(体罰を)やってやるんよ。それがその子にとってプラスになる。特に体罰が効果があるのは小さい頃だ」

進歩を目的とすれば体罰をしていいのか、との問いにはこう答えた。

「体罰で事故が起きることによって子どもが死んでしまう(こともある)。死ぬ方もどうかしている。自動車と電気と一緒。力を使う限り、必ず事故が起きる。そんなに完璧に制御できる人間なんかいない」 

ジュニアスクールで指導する戸塚氏(撮影:峯山導雄)

“強い指導”を求める保護者たち

子どもを預ける保護者はどう考えているのだろうか。6年前から短期合宿に娘を通わせる母親は「いじめに勝てる子にしたい」と言う。

「今は引きこもりや不登校がたくさんいるし、うちの子がそうならない保証はないですから。いじめに負けないようにした方がいいんじゃないかな、と思って。校長先生(戸塚氏)も『いじめは(それに打ち勝って子どもを)成長させる』と言われています。(家庭でそんな教育は)できないです。全然自信ない」

合宿初日、子どもを見守る保護者(撮影:峯山導雄)

今年のゴールデンウィークから小学校1年の娘をジュニアスクールの合宿に参加させているという父親は、戸塚氏の著書を読むなどして共鳴したと言う。

「不安はありませんでした。娘が自分のことだけをやれる子じゃなくて、周りのことを見ていけるリーダー的な存在になった時にここは卒業かなと思います。(大事なのは)大人が介入しないこと。けんかしていても大人は介入しない。いじめがあっても、です。子どもは(誰かを)いじめるものなので、その中でどう成長するのか、きっちり見守ってくれる場所はそうないと思います」

同スクールによると、こうした保護者に限らず、戸塚氏の指導には今も熱心な支持者がいるという。また「戸塚ヨットスクールを支援する会」のホームページでは、石原慎太郎・元東京都知事が会長として、戸塚氏を支持する見解を示している。

「戸塚ヨットスクールを支援する会」のホームページ。会長の石原慎太郎氏がコメントを寄せている。戸塚氏が顧問を務める任意団体「体罰の会」には、外交評論家の加瀬英明氏ら著名人も名を連ねる(撮影:オルタスジャパン)

「体罰は子どもの心身に悪影響」

文部科学省の「体罰の実態把握について」によると、各地の教育委員会などに報告された体罰の件数は、2012年度に6721件だった。これに対し、直近の2015年度は890件。捕捉された件数自体は大きく減っている。

2012年には、大阪市の公立高校でバスケットボール部の生徒が顧問から体罰を受け、後に自殺する事件があった。体罰問題は長年、浮かんでは消え、消えては浮かぶ状態だったが、この大阪のケースをきっかけに「体罰根絶」に向けた動きが教育現場でもいっそう強まっている。例えば、東京都教育委員会は2013年から毎年夏、体罰防止研修を公立学校の全教員を対象に実施している。

文部科学省がまとめた「体罰発生件数」の推移

体罰は子どもの心と体の成長に悪影響を与える、との主張は数多い。

東京医科歯科大学の藤原武男教授(42)は、厚生労働省の統計に基づき、おしりをたたかれるなどの体罰が後にどんな影響を及ぼすかを分析した。それによると、3歳半で体罰を経験した子どもが5歳半に成長した時、保護者から体罰を受けていた子どもは全く受けていない子どもに比べ、「落ち着いて話を聞けない」「約束をまもれない」などの問題行動が約1.5倍高くなったという。

東京医科歯科大学の藤原武男教授(撮影:オルタスジャパン)

「たいして悪い効果はないだろうと思われている体罰でも、子どもの問題行動の多さにつながることが分かりました。体罰を使うと一時的には恐怖によって子どもがおとなしくなったように見える。『自分がそうしつけられたから、自分の子どももそうやってしつけないといけないんだ』と親が思うことで、連鎖していく。体罰を善とする文化はそうやって形成されるのかもしれません」

別の研究結果もある。福井大学子どものこころの発達研究センター・友田明美教授らが1400人余りを対象に調査したところ、4~15歳の小児期に過度な体罰(頬への平手打ちなどの行為)を長期に受けた成人の脳は、それ以外と比べ、感情や理性を司る部分の容積が平均19.1パーセント減少していたという。

戸塚ヨットスクールの合宿に参加した子どもたち(撮影:峯山導雄)

体罰がなくならない理由とは

心身に悪影響があるとの研究はたくさんあっても、「体罰容認」の声は消えない。それはなぜか。心理学の立場からの見解を聞くため、東京電機大学の東京千住キャンパスに足を運んだ。理工学部の山本宏樹助教は不登校やいじめ、体罰問題などの専門家だ。

「心理学に『底つき』と呼ばれる現象があります。本当に絶望した時、生死の境をさまよう経験をした時、劇的に人格が変わることがある。体罰は人為的にそれを引き起こそうとする方略です。(体罰後は)一見、問題行動が減って人格が劇的に変わるように見えるので、体罰の実践者は手ごたえを感じるんですね」

東京電機大学の山本宏樹助教(撮影:オルタスジャパン)

体罰を擁護する指導者に子どもを預ける保護者の心理。それについても山本助教はこう分析する。

「最近は親子がかなり仲良くなり、フラット化し、上下関係がなくなっています。その中で『これでいいのか』という疑念が親に生まれることがあるんですね。フラットになった関係を直せないと感じている。ある種、体罰に対するあこがれというか、ショック療法的に何か変わるんじゃないか、と。(社会全体が)体罰から離れれば離れるほど、そこに幻想を抱く親が出てくるのではないかと思います」

人が変わるには時間がかかる

最後にもう1人紹介しよう。NPO法人青少年自立援助センター(東京都福生市)理事長の工藤定次さん(66)。フリースクールの先駆けとして40年以上も不登校生徒やニートの社会復帰支援を続け、ニートや引きこもりなどの問題を抱える若者たち2000人以上と向き合ってきた。

工藤定次さん(撮影:オルタスジャパン)

工藤さんは体罰反対の立場を崩したことがない。

「 (体罰により)短時間で変化を求めるのではなく、ゆっくりでも確実な変化を求める。それが私の方法論です。体罰では本質を変えられない」

同センターの寮には現在も10〜40代の男女約40人が入居し、地元企業で就労経験を積み、社会性を身に付けている。工藤さんやスタッフは24時間体制で寮生たちの自立を見守っている。

寮生と語る工藤さん(撮影:オルタスジャパン)

工藤さんは「ウチは甘やかしません。褒めて伸ばすのは大きな間違い」と語る。

その代わり、徹底して対話する。寮生はどんな考えを持っているか。それを共同生活の中で見つけ、社会から逸脱したものであれば、じっくり聞き、諭す。そのため、寮を出て自立するまでに平均1〜2年はかかるという。 

「体罰で動きを変えれば、変わったと思えるのかもしれませんが、それが強要されない世界に行ったとき、その行動が本当に保証されるのかといえば難しいと思います。人生は長い。自分が気づいて変えたもので人は生きていく。本質をどう変えるかとなった際、やっぱり暴力装置ではない形で、核が変わるまで時間をかけて向き合うことだと思います」

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[制作協力]
オルタスジャパン
[写真]
撮影:峯山導雄、オルタスジャパン

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