得能英司

幕張で「武器」見本市―― 日本は何を売るのか

7/27(木) 10:38 配信

超音速巡航ミサイルの発射と破壊のシーンを大型ディスプレイが映し出す。潜水艇や巡洋艦、戦闘機といった模型の数々。安全性に疑問を持たれている米国製の輸送機「V-22オスプレイ」も―。6月12〜14日、千葉市の幕張メッセで開かれた「MAST Asia 2017」。2年前の横浜開催に続く、日本で2回目の「武器見本市」である。日本の14社を含め18カ国の125社が「防衛装備品」を出展し、各国の軍関係者ら4200人余りが訪れたという。「武器輸出三原則」の撤廃から3年。軍艦マーチの生演奏で幕を開けた会場で、日本の官民は何を売ろうとしたのか。報告する。(Yahoo!ニュース 特集編集部)

超音速巡航ミサイルの展示

幕張メッセの国際展示場6は、サッカーのフィールドほどの広さを持つ。その会場を入ってすぐの場所にブラモス・エアロスペース社はブースを構えた。武器の高度化は著しく、今や一国、一企業での開発は難しい。同社もインドとロシアの合弁企業で、「巡航ミサイル開発で世界のリーダーを目指す」とうたっている。

ブラモス・エアロスペース社はミサイルの模型を展示(撮影:得能英司)

会場には同社のラウル・トリパティさんがいた。日本での見本市参加は初めてという。

「日本のマーケットに注目していましたが、今まではいろいろな規制があり、閉鎖的でした。最近になって(武器輸出が解禁になるなど)やっとオープンになってきた。将来はもっと、近くで協力し合いたいですね」

ラウル・トリパティさん(撮影:得能英司)

ブースでは、ミサイル実験の映像が繰り返し流れている。ミサイルは高速で中空を飛び、最後は目標物を粉砕。黒煙と一緒に「Target Hit」の文字も映し出された。そんなミサイル部門でも、日本は将来の売り込み先になると考えており、この会場でも早速、海上自衛隊の関係者に宣伝したという。

ここで動画(約8分)を見てもらいたい。冒頭の映像はこのブラモス社が開発した超音速巡航ミサイルの実験シーンだ。ほかにも数々の武器やそのメーカーが登場する。

インドネシア企業や世界最大の軍需企業も

インドネシアは企業の合同ブースを設けた。武器製造のピンダッド社は日本との協力強化を狙っている。「(可能性は)結構あると感じています」と担当のバユア・フィアントロさんは言う。

「日本はとても高い技術を持っている。いい関係を作れると思う。(特に)エンジン(の分野で)。企業名は言えませんが、興味を持ってくれている企業があって、きょうのうちにも製品の詳細を送ります」

インドネシアの武器メーカーのバユア・フィアントロさん(撮影:得能英司)

見本市には、世界最大の軍需企業ロッキード・マーティン社などの有名企業も参加した。展示は潜水艦や護衛艦、探査システムなどの海洋関連が中心で、来場者には軍服の外国人も目立った。タイやインド、サウジアラビアなどからも参加があり、その数は39カ国に上ったという。主催は英国の民間団体で、日本の防衛省や経済産業省、外務省が後援している。日本の防衛装備品を外国にどう売り込むか。日本側としてはそれが最大の狙いだった。

世界125社が参加した見本市=上。各国の軍関係者が集った=下(撮影:いずれも得能英司)

武器輸出三原則の撤廃

武器輸出三原則は1967年、当時の佐藤栄作内閣が定めた。「共産圏諸国」「国連決議による武器禁輸国」「紛争の当事国かその恐れのある国」には輸出しないという内容。1976年には三木武夫内閣がそれを強化し、武器の輸出や国際共同開発を原則禁じた。米国への技術供与などを例外としつつ、政権が変わってもこの政策は基本的に維持されてきた。

武器輸出を実質的に全面禁止した三木武夫首相(当時)  (写真:朝日新聞社/ゲッティ)

転換は2014年4月だった。第2次安倍内閣は武器輸出三原則を撤廃し、新たに「防衛装備移転三原則」を閣議決定。日本の安全保障に資するなどの条件を満たせば、輸出や国際共同開発を認めることにした。

当時の小野寺五典防衛相は、厳しい財政事情と防衛装備品の高騰・高度化によって日本の防衛産業は苦境にある、と表明。衆院安全保障委員会では「(政策転換は)わが国の防衛生産、技術基盤の維持強化、ひいてはわが国の防衛力の向上に資する」と答弁している。

「V-22オスプレイ」の模型。ベル・ヘリコプター社の展示ブース(撮影:得能英司)

三菱「技術では他国に負けていません」

武器輸出三原則が撤廃された後、武器輸出はどうなったのだろうか。それを象徴する出来事は2016年4月に起きた。オーストラリアの次世代潜水艦をめぐる商戦。日本は「そうりゅう型潜水艦」を携え、官民挙げて参戦したにもかかわらず、フランスに敗れたのである。

そうりゅう型潜水艦(写真:海上自衛隊提供)

「そうりゅう型」を造る三菱重工業は、幕張メッセでやや広めのブースを構えていた。同社の防衛・宇宙セグメント企画管理部調査役、佐藤正次さんは言う。
 

「技術的に他の国に負けているとは思っておりません。まだまだ、われわれの知名度が低いとか、海外における対応に慣れていないとか、そういう反省をしております。(輸出は)政府主導。これからも政府の方針に従って対応していくことが大事と思っております」

技術力の高さを説明する三菱重工業の佐藤正次さん(撮影:得能英司)

政府や企業のこうした姿勢に対し、軍事ジャーナリストの清谷信一さんは、武器輸出を解禁したからといってすぐに日本の大型装備品が海外で売れるわけではない、と主張している。

「ちまちました物から売らないといけない。(いきなり)高いものは売れない。日本人は日本の防衛産業を過大評価しているんです。そもそも、日本の防衛産業は(武器)ビジネスを全然知らないんですよ」

日本のトップメーカー、三菱重工業。その潜水艦も海外輸出は難しい(撮影:得能英司)

「簡単に売れるわけがない」

スウェーデンのストックホルム国際平和研究所によると、世界の武器貿易は2014年、通常兵器だけで少なくとも945億ドルに達した。10年前のおよそ2倍だ。2011~2015年の国別輸出額では1位が米国で、ロシア、中国、フランスと続く。

企業別ではどうだろうか。

世界最大のロッキード・マーティン社と三菱重工業の軍需売上高を比べると、およそ10倍の差がある。世界の上位に並ぶのは軍需比率が高い欧米の企業だ。1990年代以降の企業再編によって巨大な軍事コングロマリットが誕生した結果でもある。一方、日本企業の軍需比率はいずれも20パーセント以下で、民生向け商品の製造を主とする企業が兼業で防衛品を生産している。

世界の軍事関連企業上位3社と日本企業の売り上げに占める軍需比率(2014)

幕張の会場に足を運んだ清谷さんには、日本勢のひ弱さが映ったようだ。

日本の防衛産業にとって、これまでの顧客は事実上、防衛省のみ。厳しい海外市場で競った経験はない。ビジネス上のリスクを取る覚悟もない。製品にも実戦の経験がない。これでは世界市場で勝負できない―。それが清谷さんの考えだ。

「(武器輸出を)やるなら古い装備を売るとか、部品とか汎用品とか。そういう物から輸出していく。『武器輸出ができる、即、戦闘機を売る』ではないんです。火の出るおもちゃはまだ(輸出は)できないんです」

会場で取材する清谷信一さん(撮影:オルタスジャパン)

「デュアルユース技術」を掲げて

武器輸出をめぐる環境はこの5月下旬にも少し変化した。自衛隊の装備品を他国に無償譲渡できるよう、自衛隊法を改正。それに先立つ3月には、海上自衛隊の練習機「TC-90」がフィリピンに有償貸与された。中古品を東南アジア諸国に供与するという扉も開き始めている。

そうした中、防衛装備庁はこの見本市で、軍民双方で利用可能な「デュアルユース技術」を前面に打ち出した。出展したのは中小企業5社。

防衛装備庁のブース(撮影:得能英司)

なぜ、デュアルユースか。日本の防衛政策に長く携わり、見本市の実行委員長も務める元防衛相・森本敏さんに取材すると、こんな答えが返ってきた。

「日本の防衛技術の基盤は、民生品の技術なんです。つまり汎用性の高い技術。今日の武器や装備品(の技術)はほとんど汎用品として使われている。汎用性の高い技術をどう上げていくか。防衛産業の将来に重要な意味を持っています」

見本市では、日本の大手企業もデュアルユースを売り込んでいた。NECもその一つで、推しは、音波探査技術を使った海洋監視システム。原発など沿岸部の重要施設エリアに水中から侵入があった場合、侵入者を検知する。同社宇宙・防衛営業本部長代理の大月暁生さんによると、民間用に開発を終えており、軍事目的で開発したものではないという。

NECの大月暁生さん。海洋監視システムをていねいに説明してくれた(撮影:得能英司)

デュアルユースは「ごまかし」

見本市の初日、会場入口では、市民団体が「死の商人おことわり」という横断幕を掲げ、反対集会を開いていた。デュアルユースを言い訳にして民生技術を組み込んだ武器が海外で子どもたちを殺傷することになる、という主張だ。

会場前で市民団体の人たちが掲げていた横断幕(撮影:得能英司)

米国の軍事産業に詳しい獨協大学の西川純子名誉教授(83)も同じような見解を持っている。防衛産業が裾野を広げていくためのごまかしの言葉。それがデュアルユースではないか、と。

「原発と核兵器がいい例だけど、一つの技術から二つの使い方が生まれるのは当たり前。日本は軍の蓄積された技術を持っていないわけですから、民間からそれを吸収していく、と。そのために政府はお金を出す。それを(政府は)デュアルユースと称しているんです」

獨協大の西川純子名誉教授(撮影:オルタスジャパン)

防衛装備品などの研究・開発を進めるため、防衛装備庁は2015年度から新制度を設け、大学への資金提供を拡充させている。それに対し、日本学術会議は今年3月、戦争目的の研究に反対する声明を出した。

西川名誉教授は言う。

「大企業にも中小企業にも科学者にも、軍需産業への抵抗感はある。自分たちのつくっているものを武器だと認識すれば、『やめとこう』っていうのがあるわけですよね? デュアルユースという言葉を使えば、『自分のやっていることは民生にも役に立つ』と安心するというか……」

女性が背負っているのは充電式のLED投光器。重さ5キロと軽量。工事現場の照明用に開発されたが、軍の捜索活動などに利用できるよう改良。防衛装備庁のデュアルユース向けブースに出展した(撮影:得能英司)

なぜ武器輸出か。専門家や当事者は…

自衛隊の歴史に詳しい中京大学総合政策学部の佐道明広教授(58)にも取材した。佐道教授は、戦後の防衛政策全体が目くらましで進められた、それが問題だ、と常々語っている。実態とかけ離れた、言葉遊びのような理屈付けの連続。国民に現実を見せないまま時間を費やし、安全保障の具体論を避けてきたツケが今になって噴き出している、と。武器輸出の解禁もそれと同じだという。

「戦後の日本は平和主義を掲げ、紛争地域に武器を売らないことで平和国家のイメージを定着させてきました。この信用は1年や2年じゃつくれません。それを変えてまで輸出する理由は何か。平和国家というソフトパワーを大事にしながら武器輸出を可能にするにはどうしたらいいか。二者択一ではなく、もっと具体的に議論する時期です」

新明和工業のブース=上。防衛省が開発中の「無人水中航走体」=下(撮影:いずれも得能英司)

「国民の理解に時間はかかる。PKOのように」

武器輸出三原則の見直しが国会で議論されていた2014年2月に、共同通信社が実施した世論調査がある。それによると、7割弱が輸出解禁に「反対」。当時は、国民合意を得られた、という状況にはなかった。

最後に再び、元防衛相の森本氏のインタビューを紹介しよう。

――防衛装備品の移転(輸出)は国民の合意が得られていないと思います。合意にはどのようなことが必要になると思いますか。

取材に応じる元防衛相の森本敏さん(撮影:得能英司)

「時間がかかると思います。技術や装備品が国の役に立っているという評価が広がって初めて、日本の国民にそれがどういう意味を持っているのかが分かる。PKOでもそうです。最初は『なんであんな所に行くのか?』と言って、25年かかって、いま国際社会の中で日本のPKOは最も高い評価を受けています。25年の歳月を要したということです。装備移転も同じような経緯をたどっていくと思います」

武器見本市「MAST Asia」は2年後の2019年、東京での開催が予定されている。

見本市でのシーン。上=ロッキード・マーティン社のプレゼン、中=日本製品に関心を示すオランダ海軍中将、下=来場者に配られた布製バッグ(撮影:いずれも得能英司)

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[制作協力]
オルタスジャパン
[写真]
撮影:得能英司、オルタスジャパン

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