本間誠也

内部告発者の「誇り」と「悔い」 「事件後」の日々を追って

2017/6/14(水) 10:30 配信

不正と思われる行為を知ったら、組織人のあなたはどうするだろうか。処分や不利益を覚悟の上で、それを表に出すことができるだろうか。迷いに迷った末で、内部告発者になる人たちがいる。それによって企業経営が揺らぎ、政治や社会が動くこともある。「東芝の粉飾決算」「免震ゴム偽装」といった最近の出来事でも、背後には内部告発があった。内部告発には正義感や義憤だけでなく、私怨や私憤も絡む。人はなぜ、内部告発を行うのか。その後の人生には何が降りかかるのか。内部告発者3人のその後を追うと、「誇り」も「後悔」もあった。
(本間誠也/Yahoo!ニュース 特集編集部)

神戸の街角で「負けへんで」

神戸・元町の繁華街で、水谷洋一さん(63)は月に数回、ハンドマイクを握る。
金髪に度つきのサングラス。必ず赤いTシャツを着込み、「まけへんで!! 西宮冷蔵」ののぼりも立てる。傍らにはいつも重度身体障害者の娘、真麻さん(28)がいる。

水谷洋一さん(左)は車いすの娘と一緒に街頭に立つ(撮影:本間誠也)

足元には手作りの小さな看板もある。「食品偽装は今でも私たちのすぐそばで行われています!」「知らないのはあなただけかも!?」の文字。そこにも「負けへんで」とある。

4月末の金曜日、その日も水谷さんは元町の繁華街に立った。娘と街頭に立つようになって5年余り。「雪印食品牛肉偽装事件」は多くの人が忘れたかもしれない。若い世代は事件そのものを知らない。まして、水谷さんの経営する「西宮冷蔵」(兵庫県西宮市)という企業を知る人は、地元以外にほとんどいないに違いない。

名門「雪印食品」の偽装を告発

水谷さんの内部告発はちょうど15年前の2002年だった。

雪印食品の牛肉偽装を伝える当時の新聞(撮影:本間誠也)

その前年の秋、日本で初めて狂牛病の牛が確認され、畜産農家や食肉業者は牛肉の出荷・販売ができなくなった。これに対し、農林水産省は国産牛肉の全量を買い上げる制度を設け、業界の救済に乗り出す。ところが、その制度を悪用し、輸入牛肉を「国産」と偽って助成金を騙し取ろうとする業者が現れた。「スノーブランド」で知られた名門企業・雪印食品もその一つだった。

同社の社員たちは2001年10月31日、輸入牛肉の保管先だった西宮冷蔵で「偽装工作」を密かに行う。豪州産を「国産」という箱に次々と詰め替えたのである。それを知った西宮冷蔵の社長、水谷さんは雪印側に対し、「『買い上げ申請の牛に間違いで輸入牛が混じっていた』と謝るべきだ」と告げたという。自らの倉庫内で行われた偽装。自分や世間をなめとったらいかんぞ、との思いがあったとも言う。

偽装工作に使われた段ボール。いまも当時のものが残っている(撮影:本間誠也)

しかし、雪印食品が応じることはなかった。西宮冷蔵が調べたところ、同社の倉庫内では計13トン、買い上げ価格ベースで約1500万円の偽装工作が行われた。雪印食品全体の偽装は計約2億円分に上ったことが後に判明している。

名門企業は消滅「告発の破壊力は予想以上」

「内部告発の破壊力は良くも悪くも予想以上でした」

2002年1月に新聞社などに偽装の事実を連絡した水谷さんは、そう振り返る。名前もさらけ出しての告発。それをきっかけとして新聞やテレビが取材に動き、牛肉偽装は連日、トップニュースになった。雪印食品も事実関係を認めて経営が急速に悪化し、告発から3か月後に同社は解散してしまう。

雪印食品の謝罪会見(写真:読売新聞/アフロ)

年商約2億円の西宮冷蔵も深刻な経営難に陥った。長年の取引先が相次いで契約を打ち切ってきたからだ。さらに「雪印食品と共謀して在庫証明を改ざんした」として、国から営業停止命令を受け、2002年末に休業を強いられてしまう。資金不足になり、自社と自宅の電気も止められてしまった。

「不正を告発したんだから、てっきり国から感謝されるもんだと思ってたんです。営業停止は青天のへきれき。取引先が次々と逃げていったのも計算違い。(告発によって)雪印食品のライバル企業は喜ぶだろうと思ったけど、それも浅はかでした。あとから相次いで発覚しましたが、よその会社も牛肉偽装やってたわけです。畜産業界全体を敵に回してしまったんです」

偽装工作が行われた西宮冷蔵の6番倉庫(撮影:本間誠也)

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