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得能英司

走れ、ちっちゃな警察犬!―― トイプードルなどの活躍、広がる

2017/06/15(木) 10:20 配信

オリジナル

トイプードルなどの小さな犬がちょこちょこ歩きながら、飼い主を引っ張っていく―。そんな和やかなワンちゃんの散歩風景は、もしかしたら「警察犬の捜査活動」かもしれない。いま、日本各地で小型の警察犬が次々と活動を始めているからだ。「警察犬といえばシェパードのような大型犬」という常識を覆す新潮流。小さな犬たちが走り回る現場に出掛けた。(Yahoo!ニュース 特集編集部)

ミニチュアシュナウザー「ファム」

石川県金沢市の江尻圭子さん(59)には、「ファム」という飼い犬がいる。白と黒の、ぼさぼさした長い毛。おおぶりの耳が垂れ下がるミニチュアシュナウザーだ。そのファムが警察犬になった。

警察犬になった「ファム」(撮影:得能英司)

7年前、災害救助犬の訓練を見る機会があり、その時みた動作をファムにさせてみたことが警察犬にするきっかけだったという。

「救助犬の真似事をさせてみたら、すいすい、と。はしごでも(何でも)ぴょんぴょん。しつけの延長から(救助の)訓練、訓練の延長から入って、最初は腕試しという感じで(警察犬の)試験を受けました」

江尻圭子さん(撮影:得能英司)

子育てを終えた江尻さんはパート仕事の傍ら、「嘱託警察犬」を育てる活動をしている。ファムの訓練を始める直前、ちょうど地元の石川県警が小型犬にも警察犬の門戸を開放した。警察が直接所有・育成する「直轄警察犬」と違い、一般の人が飼育する嘱託警察犬は1年に1回の試験で合格しなければならない。

その試験にファムは2年連続で合格した。

小回り、ソフトに… 小型犬ならでは

嘱託警察犬の試験は「足跡追及」と「臭気選別」に分かれる。足跡追及は、人の臭いを嗅ぎ、その足跡を追う。臭気選別はさまざまな臭いの中から人物を特定し、遺留品と容疑者が一致するかどうかを判断する。

「ファム」を連れての散歩(撮影:得能英司)

大型犬に混じって試験を突破したファム。まだ出動したことはないが、来る日に向けて備えている。

「合格してすごくうれしい。今までやってきた訓練の結果として、(合格証を)もらえたし。救助犬でも何でもそうですけど、本当は活動して、何か結果があって、評価されるべきものです。私はまだ現場をそれほど知りません。これからもっと勉強していかなければならないんです」

小型犬ならではの長所をどう感じているだろうか。

布に染み込ませた臭気を嗅ぎ分ける=上。災害現場に見立てた訓練場で機敏に動く=下(撮影:得能英司)

「やっぱり、大型犬にはない小回りですね。狭い所とか…。(また見た目の)いかつさがない分、例えば、小さな子供が行方不明になった時に、いかにもシェパードが捜しています、ではなく、普通にソフトな対処ができます」

「ファム」は災害救助の訓練もする。

取材の日、訓練場では、倒壊現場に見立てた瓦礫の中から見事に「行方不明者」を見つけだした。そんなファムの訓練、さらには他の小型犬たちを動画に収録した。時間は約6分。「これが警察犬?」と言いたくなりそうな活動の様子をじっくり見てほしい。

熊本にも京都にも 12道府県で22匹

小型の警察犬は全国にどのくらいいるのだろうか。Yahoo!ニュース 特集編集部が各地の警察に取材したところ、今年度採用された小型犬は12道府県で少なくとも22匹を数えた。

熊本県警は、トイプードルとミニチュアダックスフントを2匹ずつ警察犬にしている。同県警鑑識課の志賀正浩次席(58)は「熊本地震を教訓に災害現場での活動でも期待しています」と言う。小型犬は体力で劣るため、長時間の捜索などには向いていない。これに対し、狭い場所や倒壊家屋での人の捜索、商店街など人混みでの活動には向いている。

熊本県警の警察犬。トイプードルの「マリ」=左、「コロ」=右。共に1歳(写真:熊本県警提供)

ミニチュアダックスフントの2匹を警察犬に育てたのは、熊本県のお隣、宮崎県えびの市に住む新久保美枝子さん(38)だ。仕事と子育てを両立させながら、15年間ほど指導手を続けている。

熊本地震の際、この2匹は発生の3日後から出動し、救助犬として活躍したという。

ミニチュアダックスフントの「ベッキー」(左)と「ミキティ」(右)。いずれも7歳(写真:熊本県警提供)

観光客の多い京都府警にも小型犬が6匹いる。2歳のトイプードル「はな」は、浅生恵実さん(27)が飼育。爆弾の捜索が任務だという。訓練では、火薬の臭いがついた布を隠して捜索させ、発見したら「伏せ」で知らせる。布は段ボールや車、かばんなどに隠し、さまざまな状況に対応できるよう訓練を重ねているという。

京都府警のトイプードル「はな」=上。爆弾捜索の訓練では、狭い場所も嗅ぎ分けて入っていく(写真:浅生恵実さん提供)

増え続ける警察犬の出動回数

4月下旬、千葉県警本部。鑑識課の警察犬係に行方不明者捜索の出動要請が入った。中学生が家出し、行方が分からないという。捜索場所を決め、犬を準備し、出動させるまで、時間は20分足らずだった。

千葉県警本部の鑑識課警察犬係(撮影:得能英司)

警察犬の出動はここ10年、全国で増え続けている。警察庁によると、2016年に全国で警察犬が出動した回数は10634件。このうち行方不明者の捜索は6936件になった。しかも半数近い3165件が認知症の行方不明者。急速に進む高齢化社会を象徴するかのようなデータだ。

「千葉の事情もほぼ同じです」と警察犬係の田口秀幸警部補(56)は言う。2016年は直轄犬だけでも680件の出動要請があった。23年前の5倍である。

千葉県警の警察犬たち。厳しい訓練が続く(撮影:得能英司)

「圧倒的に多いのは認知症のお年寄りの行方不明の捜索で、出動は夕方に集中する傾向があります。昼に出かけ、夕食までに帰らない。家族の方が心配して110番するのは、どうしても夕方から夜に集中しますので、直轄犬だけは足りない。ぎりぎり。まったく余裕がないと言っていい」

千葉県警ではこれまで小型犬を採用していないが、田口警部補は他府県で実績などを注視した上で、「実績があれば小型犬の採用に期待してもいいのではと個人的には考えています」と語った。

殺処分の寸前だった「アンズ」

思わぬ事情で警察犬になったトイプードルもいる。最後にそれを紹介しよう。茨城県東海村の指導手、鈴木博房さん(66)が飼育する「アンズ」。大型のシェパード4匹と暮らす「アンズ」は、かつて殺処分寸前だったところを引き取られた。

鈴木博房さん宅でシェパードと一緒に暮らす「アンズ」(撮影:得能英司)

話は4年前にさかのぼる。

鈴木さんが茨城県の動物指導センターを訪れると、「アンズ」が持ち込まれていた。飼い主の男性は「言うことを聞かないので処分してほしい」と言い、センターの職員とやりあっている。茨城県では当時、飼育を放棄された犬は殺処分されることになっていた。

「職員の方が私に救いを求めたもんですから、飼い主の方にアドバイスしたんですよ。NPO法人をご紹介します、この子犬だったら譲渡できますから、とか。でも、飼い主は『もう要らない』と」

「アンズ」が持ち込まれた茨城県動物指導センター。茨城県では2016年に犬猫殺処分ゼロを目指す条例が施行された(撮影:得能英司)

結局、鈴木さんは「アンズ」を一時引き取り、欲しい人に譲渡しようと思った。ところが、家に連れて帰ると―。

「妻を見たら悲鳴を上げる。最初は分からなかったですけど、どうもこの子は女性からDVを受けていたんじゃないかと」

鈴木博房さんと「アンズ」(撮影:得能英司)

鈴木さんは「このままでは人に譲れない」と考え、家庭犬として、しつけることにした。そうこうするうち、「アンズ」の高い能力が見えてきた。

物覚えが良く、嗅覚の能力に優れている。シェパードを何匹も警察犬にした経験から、「アンズも警察犬にできるかもしれない」と考えたという。訓練を重ね2016年、茨城県警で初となるトイプードルの警察犬が誕生した。

遺留品の捜索訓練。「アンズ」が地面を嗅ぐ(撮影:得能英司)

小型犬の大きなメリット「発見」

鈴木さんはこんな話を披露してくれた。

「街中の捜査が非常に楽になりました。大型犬で活動すると、見学者が多くて。何ですか、何があったんですか、と。トイプードルでやっていますと、皆さん、散歩と思われて気付かないようで」

別の「発見」もした、と言う。大型犬の歩幅に比べ、トイプードルの歩幅は小さい。そこに大きなメリットが隠れていた。

シェパードとトイプードル。体の大きさも歩幅も3倍近く違う(撮影:得能英司)

「人間もそうですけど、一歩、歩くごとに息を吸って、吐いて、をやっているんです。息を吐いているときは臭いを嗅いでない」

歩幅が小さい分、大きな歩幅の犬が嗅ぎ残した部分を嗅ぐことができる。シェパードとトイプードルは、体も歩幅も3倍近い差がある。つまり、小型犬は大型犬より、細かな捜索が可能なのだという。

大型犬(上)と小型犬の歩幅。前を向いたときは息を吐いている(制作:オルタスジャパン)

一度は「要らない」と言われた犬が

出動の時、鈴木さんはシェパードと「アンズ」の両方を現場に連れて行く。山や藪の中ならシェパード、狭い場所や商店・住宅街なら「アンズ」。それぞれの長所を生かし、迅速で的確な捜索を展開するためだ。

「アンズ」と鈴木さん(撮影:得能英司)

行方不明者を生きて発見したときは、犬も大喜びする。

「周りの人が褒めますでしょ? 犬も喜ぶんですよ。褒められるのがうれしくて。この子は不憫なんですよね。捨てられた犬なんです。人間に『要らない』と言われた子がいま、人のために役立とうと、一生懸命やっているわけで。すごくそれを感じますね」

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[制作協力]
オルタスジャパン
[写真]
撮影:得能英司

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