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緊迫の朝鮮半島 中国は何を考えているのか

5/8(月) 10:34 配信

北朝鮮情勢が緊迫度を増している。米国・トランプ政権は、米空母や原潜を半島近海に送り込みながら、北朝鮮に対する中国の「影響力」に期待をかける。だが、中国が本当に北朝鮮に「圧力」をかけるのかどうか、疑う見方もある。中国にとって北朝鮮はどのような存在で、両国の関係は本当のところ、どうなっているのか。中国出身の専門家の話から、中国が今後どう行動するのかを占った。
(ジャーナリスト・野嶋剛/Yahoo!ニュース 特集編集部)

中朝「血の同盟」という神話は終わった

沈志華・華東師範大学終身教授

沈志華(シェン・ジーホア)。1950年生まれ。中国人民大学や香港中文大学で客員研究員を経て、2005年から華東師範大学の終身教授。2016年には同大学の冷戦国際史研究センター所長に就任。昨年、『最後の「天朝」 毛沢東・金日成時代の中国と北朝鮮』(岩波書店、上下巻)を刊行した(中国では未刊行)(撮影:パトリック・アレン)

いま中国で最も注目される北朝鮮専門家の沈志華氏に、親密にも見える中国と北朝鮮の関係が実は対立や敵意に満ちている実情を語ってもらった。

北朝鮮と中国との間に、朝鮮戦争で共に戦ったことで「血で結ばれた同盟(血盟)」という呼び方がありますが、この種の親密な中朝関係が現在まで続いている、というのは事実ではありません。

しかし、中国の指導部や中国社会では、人々の脳裏にそうしたイメージが存在し、いまも「血盟」があると思い込んでいるのです。私の著書『最後の~』の執筆目的はこの「神話」の解体であり、「血盟」と形容されるような中朝関係は冷戦の終結でとっくに終わっていることを証明するためでした。

毛沢東(左)と金日成(右)。神話としての「血の同盟」は、この2人から始まった(写真:AFLO)

中国の毛沢東時代、北朝鮮の指導者・金日成(キム・イルソン)との関係は良好でしたが、中国の人々が想像しているほどではありません。毛沢東は、中国の中央王朝が朝鮮を管理する「天朝」的な考え方を持っていました。望むものは何でも与えよう、人が欲しいなら人を、土地が欲しいなら土地を与える。だが、お前は私の臣下だ、というものです。

金日成は内心、独立と自主を望んでいましたが、現実は中国の支援に依存するしかなく、北朝鮮は抑え込まれていました。1970年代に金日成が韓国に攻め込む計画を立てた時も、毛沢東は同意しませんでした。

鄧小平時代の中朝関係は、冷戦崩壊とともに変化を迎えた(写真:Imaginechina/アフロ)

しかし、中ソ対立の時代になり、北朝鮮には中ソと距離をとりながら付き合う外交手段が生まれ、中国の力を借りてソ連に対抗したり、ソ連の力を借りて中国に対抗したりしました。毛沢東の死後、中朝関係は一気に弱まりました。

冷戦終結とともに中朝の「友情」は消えた

鄧小平の時代は、外交・経済・政治で、中朝は分裂します。中国はソ連を最大の脅威とみなし、米国を味方にソ連と対抗しました。一方、北朝鮮の最大の脅威は米国なので、北朝鮮はソ連と手を組んで米国に対抗しました。改革開放政策のもと、中国の北朝鮮への援助は削られ、貿易量も減少しました。さらに1992年の中韓国交樹立が決定的に重要でした。中国が北朝鮮に事前通知もせず、北朝鮮は深刻な裏切り行為だと受け止めたのです。

報道を通じた北朝鮮の挑発は続く(写真:AP/アフロ)

90年代の冷戦の終結までに、事実上、中朝の同盟と友情は消滅しました。しかし、中国の指導者は公開の場で認めず、政策的な調整もありません。毛沢東の影におびえ、誰も言い出せなかったのです。実際にはお互いの行動も変わっていました。五輪では北朝鮮は候補地の選定で中国に投票せず、中国は北朝鮮の開発特区をつぶしました。

米国は中国が北朝鮮の核開発を止めることを求めていますが、北朝鮮の新聞は、中国が米国と協力すれば裏切りになると批判しています。北朝鮮の本音は、中国と米国が対立し、衝突することにあります。そうなって初めて北朝鮮は生き残れるからです。冷戦時代、北朝鮮は確かに中国の友でしたが、いまや「潜在的な敵」になったとも言えます。

国内朝鮮族への波及を恐れる中国

楊海英:静岡大学教授

楊海英(よう・かいえい)。1964年中国・内モンゴル生まれ。1989年に来日。国立民族学博物館などで文化人類学を研究。著書に『逆転の大中国史』『チベットに舞う日本刀 モンゴル騎兵の現代史』(ともに文藝春秋)など。(撮影:岡本裕志)

中国の民族問題や辺境問題に精通する楊海英氏に、朝鮮族を国内に抱え、北朝鮮問題が波及することを懸念する中国の内情を聞いた。

中国にとっては、200万人を超える朝鮮族がいる東北地方の延辺朝鮮族自治州の問題は切実です。国境を超えて、北朝鮮と韓国の情勢が、自国領内の少数民族である朝鮮族の動向に影響を与えることを北京(中国政府)は知っているからです。中国ではモンゴルやチベットは自治区ですが、朝鮮族は人口も多く地域も広いのに自治州のままで、自治度は低い。朝鮮族は自治区を求めましたが、北京が応じなかった歴史があります。

1950年代後半の反右派闘争や1960年代から70年代にかけての文化大革命でも朝鮮族のエリート層は多数粛清されました。文革時代、毛沢東のおいである毛遠新が遼寧省のトップとして派遣されており、粛清は毛遠新の指令でした。毛沢東に絡む問題になるので、共産党の歴史研究でも責任を追求できず、余計に根が深い問題になっています。

延辺朝鮮族自治州を訪問した習近平(シー・ジンピン)・中国国家主席(新華社/アフロ)

北京の指導者は、自国の朝鮮族が、経済発展した韓国に憧れを抱いていることを知っています。北朝鮮も貧しい独裁国家ですが自分の国ではあるので、自治州よりいいと考える人が朝鮮族には多く存在します。朝鮮族の動向は中国にとって頭痛のタネです。彼らが分離独立を主張して朝鮮半島と一つになろうとしないか危機感を抱いているので、中国は朝鮮半島に単一政権ができることは望みません。朝鮮族が不安定化すれば、モンゴルやチベット、ウイグルにも波及し、辺境情勢が不安定になるからです。

中国の北朝鮮政策は、自国の辺境問題とつながっている(写真:AP/アフロ)

狙いは、半島分断という「現状維持」

中国の歴代王朝の対朝鮮半島政策は、影響力を維持するため、半島の政治勢力の分裂状態を望んできました。北朝鮮と中国は仲がいいかというと良くないし、好きかというと、嫌いです。しかし、延辺の朝鮮族を抱える以上、北朝鮮と韓国に、自治州を加えた「三国分裂状態」がいちばん望ましく、基本的には現状維持の姿勢です。

これに対して、北朝鮮が核を持つのは、日米韓への挑戦だけではなく、中国への対抗でもあります。北朝鮮は独自性を強調し、中国とも対等な関係を求めてきました。「血盟」は中国には都合のいい話ですが、北朝鮮には朝鮮戦争で守ってもらったという話で、それほど、ありがたい話ではないのです。北朝鮮が核を持てば中国は北朝鮮を無視できなくなり、延辺の朝鮮族を鼓舞することにもなります。ですから、北朝鮮は核によって中国と駈け引きしているのです。

トランプの力を借り、北の核除去を狙っている

朱建栄・東洋学園大学教授

朱建栄(しゅ・けんえい)。1957年生まれ。上海出身で、1986年に来日。東洋学園大学グローバルコミュニケーション学部教授。在日本の中国人学者のなかで最も高い知名度を誇り、中国政治や日中関係について発言している。北朝鮮に関する著書に『毛沢東の朝鮮戦争』(岩波書店)(撮影:岡本裕志)

中国の対北朝鮮政策や中国外交に詳しい朱建栄氏に、今回、米国との協力に応じる構えを見せる習近平政権の本音を聞いた。

普段の北朝鮮は素直に中国の言うことを聞きません。日米から「中国は圧力をかけろ」と言われ、圧力を実際にかけても効き目がないと責任問題になります。中国はそのあたりは表に出さず、「我々は北朝鮮を左右する力を持っていない」という態度をとります。

中国があらゆる手段を使えばなんとかできるかもしれません。圧力の第一歩は、北朝鮮の外貨収入源の半分を占める石炭の輸入を禁止することです。最後の手段は石油供給の停止です。北朝鮮の経済はまひするでしょう。しかし、いったんパイプラインを止めると、北朝鮮向けの中国東北部にある大慶油田の原油に雑分が多いこともあり、パイプラインの修復は容易ではないと聞きます。石油の禁輸は最後の手段で、簡単に切れるカードではない。もし使うとすれば、10年や20年に一度しかないギリギリの選択となります。

中越戦争から35年後。ベトナムのハノイ市内では反中デモが行われる(写真:ロイター/アフロ)

北朝鮮は中国の隣国で、敵に回すとその恨みは20年や30年は解消できません。後々が大変なのです。前例はベトナムです。1984年の中越戦争の恨みは民間レベルでいまも続いています。1962年の中印国境紛争の結果、インドは現在も中国を脅威だとみなしています。だから、圧力には慎重なのです。

しかし今回、中国はそのカードを使う可能性があります。理由は北朝鮮の核開発です。北朝鮮の核実験は中朝国境から70キロという場所で行われ、過去、核実験の地震で中国側の住民が逃げ出すパニックを起こしました。北朝鮮の核管理のずさんさによる放射能漏れも心配です。

中国に、北朝鮮を止めることはできるのか(写真:ロイター/アフロ)

金正恩(キム・ジョンウン)体制はおじの張成沢(チャン・ソンテク)を処刑し、実兄の金正男(キム・ジョンナム)も殺害されるなど、何をしでかすかわからない。米国はトランプの登場で米中関係が仕切り直しになり、今年秋には大切な共産党の党大会もあります。トランプ政権が新しい米中関係の試金石にぶつけてきた北朝鮮の問題できちんと対応しないと、米中関係の悪化をもたらす恐れが大きい。

核開発は止めたい

中国が止めたいのは北朝鮮の核開発です。そして今回、重要なのは、米国のトランプ大統領という「暴れ者」のパワーを借りて、北朝鮮の核開発を止める「借刀殺人(自分の手を汚さずに敵を倒すこと)」のチャンスにしようという発想を中国政府は持っていると、中国内の学者も指摘しています。中国が米国の圧力を怖がっている「そぶり」をみせれば、北朝鮮にも恨まれません。今回は米国の空母や原子力潜水艦の接近も批判しておらず、北朝鮮が核実験を強行すれば米軍の空爆もやむなしと考えるかもしれません。

習近平とトランプ。思惑が入り乱れる。この4月の米中首脳初会談で(写真:ロイター/アフロ)

米国は北朝鮮の核実験の中止だけにとどまらず、保有する核兵器の放棄もさせようとするでしょう。中国は米中交渉の実現も双方に働きかけると予想されます。北朝鮮問題で協力するかわりに、米中関係の安定を図ろうというのです。中国には、核を除去した北朝鮮に中国が核の傘を提供し、北朝鮮の体制を存続させながら、中国流の改革開放路線をとらせる、というシナリオが理想です。

米中の目標が一致し、トランプの「鉄拳」を使って米国が圧力をかけ、中国が説得役を務める「二人羽織」を演じながら、北朝鮮の核除去をうまく実現できれば、朝鮮戦争以来、アジアで残った世界で最後の冷戦構造を打破する画期的な展開になります。

「二人羽織」の戦略は、北朝鮮危機を解決に導けるだろうか(写真:ロイター/アフロ)


野嶋剛(のじま・つよし)
ジャーナリスト。1968年生まれ。1992年朝日新聞社入社後、シンガポール支局長、政治部、台北支局長、国際編集部次長、AERA編集部などを経て、2016年4月からフリーに。中国、台湾、香港、東南アジアの問題を中心に活発な執筆活動を行っている。最新刊に『故宮物語』(勉誠出版、2016年5月)、『台湾とは何か』(ちくま新書、2016年5月)。

[写真]
写真監修:リマインダーズ・プロジェクト
後藤勝
トップ画像素材:ロイター/アフロ

(最終更新:5/9(火) 15:18)

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