グレッグ・ノックス氏提供

トランプ政権100日 保守地域の変わらぬ支持

5/2(火) 9:27 配信

トランプ米大統領が就任100日を迎えた。45%という史上最低の数字で始まった支持率はさらに低下し、かつてない不人気が続いている。しかし、支持が揺るがぬ地域、支持を変えぬ人々もいる。保守色が強く、代表的なトランプ支持エリアと言われる中西部のオハイオ州もその一つ。足を延ばすと、「製造業再生による強い米国」を求め、トランプ大統領を熱烈に支持する人々が大勢いた。(立岩陽一郎/Yahoo!ニュース 特集編集部)

さびれた工業都市 オハイオ州デイトン

オハイオ州の工業都市、デイトンほど米国の変化を体感できる都市はないかもしれない。ここには以前、世界に冠たるゼネラル・モーターズ(GM)の製造拠点があり、自動車の本体工場だけで約5000人の雇用があったという。関連産業も含めると、雇用は数万人だったとされる。

その光景はすっかり過去になった。「米国の力」を象徴する自動車産業は日本やドイツに敗れ、製造拠点は次々と海外へ。デイトンで最後まで踏ん張っていたGMの工場も2008年に閉鎖された。工場周囲には今、広大な駐車場や鉄道の引き込み線が残され、街は日中も人通りが少ない。商店街も空き店舗が目立つ。

閉鎖されたデイトンのGM工場(撮影:立岩陽一郎)

大統領に招かれた中小企業の経営者

デイトンにはトランプ大統領と直接会った中小企業の経営者がいる。機械販売会社社長のグレッグ・ノックス氏(54)。3月13日にホワイトハウスへ招かれ、約1時間、中小企業経営の厳しさなどを聞いてもらったという。

ノックス氏が取材に応じてくれた。「驚くべきことでした。中小企業の経営者が大統領に招かれたんですよ!」

デイトンで会社を経営するグレッグ・ノックス氏(撮影:立岩陽一郎)

会合にはノックス氏のほか、ソフトウエア会社経営の男性や農場経営の女性ら10人近くが招かれた。大統領執務室近くの会議室で待っていると、トランプ氏は笑顔で入ってきたという。

「信じられなかった。真向かいに大統領が座っているんです。中小企業の経営者と会うなんて、オバマ大統領は全くしなかった。(民主党の)ヒラリーが大統領になっていてもそんなことはしなかったと思う」

ホワイトハウスで娘が描いた似顔絵をトランプ大統領に渡すノックス氏=左(写真:グレッグ・ノックス氏提供)

最盛期に約20万人だったデイトンの人口は今14万人ほどしかいない。GM工場の閉鎖以降、減少はさらに顕著になった。

こうした地域を米国では「ラストベルト(錆び付いた一帯)」と呼ぶ。自動車工場などで使われていた鉄が使われずに錆びる(ラスト)様子を、旧工業地帯の凋落と重ね合わせた言葉だ。オハイオ州のほか、ミシガン州やペンシルバニア州などが該当する。

このラストベルトにこそ、トランプ氏を大統領に押し上げた源泉はある。その傾向は大統領選の結果にも現れている。

「米国をもう一度、ものづくり大国に」と訴え

ホワイトハウスに招かれたノックス氏は大統領の向かいに座り、「米国をもう一度、ものづくり大国にすることが重要です。製造業を再生し、米国を再び工業品の輸出国にすべきです」と訴えた。これに対し、トランプ大統領は「製造業の強化は重要だ。そのためにもNAFTA(北米自由貿易協定)など(多国間で自由)貿易協定を結んではいけない」と話したという。

ノックス氏は言う。

「大統領は参加者の発言にあまり口をはさまず、耳を傾けていました。そこに本気度を感じました。製造業の復活をやってくれると思う」

中小企業経営者が招かれたホワイトハウスでの会合は、ほかにもあった(写真:スティーブン・スタウブ氏提供)

「ものづくりの再生で強い米国を」

輸入機械を扱うノックス氏のオフィスには、自社の仕事内容を取引先に紹介する場所がある。その一角で彼は「これは日本の機械。こっちは韓国の機械。向こうはスイスの機械です」と説明してくれた。「美しいでしょう? どれも世界最高の機械です。特に日本製はすばらしい」。そこに米国製はない。

ノックス氏は生まれも育ちもニューヨークだ。貧しいながらも、懸命に働くことを美徳とする一族に育ったことが誇りだという。結婚して子供が生まれたのを機に、家族の美徳が息づくオハイオ州に移住し、1996年に今の会社を興した。

「強い米国をつくるためには製造業の再生を」と語るノックス氏(撮影:立岩陽一郎)

トランプ支持の理由は明快だ。

「起業家精神を尊び、労働者の勤勉さを重視する政策を掲げた。それに尽きます」。トランプ政権は国内産業を振興させるため、輸入品の関税を強化する可能性がある。輸入品を扱うノックス氏にはマイナスかもしれないが、それも気にしていない。

「自分たちの代だけに都合の良いことを言うのは、もうやめよう、と。子供の世代、さらにその次の世代にとって何が良いかを考えないといけないんです。米国は機械を造る能力を失いました。機械を造るのは機械です。車、飛行機、ロケットも全て。機械を造れないと、何も造れませんから」

コーヒーチェーンやネット上のツールで成り立つ国ではなく、人々が生活するための機械を造る国にならなければならないし、それが米国本来の姿だ、とノックス氏は繰り返した。

デイトンの中心部。製造業の撤退で寂れた。人も車も少ない(撮影:立岩陽一郎)

経営者の会合でもそろって「トランプ支持」

地元の経営者が集まる商工会議所の会合にも足を運んだ。参加者は全員が白人で、会合場所となったホテルの一室には星条旗が飾られている。機械製造会社の重役、デヴィッド・ウェルカー氏(62)に話を聞くと、「もちろん、トランプ大統領を支持している」と言う。

あっけらかんとした支持表明。こういう反応は、民主党支持の多いニューヨークや首都ワシントン、西海岸のカリフォルニア州ではほとんど見られない。これらの地域は昨年秋の大統領選で、民主党のヒラリー・クリントン氏を強く支持したことで知られる。今でも多くの人がトランプ氏に批判的だ。

商工会議所の会合に出席したデヴィッド・ウェルカー氏。熱烈なトランプ支持者(撮影:立岩陽一郎)

それを指摘すると、ウェルカー氏は「あそこは別の米国だからね。ここが本当の米国だ。ようこそ本物の米国へ」と切り返してきた。「ニューヨークなどはリベラルな考えに凝り固まった人々が集まった場所。外国の影響も大きい。住んでいる人間の多くが英語を話せないなんて、米国じゃない」

中西部では支持率上昇

ギャラップ社の調査によると、トランプ大統領は45%という史上最低の支持率でスタートし、その後も支持率は低下している。毎日の数字を見ると、最近は時折、30%台に落ち込むこともある。しかし、ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、例外的に支持率が上昇している地域もある。保守色が強く、代表的なトランプ支持エリアと言われる中西部のいくつかの街がそれで、デイトンも当てはまる。

デイトンの商工会議所の会合。星条旗の横でスピーチが続く(撮影:立岩陽一郎)

オハイオ州では白人の割合が80%を超す。これに対し、例えば、カリフォルニア州は2010年調査で60%以下。こうしたことから、トランプ氏支持者には「非白人に強い反発を持つ没落した白人」という評がつきまとう。

ウェルカー氏はこう言った。

「私たちを白人の人種差別主義者だと思っているんでしょう? それは違う。私は(非白人の)日本人のビジネスマンとゴルフをするのが大好き。君とだって、ワンランド回れば友だちだよ」

GM工場跡地の周辺。使われていない建物が並ぶ(撮影:立岩陽一郎)

多くの労働者は失職 そしてトランプ支持

ノックス氏やウェルカー氏といった経営者ではなく、かつては工場で働き、職を失ったような人々はトランプ政権をどう見ているだろうか。

ケイト・ゲイガーさん(53)はGMの工場閉鎖で失業した。その後は職を転々とし、今はビール工場で働いている。自ら「生粋のブルー・カラー(労働者)よ」と言う。大統領選の予備選をきっかけにトランプ支持になった。

GMの職を失い、職を転々とするようになったケイト・ゲイガーさん(撮影:立岩陽一郎)

「他の候補と違うって、共和党の公認争いの時に分かったの。彼だけが政治家じゃなかった。もう政治家はうんざり。利権とつながり、自分の利益になることしかしない。トランプは違った。(米国の利益にならないと判断したら)企業経営者も脅すでしょ? 政治家はずっと、企業が雇うロビイストによって動かされてきたけど、彼は初めて、その逆をやったのよ。政府は人々にチャンスを与えるべきなのに、過去のリーダーはビジネスマインドがなかったのよ」

「ものづくり復権」に向けロボット大会

4月中旬、デイトンでロボット大会があった。会場は州立大学の体育館。高校生や大学生らが自ら作ったロボットを対戦させるイベントで、地元の経済人らが仕掛けたという。

特設リングは強化ガラス製の立方体。約3メートル四方の箱の中で、2基のロボットが戦う。互いに体当たりを繰り返し、そのたびに「バリバリバリ」と激しい音を出す。火花が散り、部品も飛ぶ。激しい金属音の連続だ。

デイトンの州立大学で開かれたロボット大会(撮影:立岩陽一郎)

ある対戦では、1基が「ドーン」という音を立てて強化ガラスにぶち当たり、動かなくなった。審判役の男性がカウントダウンを始め、「…ナイン、テン!」と口にすると、観客は総立ちに——。会場では、こんな光景が繰り返された。主催者側によると、「ものづくり復権」を狙ったイベントだという。

ロボット大会の観客席に陣取る選手の保護者や地元住民たち(撮影:立岩陽一郎)

決勝戦は夜7時ごろに始まったにもかかわらず、多くの学生や保護者らが残っている。最後まで見守った技術者の男性もトランプ支持者だった。「チームでロボット製作に励み、エンジニアリングの奥深さを身に付けている。すばらしいこと。今の子供はものづくりを避けるけれど、本当はものづくりは楽しいことなんだ」

大会を支援するスティーブン・スタウブ氏(47)にも話を聞いた。部品製造会社を経営し、トランプ氏を支持している。

大会を支えたスティーブン・スタウブ氏もトランプ大統領を支持する(撮影:立岩陽一郎)

「私たちが大統領に求めていることは、もう一度、この国を製造業の強い国にすること。(実現できていない公約はあるが)全く失望していません。オバマケア(国民皆保険)は撤廃できなかったが、それでも改革に手を付けた。TPP(環太平洋連携協定)やNAFTAからの脱退も表明しました。税制改革もすぐやると言っている。これだけのスピード感でものごとを進める大統領は初めてです。政権発足から100日でこんなにたくさんのことを矢継ぎ早にやった大統領は過去にいません」

真剣な表情で対戦を見守る学生たち。ロボット大会は「製造業再生」をにらんで地元の経済人らが仕掛けたという(撮影:立岩陽一郎)

【動画】トランプ支持者の声を聞いた


立岩陽一郎(たていわ・よういちろう)
調査報道を専門とする認定NPO「iAsia」編集長。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院卒業。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクとして主に調査報道に従事。2016年、「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。現在はアメリカン大学客員研究員としてワシントンDC在住。「Yahoo!ニュース 個人」オーサー

[取材]
立岩陽一郎
[写真]
撮影:立岩陽一郎 
提供:グレッグ・ノックス、スティーブン・スタウブ
[動画]
立岩陽一郎

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