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塩田亮吾

指先で世界動かす140字――― 「ツイッター政治」をどうみる

2017/03/21(火) 12:41 配信

オリジナル

指先でつぶやく140字が世界を動かしている。1月に米国大統領に就任したドナルド・トランプ氏は、大統領選の期間、1日何度もつぶやき続けた。「メキシコとの国境に壁をつくれ」といった過激な発言は、しかし、日増しに多くの支持者を集め、大統領の座を射止めるに至った。そして、大統領になってからもつぶやきは続いている。ツイッターで動いていく政治や社会を歓迎すべきなのか、懸念すべきなのか。3人の識者に尋ねた。(ノンフィクションライター・秋山千佳、ライター・庄司里紗/Yahoo!ニュース編集部)

政治家はどんどん指先から発信せよ
猪瀬直樹・元東京都知事、作家
対立を煽るツイートこそがトランプ勝利の要因だった
西田亮介・東京工業大学准教授
最悪の形で実現したツイッター政治
津田大介・ジャーナリスト

(写真: ロイター/アフロ)

政治家はどんどん指先から発信せよ

猪瀬直樹・元東京都知事、作家

猪瀬直樹(いのせ・なおき)1946年生まれ、長野県出身。作家。80年代から作家活動。代表作に『ミカドの肖像』(1987年大宅壮一ノンフィクション賞)、『日本国の研究』(1997年)。道路関係四公団民営化推進委員会、地方分権改革推進委員会などの委員を歴任。2007年から2012年まで東京都副知事、2012年12月から2013年12月まで東京都知事(撮影: 塩田亮吾)

トランプ大統領のツイッターはフォロワーが2500万人くらいいる。彼がつぶやけばメディアも取り上げる。だから伝播力はすごい。

そんなトランプ氏のツイッターをメディアは批判するが、僕は積極的な発信は悪くないと思っている。彼は政治家に不可欠な「肉声」をもっている。

そもそも、当選しそうにないと思われていた彼が勝利したのは、「フェイク」も含めてとにかくメッセージを発信したから。メキシコからの不法移民の排斥などの過激なメッセージは、国民の意識下に沈殿する本音まで届き、国民の不満を撹拌(かくはん)するように吹き出させた。彼はまぎれもなくアメリカの民意で大統領になった。それを可能にしたのが、ツイッターでの言葉だったと思う。

イスラム圏国民の入国禁止の大統領令などで非常に批判も多い。しかし、この大統領令についても、賛成が49%で反対41%を上回っている(1月末の米ロイターの世論調査)ように、民意と違うことはしていない。行き過ぎた場合は司法が抑止力になる。

イスラム圏7カ国からの入国を一時禁止する大統領令に署名(2017年1月27日)。左はマイク・ペンス副大統領、右はジェームズ・マティス国防長官(写真: ロイター/アフロ)

ツイッターはメディアを通さず直接受け手に情報を届け、世を動かすことができる。それは僕自身の経験でもある。

僕がツイッターのすごさを実感したのは2011年の東日本大震災。地震発生からまもなく、東京都のホームページはパンクした。数百万の帰宅困難者が、都営線などの交通情報を知ろうとアクセスしたから。東京都副知事だった僕は、停まっていた都営線が何時何分に再開するのかを把握したところで、すぐツイッターで流した。そのツイートは瞬く間に1万リツイートを超えて広がった。

また、その日の深夜、宮城県気仙沼市の公民館で火の海に囲まれている人たちがいるとツイッターで知り、直ちに東京消防庁から大型ヘリコプターを出動させた。それで446人が救出された。どちらもすぐに事態が動き、多くの役に立った。

2016年もツイッターの力を実感することがあった。東京都知事選です。2011年に自殺したある都議会議員が、遺書で「都議会のドン」こと自民党都連・内田茂前幹事長によるいじめを訴えていた。僕がその遺書を都知事選の告示日前にツイッターに投稿したところ、合計で1万5000近くリツイートされ、インプレッション(閲覧された回数)は276万にもなった。この投稿が、反自民都連の大きなうねりを作る一端になった。

既存メディアだけの時代なら、支持基盤の強くない小池百合子さんは劣勢だったはず。しかし、僕のツイッターからどんどん人が集まり、支持が増えていった。実際に社会を変えるメディアツールになっている。

猪瀬氏がツイッターを使い始めたのは東京都副知事だった2010年3月(撮影: 塩田亮吾)

アメリカで大統領選は4年に1回の“王位継承戦争”で、いわば銃を使わない南北戦争(内戦)のようなもの。トランプ大統領の言動が行き過ぎなのは、今はまだ選挙からのお祭り状態にあるからで、そのうち騒ぎは収まるだろうと思う。新しく選ばれた政治家がやるべきことは、前任者がつくってきた体制を否定すること。変革をするのが政治家の仕事だ。

そうした変革には情報こそが重要。ツイッターでの情報発信に「フェイク」が含まれていることで、メディアはトランプ氏を叩く。しかし、フェイクであれば、真相はいずれ究明される。実際、マケドニアの若者がフェイクニュースを流していたことだって、メディアに解明されている。それより大事なのは、新聞よりもテレビよりも早い情報発信によって、トランプ氏が現実をどんどん動かしていることだ。問われているのはメディアのチェック機能なのだ。

その意味で、僕は日本の政治家も指先からどんどんビジョンを発信すればいいと思う。(スマートフォンを手に)とりあえずこれが成果を上げていることは間違いないんだから。

(写真: ロイター/アフロ)

対立を煽るツイートこそがトランプ勝利の要因だった

西田亮介・東京工業大学准教授

西田亮介(にしだ・りょうすけ)1983年京都府生まれ。東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。博士(政策・メディア)。専門は、公共政策、情報社会論。主な著書に『ネット選挙 解禁がもたらす日本社会の変容』『ネット選挙とデジタル・デモクラシー』などがある(撮影: 塩田亮吾)

トランプ大統領は大統領選の頃からツイッターを駆使し、過激な言説や真偽の定かでない情報を発信しています。発言の中身については批判もありますが、彼がツイッターを使った選挙キャンペーンに成功したのは間違いありません。ただ、ツイッターだけで当選したわけではないでしょう。というのも、実際の有権者の投票行動には、ソーシャルメディア以外にも社会状況、政策、人物、過去の業績といった複合的な要因が影響します。

確かにこれまでのとにかく情報チャネル(経路)と量を増やすキャンペーンのアプローチに対して、チャネルと情報量を限定する真逆のアプローチはユニークですが140字で世界が動くほど選挙は単純ではないはずです。

2015年秋、大統領候補者選の選挙運動中、自らツイートする姿をみせる(写真: The New York Times/アフロ)

ぼくが2013年~14年にかけて毎日新聞社と行なったネット選挙の共同研究では、多くの日本の国会議員はそもそもアカウントをもっておらず、ツイッターで効果的に情報発信をできていませんでした。その後の他の研究からも、今の日本の選挙におけるツイッターの影響は限定的といえます。

むしろ一連の共同研究で浮かんだのは、ソーシャルメディアの登場で増大する情報を消化しきれず、思考停止におちいる有権者の姿でした。

大統領就任後も選挙戦中と変わらずツイートを続けている(写真は2017年1月20日、就任祝賀舞踏会)(写真: ロイター/アフロ)

では、なぜトランプのツイッターキャンペーンは成功を収めたのか。

ツイッターは、自分が「フォロー」した相手のツイートのみが自分のタイムライン上に表示されます。それはつまり、自分に心地のよい情報だけが流れ、不快な情報は目に入らない偏った情報環境とも言えます。そこで好みの似たユーザー同士がコミュニケーションを繰り返せば、価値観は当然、偏っていく。これを「分極化」と言います。

ネットにおける政治的なコミュニケーションに詳しいアメリカの憲法学者キャス・サンスティーンは、ソーシャルメディアなどを通じて「共感」を操り、社会と世論の分極化を危惧していました。

アメリカの大統領選挙は、世界最大の権力者を決める戦いであり、多くのPR企業、広告代理店などがしのぎを削ります。そういう意味では今も昔も「プロの極化屋(対立する考えを煽るような人)」の主戦場といえますが、最近は政治の当事者さえも「極化屋」の傾向を強めている。トランプの言動は、その典型でしょう。情報チャネルと量を制限し、ネットに加えて、マスメディアの強い関心をもたせることに成功しました。ニュースバリューとメディアの特性を読み切っていたように見えます。

東京工業大学の研究室で(撮影: 塩田亮吾)

トランプは記者会見を拒絶し、情報の出し口をツイッターに絞りました。そして政策や数字、理念などの小難しい話題は避け、感情的で差別的な、しかし人々の耳目を集める発言を繰り返しました。トランプは情報過多の時代を逆手に取り、情報を間引くことでメディアを翻弄し、世論を動かしたのです。

「政治的な正しさ」よりも「好き嫌い」を優先するのが今の政治ならば、感情や共感を生むツイッターなどのソーシャルメディアは、今後も政治でいっそう活用されていくでしょう。このような政治マーケティングが高度化する時代だからこそ、社会と人々をつなぐメディアの役割と責任は、ますます大きくなっています。情報過多の時代における膨大な情報を整理、分析し、人々に確実に届き、そして理解できる/させるコンテンツに落とし込む。そんな「機能的なジャーナリズム」が強く求められていると思います。

最悪の形で実現したツイッター政治

津田大介・ジャーナリスト

津田大介(つだ・だいすけ)1973年生まれ。ジャーナリスト。早稲田大学社会科学部卒。主な著書に『動員の革命――ソーシャルメディアは何を変えたのか』『ウェブで政治を動かす!』『ゴミ情報の海から宝石を見つけ出す――これからのソーシャルメディア航海術』などがある(撮影: 塩田亮吾)

2012年に『ウェブで政治を動かす!』という本を書きました。ツイッターなどソーシャルメディアを積極的に利用することで、政治を変え、国を動かしていこうと投げかけた内容です。

あれから5年、アメリカでツイッターを駆使するトランプ大統領が生まれました。彼は1日に何度となくツイートして、政治や経済を動かしている。しかも、悪い形で。こういう事態は想像していなかったというか、5年前に想像した社会が最悪の形で実現してしまったようにも感じています。

140字しか発信できないツイッターは、政治の議論の場としてふさわしいものではありません。このツールの強みは議論そのものではなく、議論の喚起です。ツイッターが複雑な議論には向かず、議論喚起のための材料という指摘は同書でもしていました。しかし、実際はこちらの想像以上でしたね。

「ウィキリークス」創設者のジュリアン・アサンジは、ツイッターをはじめとするソーシャルメディアの役割をこう述べています。「ニュースへの多様な視点を提供するもの。そして拡声器であり、情報源である」

2015年6月、大統領共和党候補者選への出馬を表明。「メキシコとの国境に壁を建設」「イスラム教徒の入国禁止」などは、この記者会見でも主張していた(写真: ロイター/アフロ)

昨年、待機児童問題に注目を集めた「保育園落ちた日本死ね!!!」は、まさにそんな役割を果たした事例でしょう。匿名ダイアリーに書かれた個人の叫びが、ツイッターで広まった。これまでなら社会問題に苦しむ人は記者の取材を待つしか道がなかったのが、ネットで話題にすることで、メディアで、さらには国会で取り上げられるきっかけを作ることができるようになったのです。問題は「日本死ね」で喚起された問題意識が、なかなか公共の場の議論に昇華していかなかったことにあると思います。国会まで行ったことは良かったと思うのですが……。

「保育園落ちた日本死ね!!!」のブログも取り上げ、待機児童問題について質問に立つ民主・山尾志桜里氏(2016年2月29日、衆院予算委員会)(写真: 毎日新聞社/アフロ)

ネットの中だけで完結させると、支持する人と糾弾する人とで議論が「分極化」して、中立的な意見が消えていく傾向があります。これを発展的な議論にするには、まだまだ既存のマスメディアの力が必要でしょう。ネット上で紛糾している問題を拾い上げ、公論の場を提供する。マスメディアが本来持つ「フォーラム機能」を提供する装置となるのです。

多様な意見が存在するのがネットのよいところなのですが、極端に偏った意見やフェイクニュース、ヘイトスピーチまであり、そうしたネガティブな情報が幅を利かせるようになったことも事実です。ツイッターでも差別を助長する書き込みや、事実に基づかないデマはけっして少なくありません。こうした問題がある情報発信に対して、やるべきことは二つあると思います。

一つは、そういった情報を流すことで収入を得る道を断つことです。情報を意図的に歪めて流す人やヘイトスピーチを流す人は、広告業界側でブラックリストをつくって広告を貼れないようにする。

もう一つは、発信者情報を辿れるようにすることです。プロバイダに半年や1年はログを保管するよう義務を課し、外形的に人権侵害が明らかな場合は発信者情報を開示させる。匿名やニックネームでも発言の責任はとってよ、という話です。どちらも対症療法でしかありませんが、表現の自由を直接侵害しないという大きなメリットがある。この二つの対策を徹底して講じるだけでも、ネットの言論空間の雰囲気はだいぶ変わるはずです。

ツイッターにかつてあった「気軽さ」はなくなった(撮影: 塩田亮吾)

昔は情報の起点が新聞やテレビしかなかったのが、今や誰もが発信できる。これは大きな時代の変化です。日本のツイッターのユーザー数は4千万、3人に1人が使う時代です。6年前には20人に1人ほどでした。それだけツイッターの社会的影響力が増したということです。

僕自身ツイッターで100万超のフォロワーがいます。かつては思ったことをすぐ適当につぶやいていたのですが、最近はそうもいかなくなりました。影響を考えながら発信しないといけないなと感じています。アメリカ大統領が国を変えてしまっているように、ツイッターは、もう僕らが思うほど気軽なメディアではない。

だからといって絶望しているわけでもないですし、いまでもネットやツイッターは好きです。だから、表現の自由は守りながらアーキテクチャで解決していく道や、ツイッターがもたらす正の面に光を当てていくこともやっていきたいですね。


秋山千佳(あきやま・ちか)
1980年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、朝日新聞社に入社。記者として大津、広島の両総局を経て、大阪社会部、東京社会部で事件や教育などを担当。2013年に退社し、フリーのノンフィクションライターに。著書に『ルポ保健室 子どもの貧困・虐待・性のリアル』、『戸籍のない日本人』。

庄司里紗(しょうじ・りさ)
1974年神奈川県生まれ。大学卒業後、ライターとしてインタビューを中心に雑誌、Web、書籍等で執筆。2012〜2015年までの3年間、フィリピン・セブ島に滞在し、親子留学事業を立ち上げる。現在はライター業の傍ら、早期英語教育プログラムの開発・研究にも携わる。明治大学サービス創新研究所・客員研究員。

[写真]
撮影:塩田亮吾
写真監修:リマインダーズ・プロジェクト
後藤勝
[図版]
ラチカ

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