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これは戦争なのか? 激しさ増す「トランプvs.メディア」

2017/03/07(火) 12:26 配信

オリジナル

「この国の記者は真実を語っていない」「メディアは(嘘で)混乱状態だ」「嘘の度合いは信じられないレベルだ」─。就任以来、トランプ大統領のメディア批判が止まらない。「メディアは私の敵ではない。米国民の敵だ」とまで言う。ワシントン・ポスト紙が国家安全保障担当だったマイケル・フリン前大統領補佐官をめぐる問題を報じると、メディア批判はさらに熱を帯びた。フリン氏が辞任に追い込まれると、「マスコミは嘘ばかりつく」とまで断言した。メディアとの対立を深める大統領。これは戦争なのか。現地から報告する。(立岩陽一郎/Yahoo!ニュース編集部)

ワシントン・ポスト社へ

トランプ大統領の側近中の側近だったフリン氏が辞任した翌日、2月14日にワシントン・ポスト社に向かった。本社は政治の街・ワシントンDCのKストリートにある。「政治通り」と言われる道路で、政治に関連する建物が周囲に建ち並んでいる。

取材依頼そのものは、トランプ大統領の就任式後だったから、1カ月近く待たされたことになる。

ワシントン・ポスト社。首都の「政治通り」にある(撮影:立岩陽一郎)

【動画】ワシントン・ポスト紙編集局へ(約3分)

本社の建物は引っ越して2年足らずだという。入り口には大きく「Washington Post」。動画カメラマンとして同行したアメリカン大学の大学院生は「あのワシントン・ポストの中に入れる」と興奮していた。中国人の彼女は、上海のテレビ局で働いていた実績もある。

「vs.トランプ大統領」の最前線

選挙中からマスコミ批判を繰り返していたトランプ大統領は就任後、一段と舌鋒を強めている。ワシントン・ポスト紙もTwitterで批判された。その「ニュースルーム」、すなわち編集局は7階と8階にある。案内役の広報担当者は「インタビュー以外で音声の収録はできません。インタビューの時は場所を設定します」と言う。

ワシントン・ポスト紙のニュースルーム(撮影:立岩陽一郎)

米国で「この国を代表するメディアを三つ挙げてほしい」と尋ねたら、恐らく、ニューヨーク・タイムズ紙、CNNテレビに続いてワシントン・ポスト紙の名前が挙がる。ニクソン大統領を辞任に追い込んだ1970年代前半のウォーターゲート事件は、ワシントン・ポスト紙の若手記者を軸とした調査報道が大きな役割を果たした。それだけではなく、同紙のニュースルームは今、「トランプ大統領vs.メディア」の最前線でもある。

ウォーターゲート事件の報道でホワイトハウスを追い詰めたワシントン・ポスト紙のボブ・ウッドワード記者(右)、カール・バーンスタイン記者(左)。当時は2人とも20代だった=1973年5月(写真:AP/アフロ)

ロバート・バーンズ記者と向き合う

白を基調とした広い部屋で、ロバート・バーンズ記者はパソコンに向かっていた。政治記者を長く経験し、政治担当デスク、首都圏担当デスクなども務めたベテランだ。デスクから現場の記者に戻り、最高裁判所を担当してもう10年になるという。この2月末で62歳になった。

いったい、トランプ大統領とメディアの現場はどうなっているのか。その質問から取材は始まった。バーンズ記者は言う。

記者歴40年。ロバート・バーンズ記者はワシントンで政治を長く見詰めてきた(撮影:立岩陽一郎)

「大統領が変わる時期は、全てが変わるのでいろいろ大変だ。オバマ政権でもクリントン政権でもそうだった。しかし、今回はそういうレベルじゃない。混乱だ。彼が過去に一度も公職に就いた経験がないことが原因だとは思うが」

そう話した後、バーンズ記者は大統領選挙のエピソードを教えてくれた。

「女性蔑視発言」を特報 全面取材拒否に

ワシントン・ポスト紙は大統領選挙の最中、トランプ氏による女性蔑視発言の録音を入手し、スクープとして報じた。すると、同紙の記者はトランプ陣営から全ての取材を拒否されたという。大統領候補には各メディアの担当記者が張り付き、遊説先に同行する。長い歴史の中でメディア側が得たその権利を全てはく奪された、と。

ワシントン・ポスト紙のトランプ大統領誕生記念特集号。オバマ大統領の時はバーンズ記者がメーンデスクを務めた。「あの時は朝から会社に長蛇の列ができて、新聞が飛ぶように売れました」(撮影:立岩陽一郎)

バーンズ記者は続ける。

「普通なら同じ飛行機で移動し、遊説先に取材者として入れる。けれども、あの時は、移動はもちろん、遊説先の会場にも一般参加者と一緒に並んで入らなければならなかった。担当記者は大変だった」

トランプ大統領は就任直後、イスラム教を主要な教義とする7カ国の人々を対象に入国を制限する大統領令を発した。それが裁判所の判断で「違法」とされ、入国制限が止まったことは日本でも盛んに報道された。バーンズ記者は、その際にトランプ大統領がTwitterで発した言葉に心底驚いたという。

7カ国の国籍保有者に対する入国禁止の大統領令は、中東からの学生や教員の多い全米各地の大学に大きな衝撃を与え、各大学では対応方法に関する緊急の説明会も開かれた。写真はアメリカン大学の説明会(撮影:立岩陽一郎)

そのツイートは「The opinion of this so-called judge, which essentially takes law-enforcement away from our country, is ridiculous and will be overturned!」。つまり、「あの、いわゆる判事と呼ばれる者が下した判断はばかげている」という内容だった。

バーンズ記者は「これまでも大統領の判断を最高裁判所がひっくり返したことはあるし、それに対して大統領が遺憾を表明したこともある」と言い、「しかし」と続けた。

「判事個人を批判したケースは聞いたことがない。過去にもないだろうし、あってはならないことだと思う。『この大統領は司法の独立を尊重しないのか?』と思った人も多いだろう」

トランプ大統領とメディア。その最前線にいるバーンズ記者(撮影:立岩陽一郎)

「戦争じゃない。仕事だ」

日々繰り返される激しいメディア批判。それに対抗するメディア。そうした中にあっても、バーンズ記者は「客観報道に徹することが大事だ」との意見を変えていない。大統領の側にも立たないが、大統領を批判する側という立ち位置にも属さない。報じる側の立場に抑制的なことが重要なのだ、と。

「事実をしっかりと調べ、それを書くことに徹する。それしかないんだ」

ホワイトハウスの報道官はスパイサー氏。会見では多くの記者から質問が飛ぶ(写真:ロイター/アフロ)

ワシントン・ポスト紙はニューヨーク・タイムズ紙と並んで「米政府や議会関係者が必ず目を通す」とされる。逆に言えば、影響力は小さくない。バーンズ記者はそれを知っているからこそ、抑制的であろうとしているのだろう。

では、「トランプvs.メディア」という捉え方は間違っているのだろうか。

その問いにバーンズ記者は「間違っていない」と言った。「双方の緊張関係はかつてないものがある。司法の独立もそうだが、トランプ大統領は報道機関の役割も理解していないところがある」

しかし、と彼は言葉をつないだ。

トランプ政権にどう向き合うかを語るバーンズ記者。語り口は静かだった(撮影:立岩陽一郎)

「会社の幹部が連邦議会に呼ばれた時、『Are you at war with President? (大統領と戦争しているのか?)』と問われた。その時、幹部はこう答えたんだよ。『No, we are not at war. We are at work.(違う。戦争じゃない。われわれがしているのは仕事です)』ってね」

「at war」 と「at work」の違い。記者歴40年の大ベテランは「私も同じ。やるべき仕事をするだけだ」と言った。

【動画】ポスト紙記者「戦争じゃない。仕事だ」(約2分)

「トランプvs.メディア」の底流

トランプ大統領の就任式の朝。会場の議事堂周辺には多くの支持者らが集まった(撮影:加藤雅史)

トランプ大統領は就任式で「権力が国民の手に委ねられる記念すべき日だ」と高らかに宣言した。選挙中から「米国政治は首都ワシントンを中心とした一部エリートによってのみ牛耳られ、国民は常に忘れ去られてきた」などと主張。就任式での宣言はその延長線上にあり、少なからぬ米国人がその姿勢を支持している。そして、トランプ大統領が言う「一部のエリート」には既存メディアも含まれ、その考えも支持者に共有されている。

米国憲法の修正条項第1条は「表現、結社の自由」を保障している。だから、トランプ大統領のメディア批判もすぐに矛盾が噴出し、ブレーキの必要性が支持者にも伝わるだろうと考えた人は多い。

ワシントンにあるニュースの博物館「ニュージアム」。建物の外側には米国憲法修正第1条の重要性をうたう掲示がある。トランプ大統領は就任式のパレードでこの前も通った(撮影:立岩陽一郎)

そうした期待を打ち砕いたのが、あの判事攻撃のツイートだったのではないか。だからバーンズ記者も衝撃を受けた。トランプ大統領の姿勢は、憲法も含めた既存システムへの挑戦ではないか、と。

ローカルラジオ局の移民問題担当記者と

首都ワシントンでローカルラジオ局のジャーナリストに会った。「WAMU」のアルマンド・トゥルール記者で55歳。WAMUラジオで20年以上も移民問題を取材し、米放送界で最高の栄誉とされるエミー賞を昨年受賞した。自身もキューバ生まれ。7歳の時に家族と米国に移り、以後、米国人として生きている。

移民問題で取材中のアルマンド・トゥルール記者=左端(撮影:立岩陽一郎)

「実は、移民問題以外を取材しないかと言われ、教育を担当することになっていたんだ。そこに例の大統領令が来た。で、上司と話したんだ。『俺を教育担当にすると、まずいんじゃないか? トランプ大統領に配慮して優秀な移民担当を外した。という変な噂が立つ』ってね。それで移民、難民の担当を続けることになったんだ」

「恐怖を煽り、『俺が守る』と。それがトランプ」

WAMUは全米をカバーする公共ラジオ放送「NPR」の傘下にある。WAMUも公共放送の一部という位置付けだ。国土が広く、車での長距離移動も多いことなどから、米国では今もラジオの影響力が強い。

公共ラジオ放送「WAMU」が入るビル(撮影:立岩陽一郎)

トゥルール記者は元々、移民や不法就労の問題を取材していた。そのテーマは今、トランプ大統領による「壁」建設の取材に発展している。メキシコ国境の「壁」とイスラム教徒に対する入国制限。これらを彼はどう見ているのだろうか。

「双方とも対応は極めて似ている。恐怖だよ。恐怖をかきたて、そして人々に『でも心配するな。私が君らを守るから』と言う。同じ手法だ」

ラジオ局のスタジオで

WAMUのオフィスにトゥルール記者を訪ねた日、彼は、イランから来た家族の話を記事にしていた。

公共放送「WAMU」のニュースルーム。首都圏の視聴者向けに放送している(撮影:立岩陽一郎)

「この国は移民で成り立っていると誰もが言う。でも、見落としちゃいけないことがある。つまり、こういうことだ。この国が外国で滅茶苦茶なことをやって、その国が滅茶苦茶になって、その結果として人々はこの国に逃げてくる。中東、中南米、みんなそうだ」

トゥルール記者はNPRの依頼で取材することもある。NPRの仕事として、メキシコとの国境地帯に再三足を運び、「壁」問題を取材した。

メキシコ国境との「壁」建設を認める大統領令に署名するトランプ氏(写真:ロイター/アフロ)

「壁も『自国を守る』というトランプ大統領のシンボル的なスローガンだ。それが一部の人に受ける。壁が出来たら大統領はそこに行き、言うだろう。『どうだい。この立派な壁が危険な奴らから米国を守るんだ』ってね」

「でも、地元はそんなものを求めてはいない。国境地帯の街に行けばすぐ分かる。そこでは国境をまたいで一つのコミュニティーができている。それを分断すると、両方とも街として機能しなくなるんだ」

テキサス州の国境の街エル・パソ。街のあちこちにメキシコとの交流を示す絵が描かれている(写真:アルマンド・トゥルール記者撮影・提供)

トランプvs.「すべての情報」

「トランプvs.メディア」という図式をどう考えるか。ワシントン・ポスト紙のバーンズ記者と同様、トゥルール記者にも同じことを尋ねた。

「その図式は間違っていないけど、敢えて言えば、『トランプvs.あらゆる情報』なんだと思う。メディアだけじゃない。例えば(米国人は今)、政府から出る情報でさえ、自分の好まない情報は『無いもの』として無視してないか? こんなこと、米国では前代未聞だ。でも、トランプは(そういう流れを)作りかねない。恐ろしい。そう感じるよ」

ラジオ番組を編集中のトゥルール記者。エミー賞も受賞した(撮影:立岩陽一郎)

【動画】エミー賞記者が語る「大統領vs.すべての情報だ」(約6分)

辞めさせられた公共放送記者

「トランプvs.メディア」の中で、記者を辞めさせられた人もいる。公共放送の一つ、APMラジオで経済担当だったルイス・ウォレス氏(32)。解雇はトランプ大統領の就任式から間もなくだった。

APMラジオを解雇されたルイス・ウォレス氏(撮影:立岩陽一郎)

ウォレス氏は女性から男性への性転換者で、トランスジェンダーとして生きている。元はシカゴのフリーランス・ジャーナリスト。社会の多様性を実現するプログラムの一環として2012年、APMラジオに採用された。「性転換者」を会社側も承知の上で、だった。

ニューヨークで会ったウォレス氏は「自分の信じていたものがどんどん崩れていく。その状況に居ても立っても居られなかった」と言う。

解雇のきっかけは、自身による「Objectivity is dead, and I'm okay with it」(客観性が失われても私は構わない)というブログ投稿だった。この中で、彼はこう主張している。

白人至上の人種差別や排外主義などは道義的に許されるべきではないのに、それらを主張して止まない人々の言動を「客観的に報じていいのか」と。さらに、政治的な正しさやリベラルかどうかといった評価をジャーナリストは気にすべきではない、と。

なぜ、そのブログを書こうとしたのか。

「選挙中からずっと取材してきた中で、トランプ大統領の誕生までの彼の発言や彼を支持する人々の発言をどう受け止めて良いか、それが分からなかった。私が今まで信じてきた表現の自由や報道の自由、人権といった概念が次々に壊れていくんです」

ブログへの投稿で「解雇」

ブログの内容は決して押しつけではない。最後は、多くのジャーナリストと議論を深めたい、と結んでいる。ところが、最初の接触はジャーナリストではなく、上司だった。投稿からわずか数時間後だったという。

解雇前のウォレス記者。マイクを持って取材に歩いた(撮影:ジュリエット・フロムホルト)

上司は電話で「ブログをすぐ削除して」と告げた上で、「政治的な立場に立たないという社内規則に明確に違反した」として、1週間の出勤停止を命じた。その時、言いようのない恐怖すら感じた、とウォレス氏は語る。

「驚きでした。そして怒りました。会社を批判したわけでもないし。これまでもブログは書いていたし、私は(トランプ氏をめぐる社会状況やメディアについて)問題提起をしたかっただけです」

米国では今もラジオの影響力が強く、ラジオに関するジャーナリズムの研究もある(イメージ:ハーバード大学ニーマン財団のHPから)

話はそこで終わらなかった。

一度はブログを削除したものの、納得できず、ウォレス氏は上司に対し、ブログを復活させるとメールで連絡した。「ここで削除したら、私はもうジャーナリストじゃないし、自分でなくなってしまう。今まで信じて生きていたもの、それを失うわけにはいかなくて」

「君の考えは会社と合わない」と上司

削除したブログを1週間ほどで元に戻すと、人事担当から「会社近くのホテルで会いたい」と電話が来た。そして、面談で人事担当者は「君のメールとブログの内容からすると、君はこの職場とは合わない。そう判断せざるを得ない」と言い、解雇を告げたという。

米国では会社に属するジャーナリストも普通にブログを書く。日本と違い、その能力も記者としての力量の一つ、と考えられている。ブログの内容が問題になることは滅多にない。だからこそ、このケースは米国のジャーナリストに衝撃を与えた。

「圧力? いや、幹部の自己規制です」

──多くの場合、メディア組織の幹部は自己規制に動く感じがあります。あからさまな圧力を掛けられて萎縮するわけではない。あなたの場合はどうだったのでしょうか?

「自己規制...その通りだと思います。私のブログは多くの人が目にするようなものでもないし、その内容をトランプ大統領らが問題にすることもないでしょう。上司らの自己規制だと思います」

「マスコミは嘘ばかりだ」と批判するトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

「トランプ大統領(の姿勢)は恐ろしいと感じますが、まだ序の口ではないでしょうか。(記者会見やツイートで)いろいろ言っているけど、まだ言っているだけ、の部分もある。実際に、行動に移し始めたら本当の恐怖が来るでしょう。例えば、法律を変え、表現の自由や人権を規制するとか」

「先進的と多様性」こそ

解雇からまだ間もないため、いま、ウォレス氏は無職だ。それでも投稿は「全く後悔していない」と言う。おかしくなったのは会社の方だ、と言い切る。

少数者のことを考えながら取材活動をしていたというウォレス氏(撮影:シャウン・エイリー)

「私の知っていたAPMラジオはもっと先進的で、多様性を認める組織でした。だから、この出来事は私にとって大ショック。精神的につらかった時期もあります。でも、私はジャーナリストとして自分の道をしっかりと進みたい。だから、この件を後悔すべきことじゃないと思っているんです」

──これからの「トランプvs.メディア」はどうなると思いますか?

「確かに今、大統領とメディアは戦っているし、闘わなければいけないんだと思う。でも、それはトランプ大統領とだけじゃない。トランプ大統領を支持する多くの......(政治エリートやメディアから長く)忘れられてきた、と感じている人々との戦いでもあります。そこに目を向けないと、この戦いには勝てないでしょう」

就任式前日、ワシントンでの前夜祭に集まってきたトランプ支持者の若者たち(撮影:立岩陽一郎)

ウォレス氏の解雇に発展したことで、あのブログ投稿そのものは逆にアクセスが急増した。「全米から応援の言葉が寄せられるし、フランス、ドイツ......。南アフリカ共和国からも『応援しているよ』ってメッセージが来ました」。ウォレス氏は今、ラジオを使った新しい報道のプロジェクトを考えているという。

"We Are At Work"

2月24日、トランプ大統領は保守派の団体が開いた政治集会に出席し、これまでとは異なるメディア批判を展開した。

「メディアは米国民の敵だ、と私が言ったとされるが、それは違う。私は、フェイク・ニュース(嘘のニュース)を流すメディアが米国民の敵だと言ったのだ。そうじゃないまともなメディアもいる」

そしてフェイク・ニュースの事例として挙げたのは、フリン氏辞任のきっかけとなったワシントン・ポスト紙の記事だった。「匿名の9人に確認した情報などと言っているが、それは嘘だ。彼らは情報源をでっちあげる」。その後に開かれたホワイトハウス報道官の記者会見では、CNNテレビやニューヨーク・タイムズ紙など政権に批判的とされるメディアが出席を拒否され、逆に好意的なメディアは参加を認められた。

ワシントン・ポスト本社の中央吹き抜けの壁。伝説の編集局長として知られる故ベン・ブラッドレー氏の言葉が大きく掲示されている。「いかに好ましくなくても、真実は嘘のように危険ではない。長い目で見れば」(撮影:立岩陽一郎)

気に入らないメディアを遠ざけることによってトランプ大統領が達成しようとするもの、いったい、それは何か。しかし、それが何であろうと、記者たちは取材を続けていくだろう。ワシントン・ポスト紙のバーンズ記者が語ったように「We are at work」。それが仕事だからだ。

[写真]
撮影:立岩陽一郎、加藤雅史、アルマンド・トゥルール、シャウン・エイリー
動画撮影:チェルシー・グー
[トップ画像素材]ロイター/アフロ、立岩陽一郎


立岩陽一郎(たていわ・よういちろう)
調査報道を専門とする認定NPO「iAsia」編集長。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院卒業。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクとして主に調査報道に従事。2016年、「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。現在はアメリカン大学客員研究員としてワシントンDC在住。「Yahoo!ニュース エキスパート」オーサー