幸田大地

小泉進次郎ら自民若手はなぜ新しい社会保障を構想したのか

2016/11/22(火) 13:30 配信

小泉進次郎衆院議員ら自民党の若手議員たちが新たな社会保障改革案を発表した。2020年以降を見据え、これからの人生を100年と想定したうえで、新しい社会保険や年金の制度を構想した。議論を担ったのは30代を中心とした若手議員20人で、9カ月、約50時間をかけて議論し、まとめたのだという。ではそれは、具体的にどんな内容で、また、どのようにつくられていったのか。構想をまとめた3人に語ってもらった。(ジャーナリスト・森健/Yahoo!ニュース編集部)

なぜ30代若手の小委員会は生まれたのか

記者会見に臨んだのは5人の若手議員。左から小林史明議員、小泉進次郎議員、村井英樹議員(以上衆院)、山下雄平議員、吉川有美議員(以上参院)(撮影: 塩田亮吾)

「人生100年の時代をどうすれば安心して過ごせるのか。そう考えたとき、私たちは3つの柱を立てました」

10月26日、自由民主党本部での記者会見。会見席に座った小泉進次郎衆院議員はそう切り出した。横に並んだのは村井英樹、小林史明の両衆院議員と、山下雄平、吉川有美、両参院議員。5人の若手議員は、社会保険や年金で新しい制度を構想したと発表した。

主な柱は3つ。1)正社員と非正規雇用を問わない「勤労者皆社会保険制度」の創設、2)「人生100年型年金」(年金受給年齢の柔軟化)、3)健康ゴールド免許(自助を促す自己負担割合の設定)。

具体的な中身については後述するが、今回発表されたこの構想は、いくつかの点で異例なものだ。

こうした社会保障関連の制度案は、2つのルートから出てくるのが一般的だ。政府であれば厚生労働省、自民党であれば党の政策部会(議員の間で専門的に政策を調査・研究する会)である厚生労働部会。だが、この小泉氏らの団体はそのどちらでもなく、新たに設置された小委員会だった。

なぜ小泉氏ら若手議員はこの委員会(「2020年以降の経済財政構想小委員会」)をつくり、また、なぜこの構想をまとめたのか。

上記の会見から数日後、中心となる3人に今回の改革案の意図と小委員会の成り立ちについて聞いた。

3人が参加した「2020年以降の経済財政構想小委員会」は、国家観などを語り合える場だったという(撮影: 幸田大地)

──そもそもこの小委員会がなぜ、どのように生まれたのか、教えてください。

小泉進次郎衆院議員(以下、小泉):きっかけは昨年12月、官邸側から「一億総活躍社会」の緊急対策で、低年金受給者の高齢者に3万円を臨時給付するという案が出てきたことでした。高齢化していく日本では子育てなど若い世代の後押しをしなければならない。ちょうど待機児童の問題が出ていた時期でしたが、政府は若い世代向けにはお金がないと言い続けてきた。にもかかわらず、突然高齢者に3万円給付という話がポンと出てきた。補正予算と本予算で4000億円。若者にお金がないと言っていたのに、これはおかしいでしょうと。

小林史明衆院議員(以下、小林):その話が官邸から出てきた翌日に、党の政調(政務調査会)の全体会議があった。そこで、私が手を挙げて、臨時給付金について反対を表明したんです。この案は官邸から出たかもしれないが、そんな案は(自民)党から提案してないし、反対すべきだと。そしたら、小泉さん、村井さんなども手を挙げて「反対です」と広がっていった。

小泉:ふつう政調の全体会議であれば「みなさんの気持ちもわかるが」と反対論を収めて終わるのが一般的です。ところが、この会議のときは僕らが発言をしていく中で、僕らの反対論が押して、そのまま壇上の先生方も「うん……。そりゃそうだ」と納得してしまった。

小林:稲田(朋美)政調会長(当時)も「私、官邸に言ってくる」みたいな勢いで。

小泉:結局、このままでは政調の全体会議の了承が取れないとなって、若い人たちの意見をしっかり踏まえて、次世代の社会保障の議論をする場を党の中に設置する、それで収めてくれ、となった。その結果、生まれたのがこの「2020年以降の経済財政構想小委員会」だったんです。

小林:会議のあと、深夜、4人で集まって、議員宿舎の会議室を借りて作戦を練ったんですよね。そのときにいたのはここにいる3人に、鈴木憲和議員。4時間ぐらいやりましたね。

村井英樹衆院議員(以下、村井):深夜の議論では、議論できる「場」となる会の名前を考えた覚えがあります。小委員会となると、設立趣意書が必要で、われわれはこの会でどういう社会保障を目指していくべきかと本質的な議論をしましたね。

小泉進次郎(こいずみしんじろう)衆議院議員。1981年神奈川県生まれ。関東学院大学卒業後、米コロンビア大学大学院で修士号取得。2009年初当選。現在当選回数3回。党青年局長、復興大臣政務官を経て、現在は党農林部会長。今回の「2020年以降の経済財政構想小委員会」では事務局長、委員長代行として会をリードしてきた(撮影: 幸田大地)

小泉進次郎氏は1981年生まれの35歳。父・小泉純一郎元首相の後を継ぎ、2009年に初当選。党青年局、復興政務官などを経て、2015年秋から党農林部会長を務めている。村井英樹氏は1980年生まれの36歳。大卒後、財務省に入省。関税局でFTA(自由貿易協定)などの実務に携わったのち、米ハーバード大学大学院に留学。帰国後、主税局課長補佐を経て、2012年に当選。小林史明氏は1983年生まれの33歳。大卒後、NTTドコモに入社。2012年に当選。党では前職の知見を活かし、情報通信戦略調査会やIT戦略特命委員会などで活動してきた。こうした若手議員が小委員会の議論を担ってきた。

──深夜の宿舎で、どんな議論をしたんですか。

小林:まずは、財源がないのに(高齢者にだけ)4000億円というお金が出てくるのはおかしい、お金を配ることはやるべきではないはずと。要は、困っている人は、シニアだけではなく、若い人にもいる。社会保障とは本当に困っている人に対応すべきだということを最初に共有したのです。

小泉:自民党が行っている社会保障がどんなものかを確認したうえで、われわれの世代がやるべき社会保障とは何かを考えた。端的に言えば、それはバラマキではない。そこで根本的な議論をした。そもそも医療や年金において、年齢で区切っている今の制度は正しいのかと。年金の受給開始年齢は65歳、医療では1割負担になるのが後期高齢者医療制度で75歳と決まっている。年齢だけで社会保障の保険料の負担水準や自己負担割合が変わるわけです。でも、この区切り方のままでよいのだろうかと疑った。なぜなら、高齢でも元気な人はいるし、逆に、若くても困っている人はいる。低年金の高齢者もいますが、富裕層の高齢者もいる。要するに、年齢にかかわらず、真に困っている人が受け取るべきというのが、僕らの目指す社会保障ではないかと。

村井:その後、小委員会の設立趣意書を起こす際、時期を「2020年以降」と絞りました。というのは東京オリンピックのある2020年までは、2012年6月に自民党、公明党、旧民主党で取り決めた「社会保障・税一体改革」に関する三党合意に基づき、改革工程表が策定されています。しかし、その改革工程表は2020年までで、その後の改革は考えられていない。しかも五輪後は、いまより経済財政状況がひどくなっている可能性もある。だとすると、もっと長期的な視点で捉えなくてはという議論になっていった。それで最終的に「2020年以降の経済財政構想小委員会」となったわけです。

小泉:2020年までの社会保障改革の工程表までちゃぶ台返しをしたら、話が進まなくなりますから。だから、それはせずに、2020年より先を見据える。

村井英樹(むらいひでき)衆議院議員。1980年埼玉県生まれ。東京大学教養学部卒業後、財務省に入省。米ハーバード大学大学院留学を経て、2012年に初当選。現在、当選2回。衆院で厚生労働委員会、党で財政再建特命委員会などに所属。党副幹事長。「2020年以降の経済財政構想小委員会」では、議論を文書として作成するまとめ役を担った(撮影: 幸田大地)

──改革をしなければ、現在の制度がそのまま続いていくわけです。それではまずいという危機感があったわけですか。

村井:私はその危機感はすごくある。なぜなら消費増税が延期されているから。2020年までの改革工程表では、2020年のプライマリー・バランス(基礎的財政収支)の黒字化があって、その財政収支の中で社会保障の改革工程表もつくられていた。ところが、そこで想定されていた8%から10%への消費増税は2度延期された。そのせいで厚労省のほうでは、その先の絵を描きづらくなってしまった。

小泉:それに加えて、社会保障における世代間のバランスを見直す観点も間違いなくありましたね。子ども・子育て世代を最優先にしなくてはいけない。その危機感はみな共有していました。

なぜ社会保障と無関係に見える分野の講師を招いたのか

今年2月初旬にはじまった「2020年以降の経済財政構想小委員会」では、各界の有識者を招くことで議論の幅を広げる方針をとった。招かれた講師は9カ月間で16人。その有識者は多様で、従来にない発想で招致したことがうかがえる。

第1回に招かれたのは松尾豊・東京大学大学院特任准教授。日本を代表する人工知能(AI)の研究者である。以後、教育、労働、インターネット、ビジネスなど、社会保障とは距離のある分野の有識者を招きながら、小委員会の議論は進んだ。

この小委員会では、社会保障の財源論という定番の課題ではなく、将来の日本、未来の社会がどう変化しているのか、という社会像を捉えるところから議論を始めたという(撮影: 幸田大地)

──小委員会の講師は16人。そのうち社会保障の有識者は7人ですが、その人たちが出てくるのは後半です。最初の9人は社会保障と直接関係がない。これはなぜですか。

小泉:社会保障を考える会なのに、「AI」の研究者である松尾豊先生を第1回の講師にした。これは大きな意味があって、まずこれからの技術革新が社会に与えるインパクトがどういうものかを小委員会の中で共有したかった。第4次産業革命と言われ、IoT(Internet of Things。モノのインターネット=あらゆるモノがインターネットでつながる技術のこと)、AI、ロボットと、これから10年後、20年後は人類が経験したことがない速度で産業構造が変わり、人の暮らしや生き方も左右される時代に突入する。このインパクトを認識していないと、2020年以降の未来など絵に描いた餅にすぎない。そういう思いがまずありました。

だから社会保障の将来構想という話をする前に、その土台である社会の変化、技術の変化を踏まえておいたのは新しい切り口だと思います。

第2回に、軽井沢に世界中から生徒を集める全寮制高校を設置した「インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢」の代表理事、小林りんさんを招いたのも、問題意識は同じです。今後、人工知能が仕事に入ってくると、人工知能が人よりうまくやったり、人と協働したりと働き方も変わってくる。そういう時代になると、時代に追いついていける人と難しい人と二極化も進むだろうし、ひいては、教育のあり方も変わってくるのではないか。人生を長いスパンで考えたとき、教育は人生前半の投資のように思われていますが、じつは教育は年金、医療、児童福祉、子育て支援という分野に並ぶ社会保障ではないかという問題意識がありました。

小林史明(こばやしふみあき)衆議院議員。1983年生まれ、広島県出身。上智大学理工学部卒業後、NTTドコモ入社。2012年初当選。当選2回。党青年局学生部長、ネットメディア局次長、情報通信戦略調査会事務局次長など、テクノロジーに近い政策部会に参加が多い。「2020年以降の経済財政構想小委員会」でも技術を含めた社会の変化を視点に提言した(撮影: 幸田大地)

小林:だから、この小委員会は最初の設計時点で相当工夫をしました。党内の部会(政策を専門的に議論する自民党内の機関)の会議は通常1時間なんですが、この小委員会では1時間半から2時間がっちりとっていった。

村井:松尾先生、小林さんを最初の講師に招いたのは、視点を変えるという意味で重要なポイントでした。社会保障の議論をするのは基本的に(党内の政策部会)厚生労働部会で、地に足の着いた議論ではあるのですが、逆に、厚生労働部会は財源問題で縛られ、同じ議論を繰り返してしまう。僕らが目指したのは、まず社会のありようを見る。家で言うと、1階の土台をしっかり見たうえで、2階の社会保障の議論をしようとしたわけです。

小泉:年金は年金、医療は医療、介護は介護、子育ては子育てと縦割りで切り分けた議論ではない。全体がつながって一人ひとりの人生を支える社会保障を考えようと。

小林:そうした議論の過程でおもしろかったことがあります。個々の議員が自分の政治観や国家観のような話をぶつけ合うことができたということです。

──政治家なら天下国家を論じるのは普通では?

小林:いや、そうじゃないんです。通常、僕ら議員はそういうビジョンのようなものを語っていないんです。たとえば党の部会は、担当の役人の方に質問するもので、議員同士で意見を表明する形式になっていない。また、部会は法案化に向かう細部の話を詰める場なので、長期ビジョンを語るようなこともしない。ところが、この小委員会ではそういう「そもそもの考え」をじっくり話し合うことができた。それは例のないことでした。

小泉:おもしろかったのは、どんな議題でも賛否両論出てくるんです。日本は国債が1000兆円と借金で大変だという意見があれば、そんなの大丈夫だという意見もある。でも、意見が違っても感情的にはならない。また、まとめるときの過程で、言いたいことを言っているとそれで前に進めやすくもなる。結果、それぞれの考え方がわかったのはすごくよかった。なかなかそういう話ができる場がないですからね。全部で24回、毎回2時間、合計、約50時間。20人のメンバーが議論した。自民党ではかつてない自由な議論の場になりました。

10月下旬、自民党本部で行われた記者会見には30人以上の記者が詰めかけた(撮影: 塩田亮吾)

なぜ自助努力を前面に打ち出したのか

そうしてまとめられたのが「人生100年時代の社会保障へ」という構想だった。本構想で提示した主な柱が冒頭に記した3つ。

1つ目は、「勤労者皆社会保険制度」。正社員と非正規を分けず、厚生年金、健康保険に加入するというもので、低所得の勤労者は社会保険料を免除・軽減する仕組みも取り入れた。財源は社会保険における労使の配分の見直しにより、事業主と高所得者が応分の負担をするとした。

2つ目には、年金を「人生100年型年金」として、年金保険料を70歳以上(現状は70歳未満)でも納められるように拡大。その一方で、現在65歳となっている受給開始年齢を希望によって70歳、75歳と引き上げられる柔軟性を取り入れる。

そして3つ目は「健康ゴールド免許」で、健康管理(定期検診、保健指導、禁煙など)に努力した人は「ゴールド免許」をもらえ、自己負担割合が一部下がるという仕組みだ。また、湿布薬やうがい薬といった医薬品の中でも重要度の低いものは公的保険の対象から外す。その分、重い医療や真に必要な薬剤を手厚くするという方針をとった。

基本的には自分自身の健康や老後について「自助努力」を促す考えが基盤にあるが、そうした考えの前提となったのが、今後やってくる社会への向かい方だったという。

──「自助努力」を掲げていますが、医療について公平性が失われる可能性はありませんか。

村井:どの部分をとっても叩かれるところはありますよね。短期的に痛みを伴うので。

小泉:ゴールド免許で自助努力のインセンティブが働くような仕組みは、生まれながら障害を抱える人や健康であろうとしても叶わない人の負担を増すわけではありません。自己負担を上げていくということは、今回の提言でも書いていません。そうではなく、日頃の病気など小さなリスクを減らしてもらうようにする。

──なぜ自助努力で負担を減らすという考え方を前面に打ち出したんですか。

小泉:やはりそこは財政の話です。年金、医療、介護という社会保障で、どこが一番財政的に危機的かというと、医療、介護なんです。なぜか。この2つは、今後高齢化が進む中で、また、医療技術が高度化していく中で、どれくらいまで支出が膨らむかまったく見えない。天井がないんです。ニーズがあるだけ膨らんでいく。予算で縛れないのが医療と介護。だから、少しでも病気にならないように、医療費を膨らませないように仕組みをつくっていくしかない。

この改革案、噛み付こうと思う人なら、どの点からでも噛み付けます。でも、それでいいんです。社会保障改革の議論が盛り上がればいいわけだから。政治の役割は、批判が出たら、「じゃあ、どうします?」と耳を傾けること。それが大事なんです。

出席した記者からは、「健康ゴールド免許」の運用についてや、党内の政策として公認されるかといった質問が相次いだ(撮影: 塩田亮吾)

──実際、小委員会の議論でも紛糾したような箇所はありませんか。

村井:たとえば年金でもありましたよ。いまは過度な年金への不信感があるので、もっと年金の信頼を高めるべく、「年金は絶対大丈夫です」「支給開始年齢もそのままです」と安心面を打ち出すべきという人もいた。たしかに国民年金や厚生年金ほど恵まれている金融商品はないんです。民間の金融商品ではありえない。

それに対して、このままの体制ではだめだという意見も出た。なぜなら、いまの年金制度は、20年勉強し、40年働き、20年休むという人生プランが大勢という中で設計されたものです。しかし、今、そんな絵に描いたような人生が可能なのか、と。技術や社会の変化を考えると、疑問です。そういった形で、常に議論はありました。

小林:議論は紛糾しました。最後の財政論や社会保障の制度論になると、必ず。ただ、ケンカにはならない。なぜなら財政を変える以前に、人の生き方が変わるよねという前提は共有できていたから。

小泉:結局、総論に絞った議論を徹底的にやったのがよかったのだと思います。各論に入ると、みんな言いたいことがあるから対立が多くなる。でも、そういうときには「まず総論でいきましょう」と、われわれ執行部でピン留めをした。するとみんな収まった。

なんか学校みたいだったよね。クラスの中であいつはああいうキャラだったのか、とわかったり。席次はいつのまにか自然と定位置が決まってくるとか。

小林さんは、僕より年下なんだけど、頼りないお兄ちゃんを見守る弟みたいなね。僕や村井さんが行き過ぎると「おい、大丈夫か! 帰ってこーい!」と(笑)。

村井:小林さんは、夜、事務所に来てくれるんですよ。僕がまとめの原稿を書いて、イライラしているときに。

小林:1人で書類をまとめていると、不安になるだろうと思いまして。書きまくったものに対して、「これでいいんだろうか」と相談したいんじゃないかと。

──今回の小委員会のメンバーはみなさんを含め、ほぼ30代ですね。

小泉:30年後のことを「自分事」として考えられる年齢なんです、僕らの世代は。ここは大きいと思います。30年後を考えるときに、自分が生きているか、いないか。本気で議論できましたから。

30代が議論を担った。自分たちの社会保障の維持や安定性を考える議論でもあったということだ(撮影: 幸田大地)

この構想に実現性はあるのか

──今回の改革案、財政など数字を踏まえた議論には踏み込んでいません。そもそも組織上で言えば、党としての方針、とはまだなっていませんよね。具体的にどの程度、実現性があるものなのでしょうか。

小泉:現在は小委員会の親会である財政再建特命委員会の園田博之座長と茂木敏充政調会長に一任しました。今後あの提言がどうなるかは2人次第です。

これで小委員会が解散するわけではないし、今後も継続されます。ただ、僕らが提示した「人生100年時代の社会保障」という考え方は、今後の社会や生き方にとって、少なくとも党内では一つの叩き台になると思います。

村井:やっぱりビジョンが大事だと思います。私が役所(財務省)にいた頃、賃上げをするための仕組みをいくつも考えたし、実行に移しました。しかし、残念なことに、そういう小賢しいことは効果が薄いんですね。やはり政治はビジョンで動くんです。政治のリーダーが「こっちの生き方だ」と方向性を提示すると、そういう方向に動いていく。それが重要なんです。私たちの提言にもそれがあると信じています。

小泉:おもしろいことに、この話をすると、前向きに捉えてくれるのは高齢者が多いんです。「今日は元気が出る話をありがとう」と言ってくれる。「未来がまだ先にある!」と捉えてくれている。この先、どこまで広がるか。期待しています。

社会保障の議論はいつでも紛糾する。今後進展することが確実な少子高齢化や人口減少を踏まえれば、保険料が高負担に傾くことは間違いなく、そうなると誰がどのように負担するかで激しい駆け引きが行われるためだ。

今回、小泉氏らがまとめた改革案は、過去の社会保障の政策議論と比べると、年齢による一律の基準などを外すといった大胆な改革が盛り込まれている。また、予防医療という観点から「自助努力」という概念がベースにあるところも賛否両論が出ることだろう。

だが、この改革案はすぐ実現されるようなものではない。実現にはいくつもの長いステップが必要とされる。

小委員会は自民党の政務調査会で活動を認められてはいるものの、この構想は、党の総務会を通ってもいない。「自民党公認」となるには、総務会で全会一致の採決が必要である。もし総務会を通ったとして、その先には、専門家を交えた検証的な制度設計のもと、厚労省の審議会も必要だ。現実の法制度に近づく国会での委員会審議は、それらを通過した後になる。つまり、現改革案はあくまでも「叩き台」にすぎないのが実情だ。

彼ら自身が述べているように、財源といった話を脇に寄せて、構想されたのが本案である。その意味で、この改革案を「空論」と揶揄する向きもあるだろう。

だが、これからの時代を担う30代の現役層が(痛みも伴う)この構想を掲げた意味は小さくない。上に任せず、「自分事」として社会保障を考える。彼らの投げかけは、まさに現役世代に対して「このままでいいのか」と問いかけているようでもある。


森健(もり・けん)
1968年東京都生まれ。ジャーナリスト。2012年、『つなみ――被災地の子どもたちの作文集』で大宅壮一ノンフィクション賞、2015年『小倉昌男 祈りと経営』で小学館ノンフィクション大賞を受賞。著書に『反動世代』、『ビッグデータ社会の希望と憂鬱』、『勤めないという生き方』、『グーグル・アマゾン化する社会』、『人体改造の世紀』など。
公式サイト

[写真]
撮影:幸田大地、塩田亮吾
写真監修:リマインダーズ・プロジェクト
後藤勝

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