岡本裕志

「移民」は人口減を救うか 日本の将来を考える4人の視点

2016/9/21(水) 10:21 配信

2060年、日本の人口は8千万人台になるという。少子高齢化は止まらず、2016年現在の約1億2600万人より約4千万人も少なくなってしまう。本格的な人口減少を食い止めるため、働き手の減少を「外国人労働者の増加」で乗り切ろうという動きがある。そして、「移民受け入れ」の是非も議論に上り始めた。外国人に頼る社会へと、日本は大きく舵を切るのか。その先には何があるのか。この問題を考えるきっかけとして、識者4人の意見に耳を傾けた。
(Yahoo!ニュース編集部)

神奈川県の横浜市と大和市にまたがる「いちょう団地」。外国人が多く住み、カンボジア人店主が切り盛りするスーパーにも異国の品が並ぶ。外国人の客も多い(撮影:岡本裕志)

2060年の日本 人口約8千万人

とにかく、日本の人口減少はすさまじい。

国立社会保障・人口問題研究所の最新推計(2012年)によると、2016年以降、年ごとの人口増減率は一度も上向くことなく減り続け、2060年には約8600万人にまで落ち込む。そのうち実に4割が65歳以上の高齢者となる見込みだ。一方で、15〜64歳の生産年齢人口は2016年の約8千万人から半減してしまう。

こうした中、労働力不足を補う策として、外国人労働者に注目が集まってきた。

「いちょう団地」のゴミ捨て案内板。表示は既に多国籍(撮影:岡本裕志)

外国人労働者 年内100万人超へ

厚生労働省によると、外国人労働者は昨年10月末時点で約91万人になり、過去最高を更新した。年内には100万人を突破する可能性が高まっている。

政府はこれまで、大学教授やエンジニアといった専門的・技術的分野の外国人労働者については積極的に受け入れるとする反面、それ以外の職種については慎重に対応する、としてきた。

入国管理局を持つ法務省の本庁舎。外国人関連の施策を担う(撮影:岡本裕志)

それに対し、内閣府は2014年、移民を年間20万人ずつ受け入れて人口規模を維持するという試算を発表。さらに政府は昨年4月、東京五輪に向けた需要などに対応するためとして、「建設」「造船」分野で来日した技能実習生が滞在できる期間を、2020年度まで最長3年から6年に延長した。

自民党提言「倍増でも対応を」

与党もこうした動きを後押ししている。

自民党の特命委員会は今年5月、外国人労働者受け入れの基本的考え方をまとめた。それによると、「介護、農業、旅館等特に人手不足の分野がある」と指摘。「必要性がある分野については個別に精査した上で就労目的の在留資格を付与」すべきであり、「我が国の活力を維持するためには、(略)現在の外国人労働者数(90.8万人)を倍増しても対応できる制度を構築すべき」だと提言している。

神奈川県の「いちょう団地」。さらに外国人を増やすのか(撮影:岡本裕志)

外国人労働者は入国時点で永住権を持たないため移民ではない、と特命委員会は主張しているものの、国民の議論が未成熟なまま、実際には外国人の受け入れは進んでいるのが実情だ。

では、移民の在り方をどう考えればいいのだろうか。経済、社会、文化。そういった側面から考えた場合、どんな問題点が浮かび上がるのか。

小黒一正法政大教授「今が分岐点」

経済的側面から、まず、法政大学の小黒一正教授(公共経済学)の話を聞いた。小黒さんは「このままだと日本は小国になる」と言い、移民受け入れに関し、日本は今、二つの道の分岐点に立っていると話す。

「大国としての存在を維持するには移民が不可欠」と小黒一正教授(撮影:岡本裕志)

一つは、小国でもいいと割り切り、1人当たりの経済力を落とさないように努めつつ、国際社会では外交に力を入れてうまく立ち回っていくという道。もう一つは、大国として、国内総生産と国際社会での存在感を維持するという道だ。

後者の場合、移民によって人口規模を保つことが不可避だ、と小黒さんは主張する。

「コストを上回るメリット」

「2050年頃には、従来のリーダー国で人口規模を維持できるのは米国だけで、中国やインドという巨大な国によってパワーバランスが変わってくる」からだ。移民受け入れに社会的コストは生じるが、それを上回るメリットがある、と言う。

2014年のGDP(国内総生産)上位5カ国と、2050年の予測。英国ロンドンに本拠地を置く国際的なコンサルティンググループ「PwC」(プライスウォーターハウスクーパース)が昨年2月に発表した調査レポート「The World in 2050」(2050年の世界)より作成。 市場為替レート方式による2014年の順位は①アメリカ②中国③日本④ドイツ⑤フランス、となった。

同じ調査で2050年の順位はどうか。①中国②アメリカ③インド④インドネシア⑤ブラジル、との予測だった。

「国力を失ってからの移民政策では遅い」

「米国は移民国家ですが、外部から優秀な人材が入ってくることで、大学内の研究が活性化し、新しい産業が興り、多様性によるダイナミズムが国を牽引しています」

その米国にも文化的摩擦はある。どちらの道を選ぶにしても覚悟がいる。しかし、政治は判断を先延ばししてはならない、と小黒さん。

「今は日本も国力がありますが、この先、国力を失ってから移民政策で門戸を開いても、来てくれるとは限らないですよね? (外国人には日本への移民の)ほかにも選択肢はあるわけで。そのあたりも含めてよく考えることが必要です」

小野五郎埼玉大学名誉教授「旧弊の温存になる」

埼玉大学の小野五郎名誉教授(経済政策学)は、こう解説する。

「日本は成熟期を迎えたのだから、それに見合った産業構造に変えなくてはいけない。ところが移民として受け入れようという人材は、基本的には今の産業構造を維持するために必要な人たち。ですから、長期的視点から必要とされている抜本的な構造改革を阻害することになります」

小野五郎埼玉大学名誉教授。「移民受け入れには覚悟が要る」(撮影:岡本裕志)

安価な労働力として、あるいは技術者についても育てる手間のかからない力として安易に受け入れると、生産性を高めようとしない企業・産業の淘汰がなされず、結果として国力を失う。つまり、移民の受け入れは、日本の古い産業・社会構造を温存したままにしてしまう、という主張である。

「受け入れるなら差別無くせ」

それでも「移民が必要だ」という企業や自治体の要求が増したら?

その場合、受け入れ側は外国人を差別せず、移民側は日本人と同化する努力が前提になる、と小野さんは言う。受け入れにかかる費用はすべて「受益者負担」とすべきだ、とも強調する。

東京・霞ヶ関の厚生労働省。社会保障と移民の関係はどうするか(撮影:岡本裕志)

「給与や社会保険料だけでなく、語学教育や治安対策なども必要です。それほどの覚悟を持って受け入れるべき。そういう費用が払えないなら、ミクロでその会社が儲けているつもりでも、マクロでは採算が合っていないということです。国家全体で見たら、むしろマイナス。経済学でいう『合成の誤謬』が起きているということです」

佐伯弘文氏 経営者の視点で「きれいごと」

社会や文化の側面からはどうだろうか。

『移民不要論』(産経新聞出版)の著書を持ち、シンフォニアテクノロジー(旧神鋼電機)で社長や会長を務めた佐伯弘文さんはこう断じる。

「移民も人間なんですよ。宗教もあれば生活習慣もあり、伝統もある。それを無視して、安い労働力を提供してくれるモノという感覚で見たら、必ず破綻が来る」

『移民不要論』の著者佐伯弘文さん。外国のビジネス事情に詳しい(撮影:宗石佳子)

移民受け入れ国では、生活習慣や言語が共通した移民たちで寄り集まる。それを踏まえ、佐伯さんは「地域住民と融和するなんて、きれいごと。文化的衝突が非常に多い」という。最たる問題が差別だ。

第2、第3世代は「テロや犯罪の温床にも」

佐伯さんによると、イギリスやフランスといった国々では第1次大戦以後、戦争で若い男性が亡くなったことによる労働力不足を補うため、旧植民地からの移民を受け入れた。それでも自身の判断で移り住んだ「第1世代」は差別を甘受する傾向にあった。問題が表面化してきたのは、移民の子や孫の代、つまり「第2世代」「第3世代」になってからだという。

佐伯弘文さんは移民研究のため資料収集も怠らない(撮影:宗石佳子)

「子どもたちは生まれた時から例えばフランス人として、学校教育を同じように受けて『自由・平等・博愛』だと思い込んでいたら、いざ就職になってアラブ系というだけで履歴書を突き返されることがある。ものすごい差別を受けるんですよね。そうすると、教わった話と違うじゃないか、と社会に不満や反感を持つ」

そうした不満や反感は最悪の場合、テロや犯罪につながる。佐伯さんがヨーロッパで現地のビジネスマンと話すと、「日本は今ごろ移民を受け入れようなんて、ヨーロッパの苦しさを教訓としていない」と呆れられるという。

NPO代表の田村太郎氏「地域は活性化する」

移民の受け入れによって「多文化で地域は活性化する」と指摘する識者もいる。

外国から来た子どもたちに日本語を教える活動などを担うNPO法人「多文化共生センター大阪」の代表、田村太郎さん(ダイバーシティ研究所代表)もその1人だ。

NPO代表の田村太郎さん。多文化での共生に力を入れてきた(撮影:岡本裕志)

田村さんは、日本の現状をこう分析する。

「単純労働(の外国人)は原則受け入れません、というスタンスの一方で、例外をいろいろ設けるという変則的な制度を採っている。ですから、二つの問題が生じています」

日本国民が変則的な制度を理解しておらず、いつの間にか「外国人が増えている」という不安が広まり、誤解や偏見が生じやすくなっている。それが第1点。2番目は、来日外国人にとって日本語を公的に教えてくれる機関がない点だ。

多文化共生センターで学ぶ子どもたち。外国にルーツがある(撮影:岡本裕志)

田村さんによると、欧州各国の90年代の移民政策は、移民に適切な支援とチャンスを与えなかった結果、格差と分断が生じ、経済的に困窮した人たちが犯罪やテロに走る温床になった。そのため、各国は2000年代以降、その国の言語や社会・文化の制度を教えることに傾注しているという。

「外からの刺激で文化はできる」

「受け入れたら放置してはいけない。日本も現在のヨーロッパが行っているサポート(の仕組み)を採り入れることが適切じゃないかな、と」

その上で、互いの異なる文化を尊重しながら、共に地域づくりをすれば良い、と田村さんは話す。例えば阪神大震災のケース。日本人被災者は機能麻痺に陥った行政の出動をじっと待っていたのに対し、地域のブラジル人は「日が暮れて寒くなるから」とサッカーゴールをひっくり返してブルーシートで覆い、テントを即席で作った。そして、そこで夜を過ごすよう、周囲に促していたという。

「(京都の)祇園祭だって、山鉾に掛けられているのはペルシャ絨毯です。地域の文化習慣と言われているものは、だいたい、外からの刺激があって生まれたもの。逆に言うと、外からの刺激がなければ途絶えてしまう、と思った方がいい。だから、彼ら(移民)がもたらす視点や文化がまた次の、東京だったら東京の、新しい文化を創っていくと思います」

外国人労働者や移民をどうするか。本格的な議論は進むのか(撮影:岡本裕志)

※上と同じ動画

[制作協力]
オルタスジャパン
[写真]
撮影:岡本裕志、宗石佳子
写真監修:リマインダーズ・プロジェクト 後藤勝

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