鬼頭志帆

教師が子どもを追い詰める―― 「指導死」の現場から

2016/9/12(月) 14:01 配信

「悪いのはいつもオレだ」。そんな文字を遺書に記して2012年の夏、17歳だった新潟県の高校3年生が自ら命を絶った。それからおよそ4年。自殺の原因を調べていた第三者委員会はこの7月、「生徒指導が最大の要因」と考えられる、との結論を導き出した。いわゆる「指導死」である。教師の指導がきっかけで追い詰められ、生徒が死を選ぶ。そんな事例は1952年以降、全国で87件に上るとの研究もある。指導死はなぜ起きるのか。最悪の事態を防ぐにはどうしたらいいのか。(Yahoo!ニュース編集部)

新潟の高3自殺 父は「自責の念」

「こういった形で子どもを亡くした親で、自責の念のない親はいないと思います」

高校生の父、町山剛さん(仮名)は自宅の座敷でそう語り始めた。新潟県の県立高校に通う宏君(仮名)を亡くしてから、既に夏は4回通り過ぎた。

「いろいろ考えますよ。ああすればよかった、こうすればよかった、って。たぶん何か一つ歯車が違っても、結果は違ったんだと思います」

ラグビーに熱中した日々が…

目標を定めたら真っ直ぐに進む性格だったという。高校で始めたラグビー部が楽しく、自分から居残って練習することもあった。ラグビーをやるために学校へ通っているような日々。同時に「将来は数学の教師に」という目標も定め、志望大学を決めて勉強にも励んでいた。

ラグビーに打ち込んだ宏君の日々。ジャージの背番号は「15」(撮影:鬼頭志帆)

だから、学校でのトラブル以外に自死の理由は考えられなかった、と父は言う。息子の部屋には、それを思わせる遺書もあった。

ルーズリーフに「悪いのはいつもオレ」

家族宛てのほか、ルーズリーフに計6通。そのうち、「悪いのはいつもオレだ 誰が正しくて誰が間違っていても関係ない」という書き出しで始まる遺書には宛名がなかった。いったい、何があったのか。

自室の机に置かれていた宏君の遺書。世界保健機構(WHO)のガイドラインは、自殺予防の観点から「遺書を公開すべきでない」との見解を示している。しかし、この遺書は事案を正確に伝える必要があるといった編集判断で掲載した(撮影:鬼頭志帆)

宏君の遺族の求めで立ち上がった第三者調査委員会がこの7月に発表した報告書によると、宏君は熱心に部活に取り組み、リーダー的な存在だった。そんな日々が続いていた時、宏君らはまとまりのない活動への不満をSNSに書き込んだ。それをきっかけに、ある生徒が部活を休んでしまう。

宏君ら3人は顧問の男性教員に呼び出された。

指導の教師「意図的に強めに」

その場で教員は「何でそういう人たちに優しくできないんだ」「こんな状況では部活動を行うことはできない」などと発言した。後に教員は第三者委員会に対し、「意図的に強めに言った。3人はガツンと言われたと感じたのではないか」と証言している。

それからの数日間、顧問も交えて部活動に関する話し合いが続いた。まとまりのない状態をどうするか、だらだらした練習を脱するにはどうしたらいいか―。高校生らしいと映る話し合い。そんな中で宏君は「このような状況になったのは俺のせいだから、責任をとって部活を辞めます」とミーティングで発言した。自殺の5日前である。

寄せ書きがたくさんあるラグビーボール(撮影:鬼頭志帆)

あれだけラグビーに打ち込んでいた息子。父によると、部活を辞めるのは「自分で考えうる最大の自己処罰」だったという。それでも、問題は解決しない。SNSの書き込みが生徒間で転送されるなどして拡散され、部活を休んだメンバーの保護者が「子どもが傷ついている」として学校側に対処を求めてきたからだ。

「1対1」の指導 そこで教師は

部活を休んだ仲間に向け、宏君は謝罪のメールを2度送ったが、再び顧問の教員に呼び出された。今度は「1対1の指導」だった。

報告書によると、教員は「おまえは教師を目指しているようだが、うまくいかない生徒に愚痴を言っても何も始まらない。どうしたら人がうまく動いてくれるかを考えた方がいい」などと言った。

誰もが進路を真剣に考え始める高校3年の夏。宏君は指導の後、部室に行き、友人に「俺、もう学校辞めるわ」と言った。その夜は8時頃に帰宅。夕食も食べずに自室に入り、二度と出てくることはなかった。

第三者委「指導が最大の要因」

「指導死」の言葉も用いた第三者委員会の報告書

第三者委員会は、自死と指導の関係について、「学校における一連の生徒指導が最大の要因」と認定した。さらに「指導死」の言葉も用いながら、「一般的に子どもは行動への批判を人格否定と受け取りやすく、大人が考える以上に精神的なダメージを受けやすい」と指摘している。

同委員会の川上耕委員長(弁護士)は報告書に関する記者会見で「過度な叱責などの指導でなくても、その生徒の置かれた状況によっては自殺につながる。このことは驚きでもあったし、逆に言うと、社会に対して警鐘を鳴らすべき事案」と強調した。

暴力や過度の叱責などがなくても…(写真はイメージ/撮影:鬼頭志帆)

「指導死」の事例 大阪でも広島でも

実は、「指導死」とされる例はあちこちにある。

大阪府では昨年5月、学校側が男子生徒に約8時間も反省文を書かせ、停学処分を決めた直後にその生徒が自殺した。同12月には、広島県の中学校で、過去の万引きを理由に高校への推薦を認められなかった男子生徒が、それを伝えられた後に自殺した。その後、万引き歴は別の生徒のものだったことが判明している。

教育評論家の武田さち子氏が新聞報道や文部科学省の資料などを使って調べたところ、「指導死」は1952年以降、未遂も含め87件に上るという。

同じ境遇の遺族と共に、「『指導死』親の会」を立ち上げ、代表世話人を務める大貫隆志さんのケースもここに含まれる。

親の会「遺族と同じ思い 学校にあるか」

大貫さんの息子、陵平君は中学2年生だった2000年、学校で菓子を食べたことなどを指導され、その直後に自殺した。「遺族はみな、どうして助けられなかったのかと苦しむ」と大貫さんは言う。

13歳で亡くなった大貫陵平君。在りし日の姿(撮影:鬼頭志帆)

「自分たちが殺したんだと。それでいいと。ただ、学校側には、それと同じ思いを持ち、どうしたら死なずに済んだかを考えてほしいんです」。新潟の事案について、当時の校長が指導に誤りはなかったが、生徒の心の動きをつかめずに残念です、と述べたとの話に触れ、「『残念』で殺されたらたまらんという話」とも言った。

2007年に「親の会」を立ち上げた後、シンポジウムや講演で指導死を防いでほしい、と訴えてきた。「指導死」という言葉自体、大貫さんの造語であり、同名の著書もある。

「『指導死』親の会」をつくった大貫隆志さん。著書もある(撮影:鬼頭志帆)

「教育現場には『指導が通る』という表現がある。指導の目的が達成されるというニュアンスです。ただ、指導が通った状態とは、子供がシュンとした状態とほぼ一緒になっているのではないか。単に心が傷ついて、シュンとしているだけかもしれないのに」

「先生も追い込まれている」

教える側からすれば、「指導死」はどう見えるのか。

東京都西東京市で、地域の子どもに無料塾を開いている岸田久惠さんは「子供の幸せや希望、夢の実現のために指導がある。指導によって死を選ぶ子がいるなら、どんな場合でも弁解できない」と話す。今年3月に定年退職するまで、小学校教員を38年。教育現場のベテランであり、今も研究会に参加して指導のあり方を考えている。

教壇に立つ教師にも失敗は山ほどある(写真はイメージ/撮影:鬼頭志帆)

「教師も失敗は山ほどある。言っちゃいけないことも言う。教師はそこから学び、冷静に分析することが大事なんです」

同時に、管理が進み、余裕を失っている教育現場の実情も分かる。時には、管理職から現場の教員に向け、パワハラ的な“指導”もある。岸田さんはこんな例を教えてくれた。

教員が「厳しい指導」を受けることもある(撮影:鬼頭志帆)

「ある新卒の先生のクラスが荒れてしまった。その先生は校長室に呼ばれ、『授業を再現してみろ』と。密室での指導は7時間にもなったそうです。そういう学校の先生たちは『なんとか生徒に言うことを聞かせなきゃ』と強引な指導になりがち。先生も追い込まれているんです」

子どもたちへ「休んでも逃げてもいい」

学校が世界の全てじゃない、そこから逃げてもいいんだよ―。子どもの自殺問題に詳しい教育評論家の武田さち子さんは「生徒は教師の言うことを絶対だと思ってしまうから、自分自身を追い込んでしまう」と話す。

「指導死で亡くなる子の多くは真面目な子です。真面目な子ほど、与えられた場で一生懸命生きなければならない、と思うからです。でも学校の価値観と社会の価値観はイコールじゃない。休んでもいい、逃げてもいい」

校舎に背を向けて逃げていいんだよ、と専門家は言う(撮影:鬼頭志帆)

武田さんはさらに訴える。

「先生だって、追い詰めてやろうと思っているわけではない。でも、子どもたちの遺書の多くに『ごめんなさい』と書かれている。謝りながら死んでいるんです。死ぬことはいけない、と子どもたちも分かっている。でも、ほかに考えられない。私たち大人が、ほかに解決の道を示せていないから、そうなるんです」

[制作協力]
オルタスジャパン
[写真]
撮影:鬼頭志帆
写真監修:リマインダーズ・プロジェクト 後藤勝

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