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今村拓馬

受験か英語か、両立か――多様化する進路に戸惑う親

2016/08/23(火) 14:11 配信

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小学校で英語が必修化され、今後は大学入試でも英語の「話す力」が問われるようになるという。子どもに「使える英語」を身につけさせるには、時間もお金もかかる。急激にグローバル化する時代、教育熱心な親たちは、あれもこれも教えなければ取り残されるのでは、と焦っている。(Yahoo!ニュース編集部/AERA編集部)

英語力の「小4の壁」

英語教育の関係者の間では「小4の壁」という言葉が使われている。乳幼児の頃から、通信教育の教材や英会話スクールなどで子どもに身につけさせてきた英語の能力が、小学4年生をピークに落ちていくことを指す。その理由は、中学受験だ。

東京都内で小学4年生の長女(9)を育てている母親(42)も、「小4の壁」にぶち当たっている。自身は帰国子女で、外資系企業に勤務。長女には0歳の頃から、通信教材で英語に親しませ、小学1年生からは週3回、放課後に、ネイティブの英語に触れることができる民間の学童保育に通わせている。おかげで、簡単な日常英会話ができるレベルにまでなった。毎年夏には長めの休みを取って英語圏に旅行し、「実践」もさせてきた。

しかし、今年の夏休みには、旅行の計画を立てられなかった。代わりに長女は毎日、塾の夏期講習に参加している。私立中学に進学することを視野に、3年生の2月から大手の学習塾の受験コースに通い始めたのだ。夏休み前の保護者説明会で、塾の講師は「伸びる子はここで決まる。4年生の夏休みが勝負です!」と語気を強め、びっしりとカリキュラムが詰まった学習計画表を配った。「うちは海外に行くつもりで......」とは言い出せなかった。

撮影:今村拓馬

もう英語どころではない

周りのママ友たちも、子どもが3年生までは「英語が話せたら就ける職業の可能性が広がる」「世界中どこでも通用する力を身につけさせたい」などと真剣な表情で話していたが、4年生になると一変、模試の結果や偏差値とにらめっこ。受験するのなら、もう英語どころではないという雰囲気だ。

「せっかく時間もお金もかけて英語を身につけさせたのに、受験に邁進する3年間ですっかり忘れてしまうかもしれません。でも、受験に勝ち抜かなければ英語力を生かすチャンスが減るかもしれない。優先順位をどうつければよいのか、悩みます」

と、この母親は言う。

教育に関する情報感度が高い親ほど、思考力やコミュニケーション力を養うために、子どもに早くから英語を学ばせたり、さまざまな体験をさせたりしている。親自身も教育熱心な家庭で育ち、高学歴がプラスに働いた体験をしている場合が少なくない。子どもが成長するにつれ、受験を考え始めるのは当然の流れだ

結果、「小4の壁」にぶち当たることになる。多くの受験塾は小学4年生で週2日からとなり、6年生になると週4日を超えることもある。英語と受験を両立させようとすると、時間が足りなくなるのだ

英語入試は「狭き門」

もちろん、英語を入試科目に取り入れる中学も増えている。首都圏模試センターの調べでは、2016年度に帰国子女枠ではない一般入試に英語を導入した首都圏の中学は64校で、前年度からほぼ倍増。そこで求められるのは英検4級以上や、面接担当者と会話ができるレベル。週1回の英会話スクール程度では太刀打ちできそうにない。英語で受験するなら、時間をかけて、受験のための英語をやらなければならないのだ。

親が「英語も受験も」と考える背景には、文部科学省が進める大学入試改革がある。2020年度に導入されるセンター試験の後継テストでは、英語で「読む・書く・聞く・話す」の「4技能」が重視されるようになり、これまでの「受験英語」とはまったく違う問題になることが想定される。さらに文科省は、欧米トップ大学を含む世界の大学が入学資格として認める「国際バカロレア(IB)」の国内認定校を、18年度までに200校に増やすという目標も掲げている。小学校ではすでに11年度から高学年で英語が必修化され、20年度には学習指導要領の改訂で中学年でも必修化、高学年では「教科」となる見通し。親の世代なら、高校で2週間の海外ホームステイをしただけで羨望の的となっていたが、グローバル社会で通用する人材になるためには「英語は話せて当たり前」。問われるのはその先の能力なのだ。

急激なグローバル化に戸惑う親

親のためのグローバル教育情報サイト「Glolea!」編集長の内海裕子さんはこう話す。

「学校教育や企業の急激なグローバル化に直面し、親は子どもにどんな道を選ばせるべきかと戸惑っています。かといって、学歴も無視はできない。ここで英語をやめると、英語力を習得するのに必要な『継続と集中』がいったん途切れることになってしまいます」

中学受験のために習い事やスポーツをやめたり減らしたりする子どもも少なくない中、英語についてはどうするか。内海さんは言う。

「中学受験の勉強は甘くはないので、小学4年生からは英語は続けても気晴らし程度という人が多くなります。スカイプレッスンなどで細々とつないだり、夏休みを利用してフィリピンやハワイで短期集中型の親子留学をしたりする人が増えています」

撮影:今村拓馬

進路は海外にも広がる

13年度に開校した「東京インターナショナルスクール アフタースクール」は、すべてのカリキュラムを英語で実施する民間学童保育。小学1年生から、週3日以上の通学を必須とすることで、英語での確実なコミュニケーション力の獲得に必要な2000時間を達成できるとしている。これまで通学対象は小学4年生までだったが、17年度からは5年生以上にも、週2回の通学コースを新設する予定だ。スカイプなどで担任教師から個別に指導を受ける「チュートリアル」との組み合わせで、受験塾とも両立できるようにする。坪谷ニュウェル郁子代表は、こう話す。

「受験路線しか知らない親世代は、担保として受験塾や偏差値の高い学校に入れたいと思いがちだが、大学入試改革によって受験の形や求められる能力は確実に変わる。私立中学の英語入試、IB認定校や海外の高校・大学など、進路の選択肢は増えています。目の前の点数や偏差値に一喜一憂するのではなく、大きな流れを見てほしい」

英語が受験に生きる

「僕、実験がたくさんできる中学に行きたい」

首都圏に住む編集者の女性(37)の小学5年生の長男(10)が突然の「受験宣言」をしたのは、4年生の夏。女性は当時を振り返り、「慌ててしまいました」と話す。

小学校に入る前から、近所の英会話教室に通わせたり、エジプトなど各国の駐日大使館のイベントに参加して英語のプレゼンを聞かせたりしてきた。息子が自ら考えることができる機会をつくろうと、クリティカルシンキング(批判的思考力)を親子で学んだり、作文教室に通わせたりとさまざまな経験もさせた。中学受験は考えていなかった。

調べると、「実験をしたい」という息子の希望にかなうのは公立の中高一貫校。過去の入試では身体障害者用の駐車スペースの利用法について意見を書かせるなど、記述力や思考力を重視する傾向があった。

「結果的に、やってきたことが受験に生きるかもしれません」

いつから英語を学ばせるか。子どもに何を体験させるか。選択肢は多いのに「これをやれば確実」というものがない。だから親たちは、迷うのだ。


Yahoo!ニュースと週刊誌AERA(朝日新聞出版)の共同企画「みんなのリアル~1億人総検証」では、身近なニュースや社会現象について、読者のみなさんとともに考えます。今回のテーマは「教育の選択」。大学入試改革やグローバル化により、変わりゆく教育とその選び方について4回にわたってお伝えします。Facebookやメールでご意見やご感想も募集中です。AERA編集部から取材のお願いでご連絡させていただく場合がありますのでご了承ください。

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