東日本大震災に伴う原発事故から4年以上が経過した。今なお多くの被災者が避難生活を余儀なくされている。帰還にあたって大きな課題となっているのが、放射性物質の除染作業だ。だが、意外なところに問題解決の糸口はあるのかもしれない。無人飛行機・ドローンを活用するプロジェクトに注目が集まっている。
「除染とドローン」、意外な組み合わせだが、果たしてどんな可能性を秘めているのか。開発現場を取材した。(Yahoo!ニュース編集部)
破格の大きさ 25キロの巨大ドローン
長さ2.5m、高さ70cmのアメンボのようなフォルム。重さ25キロにものぼる巨体がふわりと地面から浮いた。開発期間2年、最新鋭のドローン「MS06-FX」が初のテスト飛行を迎えた。
このプロジェクトを進める、精密機器の試作や介護ロボットの製造を手掛ける菊池製作所の菊池功社長(72)は語る。
「私自身、福島県飯舘村の出身なんです。だから何らかの形で福島の人たちの助けになりたいと思っていました」
避難住民の帰還の妨げになっているのは堆積した放射性物質の存在。課題の多い除染作業に対して、何かできないか。
そこで菊池製作所の一柳健副社長が中心となり、今回の事業が始まった。
一柳氏は「ドローンを使うことで難しい除染作業に貢献できるのではないかと思っています。詳細な放射線汚染マップを作って今までになかった除染の方法が見つかるといい」と事業に対する思いを語る。
厳密な放射線汚染マップを作り詳細な状況を把握できれば、局所的に放射線量の高い地点(ホットスポット)の発見が可能になる。そうなれば、除染作業の効率化が一気に進むというもくろみだ。
除染作業 どこまで進んでいる?
そのためには放射性物質を測定する必要がある。だが、測定段階でも一筋縄ではいかない。現在、事故後1年間の積算線量が20ミリシーベルトを超えるおそれがあるとされた「計画的避難区域」と、東京電力福島第一原子力発電所から半径20km圏内の「警戒区域」に含まれる11市町村が「除染特別地域」に指定されている。
環境省はそのうち4市町村で「除染作業が終了した」と発表している。順次、作業を進め、2016年度までに除染計画が立っていない「帰還困難区域」を除く全ての地域の除染を終了させる予定だ。
だが「いくらマニュアルに従って大規模に除染をしてもなかなかきめ細かくはできません」と語るのは東京大学先端科学技術研究センターの児玉龍彦教授だ。児玉氏は環境省の除染計画の課題をこう指摘する。
「放射線を測定するスポットは決められた何カ所かだけ。すべてをくまなく測定しているわけではありません。ですから、水が溜まりやすい雨戸の下に放射線が溜まることもあります」
除染の課題とは?
今年の9月5日に避難指示が解除されたのを機に楢葉町に帰還した住職の早川篤雄(75)さんは、寺や自宅の周囲を放射線測定機で調べたところ放射線量が高い場所を確認したという。
「私は高齢ですから覚悟もできていますし戻ってきました。だけど若い人たちは不安で戻ろうとは思いませんよ。震災が起きる前のように住民たちが安心して暮らせる町に戻してほしいです」
現在行われている航空機と自動車による放射線測定には限界がある。航空機は航空法によって、高度300m以下には近づけない。かたや自動車では森林や宅地の中まで分け入って測定するのは難しい。
そこでドローンの出番だ。小回りの利くドローンであれば、局所的なホットスポットを発見し、森林での放射線量測定も可能になる。
10倍以上の効率化 国内最新鋭ドローンが完成
最新鋭のドローンを開発するにあたって、一柳氏達には強力なパートナーがいる。千葉大学のベンチャー企業である自律制御システム研究所だ。同社の代表取締役を務める野波健蔵氏(工学博士)は、約20年前からドローン研究を続けてきた第一人者である。
とはいえ、飛行するだけでは不十分だ。放射線測定に利用する高性能のガンマカメラを開発したのは、大阪に本社を置くテクノエックスだ。新型のガンマカメラには64個もの放射線検出機が内蔵されている。
3社の技術が結集し、放射線測定ドローン「MS06-FX」の試作機が完成した。メインドインジャパンの最新鋭ドローンの測定スピードは従来の放射線測定方法に比べ、10倍以上になる見込み。大幅な効率化を図る。
初のテスト飛行
8月28日、福島県南相馬市で初の飛行実験が行われた。10m四方の測定地点の中に2.7マイクロ㏜/hの放射線を発生させる実験装置を置き、これをガンマカメラがホットスポットとして判別できれば実験成功だ。
午後2時、テスト飛行が始まった。低くうなるようなプロペラ音とともにゆっくりと浮上を開始。だが、離陸から数秒後、3メートルほどの高さに達した後、あえなく墜落してしまった。
原因は空中でドローンのバランスを自動制御するシステムがうまく作動しなかった点にあった。急きょ、手動での操作に切り替えテストを再開した。今度は空中静止に成功。
実験後、一柳氏は安心したような表情でこう語った。「今回の実験は小さな一歩かもしれません。でも未来の大きな一歩につながる実験になるはずです」
野波氏はテストの結果に対して、「ひとまずは実験成功です。ただし実用化までの三段階のうちまだ第一段階を通過したにすぎません」。ゴールははるか先だ。
前出の児玉氏も課題を指摘する。
「このドローンが実用化されたらとても期待されると思います。ただし日本ではドローン自体の運用があまり行われていないので、飛行に関する安全性や放射線測定の精度によって判断すべきです。その上で具体的なコストパフォーマンスの話にもなってくると思います」。
福島県から支援を受けて開発された今回の試作機。さらに今年の7月には環境省が公募していた除染や汚染廃棄物の処理に役立つ可能性のある事業に選ばれた。研究費用として2160万円が支給される予定だ。
とは言え、まだまだ実験は始まったばかり。第二段階ではコンピューター制御による完全な自律飛行を目指す。最終段階では、実際の汚染地域でのテスト飛行を行い、2016年中の実用化を考えている。実用化には多くのハードルがあるが、ゆくゆくは数百基のドローンを飛ばすことを目指している。
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