八尋伸

小さなロケットと衛星で「新ビジネス」を――宇宙ベンチャーが賭ける夢

2016/7/4(月) 13:11 配信

「宇宙をもっと身近に」「コンビニにでも行くように気軽に宇宙へ」——。そんな夢を現実に変えようと、日本でも宇宙ビジネスに乗り出す民間企業が増えてきた。これまでは宇宙航空研究開発機構(JAXA)の独占状態だった日本の宇宙開発。そこに挑むのは、ほとんどが無名の小さな企業であり、若い世代だ。東京のオフィス街で、農村風景が広がる北海道で。宇宙ビジネスの現場を訪れ、最先端の挑戦をのぞいた。(Yahoo!ニュース編集部)

東京のオフィスで組み立てる「超小型衛星」

超小型の人工衛星を開発するベンチャー企業「アクセルスペース」は、東京・神田のオフィスビルにある。約20人の社員全員がここで働く。設計や実験の解析だけでなく、衛星の組み立てもここで行っている。

社長の中村友哉さんは「重さ100キロに満たない非常に小さな衛星なので、こういったオフィスでも組み立てができるんです」と話す。一番若い社員は25歳。平均年齢は30代前半で、中村さんも36歳と若い。日本人だけでなく、フランス人やイタリア人もいる。

社内では、気象予報会社ウェザーニューズ向けの衛星が最終テストの段階に入っていた。今秋にロシアから打ち上げ予定で、重さは約40キロ。超小型に強みを発揮する同社ならではの衛星だ。ほかに、アクセルスペース自身の衛星を50基打ち上げる計画も進んでいる。

アクセルスペースが開発する超小型衛星(撮影:八尋伸)

中村さんは東京大学の大学院時代、衛星開発に関わった。アクセルスペースは、いわゆる大学発ベンチャーだ。「大学で研究した衛星の技術を実用的なものにしたい」と考え、自らベンチャー企業の立ち上げを目指したところ、固い壁にぶつかった。「ニーズ」である。

「いろんな会社を回ると『面白いね』と言ってくれる。でも、人工衛星を使う企業って、ほとんどないわけです。企業もどうやって使ったらいいのか、アイデアがない。我々も、先方のニーズを深く知っているわけではなかった」

技術をどうニーズに結びつけるか。思い悩み、起業を諦めかけた頃、ウェザーニューズが顧客第1号になってくれた。夏場に氷が溶け、船舶の航行が可能になった北極海。その海の様子を、衛星写真を使って海運会社に提供するサービスだった。

「宇宙ビジネスって、『こうやればこうなる』というのを誰も確立していない。でも、これからどんどん成長していって、新しい価値を社会に提供していけるようになると思うんですね。その最先端に立っているという自負はあります」

「小さな会社だけど大きなスケールの仕事ができる」と語る外国人社員(撮影:八尋伸)

ホリエモンが実用化を目指す「使い捨てロケット」

アクセルスペースの超小型衛星は、開発コストが大型衛星の100分の1ほどだ。そのため、非常に安い費用で衛星写真を送り届けることができる。そこに宇宙ビジネスの可能性がある。

だが、課題もある。人工衛星を宇宙に打ち上げる「ロケット」の費用が高額なことだ。「我々は衛星屋であって、ロケット屋ではない。もっと低コストで、もっと高頻度に好きな軌道に打ち上げてくれる手段が必要」と、中村さんは話す。

その課題を解決しようと、安い「小型ロケット」で宇宙ビジネスに殴り込みをかけようとしている企業が日本にある。ホリエモンこと、実業家の堀江貴文さんが2013年に立ち上げたインターステラテクノロジズである。

インターステラテクノロジズの稲川貴大CEO(撮影:八尋伸)

同社は北海道東部の大樹町に拠点を置き、衛星を運ぶロケットの開発に取り組んでいる。目指すのは「使い捨てロケットの量産化」だ。

「僕たちは打ち上げベンチャー。(いくら民間の衛星開発が進んでも)ロケットの打ち上げ費用を安くしないと広がらない。ロケットも工業製品だから、たくさん作って飛ばせば安くなる。車は(大量生産で)安くなり、誰でも買えるようになったから普及したんです。ロケットも同じです」

大樹町からのロケット打ち上げには“先輩”がいる。北海道赤平市に本社を置く産業機械メーカーの植松電機。2004年から宇宙ビジネスに乗り出した。大学と共同でロケットの打ち上げ実験を続けるほか、世界に三つしかないという無重力実験装置など開発してきた。

植松電機が開発した小型ロケットの模型。実機と同じサイズだ(画像提供:植松電機)

植松努専務は「宇宙開発は国ではなく民間が引っ張るべき。産学官の『産』は、自己資本でばくちを打つのが本来の役目」が持論だ。

植松専務によると、海外の宇宙開発ではプロジェクトが終わるごとに、メンバーが解雇される。その後、さまざまな産業に行き、宇宙開発で得た知見を新しいポジションで生かす。その広がりが日本にはない。

「欧州では車の軽量化が猛烈な勢いで進んでいる。航空宇宙産業と自動車産業がくっつくからなんですよ。接着や複合材料などの技術がどんどん一般の車にまで落ちてきている。日本は全然、そういうことがない」

実は、宇宙ビジネスは大きな市場にならないと、植松専務は考えている。「宇宙は南極以上に公共の場」。だから、利益至上主義ではなく、最先端の技術を他の分野にどう応用し、どう拡大するかこそが、宇宙開発の最大の役割だと力説した。

大樹町の宇宙交流センター。植松電機やインターステラテクノロジズが打ち上げた小型ロケットなどが展示されている(撮影:八尋伸)

人間が宇宙で生活できる世界を目指す

月を舞台とした国際宇宙開発レース「Google Lunar XPRIZE」に、日本から唯一参加しているチームがある。月面探査ロボットを手掛ける「HAKUTO」。宇宙ベンチャー企業ispace(東京)のCEO、袴田武史さんがチームリーダーだ。

探査ロボットは最終モデルの一つ手前まで開発が進んできたという。10年後、20年後、月で資源探査をすることも視野に入れている。

宇宙開発で私たちの生活はどう変わりますか? 国際電話での取材に対し、袴田さんは米国からこう答えてくれた。

「何かが劇的に変わることはないでしょうが、探査ロボットの技術は地上のロボティクスに活用されていくと思います。警備とか設備監視に、小型ロボットが使われていくでしょう」

これまで日本の宇宙開発はJAXA(宇宙航空研究開発機構)の独壇場だった(撮影:八尋伸)

もっとも、袴田さんの視線は宇宙そのものに向いている。宇宙で人間が生活圏を築ける世界をつくること。それが最終目標だ。

「地球環境の維持が非常に難しい状態になっていますので、宇宙をうまく活用して地球の環境を守る必要があります。人間が宇宙でも生活できるようにして、地球の負担を減らしていく。我々は宇宙の資源開発を目指しているんです」

小型衛星を宇宙に運ぶために、小型ロケットの開発も進む(画像提供:インターステラテクノロジズ)

民間企業の宇宙事業を支えるマーケットはどうなっているのだろうか。米国のスペース財団の資料によると、世界の宇宙産業の市場規模は約30兆円。国別では、米国が圧倒的にリードしている。

これに対して、日本は、人工衛星やロケットの製造などの宇宙機器産業の売上高が約3000億円しかない(日本航空宇宙工業会調べ)。今のところ民間が衛星を打ち上げたことはなく、3000億円の大半は「官需」という状態だ。

民間の宇宙ベンチャーは、そんな状況を変える可能性を秘めている。JAXA新事業促進部の松浦直人部長は「国の一つの機関だけが宇宙開発をする時代は終わりつつある。我々と民間企業が協力しながら、宇宙産業を盛り上げていくという形になっていくと思います」と期待する。

北海道大樹町。広々とした土地で、宇宙への夢が育まれている(撮影:八尋伸)

宇宙ビジネスの交通整理をしようと、今年3月には、宇宙のビジネス利用を促す「宇宙活動法」と、商業衛星による写真の撮影や利用を規制する「衛星リモートセンシング法」の2法案が国会に提出された。

内閣府の宇宙開発戦略推進事務局で、6月中旬まで事務局長をつとめた小宮義則さん(現特許庁長官)によると、宇宙活動法は20カ国程度が持っており、主要なロケット打ち上げ国でこの法律がないのは日本だけという。

「米国ではここ数年、ものすごい勢いで民間の宇宙ビジネスが伸びてきました」。それを受け、日本も法的な環境を整えようとの動きだ。

北海道大樹町。広々とした土地で、宇宙への夢が育まれている(撮影:八尋伸)

北海道大樹町は「宇宙の町」として知られる。酪農地帯に囲まれて多くの研究・開発施設があり、宇宙に挑む若者が次々にやってくる。インターステラテクノロジズにも、そうした若者たちが集まっている。

29歳の稲川貴大CEOを始め、スタッフの多くは20代だ。彼らはどんな夢を持って、北の大地で日々を送っているのだろうか。「部品はホームセンターで買うこともある」といったことも率直に語る若者たち。

今年の夏には、高度100キロメートルの宇宙空間へロケットを打ち上げることを計画している。その実験風景とともに、彼らの思いを動画で見てほしい。

[制作協力]
オルタスジャパン
[写真]
撮影:八尋伸
写真監修:リマインダーズ・プロジェクト 後藤勝

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