木村肇

熊本地震はさらなる大地震の予兆なのか

2016/5/18(水) 12:12 配信

2016年4月14日21時26分、九州の熊本県熊本地方でM(マグニチュード)6.5の地震が起きた。16日未明には、さらにM7.3の地震が熊本地方から阿蘇地方を襲った。28時間を経て、同じ場所で2度観測された「最大震度7」の揺れ。気象庁によれば、こうしたケースは観測史上初めてだと言う。

大きな被害をもたらした熊本地震から1カ月。今回の地震は、さらなる大地震の予兆なのか? いずれ起こるとされる南海トラフ地震や首都直下地震に私たちはどう備えればいいのか? 4人の専門家に話を聞いた。
(Yahoo!ニュース編集部)

地震で「死なない」ために何が必要か

東京大学地震研究所 災害科学系研究部門 教授
古村孝志

1963年生まれ。地震の揺れの地震計記録の解析と地震波伝播のコンピュータシミュレーションの両面から研究を進めている(撮影:岡村裕志)

———今回の熊本地震について、どのような点に着目されましたか。

震度7の強い揺れが2回立て続けに起きたのは、近代の地震観測では初めてのことです。九州の日奈久(ひなぐ)断層帯と布田川(ふたがわ)断層帯のひずみが互いに影響しあったことが原因です。強い揺れが何度も起きたことで、住宅への被害や土砂崩れなどの地盤災害も拡大した。もし都市部の人口密集地域で起きていたら、死者数千人という被害もありえたでしょう。

———「さらなる大地震の予兆ではないか」という不安の声も上がっていますが。

大地震が起きること自体は、地震国の日本では何も特異な現象ではありません。そもそも日本列島は4つのプレートが衝突する場所に位置し、陸のプレートには、知られているだけでも2000もの活断層がある。小さな地震は1日300回以上検出されており、M7~M9級の大きな地震も一定の割合(※)で起きている。「地震活動期に入ったのではないのか」とよく聞かれるが、そんなことはない。これが日本の平常な状態なのです。

※日本においてM7級の地震は1年に1回、M8級の地震は10年に1回、M9級の超巨大地震は600年に1回の確率で起きているとされている

熊本で大きな地震が起きたのも、今回が初めてではありません。1889年(明治22年)にはM6.3の地震が発生して20名が犠牲になり、熊本城の石垣が崩落するなどの被害があった。また、1625年にも地震で大きな被害が出たという記録が残っています。過去に地震が繰り返し起きていても、その被害は時間とともに忘れ去られてしまう。これは熊本に限ったことではない。

———地震で「死なない」ためには、どのような対策をすればいいのでしょうか。

地震の人的被害はその地域の人口とほぼ比例するが、人が亡くなる原因は地震そのものではない。阪神淡路大震災では、その犠牲者のほとんどが倒壊した建物の下敷きになっての“窒息死と圧死”でした。つまり、「地震」によって人が亡くなるのではない。「家の倒壊」によって亡くなるのです。

2005年12月発表の旧被災12市4町(13市)を対象として実施した兵庫県の調査より作成。死者6402人のうち直接死の死亡原因の内訳

今回の地震でも、古い木造の家がつぶれたり、屋根が落ちたり、つぶれた家の下敷きとなる形で多くの人が亡くなった。自分の暮らす家や普段通っている会社のビルの耐震性が、生死の明暗を分けるもっとも重要なポイントになるでしょう。

現在の耐震基準が設けられたのが1981年なので、これ以前に建てられた建物は震度6強以上の強い揺れで倒壊してしまう危険性がある。自治体の補助金を活用するなどして、とにかく早急に耐震診断と耐震補強をすべきです。水や食料の備蓄をまず考える人が多いと思いますが、その前に家を強くすることが先決です。

また、耐震性が高いと考えられる新しい高層マンションに住む人も、家具が強い揺れで転倒しないように固定することは必須です。また、電気や水などのライフラインの長期間の停止には注意したほうがいい。揺れ自体には強いかもしれないが、電気設備が止まれば、水道やエレベーターなどがストップしてしまい、日常生活が維持できなくなる。上層階では移動も困難になるため、1週間分程度の水や食料などを自宅に備えておくことが必要です。

M7級の地震は、全国どこでも起こりうる。地震が怖いのは「ある日突然起きる」ということ。しかし、家の耐震性を確保し家具を固定しておくことで、人的被害は大幅に減らすことができ、地震は怖くなくなります。

大地震では耐震性のない「家」が住人の命を奪うケースも多い(撮影:木村肇)

建物が倒壊しやすい“短周期”の揺れだった

東北大学 災害科学国際研究所 IRIDeS 教授
遠田晋次

1966年生まれ。大きな内陸地震直後に地表に出現する断層(地震断層)などの調査を行う。地震防災を目指した調査研究を進めている

————3.11の東日本大震災を引き起こした東北地方太平洋沖地震と熊本地震では、どのような違いがあるのでしょうか。

地震の種類には海溝型と内陸型(活断層型)の2つがある。東日本大震災を引き起こした東北地方太平洋沖地震は、プレートの下に別のプレートがもぐりこむことによって起こる海溝型だった。対して今回の熊本は、プレート内部の断層の動きによりひずみが蓄積されて起こった活断層型です。

海溝型の場合は、はじめに細かい震動(初期微動)があり、しばらくして地震の激しい震動(主要動)が起こるという特徴がある。前者は逃げるための若干の猶予があるが、内陸型は前兆もなくいきなり激しい震動が起こるため、耐震性のない建物の中にいた場合は非常に危険です。

それから、地震の揺れには「ガタガタ」と揺れる短周期と、「ゆらゆら」とゆっくり揺れる長周期の2種類があり、短周期は一戸建てなどの低層階の建物に被害を及ぼしやすい。東北の地震は「長周期の揺れ」だったため、実は沿岸から離れた場所では建物はそれほど壊れなかったのです。しかし、今回の熊本では、震源が浅く短周期の震動を受けたことが災いし、多くの建物が倒壊してしまいました。

神社内の建物や重要文化財なども大きな被害を受けた(撮影:木村肇)

————本震があった16日以降に現地に入ってどんなことがわかりましたか。

日奈久・布田川断層帯のエリアを中心に地表のひび割れなどを調査しました。亀裂が入った畑や道路の写真や映像を見た方も多いと思いますが、これらは複数の断層からなる布田川断層帯沿いの地溝(平行に位置する断層によって区切られた地形)に沿う形で発生している。

気象庁は当初、地盤が南北方向に引っ張られて起こる「横ずれ断層型」であるという見解を出していたが、現地調査を行った結果、熊本県西原村の俵山の西麓に正断層(縦にずれ動く断層)が地表に現れているのが見つかった。このことから、16日未明の本震の動きは「斜めずれ」で、地表では「横ずれ」と「縦ずれ」の両方が生じたと考えられます。

遠田晋次氏による図解をもとに作成

これは「スリップパーティショニング」という現象です。海外の地震では報告例が複数あったが,国内ではおそらく初めて。地下でどのような力が加わってずれが起きたのか、今後、さらに調査していく必要があります。

活断層がない領域にも「ひずみ」が見つかっている

京都大学防災研究所 地震予知研究センター 准教授
西村卓也

1972年生まれ。GNSS(GPS)やInSAR、測地測量などによって観測された地殻変動データを使って地震や断層運動、マグマの移動などに関する研究を行っている

———活断層以外に、地震の発生を予測する材料はないのでしょうか。

今現在起こっている地表の動きにも着目すべきです。GPSを使った観測によって得られた地殻変動のデータを活断層ベースの長期予測に組み入れていくことで、今後、より精度の高い(地震発生の)リスク評価ができるかもしれません。

GPS衛星による精密な測量は1990年代から行われていて、全国に約1300カ所あるGPS観測点の位置を計測しデータを蓄積していくと、ある場所では地表が「1年で東に1cm移動している」というように、地表が移動した距離と方向を細かく捉えることができるのです。

地表の「移動距離」を数値化することで、周囲と比べて変動のスピードが「速い」場所が浮かび上がってくる。こうした「ひずみ集中帯」は16日に地震に見舞われた熊本から阿蘇を通り別府に至る地域にも存在し、東と西側から少しずつ押されているような地殻変動が観測されていました。いわば「ひずみ」が限界までたまった状態で14日の地震が起こり、それが引き金となって大きな地震を引き起こした可能性は高い。

同じような「ひずみ集中帯」は日本全国で確認されています。一番有名なのは長野、岐阜、滋賀、京都にまたがる「新潟—神戸ひずみ集中帯」で、北海道や東北の奥羽山脈にもあることがわかっている。これらは活断層の分布とほぼリンクしているが、例外もある。山陰地方や九州地方の南部などに顕著な活断層はないが、地表ではGPS観測によってひずみが高い領域が見つかっています。

そもそも、今回の熊本地震のような内陸型の地震は、海溝型に比べてデータが限られるため、そのメカニズムについてはまだまだ未知のところがある。IT技術を取り入れた新しいデータを積み重ねていくことで、より多面的な予測が可能になると思います。

「ソフト」と「ハード」両面からの防災を

東京大学地震研究所教授・ 地震予知研究センター長
平田直

1954年生まれ。東海地震判定会委員、文部科学省・首都直下地震防災・減災特別プロジェクトリーダーなどを務める(撮影:岡村裕志)

———大地震の予兆であるという可能性はないのでしょうか。また、熊本地震の性質とその被害について、過去の地震と比較してどのような点が特徴的なのでしょうか。

少なくとも今現在、科学的な証拠にもとづいて「熊本地震が大地震の予兆である」とは言うことはできないと思います。

地震が起きた地理的条件や地震の性質については、68名の犠牲者を出した2004年の新潟県中越地震と類似している。まず、地方都市の中山間地域であること。土砂災害が発生しやすい地形であること。また、活発な余震活動が長く続いているということです。ただし、新潟県中越地震のM6.8に比べて熊本地震はM7.3(放出されたエネルギーは約6倍)と大きい。そのため、余震がより多く起こっているのです。

さらに、二次被害の点でも重なります。新潟中越地震でも熊本地震でも、避難生活でエコノミークラス症候群(急性肺血栓塞栓症)にかかる人が多く発生しました。

まず、余震のために家に帰れない人が大勢いた。しかし、中山間地域と呼ばれるような地域では安全で広い避難場所が少なく、多くの人が車中で夜を明かすことになる。それで、狭い場所で座りっぱなしになるケースが多かった。

また、車中泊ではトイレの場所が遠くなるため、つい水分を控えがちです。とくに体の不自由なお年寄りであれば「周囲に迷惑をかけたくない」という思いで、車の中で一日中じっとしているというようなこともあるでしょう。こうしたいくつもの要因が重なって、エコノミークラス症候群を引き起こしてしまうのです。

不安を抱えながら車を拠点に避難生活を送る人々(写真:Abaca/アフロ)

————熊本では地震への備えが十分ではなかったとも言われています。「地震がいつ、どこに来るか」を予測することはできないのでしょうか。

政府の地震調査研究推進本部が作成した「30年以内に強い揺れに見舞われる確率」を示した地図(※)があります。これは海溝型地震と内陸部に約100ある主要な活断層の分布をもとに、地震の発生確率と地盤の揺れやすさを総合して、「強く揺れる確率」をマップ化したものです。九州全体でも、M6.8以上の地震が30年以内に発生する確率は、「30~42%」と高かった。

「地震がいつ来るか」というタイミングを予測するのは、非常に難しい。しかし、地震がどのくらいの頻度で来るかは、データにもとづいて評価できます。ぜひ、自分の住むエリアがどのように揺れるかを知り、準備をしていただきたい。

———首都圏で同じ規模の地震が起こった場合はかなりの被害が予想されます。南海トラフ地震(※)はいずれ起こると言われていますが、「とくに危ないエリア」というのはあるのでしょうか。

※地震調査研究推進本部・地震調査委員会によって「30年以内に70%の確率で起こる」と予測されている

残念ながら特定のエリアを指して「次はここで起きる」ということは言えません。しかし少なくとも「私が生きている間くらいの期間には、必ず(首都圏の)どこかで大地震が起きる」ということは言えます。

そして、首都圏は全般的に地盤が弱い。なぜなら首都圏がある関東平野は、そもそも海の底に泥がたまってできたもので、いわば岩の上に座布団が乗ったような状態です。さらに、東京には江戸時代に埋め立てによって造られた場所も多い。首都圏に限らず、日本の国土には同様の場所がたくさんあると思ったほうがいいでしょう。

また、防災の専門家の間では耐震化・不燃化されていない古い木造住宅が密集している地域を「木密地域」と呼んでいます。例えば、山の手線の外側から環状7号線の間には「木密地域」がリング状に広がっている。そうしたエリアは災害時に人的被害が拡大する恐れがあります。

老朽化した家が倒壊した場合、火災が同時に多発し、避難経路がふさがれて、消防車や救急車などが道に入れなくなってしまう。火災時には、消火器を使って自分たちで消火を行わなければいけない。負傷したら、自力で歩いて病院に行かなければいけないかもしれない。避難ルートの確認はもちろん、そうした覚悟が必要でしょう。

———具体的にどんな備えが必要なのでしょうか。

耐震性の見直しや家具の固定、水や食料の備蓄は、当然必要でしょう。また、地震による停電後、電気が復旧したときに「通電火災」が起きる恐れがある。これを防止するために感震ブレーカーは必須です。ホームセンターなどに行けば後付けできる簡易なアタッチメントなども売っているので、ご自宅のブレーカーを確認し、ついていない場合は対策を講じるべきです。

防災の専門家の間では、地域の「レジリエンス」(回復力)が重要視されています。一人暮らしや、女性とお年寄りだけの家庭などは、いざというときに自力で避難できない可能性がある。マンション暮らしでは、隣の人の名前すら知らないようなことはよくあると思いますが、防災面では大きなマイナスです。日頃から地域の連携をとっているかどうかは、重要なポイントになる。建物の耐震補強や感震ブレーカーなどが「ハード」の備えだとすると、地域の連携は「ソフト」の備えです。ハードとソフトの両面から災害に備えることが、自分と家族の身の安全を守ることにつながっていくでしょう。


「都心南部直下でM7.3の地震」が起きた場合の被害

(2013年に内閣府により想定)

①予測される揺れ
広範囲で震度6強の揺れ、一部は震度7の揺れが起こる。震度6弱以上の揺れは一都三県の約3割の面積(4500平方キロメートル)におよぶ



②建物の被害
木造住宅を中心に61万棟の建物が被害を受ける。そのうち41万棟が火災によって焼失(地震と同時に火災が多数発生し、延焼が2日程度継続する)。



③人的被害
犠牲者…最大2万3000人(7割が火災による)
帰宅困難者…500万人



④インフラの被害
水・電気…約5割の家庭や事業所で断水、停電が起こる。火力発電所が停止するため、電力供給が不安定な状態が1週間以上継続する。
交通…地下鉄は1週間、JR在来線や私鉄は1カ月運行を停止する。主要道路は1~2日は不通。一般道も数日間は麻痺する。
通信…固定電話・携帯電話…地震発生直後は使用できない。また、電子メールは遅配が生じる。



⑤経済損失
(直接的、間接的なものを含めて)95兆円

[制作協力]
夜間飛行
[写真]
 撮影:木村肇、岡本裕志
写真提供:アフロ
写真監修:リマインダーズ・プロジェクト 後藤勝

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