コンビニ業界で進む、「レンジでチン」革命。レンジでチンをし、イートインやオフィス、自宅ですぐに食べられる――そんなパック詰めのフード、冷凍食品などが次々に投入されている。これらはコンビニの課題であり続けてきた「フードロス」「オペレーション負荷」改善へ大きな一歩となっている。(取材・文:吉岡秀子、写真:高橋宗正/Yahoo!ニュース 特集編集部)
コンビニのフード売り場で長年主役を張ってきたのは、おにぎり、サンドイッチ、お弁当だ。数々の人気商品、定番を生んできたが、フードロスの課題は切り離せない。大半の商品リミットは短い。売れ残ったら廃棄しないといけない。
レジ前のおでんもその一つだ。
この1月、ファミリーマート(以下、ファミマ)は、こうした課題に対し「レンジアップおでん」と呼ぶレンジでチンするおでんを発売した。いま、コンビニ業界で進むレンジでチン革命を象徴する商品として注目されている。
そもそもコンビニにとっておでんは、レジ前商品の顔だ。中でもファミマは、「おでん処」と銘打って親しみやすさを演出するなど、独自のアイデアで販促に力を入れてきた。直近は、おでんの「つゆ」のクオリティーにこだわりを見せており、北海道から沖縄まで、全国を7地域に分け、地域ごとになじみのある「だし」を利かせる手間ひまをかけてきた。
また、おでんと一緒につける薬味も、店によっては和がらしだけでなく、東北地方は「しょうがみそ」だったり、関西地方は「しょうが醤油」だったりと、地元の嗜好に合ったラインアップをそろえている。それほど鍋おでんは、リニューアルを重ね、大切に育てられてきたのだ。
「レンジアップおでん」とはどんなものなのか。
ファミマで「おでんセット」と呼ばれる、パック詰めのおでん(6個入り)を注文した。店員さんがレジ内の冷蔵庫からパックを取り出し、容器にあける。レンジで1分強あたためると熱々のおでんが出てきた。ふうふう言いながら、おでんを頬張ってみる。おでんダネは、大根、さつま揚げ、こんにゃく、ちくわ、たけのこ、昆布。常温保存で、180日もつという。フードロスは大幅に軽減できる。
「レンジアップおでんの利点は、これだけでもないんですよ」
こう言うのは、ファミマのファストフーズ部おでん担当・佐々木高行さんだ。
「加盟店のオペレーション負荷の削減もできるんです。鍋おでんは、おでんダネを鍋に入れる仕込みの時間があります。つゆのつぎ足し業務もあります。一日の終わりには鍋の洗浄も必要になってきます。もちろん、より簡易的にできるようにパッケージの開封を簡素化するなど、さまざまな工夫を施しておりますが、人手不足もあり、こういった業務が難しくなってきた加盟店もあるため、レンジアップのおでんで解決したかった」
佐々木さんが言うように、コンビニ店員を取りまく労働環境は変わってきた。レジまわりの業務は、昔に比べると複雑化している。ネット通販の荷物の受け渡し、増え続けるキャッシュレスの支払い対応等もある。レジ横のメニューも増え、例えば揚げ物やコーヒーの販売もある。そのかたわら、レジ前のおでんのことを気にするのが難しくなった店もあるだろう。
レンジアップおでん――。発売から2カ月経ったいま、全国1万6千店舗あまりある加盟店のうち、約7千店舗がレンジアップおでんを販売し、約4千店舗が鍋おでんをやめている。また直近の動きとしては、パック入りの手軽さが好評で「持ち帰って、自宅のレンジで温めて食べたい」という客の声が予想外に大きくなってきたことから、「2月末からは、パック入りのまま販売できるようにした」(ファミマ広報)という。
レンジでチン後、その場で食べられる
業界で進むレンジでチン革命は、おでんに限った話ではない。他のフードにも波及している。たとえば冷凍食品だ。賞味期限が長い。冷凍庫での保存なら1年持つのがほとんど。フードロスを減らせるし、店にとっては何度も発注する手間が省け、検品回数だって減らせる。店舗のオペレーション負荷の軽減につながる。
そして何よりも冷凍技術の進歩でおいしさ、メニューのバリエーションが増えた。コンビニ各社にとっては、新しい市場を開拓することにもつながっているのだ。
たとえばローソンでは、「野菜を食べるガパオライス」など、パッケージに「ナチュラルローソン」(NL)マークが入った冷凍食品が女性を中心に人気だ。もち麦を配合したごはんに、1食分の野菜(120グラム)が取れるという仕立て。「目玉焼き風卵」まで載っている。これが「レンジでチン」ですぐ食べられるのだから、究極の便利さだろう。
業界最大手「セブン-イレブン」(以下セブン)も、技術の進歩を背景に冷凍食品のイメージを変えようとしている。これまで冷凍食品はお弁当向け、自宅での保存用というイメージも強かったが、それは過去のものになりつつある。
そのイメージ転換に必要だったのは、マイナス温度帯から高温へと、温度の急激な変化に強い「専用容器」の開発だ。セブン商品本部の冷凍食品担当・鍵村信弥さんは、2018年に発売した「セブンプレミアム 炒め油香るチャーハン」が一つのきっかけになったという。鍵村さんはこう言う。
「加熱後、手で持って運んだりそのまま食べられるようにカップラーメン型の容器を米飯用に開発しました。これによって、オフィスで働いている人、あるいは自宅でしっかり食事をとりたいというニーズにも応えられるようになりました」
レンジでチンし、食べてみると、おいしさはお弁当のチャーハンと遜色がない。米のパラパラ感としっとり感のバランスがよく、油の風味もいい。鍵村さんはこう言う。
「分量はお茶碗約1杯分の170グラムとなっていて、サラダやお惣菜と一緒に購入するお客さまが出てきました。これまで冷凍食品は、主婦や中高年のお客さまを中心に夕方に売れるという特徴がありましたが、この商品を出して以降、平日のランチタイムでも売れるようになりました。オフィスで働く方、単身生活者の方にも召し上がっていただいています」
チャーハンに続いて、新たな売れ筋も出てきた。1月下旬に発売した「セブンプレミアム 冷凍トレーパスタ」シリーズがそうだ。レンジアップの際、お皿に移さず容器のまま温められ、そのまま食べられるトレー容器を開発した。
「コンビニの1500Wレンジで温めると、パスタソースは高温まで一気に上がることがあります。これまでの容器だと加熱後に変形してしまう可能性があり、耐熱性のある容器の開発は必須でした」
低価格で、フードロスも削減
試行錯誤の末にできあがったのは、ナポリタン、ボロネーゼ、カルボナーラなどの定番のパスタ。1500Wのレンジで2分前後温めれば、主食としてボリューム十分なパスタが食べられる。コンビニのお弁当コーナーで存在感を発揮しているパスタと比べても、引けはとらない。
値段は税抜きで238円。量が違うので一概に比較はできないが、コーヒーチェーンなど、ちょっとした飲食店のパスタよりも安い。消費者から見れば、ここはうれしい。
鍵村さんはこうも言う。
「解凍したときに食感がうまく戻りにくい、冷凍適性に乏しい素材が、今では急速凍結の進化で、解凍後も食感をキープできるようになってきました。今後、さらに品質の向上が可能になれば、もっと多様な商品もつくれるかもしれません」
鍵村さんは「冷凍食品の売り上げは、年々伸長しています。品質向上や使い勝手の良さの認知をさらに広げたい」とも続けた。
セブンだけでなく、コンビニ業界全体で、オリジナルの冷凍食品開発が進んでいることから、その伸び代は大きい。
平成のある時期まで、コンビニの"レンジでチン文化"は、「弁当を買って、その場ですぐ食べる」という便利さを世の中に提案し、定着した。それがいま、フードロスや業務の省力化、また共働き世帯や単身世帯の増加で出てきた調理の「時短」「簡便性」という新しいニーズに応じて変化の時を迎えた。
チルド惣菜、冷凍食品――これまでヒットとはあまり縁のなかったカテゴリーにスポットを当てた令和時代のレンチン革命は、コンビニグルメの常識を覆し、食の風景を変えようとしている。
吉岡秀子(よしおか・ひでこ)
北海道生まれの大阪育ち。関西大学社会学部卒。2000年ごろからコンビニ取材をはじめ、以来、商品・サービス開発の舞台裏やコンビニチェーンの進化を消費者視点で追い続け、各メディアで情報発信している。近著に『コンビニ おいしい進化史』(平凡社)。著書に『セブン-イレブン 金の法則』(朝日新書)などがある。