コンビニで売っている食べものが、「高カロリー」一辺倒の時代は過去のものになりつつある。商品棚を見れば、健康志向にシフトした商品が増えてきた。低カロリー、糖質をカットしたものも多い。食べても罪悪感が軽減できることから、「ギルトフリー」食品と呼ばれることもある。いま、こういった商品を支持するのは健康面が気になるミドル、シニア世代だけではない。近年のフィットネスブームを牽引する20代男女も熱い視線を送る。ギルトフリーの潮流に次々と新製品を投入するコンビニ大手3社の取り組みを取材した。(取材・文:吉岡秀子、写真:高橋宗正/Yahoo!ニュース 特集編集部)
「食べたい。でも、太りたくない」――こんな消費者の声はどんどん大きくなっている。そんな声に押され、「糖質ゼロ・オフ」市場の成長が続いてきた。2016年度は前年度比28%増の210億円(TPCマーケティングリサーチ調べ)、推定値として2017年度は300億円目前まで迫っている。いま、こんな傾向は「低カロリー」「グルテンフリー」などの要素も巻きこんで、「ギルトフリー」と呼ばれる流れを生んでいる。「食べても罪悪感を覚えない」から「ギルト(罪)フリー」なのだ。
こういったトレンドを受け、コンビニの売り場も変化が起きている。「高カロリーな食べもの」。コンビニにある食べものに対して、こんなイメージを持っている人は多いかもしれない。けれどもいま、それは必ずしも正解ではない。
セブン-イレブン(以下セブン)、ファミリーマート(以下ファミマ)、ローソンの大手3社が取り組むのは「糖質オフ」「野菜・食物繊維たっぷり」など、健康面のメリットを前面に押し出した商品なのだ。
サラダチキンの「味」広がる
まずファミマの売り場から見てみよう。若者からシニアまでをとりこにする筋トレブームのいま、もはやおなじみだろう。低糖質で高たんぱくの「サラダチキンシリーズ」の売り場が充実している。
「棚一列、常時6種類のフレーバー(味)をそろえています。正直、サラダチキンがここまで定着するとは思っていなかった」
と話すのは、ファミマ商品本部のサラダチキン担当の小出宏明さん。
PB(プライベートブランド)のサラダチキンはすでにセブンが先行し、販売をしていた。そんななか、ファミマもPBのサラダチキンを15年5月に売り出した。そもそも業界的には(忙しい主婦向けに)サラダにのせて食べてほしいと考え、出した商品だったようだ。
それがフタを開ければ、「食べごたえがあるのに、1食当たり100キロカロリー台、糖質は1グラム前後である」ことに着目した消費者がサラダにはのせず、そのままチキンにかぶりつくケースが続出した。小出さんはこう続ける。
「予想外でした。糖質を抑えた食事の代わりに食べられているんです。こういった方たちを視野に入れた商品戦略を立てなければと思いました」
ファミマが頑張ったのは、サラダチキンのファンを飽きさせないようにと、新たなフレーバーを次々と投入した点だ。例えばプレーンのチキンでも藻塩で味つけしたり、ハーブも数種類をブレンドしたり。さらにタンドリーチキン風の味やスナック菓子「カラムーチョ」とのコラボ商品、直近では蒸したチキンを直火で焼いた「焦がし醤油風味」なども好調だ。
「サラダチキンの購入データを見ると、プレーンとタンドリーチキン味を組み合わせる例があります。濃い味と淡い味を組み合わせて複数購入される方がいます。たいへん興味深いものがあります」
体重コントロールに熱心な消費者になると、カット野菜に濃いめフレーバーのチキンを混ぜて食べる。チキンの味が立っているので、ドレッシングは要らない。少しでもカロリーを削りたい人に、濃い味のチキンが響いている。
「藻塩やハーブは幅広い客層に支持されていますが、(濃い味のものは)若い男性客に好まれます。今後は女性のお客様から支持を得られるフレーバーも開発したい」
サラダチキンはまだまだ化けそうだ。
糖質カットしたパンはなぜおいしくなったか
次はローソンだ。いま、同社で好調なのがギルトフリーな「パン」。「ブランパンシリーズ」というブランド名で売り場に並んでいる。
ローソン中食商品本部・商品担当の村田文子さんは、こう言う。
「調査してみると、98%の人が『好き』と回答するにもかかわらず、『太るからあまり食べない』というカテゴリーがある。それはパンです」
メロンパンにあんぱん、デニッシュ、ドーナツ……無性に食べたくなるときがあるが、商品の裏にあるカロリーなどの成分表示を見て、諦めたことがある人もいるだろう。ローソンが注目したのはここだった。
「2012年に糖質を抑えたブランパンの販売を始めたのは、食べたい気持ちを抑えなくて済むパンを作りたかったからです」(村田さん)
ブランパンの「ブラン」とは小麦など穀物の外皮(ふすま)のこと。これを使ったパンは、発売当初からアスリートや糖質制限をする人の間で一定のニーズを得たものの、「最初はまったく売れなかった」と、村田さんは言う。
だが13年に、オーツ麦など、これまで使ってこなかった穀物のブランを混ぜるなどして風味を改良。「糖質ダイエット」ブームも追い風となり、ブランパンにスポットライトが当たった。
ベーカリー売り場に立つと、ブランパンや糖質を抑えたパンの品ぞろえの多さに驚く。糖質量やカロリーが大きく表示されたシリーズは、全16品にも及んでいる。店によって並ぶ品数は違うが、数種類しかなかった当初に比べれば、いまではドーナツあり、デニッシュあり、メロンパンあり……と、売り場で大きな存在感を放っている。
「購入されるのは女性のお客様が多いですが、中高年の男性のお客様もよくリピートされています。ローソンのブランパンシリーズにはルールがあって、一袋の糖質量は20グラム以下にしなければなりません。ただ、食べごたえを考えて、多くの商品は2個入りを基本にしています」(村田さん)
この配慮は、一般社団法人 食・楽・健康協会(代表理事 山田悟医師)が推奨する1日の糖質量を70~130グラム(1食20~40グラム、間食10グラム)とする緩やかな糖質制限食「ロカボ」の考え方に準じている。
ブランパンの定番は「ブランパン2個入」だが、売れ筋第1位は、甘めの味わいの「ブランのバタースティック」、ついで「ブランのドーナツ」も人気が高いという。村田さんはこうも続けた。
「原料も製法も進化していますから、発売当初に比べるとブランパンは格段においしくなった。みなさんの『太りたくないからガマンする』心理を減らしたい」
おいしくなきゃ、はじまらない
いくらカラダのことを思って糖質やカロリーを抑えた商品を作っても、おいしくなければ消費者から選ばれることはない。
「ギルトフリーという言葉は耳にしますが、私たちはもっと広い見方で、よりおいしく、健康的で安全・安心な商品を作りたい、そう思って日々開発を進めています」
と語るのは、セブンの商品本部で米飯・麺類開発担当のチーフを務める渋谷克彦さんだ。
いま、セブンでは、おにぎりやスープ、惣菜、チルド弁当、パスタなど、約10のカテゴリーでハートマークのロゴがついた商品が目立つようになった。ロゴに添えてあるのは「カラダへの想いこの手から」のキャッチコピー。2018年3月から、1日に必要な野菜摂取量の1/2以上、またはレタス1個分の食物繊維をとれる食材を使った商品に、「カラこの」(セブン社員はこう呼ぶ)マークをつけて売り出したという。売り上げは当初の倍にまで成長をとげている。渋谷さんはこう話す。
「そもそもの話をすると、買い物時の意識調査では必ず“健康”がキーワードとして出てくる。なのに、コンビニは期待されていなかったんです。そこで全社を挙げて考えました。もっと頼りにしていただけるお店になるべきだと。そして新しい提案に乗り出したんです」
そうして生み出された商品群のひとつが「カラこの」シリーズだ。このシリーズ、ファミマやローソンとはまた違った売れ方をしている。
例えば「カラこの」マークのついた商品で人気なのが、「もち麦」を使った「もち麦もっちり!おむすび」シリーズで、定番は「梅こんぶ」だ。また、若者に好評な「ビビンバ」なども売り場に並んでいる。ほかには、ロカボの観点から麺なしにした「1/2日分の野菜!ちゃんぽんスープ」も人気を伸ばしているし、食物繊維がたっぷりなサラダもある。
「カラこの」のラインアップはバラエティーに富んでいる。ぱっと見ただけでは、サラダチキンやブランパンが持っているギルトフリー感は薄いが、渋谷さんによれば、消費者は「食べておいしかったから、繰り返しご購入いただいている」。それが結果的に、ギルトフリーになっているのではないだろうか。
「どの商品もおいしくなければ、発売できません。もち麦シリーズが定着したのも、炊く際に白米ともち麦の浸漬時間を変えるなど、手間暇かけて作ったから。今後は塩分などを抑えてもおいしい商品なども作り出し、どれを食べても安全・安心、健康的。ギルトフリーという概念だけにとらわれない商品づくりを目指したい」
「健康からは程遠い」と思われていたコンビニ業界は過去のものになりつつある。この流れはさらに加速していくだろう。
吉岡秀子
北海道生まれの大阪育ち。関西大学社会学部卒。2000年ごろからコンビニ取材をはじめ、以来、商品・サービス開発の舞台裏やコンビニチェーンの進化を消費者視点で追い続け、各メディアで情報発信している。近著に『コンビニドリーム 街と人と響き合うオーナー10人の仕事』(朝日新聞出版)。著書に『セブン-イレブン 金の法則』(朝日新書)などがある。