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日本の「脅威」と「備え」を考える――防衛はどうあるべきか

2018/12/10(月) 08:21 配信

オリジナル

日本の防衛力のあり方を定める「防衛計画の大綱」(防衛大綱)がまもなく発表される。2018年度の防衛費はおよそ5兆円。いま日本の脅威をどう捉え、安全保障政策はどうあるべきか。元海上自衛隊自衛艦隊司令官の香田洋二氏、防衛官僚出身で元内閣官房副長官補の柳澤協二氏、国際政治学者の植村秀樹氏の3人に聞いた。(ジャーナリスト・岩崎大輔、森健/Yahoo!ニュース 特集編集部)

防衛大綱とは、10年程度の期間を念頭に、日本の防衛力の基本方針、自衛隊の定員や装備などを規定するものだ。1976年の三木内閣時に始まり、1995年の村山内閣、2004年の小泉内閣、2010年の菅内閣、2013年の安倍内閣と5回策定されてきた。一つの内閣で大綱を2回策定するのは、安倍政権が初めてだ。

新しい防衛大綱では「サイバー」「宇宙」「電磁波」という新たな領域の脅威への備えとともに、地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」やステルス戦闘機「F-35A」など、米国製の高額な武器の配備などの明記も見込まれている。

脅威は依然ある。だからこそ備えが必要

香田洋二 元海上自衛隊自衛艦隊司令官

前回2013年の防衛大綱にもあるように、ロシア、中国、北朝鮮との緊張が続いています。順に説明しましょう。

ロシアとは北方領土の問題があります。北方領土は、ソ連が日ソ中立条約(1941年)を一方的に破棄して奪った土地です。私のモスクワや極東ロシアを訪問した経験から見ると、北方領土はソ連兵が血を流して奪い取った戦利品だから、「寸土たりとも日本に返す必要はない」というのが、ロシアの本音でしょう。

オホーツク海はロシアの海洋核戦略において最重要の位置を占めており、カムチャツカ半島に戦略原子力潜水艦を配備しています。ノルウェーとの国境近くの港湾都市にも配備している。この配備は「2つの海域から米国本土に対する核攻撃が可能だ」という、米側への牽制になっています。

(こうだ・ようじ)1949年、徳島県生まれ。1972年、防衛大学校卒業後、海上自衛隊入隊。統合幕僚会議事務局長、佐世保地方総監、海上自衛隊自衛艦隊司令官などを歴任し、2008年退官。2009年から2011年、米ハーバード大学アジアセンター上席研究員を務める。著書に『賛成・反対を言う前の集団的自衛権入門』『北朝鮮がアメリカと戦争する日』など。(撮影:八尋伸)

北方領土問題でロシアが懸念しているのは、軍事拠点化を進めている国後島や択捉島に自衛隊や米軍が駐留することです。そうなればロシアは、オホーツク海で戦略原潜を運用するための優位な状況に支障が出る恐れがあります。

ロシアにとって、軍事的には返す理由は何一つありません。どれほど経済援助を行っても、ロシアが最優先の戦略的優位性確保を覆して北方領土を返還することは起こり得ず、交渉で取り戻すのは至難の業というのが国際安全保障関係者の常識です。

次に中国。中国とは尖閣諸島の主権を巡る争いが起きています。尖閣はわが国の領土で実効支配もし、領有権問題は存在しません。ですが、中国も1960年代後半から「尖閣は中国固有の領土」と主張しています。

それだけでなく、中国は南シナ海の南沙諸島では、レーダーやミサイル砲台、航空基地などの軍事施設の整備を推進し、西沙諸島では、戦闘機を配備し、爆撃機の発着訓練を行うなど軍事力を背景とした現状変更を推し進めています。

実際、2016年7月、フィリピンとの南シナ海問題に関して出された国際仲裁裁判所の裁定を「紙くず」と完全否定しました。覇権国家の顔を隠そうともしていないのがいまの中国です。

そして北朝鮮。2016年以来、3度の核実験を強行しましたが、今年6月、史上初の米朝首脳会談において、金正恩委員長が朝鮮半島の完全なる非核化に向けた意思を文書の形で約束しました。会談の意義はあったと思いますが、現実に核の脅威がなくなったわけではありません。近年開発した対米大陸間弾道ミサイル(ICBM)はもとより、わが国を射程に収めた中距離弾道ミサイル「ノドン」を数百発保有し、実戦配備したままです。

航空自衛隊は全国28カ所にレーダーサイトを置き、24時間態勢で監視している。冷戦期であった1984年度にはソ連機に対するものがほとんどだったものの、ソ連崩壊後は減少。その後は中国の軍事力拡大に伴い、中国機に対する緊急発進が増加している。最新の緊急発進のデータでは、2018年4〜9月の上半期で561回と発表。2016年同期の594回に次ぐ過去2番目の多さとなっている(出典:防衛省、図版:ラチカ)

このように、いまの日本を取り巻く脅威は依然として存在しています。

だからこそ、備えが必要になります。前回の防衛大綱で、北朝鮮への脅威に対しては、イージス・アショアを2023年度に配備完了することが決まりました。

公表資料によれば、イージス・アショアは、本体取得費が2基で2474億円、30年間の維持・運用費に1954億円が見込まれています。単年度で約5兆円という防衛予算からすれば、けっして安くない。そこで「米国の言い値で買っているんじゃないか」との批判がありますが、それは違います。

これまでの自衛隊の防衛力整備における米国装備導入において、法外な価格で米国が一方的に「押し付けた」例はありません。他同盟国との比較においてもそうです。米国はわが国以外にも多くの同盟国を持っていますが、そのような行為をとれば、同盟の破壊行為に直結します。

イージス・アショアはわが国のみの購入ですが、他に競争候補がない以上、「高い・低い」の基準もない。反対する方々は何を基準に「高い」と批判されるのか、疑問です。

私はイージス一番艦導入の主務者で、以後も長くイージスに関わってきました。その経験からすれば、艦載イージス価格は米海軍の駆逐艦と海自の護衛艦でほぼ同一(約1,300億円/隻)でした。それを基準とした今回の見積もりを、「米国の言い値(高価格)の押し付け」とすることは、いわれなき中傷ともいえます。

ルーマニア・デベゼル基地に配備されているイージス・アショア(写真:ロイター/アフロ)

マッハ10以上で飛翔するミサイルに的確に当てることができるのか、という批判もあります。米国のために買っているのではないか、という批判もあります。どちらの批判も当たりません。

私は現役時代、イージスシステム導入において運用者である海自の中核的な業務に関わりました。海上勤務時には当時の最新対空ミサイルSM-1を10発以上発射した経験もあります。

艦載イージス導入にあたっては、主務者として、予算決定の透明性を確保するために精緻な確認作業を行いました。米海軍提供の性能諸元等のデータを、専門家の観点から確認・評価し、それを基にわが国の複数の防衛シナリオにおいて、その能力と有効性の適否を判断するシミュレーションを徹底的に行いました。

そして敵の撃墜率、わが国の被害、任務達成の成否等の結果を慎重に確認・評価したうえで、内局、財務省、政府に報告し、その妥当性を論議し、承認を受けて導入が認められたのです。税金を投入する以上、わが国の防衛に貢献しない装備や費用対効果上、妥当でないものは導入してはならないのです。

また、私は海上幕僚監部の防衛力整備担当者として10回、防衛予算を国会で承認してもらう作業に関わりました。論議を呼んでいたイージス艦では、財務省と深夜から朝5時まで予算を取るためにやり合いました。データや根拠に基づかなければ、財務省は予算を付けません。もしそこで予算化されても、その後、国会の予算委員会などで厳しい審議にさらされます。

そのような経験から言えば、たとえ米国の大統領から「買え」と言われたから、「ハイ、買います」というような単純なことは起こりえません。

イージス艦「こんごう」(写真:ロイター/アフロ)

北朝鮮情勢の分析を行う「38north」という米シンクタンクの専門サイトでは、北朝鮮が東京とソウルに核攻撃を行った場合、210万人の死者が出る、という推計を出しています。

わが国は現在、イージス艦による弾道ミサイル防衛と、地上配備型迎撃ミサイル「PAC3」による最終防衛体制をとっているので、無策・無防備で核攻撃を許すという事態は起きません。対応手段があるのに、何もしないのは、国民の生命と財産を守る政府のやるべきことではないと考えます。結局、国民の生命を守る際、防衛装備品には「高い、安い」よりも、「最後は撃ち落としてくれる」という安心感を持ってもらうことが必要なのではないでしょうか。

イージス・アショアやF-35Aなど高額な防衛装備品を導入すると、ほかの防衛予算を圧迫するという批判もあります。既存の装備品の取得や修理にかかる予算を抑えて導入するのではなく、他にしわ寄せがいかないよう、導入分に見合った予算の純増で対応すべきことだと私は思います。

(撮影:八尋伸)

米国への追従が日本の戦略でいいのか

柳澤協二 元内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)

日本を取り巻く戦争の危機は大きく分けて4つあります。

第1に、北朝鮮によるミサイル攻撃という脅威。しかし、その本質は米朝の争いです。北朝鮮は米国に滅ぼされる恐怖におびえ、体制維持のために核ミサイル開発を進めてきました。日本近海でミサイルが飛んでいますが、主敵は米国です。

第2は、中国が領土だと主張する尖閣諸島を巡る衝突。ここでは日本は当事者です。これは第三者から見れば、日中の領土を巡る争い。互いに強硬な態度を取り続ければ、日中で戦争になる恐れがあります。

第3は、同じく中国が南シナ海で人工島を軍事要塞化し、力による現状変更をしていること。ここで脅かされているのは、フィリピンやベトナムの主権ですが、本質は米中によるインド太平洋地域での覇権争い。ここでは日本は直接の関係はありません。

第4は、イスラム過激派などによる無差別のテロ行為。これもまた直接日本に向けられたものではありませんが、国際社会の一員として関わる必要性はあります。

(やなぎさわ・きょうじ)1946年、東京都生まれ。1970年、東京大学法学部卒業後、防衛庁(当時)に入庁。防衛審議官、運用局長、防衛研究所所長などを経て、2004年から2009年にかけて内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)。著書に『検証 官邸のイラク戦争』『亡国の集団的自衛権』など。(撮影:八尋伸)

4つの危機はそれぞれ主体が異なり、背景も解決策も異なります。

ところが、安倍政権はこの四つの危機を「日本の脅威」と一緒くたにし、防衛装備品を増やそうとしてきました。しかも、これらの危機に対して、「米国の抑止力」という単一の処方箋で対応しようとしています。

今年1月22日、安倍晋三首相は国会の施政方針演説で、安全保障関連法に基づき、自衛隊が米軍艦艇・航空機の防護任務を実施した、と明らかにしました。政府は防護任務を原則非公表としていましたが、あえて言及したのは首相が日米同盟を強調したかったのでしょう。日米が軍事的に一体化し、強固になれば抑止力が高まる。従って日本は平和になる、という思考だと思います。

ですが、それは米国の戦争に巻き込まれるリスクも高まることを忘れてはなりません。

海上自衛隊の護衛艦「いずも」(写真:ロイター/アフロ)

抑止力の本質は「やってきたら倍返しにするぞ」という威嚇です。そこで相手が引っ込めばいいが、問題は「やられる前にやってやる」と反発して衝突が起こる可能性もあるということです。そう考えたとき、紛争地域で米軍と共に行動することは、果たして抑止なのか挑発なのか。米国に巻き込まれる形で戦争に加担する可能性を政府はどこまで考えているのか。日米同盟のジレンマを日本がどう判断し、生き延びていくのか。それらの議論がなされていません。

イラク戦争のときには、「このまま米国と一緒でいいのか」という問いかけが与党の中からもありました。戦後73年が経過した今、日米の関係を一から議論すべきです。

前回の防衛大綱では、北朝鮮や中国の危機感を煽っていました。そして、これらの防衛装備品があるから大丈夫です、としていた。しかし、防衛装備品にお金をかけたからといって「100%の安全」が得られるわけではありません。あちらがミサイルの能力を高めたら、こちらも撃ち落とす能力を高めないといけない。ただ、そうして示威的に見せる「ショーウィンドウ型の軍事力」で、日本は装備を重ね続けるべきでしょうか。

要するに、一番大きな問題は、高額な防衛装備品を購入したところで、どの程度迎撃効果があるのか、防衛戦略の全体像が見えないということです。

1998年8月、北朝鮮の長距離弾道ミサイル「テポドン」1号が日本の頭上を越えて太平洋に落下しました。当時の自衛隊には、今のイージスのようなミサイル防衛システムもなく、無防備で北朝鮮のミサイル攻撃を許してしまう恐れが高かった。

このテポドン危機をきっかけに、ミサイル防衛システムの研究が日本でも始まり、2003年12月の第2次小泉内閣で「弾道ミサイル防衛態勢の配備」が決定しました。まもなく私は官邸に呼ばれ、内閣官房副長官補として働くことになりました。

その当時、イージスシステムなど高額な装備品購入のために様々なデータが示されましたが、その効果には懐疑的でした。高速で飛来するミサイルを落とすには、直接当てて破壊するわけで、銃弾を銃で撃ち落とすような難しさがあるからです。一方、ミサイル防衛システムの導入に対して、北朝鮮が過剰なまでに反応していたので、それはそれで「政治的な効果がある」と考えてもいました。

その後、迎撃技術は向上しましたが、北朝鮮のミサイル能力も増大している以上、迎撃には限界があります。脅威は能力と攻撃する意志の掛け算ですから、能力への対応に限界があるなら、攻撃意志を持たせないための外交交渉にもっと比重を移すべき、と考えます。

防衛関係費は隊員の給与や食事のための「人件・糧食費」と、装備品の修理・整備・調達、隊員の教育訓練、施設整備などの「物件費」の2つに大別される。安倍政権で防衛関係費は毎年増大し、2019年度概算要求額は5兆986億円となった。(出典:防衛省、図版:ラチカ)

例えば、昨今では尖閣防衛のためと称して長距離巡航ミサイルを導入していますが、その前に緊張を緩和するような話し合いをすべきでしょう。主権の対立で強硬姿勢や軍事力を前面に出せば、際限のない対立になる。ここは、軍事ではなく政治が前面に出るべきです。

仮に米中の戦争に巻き込まれたら、日本は終わります。米中間を安定させるにはどうすればいいのか、と戦略的に考えることが必要です。

攻撃されれば、防衛のために戦うだけの能力は持つが、それ以外の無駄な軍事力は使用しない。日本はそんなスタンスで戦後やってきました。軍事力に頼らない紛争解決や平和の構築ができる、世界でも稀な国家です。

しかし、現状では「戦略なき米国への追従」が日本の戦略になっています。その結果、安全保障政策も迷走し、高額な防衛装備品の購入に歯止めがきかなくなっています。憂慮を禁じ得ません。

(撮影:八尋伸)

「積極的平和主義」の行き着く先はどこなのか

植村秀樹 流通経済大学教授(国際政治学)

防衛大綱が初めて打ち出されたのは、米ソ冷戦の最中だった1976年、三木武夫内閣のときです。時の防衛庁長官の坂田道太氏はハト派の文教族で、「国民に説明をし、理解を求めなければならない」と説明責任の必要性を説きました。

そこで、防衛官僚で理論家と呼ばれた久保卓也事務次官が「基盤的防衛力構想」という考えを打ち出し、安全保障政策の基本方針を出しました。それが最初の防衛大綱です。

このときの基盤的防衛力構想で特徴的だったのは、「限定的かつ小規模な侵略」までの事態に対処しうる基本的な防衛力の整備を目標としたことでした。「このような脅威があるから、こういう装備を行う」という脅威対処型ではありません。

(うえむら・ひでき)1958年、愛知県生まれ。1983年、早稲田大学法学部卒業後、読売新聞社入社。青山学院大大学院、文部省教科書調査官などを経て、現在、流通経済大学法学部教授。専門は国際政治学、安全保障論。著書に『「戦後」と安保の六十年』『暮らして見た普天間』など。(撮影:八尋伸)

この構想は制服組の自衛官側からの支持は得られませんでしたが、米ソ冷戦時代は当初の構想で運用されていきました。しかし、その後、2001年の同時多発テロ後、国際テロを脅威と位置づけた2004年の小泉内閣、中国の軍事力が増強した2010年の菅内閣と、国際情勢の変化に合わせて大綱は改定されていきました。

2013年の防衛大綱で大きく変わったのは、「積極的平和主義」という言葉が最初の大綱以来、改めて持ち出されるとともに、備えのあり方が脅威対処型になったことです。まもなく発表される安倍政権の2度目の大綱でも、この方向性はさらに顕著になるでしょう。次期防衛予算は過去最大の5兆円を超えると見られています。

そうした変化で現場が喜んでいるかというと、そうばかりでもないでしょう。

なぜか。これまでは自衛隊の現場では、この防衛装備品が古くなった、と要望をあげ、それらを積み上げて装備品を購入していました。

陸上自衛隊の富士総合火力演習(写真:ロイター/アフロ)

ところが安倍政権になってから、装備品の購入も「官邸主導」となったのです。

オスプレイがいい例ですが、外務省の発案で米軍と国民の間にクッション役のように官邸に口添えし、自衛隊で購入することになったと聞いています。各種報道の経緯でいうと、2012年10月、沖縄の米海兵隊の普天間飛行場にオスプレイが配備され、激しい反対運動が起きた。その米軍への反対運動を打ち消すかのように、外務省が自衛隊にオスプレイ導入を促したということです。その後、自衛隊はオスプレイを無理やり、作戦や計画に組み込んでいますが、これは自衛隊の計画によるのではなく、完全に政治的な都合で決めたと言わざるを得ない。それも官邸の機嫌を損ねないためなのでしょう。

こうした装備の官邸主導はいまも続いています。イージス・アショアやグローバルホーク(無人偵察機)、F-35Aの大量購入も自衛隊が要望したというよりは、NSC(国家安全保障会議)が購入を決めている。

こうした官邸主導の装備品購入での問題は、現場の都合や必要性とは異なる論理で進められることです。新装備に巨額の費用を投じることで、その他の装備品や修理にかかる予算が抑えられてしまう。一方で、新装備は買った手前、使わないと会計検査院も「稼働率が低い」と迫るわけで、後始末も担わされる。

オスプレイは17機で1600億円もしますし、維持整備費が20年で4400億円もかかります。もともと高額なのに、さらに多額の維持整備費を支払い続けないとならない。また、操縦できる人材の育成に時間もお金もかかり、現場は何重にも負担を強いられていきます。

一方で、中国の軍事増強により、スクランブル(戦闘機の緊急発進)の回数も増えています。F-15を急発進させていますが、そのうちに燃料代、維持管理だってまわらなくなる恐れもあります。

熊本県の高遊原分屯地に着陸するオスプレイ(写真:アフロ)

2013年の防衛大綱には「国際協調主義に基づく積極的平和主義」という文言が盛り込まれました。言葉はきれいですが、行き着く先は米国が戦争をする際、一緒に血を流せ、ということです。

その場面になった際、本当にそうするのか。自衛隊がどこまで出て行き、米軍とどこまで一緒に行動を起こすのか。次の米国の戦争が岐路となるでしょう。

米国の同盟国はみな米国に従っているわけではありません。英国はベトナム戦争に兵隊を出しませんでした。米政府から何度も要請はありましたが、突っぱねた。それは英国なりの姿勢でした。

いまの日本にそうして主体的な意思を伝える矜持(きょうじ)があるのか。安倍政権は米国からの要請があっても自衛隊を出動させる、とは明言していません。けれども、いつでも自衛隊が前線に出られる準備は進んでいます。2001年のアフガニスタン紛争や2003年のイラク戦争のときは、日本は法整備ができずに出せませんでしたが、2015年9月には安保法制が成立しました。いまは法律的な歯止めがないので、時の政府の判断でいつでも部隊を出せてしまう。

いま自衛隊が置かれている状況、日本の安全保障戦略は非常に危ういと言わざるを得ません。次期防衛大綱以降、もっと本質的な議論が起きてしかるべきでしょう。

(撮影:八尋伸)

岩崎大輔(いわさき・だいすけ) 1973年、静岡県生まれ。ジャーナリスト、講談社「FRIDAY」記者。主な著書に『ダークサイド・オブ・小泉純一郎 「異形の宰相」の蹉跌』(洋泉社)、『激闘 リングの覇者を目指して』(ソフトバンククリエイティブ)、『団塊ジュニアのカリスマに「ジャンプ」で好きな漫画を聞きに行ってみた』(講談社)など。

森健(もり・けん) 1968年、東京都生まれ。ジャーナリスト。2012年に『「つなみ」の子どもたち』で第43回大宅壮一ノンフィクション賞、2015年『小倉昌男 祈りと経営』で第22回小学館ノンフィクション大賞を受賞。2017年、同書で第1回大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞、ビジネス書大賞2017審査員特別賞受賞。公式サイト

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撮影:八尋伸
写真監修:リマインダーズ・プロジェクト 後藤勝
[図版]ラチカ