塩田亮吾

「安倍外交は失敗、進次郎は徒党を組め」 元自民党副総裁・山崎拓の進言

10/22(月) 7:35 配信

自民党総裁選挙で3選を果たし、続く内閣改造で「全員野球内閣」と銘打った安倍晋三首相。盤石な体制と映る状況下、そんな首相に厳しいスタンスで物申す人物がいる。「ヤマタク」こと山崎拓・元自民党副総裁(81)である。1990年代初頭、党主流派だった旧経世会に反旗を翻し、小泉純一郎(元首相)、加藤紘一(元幹事長・故人)とともに盟友関係「YKK」を形成した。長く権力の中枢に身を置いてきた山崎氏に、いまの自民党政治がどう見えるのか聞いた。(鈴木毅/Yahoo!ニュース 特集編集部)

安倍3選は「終わりの始まり」

――9月20日の自民党総裁選で安倍晋三総裁の3選が決まり、3年後の任期満了までの長期政権が視野に入りました。いまの自民党をどう見ていますか?

まず総裁選に石破(茂・元幹事長)さんが出馬したことはよかったと思います。それが民主主義ですし、安倍さんの一強支配と言われている状況では、党内を活性化させ、党内論争が起きることが望ましい。

私は長く中央政界にいて数々の総裁選にかかわってきましたが、ここのところ自民党内では、みんなが安倍首相の顔色をうかがっているような状況になってしまって。下から上の顔色ばかり見ている「ヒラメ現象」――そう私は呼んでいるんですが、なんとかそういうよどんだ空気を一掃できないかと思っていたところです。

(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

――総裁選の結果は、地方票と国会議員票の総計で安倍票553、石破票254でした。

石破さんは善戦したと思います。議員票の約8割は安倍首相でしたが、地方票との総計で3割強の得票。これで石破さんは、ポスト安倍のトップバッターになったんじゃないですか。

残念だったのが、岸田(文雄・党政調会長)さんが出なかったことですね。これで本人の評価も下がったし、自民党リベラルの宏池会を継承した岸田さんが出ないことで、党内のリベラル勢力が崩壊した感じになった。岸田さんが総裁選に出ていれば、石破さんの得票と合わせて決選投票に持ち込み、2位3位連合で安倍政権は続かなかったかもしれません。

――3選で安倍一強体制は強化されたんでしょうか。

いや、3選で任期は終わりだから、「終わりの始まり」になったわけで、権力が強化されたということはありません。 “総裁任期”が延長されただけです。

――終わりが決まっているということは、大きなことなんですか。

大きなことです。レームダック化が進行します。政治は「一寸先は闇」ですから、途中で政権が倒れる可能性だってあります。大きなハードルは来夏の参議院選挙、それに安倍首相が公約に掲げている憲法改正もどうなるか。

憲法改正の発議は衆参両院の本会議で総議員の3分の2以上の賛成が必要ですから、参院選前にやりたいところですが、公明党の反対もありますし、政治的に難しいと思います。これができなくなると、それ自体が安倍さんにとって致命的です。

(撮影:塩田亮吾)

選挙の公認権をもつ党執行部に従う議員たち

勢い込んで話したかと思うと、「うーん」としばらく目をつぶって考え込む。議員の座を退いて9年が経つが、山崎氏は政治への進言を続けている。

1972年に衆議院議員に初当選。1991年、宮沢喜一内閣で建設大臣に就任。同時期に小泉純一郎、加藤紘一とともに「YKK」を結成、派閥とは異なる存在感を打ち出していった。2001年、小泉政権が発足すると、党幹事長、副総裁を歴任した。党内の苛烈な派閥争いに直接触れている世代でもあり、そうした派閥勢力を無力化した小泉政権時代には党の中心にいた。そんな山崎氏からしても、いまの「安倍一強」は異様に映るという。

――いま党内で安倍さんに拮抗するほどの勢力は見当たりません。なぜでしょうか。

それは野党の無力化が大きいですね。それが自民党「一党支配」のなかの「一強支配」を生んでいる。

2012年の自民党の政権奪取と同時に、党内に一挙に100人を超える新人が生まれました。

彼らは、公認さえ取れれば当選できる選挙をやってきて、言ってみれば、「乃公(だいこう)出でずんば」(この俺様が出ないで、他の者に何ができるものか)の精神で台頭してきた人材ではありません。それに、みんな野党時代の冷や飯にこりごりし、すっかり権力に弱くなった。そこで、選挙の公認権を持つ党執行部に従うしかないわけですよ。日本政治の地盤沈下でしょうね。

――かつて派閥を率いていたような親分肌の議員も減っているように見えます。

親分肌といえば、麻生太郎副総理や二階俊博幹事長はそうでしょう。ただ、細田派の細田博之・元幹事長は大企業の総務部長みたいだし、竹下派の竹下亘・前総務会長は竹下登元首相の弟としてカリスマ性はありますが、いかんせん無欲。

政治は権力闘争の世界ですから、そこが弱いと思います。

山崎拓(やまさき・たく) 1936年中華人民共和国大連市生まれ。福岡県立修猷館高等学校、早稲田大学商学部卒業後、サラリーマン生活を経て、1967年福岡県議会議員に当選。1972年衆議院議員選挙で初当選、以後12回当選。1989年防衛庁長官、1991年建設大臣、2001年自民党幹事長、2003年党副総裁。2009年総選挙で落選。(撮影:塩田亮吾)

――むしろ各派閥会長の“上の存在”を強く感じます。竹下派には青木幹雄・元官房長官がいて、細田派には森喜朗元首相がいて、石原派には山崎さんがいる。

そうですね……。我々は中選挙区制の落とし子で、そこで培った派閥の権力闘争を経験している世代。だから、まだある程度、政治生命が残っているのかな。

――政治家が小粒になってしまった、と。

戦後の自民党と社会党を軸とする「55年体制」のなかでは、党内に5大派閥ができて、三角大福中(三木武夫、田中角栄、大平正芳、福田赳夫、中曽根康弘)のそれぞれが交代しながら政権を取った時代がありました。

その後、派閥の長が世代交代していく過程で小物化していったんですね。田中角栄の後が竹下登、福田赳夫の後が安倍晋太郎、大平正芳の後が宮澤喜一、三木武夫の後が海部俊樹、中曽根康弘の後が渡辺美智雄。それぞれかなりのスケール感のある人物でしたが、それでもオリジナルの5割程度でしょう。

その次の世代は、そこからさらにスケールダウンして、いまは三角大福中の1割程度の者しかいない。それほど小物化したと思いますよ。そのなかでは、いまの安倍首相がいちばん大きいわけです。岸信介以来の華麗なる血統を持っていますから。

(写真:読売新聞/アフロ)

YKKはそれぞれが政権の座を狙っていた

――日本の政治状況を振り返ると、戦後続いた中選挙区制の弊害が指摘され、1996年の衆院選から小選挙区制が導入されました。それによって強大な一強状態がつくられた形です。いまの状況をどうお考えですか。

活性化したほうがいいでしょうね。いま派閥は名ばかりで、安倍派が8割いるという感じになってしまった。だけど、安倍首相はいずれ辞めるわけです。

次は石破さんだと思いますが、そうなると、またさらに次が出てきて対抗する構図ができると思いますね。本格保守の石破さんに対して、それをやるべき存在は本来ならば岸田さんです。

民主政治では、右に振れた振り子が左に振れる、というのが本来の姿ですよ。

――自然に党内でバランスが取れていく、と?

いまのリーダーは、二階さんも麻生さんも年齢的にいずれいなくなります。そのときに党内が2大派閥グループに再編されていく可能性があると見ています。いまの安倍一強は、野党が無力化し、自民党議員が権力に弱くなり……という偶然の産物です。

(写真:読売新聞/アフロ)

――安倍首相の次の世代というと、石破さん、岸田さん、それに山崎さん直系の石原派の石原伸晃さん、そして谷垣グループの中谷元さんなどがいます。

この世代にいったんはバトンタッチされるでしょうね。

その4人は同じ1957年生まれで、以前、私が定期的に会合を持つように勧めたことがあります。生まれ月も春夏秋冬に分かれていて、肝胆相照らす関係になるかと期待したんですが……、まったくダメでした。

YKKのような関係にはならなかったね。私たちの場合は、それぞれが政権の座をうかがって、時の田中角栄金権政治に対抗したわけです。彼らには、そういう対抗意識がないですね。

――どうして対抗しなかったんでしょうか。

もともとそういう資質がなかったんでしょう。なによりも権力闘争の経験が足りない。

政治家人生というのは、権力闘争に揉まれる運命にあるんですよ。ただ温室でじっと座ってヌクヌクと太っていくのではダメだ。4人のなかで、なぜかその闘争心があるのは石破さんです。

(写真:毎日新聞社/アフロ)

進次郎が化けるといい

――となると、「ポスト安倍」候補の筆頭は?

さきの4人に可能性があるとしても、全員が天下を取れるわけではない。ただ、後進が育っていないから、2人はなれるかもしれませんね。

そろそろ次の局面に入っていくでしょう。安倍政権が「終わりの始まり」に入ったわけだから、岸田さんも動き始めるでしょう。そうでないならば、同じ派閥の林(芳正・参院議員)さんなどに派閥の長を交代するべきです。

あとは、小泉進次郎がどうなるか、ということですね。

――小泉進次郎さんは、世論の人気も高いです。

彼が化けるといいですがね。今回の総裁選では少し勢いが欠けました。

――今回の総裁選で進次郎さんは、投開票日の議員投票直前というギリギリのタイミングで、石破さんに投票することを表明しました。

彼が今回もっと能動的に動けば、存在価値が上がったと思います。骨太な政治家のイメージを出せた。

でも、最後にひとこと言っただけ。あれでは流れをつくれない。ここまで「昇り龍」だったけど、これで足踏みです。

(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

――父親の小泉元首相を彷彿とさせる部分はありますか?

個人的な付き合いはありませんが、少なくとも顔は……似ている。

ただ、父親の小泉はとにかく自己主張がすごい。進次郎はそこまでの我の強さはないと思う。

背後霊のように純一郎の存在があって、イメージや人気を借りているというか、そういう面があると思います。ポピュリズムの時代だから、その意味では時流に合っていると思うんですけどね。

――どうすれば、「化ける」んでしょうか。

「YKK」のように、徒党を組むことが必要だと思いますね。横並びの同世代で。彼と一緒に人気を博したいという、ある程度の力を持った者がいるはずですよ。頭もよくて行動力もあるような者がね。

安倍政治は外交・安保ともに失敗だ

――ポピュリズムの時代ということですが、そう言われ始めたのは小泉政権のときでした。山崎さんは当時、自民党の幹事長、副総裁として政権を支える立場でしたが、いまの安倍政権と小泉政権は何が違うんでしょうか。

ぜんぜん違います。小泉は一挙手一投足、計算しつくされた動きで世論にアピールしていました。そして、小泉は5年半で自分から進んで首相を退陣しました。みんながもっとやってくれと言ったのに、いや、やらない、と。彼の出処進退は潔かった。

翻って、安倍さんには出処進退の潔さがまったくない。権力は長期化すれば必ず腐敗します。なのに、彼が「長期政権」というレガシーを残そうとしているのが、非常に気に障ります。

安倍政権で何をやったのかというと、実はなにもない。レガシー・ゼロです。たまたま彼が日銀の大胆な金融緩和政策をアベノミクスと称して株価高という一時的な成功を収めたというだけのことです。

(写真:ロイター/アフロ)

――その安倍政権6年弱の成果について、どう評価していますか。

外交、安保ともに評価はしていません。安倍首相は外遊で点数稼ぎをしているように見えますが、実際は対米、対ロ、対中、対朝(北朝鮮)すべて失敗でしょう。

いくらトランプ米大統領と仲がよくても、アメリカ第一主義のトランプ大統領は何も譲歩しない。

ロシアのプーチン大統領とも22回も首脳会談をやって、何の成果があったのか。9月には、プーチン大統領が領土解決より前の日ロ平和条約の締結を提案しましたが、北方領土の返還なしに結んだら、それはつまり北方領土放棄です。

対中国だって、いまは米中貿易摩擦の影響で中国が日本にすり寄ってきているだけで、中国は習近平政権が続く限り、すぐにまた豹変しますよ。

あとは対朝ですが、安倍首相は口では日朝首脳会談をやると言っていますが、本心ではその機会が訪れることを恐れていると思いますよ。北朝鮮の金正恩は若いけれども、同じ坊ちゃん育ちの安倍首相は人を恐れるので、対等にはやれないでしょう。

(撮影:塩田亮吾)

――恐れているのは、なぜでしょうか。

首脳会談が実現しても不首尾に終わるからです。安倍首相が言い続けているのは、拉致問題の完全解決。それを政権の最重要課題と位置づけてきましたが、ここまで何も成果は上げていません。それで首脳会談をしてもいい結論が出なければ、大きなマイナスになります。

安保政策では、2015年9月に安全保障関連法を成立させた。あれは問題が出てくると思います。これまでせっかく専守防衛で一人も殺さず、一人も死なずに来ましたが、安保法制のせいで、自衛隊が中東などで武力行使させられる可能性も出てきた。そうなれば必ず死者が出ます。

問題は、国連の決議に基づかない有志連合などへの後方支援が簡単にできるようになってしまったことです。集団安全保障で自衛隊の派遣を行うならば、必ず国連決議を経ないといけない。日本の外交三原則の1つは国連中心主義ですから。国会審議では集団的自衛権の解釈のことばかりでしたが、これは大きな問題ですよ。

(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

後世の政治を活力あるものにするために発言

ここのところ山崎氏は、安倍政権の長期化や、外交・安保政策などについて批判的な発言を繰り返している。総裁選でも、石破氏の立候補をいち早く支持し、街頭演説にも駆け付けた。こうした山崎氏のスタンスには、党内から困惑の声が出るほどだ。インタビューの最後に、なぜこうした発言を続けているのかその真意を聞いた。

――こうして政治について積極的に意見を発信しているのは、なぜですか?

後世の政治が活力を取り戻すことを願っているだけです。

いま大阪の大和大学で特任教授をしていて、学生たちにこう言っているんですよ。君たちが100歳まで生きれば21世紀末になる。そのころには少子高齢化が進んでいるし、米中対立も深刻化しているかもしれない。日本が滅びてしまう可能性だってある。だからしっかりしろ、と。

学生と接して思うのは、後進の育成の大切さです。私はあと5年か10年かは生きていると思うので、その間にできるだけ役に立とうと思っているだけです。

――盟友の息子、進次郎さんにYKKの思想を託そうという思いはないんですか。

おそらく進次郎のほうで望まないでしょう。その点では、「俺は俺だ」という気持ちがあると思いますよ。あの血統はそうですから。そこは親子でとても似ていますね。

(撮影:塩田亮吾)

(撮影:塩田亮吾)


鈴木毅(すずき・つよし)
1972年、東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒、同大学院政策・メディア研究科修了後、朝日新聞社に入社。「週刊朝日」副編集長、「AERA」副編集長、朝日新聞経済部などを経て、2016年12月に株式会社POWER NEWSを設立。

[写真]
撮影:塩田亮吾
写真監修:リマインダーズ・プロジェクト 後藤勝


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