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木村肇

「VR元年」バーチャルリアリティの大航海時代が始まった

2016/02/18(木) 13:59 配信

オリジナル

イベント会場は明るく、大勢の若者たちでにぎわっていた。その一角。ゴーグルの形をしたヘッドセットを頭に装着し、若い女性が少しずつ足を前に進めていく。女性の目に映っているのは、現実の明るい部屋ではない。暗がりの先の古い井戸だ。さらに足を踏み出す。井戸はすぐそこ。おそるおそる、その底をのぞき込んだその瞬間......。「ひゃあー」とも「ぅきゃあー」ともつかぬ叫びが、女性の口から飛び出した。いったい、彼女は何を見たのか? まずは、この動画を見てほしい。進化に進化を続けるVR(バーチャルリアリティ)の世界へ、ようこそ。(Yahoo!ニュース編集部)

古い井戸をのぞき込んだ女性が参加していたのは、1月24日に東京・渋谷で開かれた「Unity VR EXPO Shibuya」。創意を凝らした21のVRコンテンツが出展され、200人以上の若者らが仮想現実を実体験した。

会場ではゴーグルを付けた参加者たちの「すげっ」「はやっ」といった声があちこちから響く。顔を上に向けたり、下に向けたり。歩きながら左右に頭を振って、「わあ」と感嘆する人もいた。

VR端末をのぞきこんで「仮想現実」を体験する(撮影:木村肇)

ゴーグルを装着した参加者たちは、端から見れば、奇妙に体を動かしているようにしか映らない。しかし、それぞれの視界には現実と全く違う世界が広がっている。ゲーム用の馬に乗った人たちには、本物の騎手と同じような風景が広がっているのだ。しかも風景は動き、本物と同等の「体感」もある。

体の動きと連動するのが「VR」の醍醐味(撮影:木村肇)

井戸をのぞき込むと同時に叫び声を出し、思わず後ろに跳び下がった女性はこう言った。

「怖くて直視できなかった。自分がその(現実の)中にいるみたいな感じで。本当に(井戸から何かが)出てきているみたいな」

激しさを増す「VR」開発競争

女性を驚かせたコンテンツの開発者は、VRクリエイターの高橋建滋さん。2年前に大手ゲーム会社を退職し、東京都内で小さな会社を立ち上げた。VRの世界で何が実現できるのか、「まだ分かっていないことが山のようにある」と高橋さんは言う。

VRクリエイターの高橋建滋さん

「ちょっとした大航海時代。自分が何か発見したら世界的な発見かもしれない、というワクワク感がある」

高橋さんのような開発者から大手企業まで、VRの開発競争は最近、一気に激しさを増してきた。2016年は「VR元年」になりそうだ、と関係者は口をそろえる。ソニー・コンピュータエンタテインメントの「プレイステーションVR」、米国オキュラスの「オキュラス・リフト」といった個人向けの視聴機器が相次いで発売されるためで、既に始まった一部機器の先行予約も熱を帯びている。

一般向けのVR端末が続々と発売される予定だ(撮影:木村肇)

VRと言えば、映画「マトリックス」などが描き出した仮想現実を連想してしまう。実際は、ゲームを中心としたエンターテイメントの世界だけでなく、ビジネスの現場でも、VRが力を発揮している。

ある大手不動産会社は、住宅販売の最前線でVRを使うようになってきた。住宅販売の必須ツールと言えば、これまでは図面やイラスト、立体的な完成予想図などだった。モデルハウスに行けば、顧客は新たな住まいを「実感」できた。では、遠隔地の住宅はどのようにして売り込むのか。

VRを使えば、遠くのモデルハウスを「疑似体験」することもできる

その答えが「VR」だった。この会社では、東京に住む客が仮に大阪の住宅に関心を持っても対応に困らない。客にVRゴーグルを付けてもらえば、その場でモデルハウスに案内できるからだ。

旅行会社の中には、VRで旅先を体感してもらう試みを始めた社もある。パンフレットなどでしか比較できなかった旅先の魅力。それがVR機器一つで、一気に疑似体験まで進むのだ。

VRの進化はまだ始まったばかり(撮影:木村肇)

VRをさらに精巧に作り上げれば、例えば、災害現場を再現し、実際の避難行動や救助活動を疑似体験することも可能だ。実際、筑波大学などでは、そんな研究も進んでいる。

何が現実で、何が仮想現実で、何が虚偽か。VRにはまると、その境界をあいまいに感じるかもしれない。人間の体に何かマイナスが生じるかもしれない。実際、そんな懸念を指摘する専門家もいる。

しかし、今はまず、VRが作り出す新たな世界をのぞいてもらいたい。

※冒頭と同じ動画

[制作協力]オルタスジャパン
[写真]
撮影:木村肇
写真監修:リマインダーズ・プロジェクト
後藤勝

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