ラフなデニム姿で舞台に立ち、静かに、そしてはっきりとした口調で聴衆に語りかける。アップル創業者の故スティーブ・ジョブズ氏を彷彿とさせるこの男性、「中国のスティーブ・ジョブズ」と呼ばれる雷軍(レイ・ジュン、46歳)だ。
雷軍氏は中国のスマホメーカー「小米科技(シャオミ・Xiaomi)」を率いる。2010年の創業から5年、全世界では累計1億5000万台以上を売り上げ、一躍巨大メーカーに躍り出た。日本では発売されていないことから日本人には馴染みが薄いが、シャオミの勢いは中国や東南アジア、さらには「最後の巨大スマホ市場」と呼ばれるアフリカへも及んでいる。
中国の新星・シャオミは「模倣」を超えて、世界のスマホ市場でさらなる飛躍ができるのか。「本家」のアップルとの比較を中心に、ビジュアルでレポートする。(Yahoo!ニュース編集部/山根 康宏)
1億台以上売れた「iPhoneに似ている」スマホ
雷軍が「中国のスティーブ・ジョブズ」と呼ばれるのは、その服装だけではない。端末やウェブサイト、製品発表会の様子までが「アップルに似ている」と言われている。
「どこか似ている」とメディアに取り上げられるシャオミとアップル。両社とも台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業へ製造を委託している点も同様だ。このシャオミ製のスマホが中国で爆発的に売れている。その数、4年で1億台をゆうに超える。
発売した途端、シャオミのスマホが即完売していく様子は、「蒸発する」とまで言われている。
中国では11月11日は「独身の日」と呼ばれ、大規模なセールが行われ、消費は最高潮に達する。2015年の「独身の日」だけでシャオミは250億円を売り上げた。すでに中国市場でシャオミは18%のシェアを獲得、他の目立ったスマホメーカーがいずれも創立から20年以上の老舗の中に新顔のシャオミが割って入る。
シャオミの2015年4-6月の出荷台数は1792万台だった。同期間の日本国内全体の台数累計が608万台であることと比べれば、シャオミだけで、日本に出回った総数の約3倍もの台数を出荷したことになる。
世界シェアや企業価値ではアップルに及ばないものの、すでに企業価値ではソニーをも超えたと言われている。
すでに中国の携帯電話販売店ではアップルとシャオミの看板を並んで掲げるのが当たり前になりつつある。
世界観のアップル、現実のシャオミ
シャオミはiPhoneと同程度の性能の端末を半額以下の価格で売り出すことで急成長してきた。
アップルとの差別化は価格だけではない。アップルが高いブランド力、すなわち世界観を売るのに対し、シャオミは現実を売るのだ。
雷軍の右腕としてシャオミを牽引してきた黎万強(リー・ワンチアン)は「見栄えの良さや立派な宣伝文句はいらない。"一撃で急所を突く"のがシャオミだ」と語る。(著書『シャオミ 爆買いを生む戦略』(日経BP社)
製品のコピーでは、iPhone 6sが「唯一変わったのは、そのすべて。」と謳ったことに対し、シャオミの端末Mi 2に「就是快(とにかく速い)」と現実的なコピー案をつけたのがいい例だろう。
「模倣」を超える、シャオミのオリジナル戦略
シャオミがアップルと大きく異なるのがユーザーとの「距離感」だ。ユーザーと同じ目線に立つという基本的な考えがシャオミの成長を支えてきた。前出の黎氏は「インターネット嗜好の中心は口コミにある」と喝破。いち早く旧来のマーケティング手法や一般的な広告を捨て、SNSを活用した「口コミ」に標準を定めた。
例えば頻繁に行われるファンイベントには、CEOの雷軍を始め、経営陣が登場し、ファンと交流する。経営陣だけではなく、社員もSNSアカウントを持ち、ユーザーと積極的にコミュニケーションする。さらには「オレンジフライデー」と呼ばれる週に1度のソフトウエアのアップデートでは公式ホームページに書き込まれたユーザーからの意見や感想を反映して、開発を行う。
アップルの徹底した秘密主義に対して、シャオミは徹底してユーザーと「友達」であろうとする。
「ファン」の獲得について、雷軍とジョブズ、二人の思想の差が明確に表れている言葉がある。
岐路に立つシャオミ
中国ではトップメーカーの仲間入りを果たしたシャオミだが、その成長に陰りが見え始めた。2015年にシャオミが掲げていた目標販売台数は年間1億台。しかし、結果はそれを下回る、約7000万台にとどまった。
主な要因は中国でのスマホ普及率が年々高まり、新規購入客の数が昨年にかけて頭打ちした点にある。2015年7-9月の出荷台数では、海外販売で先行する華為技術(ファーウェイ・Huawei)に首位を奪われた。中国市場に依存していたシャオミの弱さが出たかっこうだ。
グローバルのスマートフォン市場を見ると、いまや、東南アジアやアフリカなどの新興国が2ケタの伸びを示している。
伸び悩む中国市場に危機感を感じたシャオミは海外進出を積極化している。
2014年には人口12.7億人のインドに進出し2015年7-9月期は100万台を販売、サムスン一強だったインド市場に風穴を開けた。実際にシャオミの勢いを体感したソフトバンクの元幹部は「インドでも一瞬で売り切れる現場を見た。シャオミブランドはインドでは、参入前から評判が高かった」と語る。他にもフィリピン、ブラジル、マレーシアなど新興国を軸に拡大を続けてきた。
そして2016年2月24日に発表した最新モデル「Mi 5」では、先進国への展開も見据える。シャオミのグローバル担当バイスプレジデント、元グーグル幹部のヒューゴ・バラ氏はCNETのインタビューに2017年までにアメリカへ進出する予定があると答えた。
業界を驚かせたシャオミのアメリカ進出。見方は様々だ。2月にバルセロナで開かれた各メーカーの端末発表会を受けて、「スマホの総合的な性能ではシャオミがサムスンやLGに比べて頭一つ抜けている」(Mornig News USA2月25日)と高く評価する声がある一方で、「欧米の顧客に向けて、シャオミブランドをつくり上げることができるのかは大きな疑問だ」(CNBC2月24日)という意見もある。
模倣と創造を繰り返すことで世界の大手メーカーと互角に戦えることを証明したシャオミ。「中国のジョブズ」は自分たちの成長の勢いを冗談めかしてこう語る。「台風の風に乗れば豚でも飛べる」。
協力:日経BP社出版局 制作:岡村靖史
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