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A級復帰を目指す羽生善治九段、順位戦B級1組で佐藤康光九段、大石直嗣七段を降し2連勝スタート

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 13人の強豪が熾烈な総当たり戦をおこなう第83期B級1組順位戦が始まっています。

 今期の最年長者は佐藤康光九段(54歳)。次いで羽生善治九段(53歳)です。両者はともに名人経験者で、A級にも長く在籍しました。

 その両者は6月20日、開幕戦1回戦で対戦しました。

 佐藤九段は先手番で独創的な構想を見せ、相居飛車の力戦型に。羽生九段は序盤早々、機敏に速攻を仕掛け、少しずつペースをつかんでいったようです。最後は104手で羽生九段の勝ちとなりました。

 両者はこれで通算170回対戦。羽生九段から見て115勝55敗となりました。

  7月9日。佐藤九段と羽生九段が新型コロナウイルスに感染したことが発表されました。そのため、11日に予定されていた両者それぞれの対局は、規定により延期となりました。

 11日におこなわれた対局の結果は以下の通りです。

近藤 誠也七段(2勝0敗)○-●広瀬 章人九段(1勝1敗)

澤田 真吾七段(1勝1敗)●-○糸谷 哲郎八段(1勝1敗)

斎藤慎太郎八段(1勝1敗)○-●石井健太郎七段(0勝1敗)

羽生九段、復帰で2連勝

 7月13日。東京・将棋会館において、▲羽生九段-△大石直嗣七段戦がおこなわれました。

 対局が始まる前、羽生九段は大石七段に頭を下げました。

羽生「すみません、いろいろご迷惑をおかけいたしました」

大石「ああ、いえいえ」

 対局後、羽生九段は次のように語っていました。

羽生「療養はずっとしてたんで、だいぶ回復しました。ちょっといろいろ関係者の皆さんにご迷惑をおかけしました」

 10時、羽生九段の先手で対局開始。後手の大石七段は得意の「ダイレクト向かい飛車」の作戦を取りました。対して羽生九段は、乱戦模様ながらも前例の多い進行を選びました。

羽生「この形になればけっこう、こういう進行になるっていうような展開の出だしだったと思います」

 いったん局面が落ち着いたあと、両者は自陣に角を打ち合って、本格的な戦いが始まります。盤上が一気に終盤の様相を呈する中、先に相手玉に迫る形を作ったのは羽生九段でした。

羽生「そんなに成算があったわけじゃないんですけど。まあもう、しょうがないかなと思って踏み込んでいって。難しい、きわどい感じなんじゃないかなと思って指していました」

 87手目。羽生九段は相手陣に角を打ち込みます。ここでは羽生九段が勝勢に立っていました。

羽生「▲4三角打った局面は、ちゃんと指せば残っているはずだと思ってやってました」

 最終盤は一手違いの形に。羽生九段は長手数ながらも大石七段の玉をきれいに詰まし、

23時7分、103手で勝利を収めました。

 羽生九段はこれで2連勝です。

羽生「(順位戦は)長丁場なんで。一局一局、しっかり指していけたらと思っています」

 復帰明けにもかかわらず、羽生九段は相変わらずの強さを見せました。

羽生「もちろん、普段通りっていう言い方はちょっと語弊があるんですけど。いつも指している6時間の将棋のつもりでやっていたので。そんなに大きな影響はなかったのかなと思います」

 7月22日には永瀬拓矢九段と王座戦挑戦者決定戦を戦います。

羽生「(永瀬九段は)すごい実績のある人でもありますし。それまでの時間でコンディションを整えて、大一番を迎えられたらなと思っています」

 B級1組に昇級したばかりの大石七段は、2連敗となりました。

 B級1組2回戦はあと2局が残されています。今後の予定は以下の通りです。(▲=先手、△=後手)

7月16日

△山崎隆之八段(1勝0敗)-▲高見泰地七段(1勝0敗)

※山崎八段の棋聖戦五番勝負登場にともなう日程変更

7月22日

△佐藤康光九段(0勝1敗)-▲三浦弘行九段(0勝1敗)

 長丁場の戦いを終えたあと、A級昇級の2枠に入っているのは、果たして誰と誰でしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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