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『情熱大陸』オートレーサーの森且行が「元SMAP」であることにあらためて向き合った番組構成

田辺ユウキ芸能ライター
(写真:アフロ)

ドキュメンタリー番組『情熱大陸』の2月20日放送回に、オートレーサーの森且行が出演した。

同回では、2021年1月24日のレース中に起きた落車事故で命に関わるほどの大怪我を負った森且行が、再起を目指してリハビリに励む姿などに密着。5度の手術を要し、下半身のいたるところで麻痺が生じ、体内にたくさんのボルトが埋めこまれていることなど、思わず目を背けてしまいそうになるほど痛々しい場面も数多く登場した。

それでも、レース場の観客席へ足を運び「泣きそうになっちゃった、走りたいなと思って」とつぶやいたり、怪我後、初めて自分のバイクを整備することになったときに嬉しそうな表情を浮かべたりするなど、森且行のオートレースに懸ける情熱が伝わってくる内容にぐいぐいと引きこまれた。

森且行のなかでちゃんと生き続けているSMAP

特に印象的だった場面が、自分の心の支えになっている仲間たちの存在について口にしたときだ。

森且行は1988年、アイドルグループのSMAPに加入した。翌年にはテレビドラマ『ツヨシしっかりしなさい』(日本テレビ系)で、SMAPのメンバーとして初めて連続ドラマの主演に抜てきされた。劇中では、勉強以外のことはすべて万能な若者が、家族らに振り回されながらも奮闘する様子を好演。そのように演技面でまっさきに頭角をあらわし、またSMAPきっての「歌ウマ」でも知られた。まさに当時のグループのエース的存在だった。

やがてSMAPは国民的な人気グループへと成長。当時の6人のメンバーのバランスはすばらしかった。個々の活動も活発になり、1996年4月には冠番組『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)もスタートするなどし、グループは完全に勢いづいた。しかし同年5月、森且行のSMAP脱退が報じられた。芸能界からも完全に身を引いてオートレーサーに転向するというニュースが流れ、衝撃が走った。電撃的な脱退をめぐっていろんな憶測も飛んだ。

『情熱大陸』で森且行は、そんなSMAPのメンバーたちが復帰への原動力となっていると語った。ヘルメットに貼り付けている星形のマークの5つの先端には、中居正広、木村拓哉、稲垣吾郎、草なぎ剛、香取慎吾のイメージカラーが配されている。「一人ひとりがすごく頑張っているじゃないですか。その姿を見ていると、妥協しないで頑張っていかなきゃいけないんじゃないか」と5人のことを思い浮かべた。

この場面が、なぜそんなに心を揺さぶったのか。それは森且行のなかでSMAPがちゃんと生き続けていることが分かったからだ。

SMAPは2016年12月31日をもって解散した。それでも再び動きだすことを信じ、待っているファンはたくさんいる。そんななか森且行がカメラの前で見せてくれたその星形のマークは、再起をかける自分自身やバイクとともに、SMAPも歩みを止めていないことをあらわしているように思えた。一緒になって今も前に進んでいる。そう感じられたから感動的だったのだ。

SMAPが6人組だったことを知らない世代も増えている

男性、女性問わず人気アイドルグループに所属していた元メンバーは、第二の人生を歩む際、かつてのグループ名を口にすることを避ける傾向がある。

私たち芸能関係のライター、記者などは取材時、そういった状況に何度も出くわしてきた。マネージャーなど関係者から「かつて所属していたグループの名前は書かないでほしい」「グループ時代の話はNG」とリクエストされることは数多い。それはひとえに、もともとのイメージから脱却するためだ。判断として決して間違ってはいない。ただ、「なかったこと」にしてしまうタレントや関係者に接すると複雑な気分になる。

森且行は同場面などではっきりと、自身のバックグラウンドにはSMAPがあることを示している(それは過去のインタビューなどを読んでも分かる)。また、『情熱大陸』も番組として、森且行が「元SMAP」であることにあらためてきっちりと向き合っていた。その上で、一流オートレーサーとしての彼のアイデンティティを伝えた。過去、現在どちらにも「栄光」があり、それは確かに堂々と誇れるものだということを、森且行自身、そして番組自体がちゃんと報じたのだ。そしてなにより、懸命にリハビリに励むその姿への多大なリスペクトがあった。視聴者も「自分も頑張ろう」と思えるような内容だった。そこが、同回がすぐれていた点である。

現在では、SMAPがかつて6人組だったこと、そのメンバーが森且行だったことを知らない人も増えている。そういった視聴者にとっても、非常に伝わりやすい構成だったのではないか。

ちなみに番組内では、森且行がオートレーサーへ転向した直後の過去映像も流れた(それは以前からよく知られている映像でもある)。レース場にやってきた大勢のファンから、実力とは不釣り合いな黄色い声援を浴びる場面だ。そして、そんな彼に向けてオートレースファンからは野次が飛んだ。おそらく私たちが知り得ないだけで、その野次や冷やかしは長年にわたり、かなり痛烈だったと想像できる。そういう日々のなかで森且行自身、「元SMAP」という肩書きに葛藤を覚えることもあったはず。だからこそ2020年11月、オートレースの日本一決定戦『SG第52回日本選手権オートレース』優勝戦での勝利は、まさに「紆余曲折のなかでつかんだ偉業」だった。

SMAP脱退から27年。『情熱大陸』で映しだされた森且行の歩行姿は決してスムーズではなかった。それでも前を向いて進む様子には「強さ」が感じられた。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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