厳しさつのる生活意識…児童あり世帯の生活意識の変化をさぐる(2024年公開版)
生活のゆとり感はお財布の中身だけでなく、さまざまな要素で判断される。子供がいる世帯の心境はいかなるものか。厚生労働省の定点観測調査「国民生活基礎調査」(※)の公開値から、その推移と現状を確認する。
今回対象とする「生活意識の状況」は毎年調査が行われており、複数年の調査結果の値を取得できる。これは生活意識について「大変苦しい」「やや苦しい」「普通」「ややゆとりがある」「たいへんゆとりがある」の5選択肢から1つを選んでもらい、その回答を集計したもの。対象となる世帯は「児童のいる世帯(児童:18歳未満で未婚の人)」。その回答を集計したのが次のグラフ。
2014年ぐらいまでは年の経過とともに「苦しい派」(「大変苦しい」と「やや苦しい」の合計)が増加するのは全体値の動向と同じだが、大元の値が厳しい状態にあり、2010年には「大変苦しい」が「普通」を超える現象が起きてしまっている。これは全体値や高齢者世帯には無かった動きであり、特にこのクロスを起こす直接の原因となった2010年以降の「大変苦しい」の増加が目にとまる。
さらに2011年には「大変苦しい」が「やや苦しい」ですら超えて、5選択肢の中で最大の値を示してしまっている。これは多分に景気の悪化に加えて、同年3月に発生した東日本大震災による心理的影響が大きいと考えられる。その分、2012年はややリバウンドが起きたからか、「大変苦しい」はいくぶん減少し「普通」が大幅増加、わずかだが「普通」の方が多い形となった。もっとも2013年以降は再び増加し、「大変苦しい」が「普通」を超える状態となった。
2014年は消費税率引き上げ直後の調査だったこともあり、全体値などと同様に「大変苦しい」が大きく増加、「やや苦しい」も増えた。しかし2015年には消費税率引き上げの心理的影響も鎮静化し、景況感の回復もあり、「大変苦しい」は減少し、「普通」を下回る形となった。中期的に見ても他の属性同様、2015年以降の動向は、これまでの流れとは明らかに向きを違えている、悪化一方だった意識が改善している状況がうかがえる。
そして直近2023年では、「大変苦しい」「やや苦しい」の大幅増加と、「普通」「ややゆとりがある」の大幅減少が生じている。これにより、「苦しい派」は6割を超えてしまった。もちろんこれは、ロシアによるウクライナへの侵略戦争で生じた、世界的な資源価格の高騰で、食料品や、電気代・ガス代・ガソリン代のようなインフラ系の価格が大幅に上昇したことによるもの。2019年以降、毎年「苦しい派」の減少が生じていた動きが台なしになった形で、大変残念である。
この状況を分かりやすくするため、「全体値」「児童のいる世帯」「高齢者世帯」ともに「苦しい派」の動きを見たのが次のグラフ。
「児童のいる世帯」分のデータ開示が始まった2000年当時は全体値と変わらない値を示していたものの、あとは一貫して全体よりも高い値(=生活が苦しいとの意見が多い)を示している。
震災のあった年で大きく開き、その翌年にやや縮小する動きを見ると、経済が悪化する度合いが大きくなるほど、「児童のいる世帯」に対する(心理的)負担が大きくなると見るべきかもしれない。実際、直近の2023年ではロシアによるウクライナへの侵略戦争で生じた世界的な資源高騰による物価高、特に食料品や、電気代・ガス代・ガソリン代のようなインフラ関係の大幅な値上がりで、生活意識への認識は厳しいものとなっているが、全体値と「児童のいる世帯」との間では、5.4%ポイントもの差が開いている(前年2022年では3.4%ポイント)。
また消費税率引き上げが行われた直後に調査が行われた2014年ではどの属性も増加しているが、その後の景況感の回復に伴う下落(=生活に苦しさを覚える人の減少)は、他の属性と比べるとやや大人しい動きとなっている。子供がいる世帯においては、景気の回復度合いの浸透が、今一つ弱いのかもしれない。
今件データは「世帯が調査日時点における、暮らしの状況を総合的にみてどのように感じているかの意識」を選択肢から選んでもらったもの。回答者一人一人の主観によるところも大きく、心理的動向に左右される面が大きいことを留意しておく必要がある。また調査日「時点」であることから、特異な事象が生じた直後の場合は、その年平均の心理状況ではなく、その事象に大きく左右される可能性がある(例えば2014年分は、消費税率の引き上げが4月に行われ、それから3か月後の7月に実施されているため、景況感では足が引っ張られている)。
その上で、「児童のいる世帯」においては全体平均と比べ、生活の切迫感では緊張感が続いている、余裕が少ない生活を強いられているとの状況については、覚えておいて損はない。
■関連記事:
【子育て世代=若年層などの生活保護世帯の動向をさぐる(2024年公開版)】
【「生活が苦しい」人が増えるのは仕方がない? なまけてるから?? 世代別意見を探る】
※国民生活基礎調査
全国の世帯および世帯主を対象とし、各調査票の内容に適した対象を層化無作為抽出方式で選び、2023年6月1日に世帯票、同年7月13日に所得票を配ることで行われたもので、本人記述により後日調査員によって回収、または政府統計共同利用システムにより回答され、集計されている(一部は密封回収)。回収の上集計が可能なデータは世帯票が4万471世帯分、所得票が4674世帯分。今調査は3年おきに大規模調査、それ以外は簡易調査が行われている。今回年(2023年分)は簡易調査に該当する年であり、世帯票と貯蓄票のみの調査が実施されている。
(注)本文中のグラフや図表は特記事項のない限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。
(注)本文中の写真は特記事項のない限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。
(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。
(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロではないプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。
(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。
(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。
(注)「(大)震災」は特記や詳細表記のない限り、東日本大震災を意味します。
(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。