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10日ぶりのドライヤーに歓声! 停電続く被災地に『電動車』が無償提供

柳原三佳ノンフィクション作家・ジャーナリスト
長引く停電の被災地で「電動車」が給電車として活躍している(筆者撮影)

 台風15号の直撃から10日経ちましたが、千葉県内では今も2万7200軒で停電が続いています(9月19日午後7時現在)。

 私が住んでいる大網白里市のエリアの大半は、幸いにも2日間の停電と断水で済んだのですが、それでも相当辛かったです。

  ■筆者の自宅も50時間停電 「マイカー避難」で感じた4つの重要ポイント(2019/9/13配信)

 あの状態が10日間も続くというのは、もう、想像するだけで苦しくなってしまいます。

 そこで、台風から10日目にあたる19日は、県内でも特に停電件数の多い山武市(さんむし)を走ってみました。

 この地域は、江戸時代から杉が植林され、「山武杉」の産地として知られているのですが、今回の台風で多くの大木が根元から倒れたり、折れたりして電線に接触しました。

山武市にはまだ撤去されていない倒木が危険な状態で残っている。9月19日午後5時の状況(筆者撮影)
山武市にはまだ撤去されていない倒木が危険な状態で残っている。9月19日午後5時の状況(筆者撮影)

 さらに、倒木が道路を遮断したため、復旧作業が大幅に遅れているというのです。

 実際に台風から10日目でも、まだいたるところに倒木が手つかずの状態で残されていました。

 さて、私が向かったのは、「さんぶの森交流センター あららぎ館」です。山武市出身の歌人・伊藤佐千夫が作った短歌雑誌『アララギ』にちなんで名づけられたもので、山武市役所の出張所にもなっている公共スペースです。

あららぎ館の入り口(筆者撮影)
あららぎ館の入り口(筆者撮影)
9月19日時点のあららぎ館内掲示板(筆者撮影)
9月19日時点のあららぎ館内掲示板(筆者撮影)
あららぎ館の内部(筆者撮影)
あららぎ館の内部(筆者撮影)

 ここでは、飲料水や食料品、生活用品などが配られ、多くの市民が集まっていました。

 また、停電と断水で入浴出来ない市民のために、6日前から自衛隊がお風呂を設営し、多くの人が汗を流し、疲れを癒しています。

自衛隊が設営した風呂。北海道と東京の部隊がテントを立てていました(筆者撮影)
自衛隊が設営した風呂。北海道と東京の部隊がテントを立てていました(筆者撮影)

■台風から10日、風呂上りに初めて使えたドライヤー

 そんな中で目を引いたのが、女性用のお風呂の横に設置された「ドライヤーコーナー」です。

自衛隊風呂の横に19日から設置されたドライヤーコーナー(筆者撮影)
自衛隊風呂の横に19日から設置されたドライヤーコーナー(筆者撮影)

 長テーブルの上に、4つの鏡とドライヤーが設置され、すぐ横には車が1台停まっています。

 自衛隊員が説明をしてくれました。

「今日、この電動車が自動車メーカーから届き、ここから電源を引いてドライヤーが使えるようになりました。ドライヤーは消費電力が高いので、我々の用意している発電機では賄えなかったんです。助かりますね」

 小さなお子さんを連れたママたちも、

「停電になって10日目ですが、ドライヤーが使えたのは今日が初めてなんです。本当にありがたいです!」

「1週間前に比べて、夕方の気温が随分下がってきました。子どもたちも髪が濡れたままだと風邪をひいてしまうので、こうして乾かすことができれば安心です」

 そう言いながら、子どもたちの髪に風を当て、最後にご自分の長い髪を乾かしていました。

10日ぶりにドライヤーを使うことができたと喜ぶママたち(筆者撮影)
10日ぶりにドライヤーを使うことができたと喜ぶママたち(筆者撮影)

■トヨタが被災地に「給電車」としての燃料電池車やハイブリッドカーを無償提供

 

 避難所に開設されたドライヤーコーナー、この日、ここで電気を供給していたのは、水素と酸素を反応させて発電し水を排出するトヨタのMIRAIという燃料電池車です。

 千葉県に複数台派遣されている電動車は最大1500Wまでの消費電力に対応しています(購入時のオプション設定は必要です)。それゆえヘアドライヤーやIHのコンロ、炊飯器など、消費電力の大きい家電でも同時に使用可能だというのです。

トヨタのウェブサイト、プリウスPHVのページより
トヨタのウェブサイト、プリウスPHVのページより

 トヨタ自動車の広報に話を伺いました。

「被災地では電気が使えず大変ご苦労されていることを知りました。そこで、弊社とトヨタモビリティ基金が連携し、千葉県に向けて、数日前から電源として使える燃料電池車やプラグイン・ハイブリッドカーを派遣させていただいているところです。

 ただ、現時点では、どの地域にこの車を必要とされている方がいらっしゃるのかが把握できていませんので、地域密着型の企業やNPO、ボランティア団体、自治体等と連携しながら、ニーズの高いところに電源としてこうした車をお届けできるよう取り組んでいきたいと考えています」

山武市にある「あららぎ館」の掲示板。9月20日にはここに、電動車が10台届く予定です。筆者撮影
山武市にある「あららぎ館」の掲示板。9月20日にはここに、電動車が10台届く予定です。筆者撮影

■発電機は大きな音がネック。電動車は無音で給電

 私が取材する中で、たびたび耳にしたのは、

「発電機は便利だけれど、夜間に作動させると音がうるさくて眠れない」

 というものでした。

 でも、プラグイン・ハイブリッドカーの場合は、バッテリーの容量が十分なときにはエンジンをかけていなくても使用できるので、音の心配がなく、また排気ガスも出ないので、その点は安心です。

 また、「あららぎ館」のドライヤーコーナーで電源となっていたMIRAIは、燃料電池で発電しますので非常に静かです。排出されるのは水だけとのことです。

トヨタのMIRAIから電源を取って作られたドライヤーコーナー。車には「豊田」のナンバーがついていました。愛知県から社員がハンドルを握り、自走してきたそうです(筆者撮影)
トヨタのMIRAIから電源を取って作られたドライヤーコーナー。車には「豊田」のナンバーがついていました。愛知県から社員がハンドルを握り、自走してきたそうです(筆者撮影)

 ちなみに、プリウスPHVは、満充電、満ガソリンの場合、一般家庭の4日分の電気を賄うことができるそうです。

 また、スマホなら4000台分の充電が可能だとか。これはちょっと数が多すぎてイメージができませんが……。

 いずれにせよ、停電時はこうした「電動車」が、電力の供給源として強力な味方になってくれることは間違いなさそうです。

プリウスPHVから電気を供給され、停電をしのいだ千葉県鴨川市の斉藤さんご一家(撮影/鈴木張司さん)
プリウスPHVから電気を供給され、停電をしのいだ千葉県鴨川市の斉藤さんご一家(撮影/鈴木張司さん)

 台風15号が影響した停電は、長いところでさらに1週間は続くとみられています。

 トヨタ自動車では、給電できる燃料電池車やハイブリッドカーを10車種、計50台程度かき集めて順次派遣しているそうです。

 無償提供されるとのことですので、希望される場合は自治体などを通して早めに声を上げてみてはいかがでしょうか。

無料で貸与された車から家庭用に電源を供給された鴨川市の斉藤さんご一家。久しぶりに電気が復活しお子さんたちも嬉しそうです(撮影/鈴木張司さん)
無料で貸与された車から家庭用に電源を供給された鴨川市の斉藤さんご一家。久しぶりに電気が復活しお子さんたちも嬉しそうです(撮影/鈴木張司さん)

*お詫びと訂正/記事公開当初、山武市で使用されていた車(冒頭の写真)を「プリウスPHV」と表記していましたが、こちらは燃料電池車「MIRAI」の誤りでした。お詫びいたします。プラグインハイブリッド車である「プリウスPHV」は、鴨川市のほうへ派遣され、稼働しております。

<電動車・最新貸出情報>

 9月20日昼過ぎ、トヨタ自動車の厚意により[プリウスPHV]が千葉県大網白里市の大里綜合管理(株)に10台、山武市に10台届く予定です。まだ、停電でお困りの方がおられましたら、約1週間をめどに無料で貸し出すとのことです。市外でも可。●担当連絡先/野老(ところ)憲一氏 0475(72)3473 までご連絡を。

ノンフィクション作家・ジャーナリスト

交通事故、冤罪、死因究明制度等をテーマに執筆。著書に「真冬の虹 コロナ禍の交通事故被害者たち」「開成をつくった男、佐野鼎」「コレラを防いだ男 関寛斉」「私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群」「コレラを防いだ男 関寛斎」「自動車保険の落とし穴」「柴犬マイちゃんへの手紙」「泥だらけのカルテ」「焼かれる前に語れ」「家族のもとへ、あなたを帰す」「交通事故被害者は二度泣かされる」「遺品 あなたを失った代わりに」「死因究明」「裁判官を信じるな」など多数。「巻子の言霊~愛と命を紡いだある夫婦の物語」はNHKで、「示談交渉人裏ファイル」はTBSでドラマ化。書道師範。趣味が高じて自宅に古民家を移築。

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